揺れる茜色
チャイムの音と共に長かった1日が終わりを告げた。
お昼後の授業は少し上の空だった。
理由は自分でもよくわからない。
ただ心の片隅に何かモヤのようなものがあって、その正体がわからないことに少し不安を覚えた。
ホームルームも終わり、帰り支度を整える。
考えていてもわからないものは仕方がない。
今は忘れよう。
教室の窓から正門を確認する。
すでにあいつは先に待っているようだった。
軽く頭を振り、鞄を持って正門へと向かった。
「ごめん、待たせちゃったな」
その声に気がつきこちらへ振り返る。
「いや、僕も今きたところだよっ」
そう言って振り返ったあいつは、夕焼けの光に照らされてなんとも言えない光景を作り出していた。
なんだろう、よくわからない。
ただただ吸い込まれるように見入っていた。
「うん?・・・どうしたんだいっ?」
その声でようやく我を取り戻す。
「いや・・・なんでもない」
「とりあえず帰るか・・・」
「ん、そうだね、帰ろうかっ」
こいつは特に気にしていないようだった。
自分も変に心配されるよりはその方が気が楽なので助かった。
2人揃っていつものバス停に向かって歩き出す。
本来帰るだけなら学校前のバス停で事足りる。
実際高校に入学してからの一年間は、学校前のバス停を利用していた。
ただこいつと帰るようになってからは少し離れたバスターミナルを利用するようになった。
歩いてほんの10分程度なので、なんら苦ではない。
それにーーーーー。
それにーーーーーなんだ?
なんか今日は調子がおかしいみたいだ。
特に何か会話をするわけでもなく2人で歩く。
もともと1人が好きなのだけど、この時間は不思議と嫌ではない。
ゆっくりと。
だけど確実に目的地へと近づいていく。
お昼のあの質問が脳裏をよぎる。
ーーーよかったら、今日一緒に帰らないかい?ーーー
聞いてみるべきなのだろうか。
いや、聞いても良いのだろうか?
答えはでない。
そうこうしているうちにバス停へと着いた。
ベンチに腰掛けて一息つく。
大体5分後にこいつの乗るバスが来る。
聞くなら今しかないのだけど、今日のことは聞かないことにした。
何気なく空を見上げる。
茜色に染まった雲が悠々と流れていく。
「きれいだね」
隣で、ふとつぶやいた。
いつもとは違う落ち着いたトーン。
その瞳は空と同じ茜色に揺れている。
また、吸い込まれるような感覚が体を包み込む。
その横顔から目が離せない。
いったいなんなんだ・・・。
「あのさっ」
不意にこちらに振り向く。
つい反射的に目をそらす。
「あれっ、空じゃなくて僕を見てくれてたのかいっ?」
「っ!!んなわけないだろっ」
はぁ、まったく・・・。
夕方で良かった。
顔が熱い。
きっと赤くなってしまっている。
本当に自分のことがよく分からなくなってくる。
一体なんだって言うんだろう。
「ふふっ、そうかそうかっ」
と、やつは隣で満足気に頷いている。
なんか癪に障る。
もうだめだ。
しゃべればボロしか出ない、そんな気がした。
でもそれは無用の心配のようだ。
バスがやってきた。
「じゃあ先に行くよっ」
「ああ、じゃあな」
「あのさっーーーーーー」
そうやってやつが口を開いた時、
ごおっっっ、と一陣の風が吹いた。
おかげでよく聞き取れなかった。
「えっ、何?」
あわてて聞き返す。
「あ、えと、あっ、明日僕が君の分の弁当作ってあげるよっ」
「だから楽しみにしておいてねっ!」
そう言ってバスに乗り込んで行った。
なんか釈然としない。
さっき言おうとしていたのは弁当のことだったのだろうか。
なんだろう。
モヤが少しずつ大きくなっている気がした。
不安が、募る。
結局あいつと別れてしばらくの間。
答えのでない問題が頭を離れることはなかった。




