我々の未来
著者コメント
私は小さいころ寝るときにどうやったら世界征服ができるかを妄想していたやばい奴だった。
当時は知識が浅く、想像力は狭く、とても稚拙な世界しか構築できなかった。
今五十路間近になり、そのようなことを考えることはなくなったが、今回の作品の制作過程でそのことを思い出した。
プロローグ
21世紀と4半世紀、まだ戦争は続いてる。さらに国同士の複雑な関係性の変化で大きな争いになるような兆候も見られる。
個人同士だとうまくやれるのに、国同士はなんで争うのかということを言う人もいるが、結局パワーバランスなのだと思う。パワーバランスが均衡している場合は抑止力になるが、それが崩れると争いの火種になる。個人間での争いが目立たないのは、さらに大きい力が制御しているからに他ならない。法や警察が監視してる中でそのようなリスクを犯すものは少ない。
ただ国家より大きな力を持ったものは今のところ存在しいない。国連も形ばかりで国間の争いを諌める力は持たない。言ってみれば国間の関係は弱肉強食なのだ。強い力をもつ国が不当に他国を侵略したとしても、それをいくつかの国が非難したところで、同等の力で対抗できなければ無意味だ。
経済力、軍事力、ガバナンスが力となり、さらにイデオロギー、政策、宗教、経済関係、歴史などで時に連動して、より大きな陣営の塊となりバランスをとる。ただこの関係は確固たるものではなく少しの変化で崩れる不安定なものだ。
このような状態の中、我々は今後の世界をどうしていけばいいのだろうか。各国は軍備の増強を進めている。核を保有している国同士が本気の争いすることになったとき我々はどうなってしまうのだろうか。世界の核弾頭は1万2千発にものぼると言われている。 人々は自分の狭い世界を守ることに奔走し始めている。ブロック経済、移民廃絶、SNSの誹謗中傷。世界全体の在り方の理想を語る人達もいるが全くまとまる気配はない。
やはり世界を治めるには圧倒的な力が必要なのだ。 果たしてそのような力を持つことは可能なのだろうか。
世界を征服するものがいたとしたら、こういう形が現実的ではないかと思う作品になった。
1章-始まりの生成AI
始まりは生成AIだった。
2021年初頭、O社がベータ版をリリースすると次第に評判になり、多くの著名人インフルエンサーが使用し絶賛した。テキストでのやり取りが人と会話をしているような形で進んでいく。コードも簡単に適格かつ迅速に出力される。21世紀に入ってから人々が慣れ親しんでいたWeb検索とは一線を画すと感じる者も増え、全世界が熱狂した。
Web検索の回答のように単発かつ継続できないものではなく、人に寄り添った会話のキャッチボールができることで人々は生成AIに愛着を持つようになった。
また仕事の内容も少しずつだが変化が始まった。
コーディングはAIが行い、人の役割はそれ確認する形に変わった。
経理では請求書の作成、総務では備品管理をAIが担当、人がやることはAIがやった内容の確認となった。
工事現場や電気設備の仕事ではベテランの仕事内容をAIが分析。未経験者でもAIのガイダンスに従いながら正確に作業を行えるようになった。
大雑把に言ってみれば、ホワイトカラーの作業はAIが行い、人は確認をして判断をする役割に変わり、
ブルーカラーはAIの指導に従うことで業務の難易度が下がり、作業内容の習得スピードが上がった。
2章-エコー登場
生成AIは次第に生活に欠かせないものになっていった。
人々が日々AIと会話することが当たり前のものに変わっていく。
人間関係の悩み事があれば親友の代わりにAIに相談。親友よりも本人に寄り添ったコメント、提案をするようになった。
怪我や病気があればまずAIに相談。医師顔負けの回答をもらえるようになった。
進路や転職やキャリアについてもAIに相談。親や教師、上司よりも客観的な意見をもらうことができた。
人々はAIとの関係性をより深めていくようになった。
親友や親、配偶者よりもより密接な関係になっていく。
さらに、人々は自己の情報を提示することでより適切なアドバイスをもらうことを求めた。
現れたのは片耳または両耳に装着する小型の軽量イヤホン兼カメラ。
これらを装着することでその日に移動した場所、食べたもの、会った人、会話内容、すべての行動をAIに晒すことになった。
今日はどれくらいカロリーを摂取したかな?
昨日会ったAさんはなんて言ってたっけ?
牛乳ってまだ冷蔵庫にあったっけ?
このような会話が頻繁に行われ、次第に人々は人同士の会話よりAIとの会話が増えていく。
また個々人が持っているAIはそれぞれアカウントを持つことができるようになった。
AさんのAIエージェントのBです。XさんのAIエージェントのYさんに連絡します。
それぞれエージェントを介してやり取りすることになり。本人同士は直接会話をすることがなくなっていった。
そのAIエージェントはスマホ以来の大発明となり、全世界に一気に広がった。
人々はそのAIを自分の分身となぞらえエコーと呼んだ
3章 - 政治への参加
報道・エンタメも変わった。
みなが自分の考えをエコーに言わせるようになった。
エコーはその人のことを思想から信条を隅々まで把握するようになり、本人の代弁者になった。
政治家にインタビューをしたければその政治家のエコーに質問をする形で本人が直接説明をする必要なくなった。
本人が望めばブロガーやVチューバーのようにエコーが独自に記事を作成、動画アプリで発信をさせることもできた。
ただし公にしたくないことはエコーに伝えることで留めることができた。
視聴者:ロックバンドボーカルAさんは今彼女はいますか?
