車内にて④
『白石さん…
貴女は総合病院の妻子ある医者との不倫に疲れ…
そして、その関係に疲れた。
何時までも相手の医者は妻子を棄ててくれず…
そして…貴女から別れを告げ…この地…境港を選んだ。
何故…境港なのか?
それはこの地が彼との想い出の地だからです。
貴女…この地で傷ついた心でも癒すつもりでしたか?
相手の家庭を滅茶苦茶にしておいて
結婚とは…神との契約です。
神が他人の不幸の上に成り立つ幸せを認めるとでも?
我ら悪魔もそんな自分の利己的満足に汚された魂には興味ありませんよ。
そして
竹野さん…』
その時高橋真由美が悲鳴に近い声でカモメを遮る。
『もうやめて!!
人の過去を暴いて何になるの!?
誰にも得にはならないじゃない!!』
『果たしてそうでしょうか?高橋さん
一度自分の醜さを…
自分の後悔の種を暴かれた人間ほど醜くあさましいモノはないのですよ。』
『それが!何だって言うの!!』
『では…高橋さん…
貴女にとって正義感とは何ですか?
正義ではなく正義感です。』
急に話題を変えられ戸惑う高橋真由美…
『正義感とはどういうモノか?貴女に分かりやすく教えましょう。』
正義感を具体的に教える?真由美は見事にカモメの術中に嵌まっていた。
『高橋さん…
翼くんのシャツを捲ってみてご覧なさい。』
真由美はカモメに言われるがままに翼に近寄り
『翼くん…ゴメンね…
一寸シャツを捲らせて頂戴』
と、翼のシャツに手を掛けようとしたとき
翼の母親の竹野友子がまるで獣の唸り声の様な叫び声をあげ
『触るな!!』
と、高橋真由美を突き飛ばした。
『竹野さん?ただ私は翼くんのシャツを捲ろうとしただけで…』
と、声にならない程か細い声で問いかけた
竹野友子はそれに答えず
ただ…翼を抱きしめ周りを威嚇でもするかの様に
睨み付ける
『高橋さん!この姿が
中睦まじい母子の真の姿です。
竹野さん!貴女…
翼くんを虐待してますね?』
『そんな!竹野さんと翼くんは微笑ましい親子じゃないですか?』
『高橋さん!そこがこの場合そうではないのです。
他人には優しい母親の姿を見せ
その実翼くんと二人きりになると自分の苛立ちを翼くんにぶつけます。
そのシャツの下には火傷を負った背中がある筈です。』
『アアア…』
声にならない悲鳴と共に竹野友子は崩れ落ちた。
『それでも翼くんには
母親しか居ないのです。
翼くんは母親が大好きなのですよ?
どうです?
高橋さん怒りが込み上げて来たでしょう?
それが正義感ですよ』
確かに高橋真由美は竹野友子に対し怒りを覚えていた
と、同時に人は醜い生き物だ!とも感じていた。
それが…
カモメの誘導だとは気付かなかった。
次回もお楽しみください




