まぁ、いっか。
「やぁ、今日もうどんかい?」
そう言って隣りの席にやつが座ってきた。
「安くて上手いんだから言うことなしだろ」
「うんうん分かるよ、また黄瀬きゅんに貢いじゃったんだね」
「・・・・・・」
「なんだい顔を赤くして?」
「熱でもあるんじゃないかい?」
とても良い笑顔でいらっしゃる。
この笑い方は完全に楽しんでいる。
「・・・・・ほっとけ」
うどんが熱いだけだ、とぼそりとつぶやく。
「え?何か言った?」
「何でもないっ」
そっぽを向いてごまかす。
この地獄耳め・・・。
誤用だけど気にしない。
「あっ、そう言えば君に見せたいものがあったんだよ」
おもむろに携帯を取り出した。
「おまえの携帯なんて見てもつまんないぞ」
「まぁまぁ、そう言わずに・・・・・ほらっ」
携帯の画面を見せつけてくる。
またしょうもないおもしろ画像でも見せてくるんだろう。
絶対に笑わないぞ。
笑うとこいつの思う壺だ。
よし、と気合いを入れて画面を見る。
「・・・・・・・・・・」
「おーい、よだれが出てますよー」
「・・・・・っ!いやっ、出てない!出てない!」
そう言いながらもつい袖で口元を拭ってしまう。
「冗談だよっ」
「でも、顔はだいぶにやけていたよ?」
くすくすと笑っている。
こんなやり口は卑怯だ。
こんなものを見せられたらきっと誰だってそうなるに違いない。
何を見せられたかはあえて言うまい・・・・・。
聖地でのあの一件以来こいつとはかなり親密になった気がする。
あれから学年が変わり、クラスが別々になった今でもお昼は一緒に食べている。
まぁ、悪い気はしない。
もとより特に親しい友人も居なかったし、同じ趣味を持つ知り合いも居なかったから存外ありがたかった。
こいつには絶対に言わないけど・・・。
「どうかした?物思いに耽っているようだけど」
相変わらず良く気がつくやつだ。
他のやつには無表情にしか見えないはずなんだけど。
「別に、ただぼーっとしていただけ」
「ふーんそう?」
「僕の予想では何か知られたくないことを考えていたねっ」
・・・恐ろしい読みだ。
まさか心を読んでいるんじゃないだろうな。
時々本気でそう思ってしまう。
ーーーおまえが心を読んでいるのはわかっているぞ!ーーー
と念を送ってみる。
ん?と本人はおとぼけ顔だ。
食えないやつめ。
それからしばらくはたわいない話しに花を咲かせた。
そして話しにも一区切り付いたので食事に専念することになった。
うどんもちょっと冷め始めていた。
少し急いで食べよう、そう思ったのも束の間、やつが思い立ったように両手を叩いた。
「よしっ!今日も君のにやけ顔を拝めたことだしそろそろ本題に入ろうかなっ」
なんちゅう前置きだ・・・。
口を開いたと思ったらそれかい。
周りの人も見ているからやめてくれ。
やめてください、お願いします。
「それで本題なんだけどね・・・・・」
そう言うと黙ってしまった。
なんなんだ?
理由は分からないが、言葉を整理しているってわけでもなさそうだ。
言いたいことは決まっているけど、言い出しづらい・・・・・そんな感じの印象だった。
急かすのも気が引けたので、そのまま待つことにした。
しばらくの沈黙が続いたあと、大きく深呼吸をするとようやく口を開いた。
「よかったら、今日一緒に帰らないかい?」
・・・ん?
なんだその質問は。
少し質問の意図を考えてみる。
わからない・・・。
わからないので素直に聞いてみることにする。
「どういう意味だ?」
「いつも一緒に帰っているだろ?」
実はあの一件以来たまに一緒に帰るようになり、今となっては当然のようにいつも一緒に帰っている。
だからこそ質問の意図が読めない。
「いや、なんとなく、ね・・・」
こいつにしては珍しく歯切れが悪い返答だ。
それに今日に限ってわざわざ確認した理由もわからない。
とりあえずその質問に対する答えは決まっている。
「別にこっちは構わないぞ」
「いつも通り正門で待ち合わせでいいか?」
「ん、ありがと」
うつむきがちにそう答えた。
なんなんだ、このしおらしい感じは。
何か変なものでも食べたのだろうか。
「じゃあ僕はもう行くよ」
「また後でね」
そう言い残すと疑問を解消する間もなく行ってしまった。
・・・・・まぁ、いっか。
こういう時に楽天的な性格が役に立つ。
ただ、普段より少し元気がないような気がした。
といっても本当にかすかにそう感じただけだけど。
食堂に残って1人うどんを啜る。
うどんはもうすっかり冷めていた。




