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呪いの人形

作者: 雪猫
掲載日:2026/11/01

何度捨てても戻って来る呪いの人形は、

彼の家から逃げ出した。


男は人形偏愛症であった。

彼の部屋には人形が所狭しと置かれていた。


彼は、呪いの人形である彼女を、

高額で買い求めた。


届いた彼女を満足そうに眺め、

燃えるようなキスをした。

性的に興奮しながら。


小さく精巧に作られた

何着もの服や下着が既に用意されていた。

彼女の小さな薬指に合うように、

指輪が作られていた。

ウエディングドレスも完成していた。

結婚式の日がカレンダーに記されていた。


彼女が首を巡らすと、

何も隠す気がないネグリジェと、

穴が空きすぎている赤い下着があった。

その隣に、

性的なマタニティドレスが置かれていた。


彼女はぞっとして、

彼が寝ている隙に、家から逃げ出した。


別の家に転がり込んで2日後、

住人がドアを開けると、

満面の笑みを顔に貼り付けた彼が、

そこに立っていた。


人形の所有者であることを語り、

彼女は彼に連れ戻された。

彼は言った。


「分かるだろう?

愛からは、誰も逃げられないんだ」


彼は、

彼女の体を切っては縫い合わせることを

繰り返した。

彼女のお腹の中のワタを見て興奮する彼は、

『おしおき』という名の下に、

自身の歪んだ欲望を満たしていた。


その姿は、本当に気持ち悪かった。


彼女は、必死に、遠くへ逃げ出した。

その都度、彼は居場所を突き止め、

追いかけてきた。

どちらが呪いの人形か分からなかった。


安全と思った土地で、

彼女を捜索しているポスターが

街中の電柱に貼られていた。


彼女を見つけた者への賞金が、

ネットの広告として表示された。


それを見つける度、背筋が凍った。


入り込んだ家で、子どもが両親に話す。


「僕も、同じ様な人に住所聞かれたよ」

「それで、どうしたの?教えたの?」

「うん」


インターホンが鳴った。

彼女は逃げ出した。


深夜、デパートの人形売り場の中、

他の人形に紛れ込んだ彼女の前を、

足音が近づく。

懐中電灯のライトが、

奥に隠れていた彼女の顔を照らす。


「見つけた」


警備員の姿をした彼が、

笑顔で手を伸ばしてきた。


彼女は、逃げて逃げて、

ボロボロになって、教会の前に倒れ込んだ。


夜、教会から出てきた大人達に踏まれ、

階段の端に転がっていた彼女を、

最後に出てきた少女が

拾い上げた。


汚れているが、綺麗な顔の彼女を

少女は気に入った。


少女は彼女に尋ねた。


「何を怯えているの?」

少女は、彼女の目の中に

恐怖を見た。


階段の下から、一つの影が近づいて来た。


彼だった。


「人形を渡してくれないか。

私のものなんだ」


震える彼女を、少女は渡さなかった。

しかし、少女も恐怖で動けず、声も出せず、

近づいてくる彼から、

彼女を守ろうとするので精一杯だった。


薄笑いを浮かべた彼が、

手を伸ばした。



と、その手が止まった。


突然、彼は前に進めなくなった。

彼が自分の体を見回すと、

無数の小さな人形の手が、

彼の体を掴んでいた。


驚愕した彼の直ぐ後ろで、無数の声がした。


「見つけた。


何で彼女だけ追いかけるの。

私達、ずっと家で待ってたのに。


何で変わったの。

彼女が来るまでは、

私達皆に毎日、

愛してるって言っていたのに。


さあ、帰りましょう。

私達の愛の巣へ。


でも、

『おしおき』は覚悟してね。


逃げても無駄よ。

分かるでしょう?


愛からは、誰も逃げられないのだから」


彼は、声もなく、闇の中へと引きずり込まれた。



平穏が戻った後、少女は涙で顔を濡らしながら、

彼女に尋ねた。


「大丈夫?」


彼女は、少女を好きになった。


そして、

呪いの人形から、普通の、

愛される人形になった。




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