車内では
車内の異常に気が付いたのは高橋真弓ただ一人だった
『お客様に
お知らせ致します。
当列車は線路の不具合の
疑いがあり
緊急停車致しました
お急ぎのお客様には
大変申し訳ありませんが
安全確認が出来るまでの暫くの間
この列車は暫くこの場にて停車致します。』
と片桐は車内アナウンスを入れた。
車内には8人の乗客の内
異変に気が付いたのは
通勤途中の
高橋真弓ただ一人だけだった。
(今…トンネルの様なものを潜らなかった。?
この路線にあんなものは
無いはずよ?
一体何があったの?)
高橋真弓は
腰掛けていた、ベンチシートから腰を上げ
前方の運転席へと
歩み寄る。
運転士が何かあたふたしている
『運転士さん…
今…トンネルの様なモノをくぐり抜けましたよね?
運転士は困惑した表情で
振り向いた。
左胸には
片桐とネームプレートが掛けてある
『只今…米子駅と連絡をとっています。
もう暫く
お待ちください。』
確かに安全確認は大切だが高橋真弓は通勤途中だ
取り敢えず空港に連絡を入れようと
携帯を取り出す
しかし、
携帯のアンテナが一本も立っていない。
圏外の文字
真弓が勤める米子空港は目と鼻の先だ
列車を降りて歩いてもそんなに掛からない
真弓は
片桐に定期を提示して
『途中下車させて下さい。空港迄歩きます。』
片桐は愈々困惑顔で…
『お客様…
空港が見当たらないのです。
それどころか
横を走る道路も…
ポツリポツリと立ち並ぶ
民家さえ
見当たらないのです。』
『そんなバカな…』
と真弓は車窓の外へ目を向ける。
ソコには只…
草木が生い茂る風景と
列車の前に延びる
線路だけが真弓の視界に飛び込んできた。
『一体どうしたと云うの?この風景は何処なの?』
時間をほんの少しだけ…
そう…
トンネルを突き抜ける少し前
進行方向に向かい
弓ヶ浜ののどかな風景をのぞむ
その時まで遡ってみよう。
ベンチシートに座り
米子駅の土産物店で
買って貰ったアニメのグッズを片手に
『ねえ…ねえ… お母さん?この妖怪のカルタ?
開けてみても良い?』
『ダメよ…
散らばったら大変でしょ?』
『チェッつまんないの…』
『翼ちゃん。お家に帰ってからって約束でしょ?』
翼と呼ばれた男の子は
『じゃあ境港に着いたら
ソフトクリームを買ってね』
母親の竹野友子は
この強い日差しと高い気温の中で
熱中症を起こすよりは…
と考え
『仕方ないわねぇ』
と承諾した。
苛立つ乗客
進展しない状況
打開策はあるのか?