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聖地にて。

エレベーターに乗り込むと間、髪を容れず4階のボタンを押した。

その一連の動作で、かなり通い詰めていることが窺い知れた。

ずいぶんそわそわとしている。

この「聖地」に来ることをとても楽しみにしていたようだ。

エレベーターはすぐに目的の階へと到着した。

すると、


「ちょっと、姉さんに挨拶してくるよっ!」


そう言ってやつは店内へと姿を消してしまった。

なんともマイペースだ。

でもずっとくっつかれているよりは良いかもしれない。

とりあえずこっちはこっちで楽しむとしよう。


やつには何も言わなかったけど、実は自分もこの場所が好きだったりする。

エレベーターから出て店内に入るとすぐにアレが目に飛び込んでくる。

顔が少し緩んでしまいそうだ。

気を引き締めなければ・・・。


ごくごく自然にそのコーナーへと近づく。

うん、まさに「色とりどり」だ。

そしてどうしても黄色に目が行ってしまう。

まずいまずい。

ボロが出ないうちに退散しよう。

そう思った矢先、あるものが視界に飛び込んで来た。


思わず反射的に手に取る。

こっ、これは・・・・・・。

ごくり、と生唾を飲む。


欲しいっ!


が、しかし、今この場で買うとやつに見られるかもしれないし、それにまさか「ここ」に来るなんて思ってもみなかったから懐的にもまずい。

でもざっとコーナーを見たところ最後の1つらしい。

もし次に来たときなかったら・・・?

また入荷する保証なんてない。

それに店長だって「グッズとの出会いは一期一会!」だと言っていた。

ど、どうすれば・・・・・。


「取置してもらったら?」


その時、神の声を確かに聞いた。


「それだっ!!」


もちろん神の声じゃないことは百も承知だ。

でも今の自分にとってはそのアドバイスは啓示であることに変わりはない。


「ありがとうございますっ!」


ありったけの感謝を込めた。

言葉にこんなに感情を込めたのは久しぶりかもしれない。


「どういたしましてっ」








そこにはにっこり笑うやつがいた。







まずい。

とてもまずい。

何か、何かを言わなければ。

この場を切り抜けるために頭がかつて無い程高速に回転した。

高速に回転するだけで何もでてこなかった。




何も言わない自分に、怪訝そうにやつは問いかけてきた。







「黄瀬くんのぬいぐるみ見つめてどうしたの?」

「ずいぶん面白い顔を披露していたよ?」






あっ、何かが音を立てて崩れていく。





「・・・いや、その・・・、妹が大好きなんだよ・・・・・」




「君、一人っ子でしょ?」




「・・・・・・・・・はい」




「だよね・・・」


そう言うとやつは腕を組んで何やら思案し始めた。


気まずい沈黙。


おそらく自分が一方的に気まずさを感じているだけなのだが。


「ふむ・・・」


組んでいた腕がほどけた。

どうやら考えがまとまったらしい。


いつぞやのように凛とした眼差しでこちらを見据えてこう言い放った。






「ようするに君は黄瀬くんが大好きなのかいっ?」





そこからのことはあまり記憶にない。




そのぬいぐるみはやつが取置をお願いしてくれた。

やつには仲の良い店員さんがいるらしく、すぐに取置してくれた。


その店員さんを紹介してもらったが、「姉さん」と呼んでいたことしか覚えていない。




その日からやつとの関係は大きく変わっていった。

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