10話目 イヌ耳少年を手に入れるための強制的な一択
二日、あれから二日経った。
この村の住人ともそこそこに打ち解け、色々と情報を入手。この村はヴィラクト王国という国の統治下にあり、隣国アルバとの国境近くに位置するらしい。アルバの治安は良くないらしく、度々村人がさらわれてアルバで奴隷にされているらしい。俺はリリがその人攫いに捕まったところを偶然助けた形だそうだ。とはいえアルバから流れてくる人全てが全てというわけではなく、裕福な商人がヴィラクト王国に行く際にもアルバから人がおとづれる。要するにアルバは貧富の差が激しい国なのだ。
「結局、俺達はこの村から動けないのか…。」
そう、情報を集めたからと言っても解決策は結局なにも出ていない。俺がサキとセイジのおっさんを探し回りながら旅をする際、この世界をどうやって渡り歩くか…。リリとブフはもう「ここに住んじゃえば?」などと言ってくる。村長に至っては(やっぱり村長であってた)「若い労働力が増えて助かる」などと言われる始末。
「完全に手詰まりじゃな。マルタに魔法を教えてもらうか、この世界の言語を覚えるかのどちらかじゃ。でなければお主は一生この村から出れんぞ。」
残鬼が言うことは最もだった。こうなったら最後の手段、いつまでも正攻法、聖人君子では手に入れたいものも手に入れられない。
「仕方ない。力づくだな。」
「なんじゃ、気づいておったのか。ユウキには時間が無い、そして前者二つの方法では時間がかかりすぎる。となると答えはそう、正攻法など使ってられん。」
「へー、わかってんじゃん。流石、幾百の屍を連ねた妖刀だわ、邪念ばっかりだな。」
「これだけ長く世界に存在しておれば邪も正も全て同じに見えるのじゃよ。最良を通るならば邪も踏まねばならぬ、仕方のないことじゃ我らはこの世界の人間ではないのじゃから。でも目的からブレないユウキもなかなかじゃ!見直したぞ。」
悪行を行うことを見直されてもちっともうれしくは無いのだが、俺より長く生きてる残鬼は俺よりも大局を見るのに優れてる。残鬼が褒めてくれたってことは多分、一番正解に近い行為なんだろうな…悔しいけれど。
「出来ることなら穏便にいきたかったんだけどなぁ、こんな恩を仇で返すようなやり方じゃなくてさ。」
「明日、マルタが町に戻るのについて行こう。」
元々、ここは俺のいる世界とは違うんだ。だからといって荒らしていいってわけじゃないけれどさ。
翌日
俺とマルタは村の入り口で村人全員に見送られる形になった。何人もの村人がリリのことでお礼を言ってくる。俺はそれを適当に返しながら最後に「二日間世話になりました」と村長に礼をいった。
「それでは、行って来ます。」
マルタは俺の挨拶が終わった頃合を見計らって言う。
「また寄ってね。ユウキ」
「近くに来たら寄ってけよ!」
リリとブフが念を押すように最後の最後に付け足して言う。
「おーう。」
俺達は手を振って村を後にする。マルタの住む町までは歩いて約3時間くらいらしい、大体20キロ前後だろうか…原チャリが恋しい。
「ところでマルタ。もう一度聞くけれど、俺と一緒に来る気はない?」
途中通りかかった森で俺はもう一度チャレンジする。
「魅力的なお誘いですけれど、残念ながら無理です。僕は修行が終わるまでは自由に旅は出来ませんし、何より大衆に使う目的で習ってる魔術をユウキさん一人だけに使うわけにはいかないんです。」
「最もだ。でもこっちも諦めるわけにはいかないんだよ。時間が無いからね。というわけで、俺に誘拐されてくれないか?」
「は?えっ?誘拐!?」
突然の言葉に動揺を隠せない様子だ。無理も無いか…いきなりだもんな。
「そう。今から行く町で俺はマルタの師匠の前で君を誘拐する。俺に不利はあるけれどマルタには不利はない。まぁ俺にも大して無いんだけれど」
「ははは、犯罪はだだダメですよ!!承諾出来ません!!」
初めて会ったときのようにまたマルタの口がうまくまわらなくなる。マルタは緊張したり驚いたりするとどうやら言葉がつっかえるらしい。
「悪いけれど、マルタに選択肢は無い。」
脅すような口調で冷徹に言う。マルタはいきなり変わった口調に怖気づいたのか、ゴクリと唾を飲む。
「悪いと思ってるよ。だから悪意はあっても敵意は無いことをあらかじめ伝えたかったのさ。」
「……。師匠…強いですよ?」
元に戻った俺の口調にマルタは安堵したようで、少し自分を落ち着かせるよう一呼吸置いて言った。
「あっははー。なんとかなるさ。」
「わかりました。なら僕から師匠にユウキさんと一緒に旅することをお願いしてみます。それでダメだったら諦めてくださいよ?」
「いや、諦めない。それがダメだったら誘拐する。」
「…。もう、わかりました。その際は強奪でもなんでもしてください。どうなっても知りませんけどね!全く、人攫いからリリを助けた恩人がまさか僕を攫う人攫いだなんて…。」
「本末転倒だな。」
「ユウキさんが言わないでください!」