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そこは「聖地」だった。

約束の15分前に到着した。

まさかあいつより早く到着するとは思っていなかった。

まるでこっちの方が楽しみにしているみたいでちょっと癪だ。

あいつはこういう待ち合わせの時は早めに来るもんだと決めてかかっていたけれど、どうやら勘がはずれたらしい。


「やっ!待ったかな?」


噂をすれば何とやら。

手を振りながらこちらへと近づいてくる。


「今来たばかりだ」


無難に返してみる。


「無難な回答だねぇ」


そういってくすくすと笑っている。

不慣れなのだから仕方がない。

心の中でそっと言い訳してみる。


「そういえば君の私服姿を見るのは初めてだけど・・・」


じろじろと容赦のない視線を送ってくる。

品定めされている気分だ・・・・・。

少し嵐の気持ちが分かる気がした。


「うんうん、可愛いね♪」


満面の笑みだ。


「それは褒めているのか?」


「もちろんだよ!」

「これ以上ない賛辞だよ!!」


「さいですか」


「そして格好良いよ!」


「なんだそれ」

「相反していないか?」


「いや、それがそうでもないんだよねー」

「格好良いと可愛いは両立するんだよ!」

「コスプレする人にはきっと分かるはず!」


「またずいぶん狭い範囲に限定されるな」


「そうかな?」


「そうだ」


と、思う。

断言するほどの確たるものは持ち合わせていない。

なのでこれ以上は突っ込まないでおこう。


「どうかな?」


「ん?」

突然の質問に戸惑う。


「君のセンスは良く分かったよ」

「だから今度はこっちの番だ」

「で、どうかな?」


私服のセンスを評価しろとのことらしい。

・・・無理難題だ。


「似合う・・・と思う・・・」


気が利かないことは自分でも分かっている。


「及第点、かな・・・?」


何かしら誠意は伝わったらしい。


「それじゃあ行きますかっ!」


元気よく歩き出す。

それに合わせて一緒に歩き始める。


ちょうど良いタイミングだ。

聞いておきたかったことを聞いておこう。


「ちなみにどこへ?」


「内緒っ!」


即答された。

内緒らしい。

そして元気だ。

そして笑顔だ。


「ねぇねぇ」


袖を引っ張ってくる。


「なんですか?」


「つれないなぁ・・・」

「せめてこっちを見て欲しいかな?」


「・・・」

黙秘権を使う。


「まぁ君がそういう性格なのは承知しているよ」

「でも敢えて聞こう」

「僕たちは周りの人にはどう見えているんだろうね?」


ん・・・?

質問の意味が理解できない。


「ふふ、その顔はよくわからないって顔だね」

「つまり周りから見て僕たちは、友達、恋人どっちに見えているのか、ってことだよ」


また急におかしなことを言い出した。

半年である程度慣れたつもりだったけれど、それは勘違いだったようだ。

まだこいつのことを理解するのには時間がかかりそうだ。


「なにせ僕たちは同性だからねっ!」


もう返す言葉がない。


「突っ込みはなしかい?」


「なしです」


「いけずだね」


「知らん」


「そういうの・・・嫌いじゃないよ」


こいつは無敵か。

顔を赤らめるのはやめろ。

やめてください。


「お、着いた着いた」


「はぁ、ようやく着いたか・・・・って・・・ここ?」


「うん、僕の一番落ち着く場所なんだっ!」


目的地はモルビービル4階。


そこは「聖地」だった。

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