9話目 話してみてもわからないことだらけ
「あー自己紹介もいいんだけど、とりあえず聞きたいことが山ほどある。その辺のことも含めて時間大丈夫か?」
俺は三人に聞く。長くなりそうだから一応聞いておく。
「僕は大丈夫です。どうせ町へ戻っても師匠は寝てますから。」
マルタは最後の方に呆れた感じになりながら答えた。町へというところからおそらくこのマルタという少年は俺との通訳のために町から連れてこられたのだろう。
「俺は仕事があるからもう行かないと、後はリリに任せるよ。あ、俺はブフ。また後でな。」
ブフと名乗った少年はそのまま慌ただしく出て行った。
「じゃあまず一番気になってることを聞こう。ここはドコなんだ?地球じゃないとは思うんだけど…」
まぁ地球じゃないことはわかりきってるんだけれどね。なんて言うか、こう…わかっていても僅かな希望にすがりたいというか…。
「地球?ユウキさんの住んでた所ですか?残念ながら聞いたことは無いです…。ここはヴィラクト王国の統治下の村シナンドです。」
やっぱり聞いたこともない地名だ…。
「わかった。いや、なんもわかんないけど…取り敢えず俺のいた世界じゃないことだけはわかった。」
地球じゃないとなるとこの世界はなんなんだろうか…。別の星?それとも天国?地獄?
「よし、もっと大きい話しをしよう。この世界はどんな世界なんだ?」
唐突で的を得ない質問にマルタは困惑する。いやまぁ自分でもなんだ?って思うよこの質問。「どんな世界だ?」ってなんだろう。
「こ、この世界…ですか?名前はネイヘイム。どんな世界かと言いますと…どんな世界なんでしょうか…。そうですね、神樹の中に作られた世界です。神から与えられる太陽と月からの恩恵を受けてます。」
あーそういう世界ね。要するに昔の人間が世界が丸いことを知らなくて、この世界が亀の上にあるとかそういう勘違いをしてたころの文明と同じくらいの文明レベルなのね。となると地動説じゃなくて天動説が信じられてたりするのかもな。
「あーうん。なるほどな。」
「えっと、僕らからも質問してもいいですか?」
「ん?あぁごめん。いいよなんでも。」
「ユウキさんの…耳ってこれですか?」
マルタは俺の耳を指差しながら聞く。まださっきので俺のことが怖いのか、指先がちょっと震えている。
そうか、みんなネコミミやイヌミミだもんな。こういう耳は珍しいのかもしれない。
「ん?あ、あぁそうだよ。この世界には俺みたいなのはいないの?」
「そうですね。『エーテリア』と呼ばれる種族はこれに近い形をしてますけど、あちらはもっと長くてとがってます。ユウキさんはエーテリアとなにかの混血種なのですか?」
エーテリア。また良くわからない単語が出てきたな。なんだろう、ゲームとかに出てくるエルフみたいな種族かな。俺は特徴を聞いてそんなことを考える。
「いや、俺はそのエーテリアとかいう種族とは全く関係ないよ。そうだな、この世界とは別の世界から来た人間だ。」
「ニンゲン?」
リリは聞きなれない単語を不思議そうに復唱する。そしてマルタは別のところに食いついた。
「べ、別世界?ま、まさかこの神樹の外の世界ですか?」
「あーどうだろう。多分そう。」
「自分の力で来たんですか?」
「いや、事故かな。ん?違う。敵の罠に嵌められて…の方が正しいか。」
罠だったかどうかも怪しいけれど…、とりあえずあの女のせいであることは間違いない。俺とマルタが話していると、横で聞いていたリリが痺れを切らして俺にダイブしてきた。
「あーもう!つまんない!ユウキを見つけたのはアタシなんだからアタシにも話させてよ!」
「見つけたって…助けてもらったの間違いだろ。」
マルタが「全く」といった表情でリリを怒る。
「そうだったね。そういえばまだ言ってなかった!ありがとうユウキ。お礼と言ってはあれだけれど、好きなだけこの村に居座ってもいいからね!」
「いや、無理。」
「さらりと!?」
「一緒に巻き込まれた友人を見つけないといけないし、なにより元の世界に帰らないといけない。」
そのためにも早いところここを出て二人の情報を集めないと…。最も二人ともこの世界に来ているなんていう確証はないんだけど。
「あ、でも先ほどかけた言語理解の術法なんですけど、有限魔法なので僕の力では効力は持って一日くらいです。」
「ええええ!?マジで!?……そっか。一日しか持たないのか…。まぁ、考えてみりゃそうだろうな。んーでもそれはまいったな。マルタ、俺について来る気ない?」
「ええええ!?いいいいや無理ですよ!!じ、自分はまだ修行の身ですし、第一にご友人の方もどこにいるかわからないんでしょう?帰りがいつになるかもわからない旅に今出るわけにはいかないんです。」
ダメ元で聞いてみたがまぁダメだ。これも僅かな希望にすがってみただけ。
「だよなー。第一、今日初めて会ったやつと一緒に旅しようって方が普通じゃないよな。んーじゃあこの魔法使える人紹介してもらえる?」
「いますけど…。無理だと思います。魔術師は教会や国軍下、もしくはギルド直轄にしかいないんです。上からの命令がないと動かないでしょう…。」
「ってことはマルタがここに来たのも上からの命令?」
「いえ、僕はブフに頼まれてきました。自分と師匠はそんな魔術師が独占化されている現状を変えようと大衆化を目指しているんです。やっぱり魔法を人に分け与えてこそ魔術師なので、でも僕らのことを良く思わない国や魔術師のせいで規制が色々とかかってしまい危険行為の一切は禁止され、そのため攻撃用途の魔法は一切覚えられないんですけれどね。」
「その中に俺が元の世界に帰れるような魔法ってある?」
「……ないです。」
「だよなー。」
この世界では魔法はそれなりに浸透してるみたい。地球じゃあこういった魔法の類はあるにはあったけれどほとんどが政府とか国に隠蔽されてたし。とは言ってもセイジとサキに合流して元の世界へと戻る。先が全く見えないな、帰るまでに一体どのくらいの時間がかかるんだろうか。
「まーなんとかなるよ!とりあえず、今日は一日この村でゆっくりするといいよ。マルタも2、3日は村にいてくれるみたいだし。」
リリは先行きの暗い展望にため息をついた俺をちょっとでも励まそうとしてくれる。まぁ一つ一つ進んでいくしかないし、他に道もなさそうだし…。地道なのは好きじゃないんだけどなー。
俺は顔を上げてリリを見て笑う。
「んーじゃあそうするっかな」