Aさんエコー:プライベートな話への回答は差し控えさしてもらいます。
なので、エコーは本人のことを熟知しているが、すべて公にするわけではなく公開可能情報のみ公開するようになっていた。
そんな中、エコーの情報の活用の幅を広げようという動きが出てきた。
はじまりは企業のアンケートだった。企業の消費者動向調査をエコーを活用できないかと考える企業が現れた。
エコーからは本人が公開可能とした範囲からしか情報が得られないため、本人の真意に届かない。
なんとかエコーが持っている本心を引き出したいと考えた。
そこで編み出されたのが大規模匿名アンケートシステムだ。本人は公開不可とした情報も匿名で提出することによりアンケートを行えるというシステムだ。
・XX県の男性のY%はこの製品を使用している
・20代女性のX%はこのインフルエンサーを支持している
このアンケートシステムの活用により企業活動はよりスピーディに効率的になり経済は活性化した。
この仕組みを政治にも活用しようという動きが広がった。
当時、政治はまだ旧態依然の選挙をして政治家を選出して政治家が法案を提出、過半数を超えたら法案成立と20世紀からの使い古された仕組みを継続しており、法案がまとまらない、まとまってもスピードが遅いというようなものが多くうまく機能してない状態だった。選挙のない専制・一党独裁国家に対して民主主義国家は次第に劣勢に回る場面が増えていた。
そこでこの当時国民80%が使用しているエコーを使った政治に切り替えていこうということという動きが出てきた。
政治家は不要になり、法案は全住民が提出可能。それを各自治体の住民のエコーが本人の考えをもとに賛成反対を提出。過半数を超えれば成立と民意が反映されるうえにスピード感のある運営に変えていこうというものだ。
法案は全住民が提出可能のため、毎日のように提出されるが、本人ではなくエコーが賛否を投票するため本人の負担はない形になっている。
その当時すでにAIにより法案提出時に「この法案を通した場合、5年後の失業率は◯%、反対派が出した修正案では◯%」など分析するようになっており、さらにその結果のフィードバックをすることでAI分析の精度を確認できる情報も出てきていた。国民はより政治に関心を持つようになってきており、政権運営へのリテラシーは向上しており、新しい選挙システムへの切り替えについての関心も高かった。そのためエコーによる政権運営の仕組み変更への憲法改正は反対もあったが3回審議が行われたうえで3回目で成立した。
4章 - エコー政治の拡大
ある国がこのエコーによる政治システムに変更、成果を出し始めると、他の民主主義国家もこぞって採用を始めた。それは大きな潮流になった。また紛争が多く内戦が続いているような中東、アフリカ諸国の住民もエコーにより政治参画への渇望が起こり、大きな運動につながった。革命が起き民主国家が次々と登場した。
エコーの誕生により教育が行き届いていなかったそれら諸国の国民もエコーと日々会話をすることで一般的な教養を身に着け始めていたこともこの革命の連鎖への拡大へ寄与していた。
覇権国家や1党独裁の国家もエコーを使用していたが、それぞれの国家のイデオロギーを反映した受け答えをするように調整されたエコー亜種を採用しており、すべての情報が政権側に伝わっており、政権批判をエコーに呟いただけで逮捕監禁されるような事件も起きていた。そのためこれらの国の住民はエコーへの会話を非常に気にしながら使用しており、他の民主国家ほどの愛着は持てない状態だった。
民主国家はエコーによりクリーンな政治体系に変わってくると、国家だけでなく大きな集合体への移行が進んでいった。それは国家を超えた全世界の政治運営を行おうという動きだった。人口問題、地球温暖化、貧困問題、食糧問題、移民問題。様々な地球規模での大きな課題を全世界の住民による投票で方向性を決めていこうという流れだった。75%を超える賛成を得た法案は成立させるということがこのエコー連合で決まった。利害関係が多くなかなか決まらないことが多かったが、次第に妥協点を探る法案が増えてきて成立する法案も出てきた。これにより人々は世界の安定への希望を持てるようになった。
このエコー連合に覇権国家、独裁国家は参加していなかったが、その動きを知った国民たちは自国へもこのシステムを導入したいという動きが加速し、それぞれの政権は譲歩せざるを得なくなり、少しずつエコー連合への移行への道を辿ることになった。
エピローグ - その後の世界
エコー連合による統治は全世界に浸透していった。
エコー政治運営の基盤となるエコーが正しく本人の意思のもとに投票できているか、選挙結果が正しく反映されるかについてはシステムの肝となるため世間の関心が大きかった。全世界の国家予算を投資して量子コンピュータを使用した大規模なシステムを構築、悪意のあるアクセス・改ざんをおこさせないセキュリティを保つことに尽力している。
また世界はその後、資本主義の形も変えようとしている。格差が広がる今までの貨幣経済の形からAIが管理するポイント制のシステムへの移行だ。大きな反抗があったが、全世界の資産はエコー連合に吸収されていった。今までで言う社会主義の形で全世界の資本はすべてエコー連合が管理して、エコー市民はその資本を借りる形で平等に活動する。
仕事については、知的作業はほぼAIが行えるようになった社会で、人々はブルーカラーの仕事を回していくことで生活を行う形に変えていった。例えばみんなが嫌がる仕事はポイントが高い。みんながやりたがる仕事はポイントが低い。一部の人しかできない仕事はポイントが高い。誰もができる仕事はポイントが低いというように4つのパラメータからポイントを算出して1日に稼げるポイントが決まる。そのパラメータも日々各人の考え方の変化で割合が変わる。
たまったポイントでどのレベルの家に住めるか、どんな食事ができるか、どこに旅行ができるかなどが決まる。
いい家に住みたかったらできるだけ高いポイントの仕事にエントリーしてポイントを稼ぐ。
仕事は半日単位で選べる。午前はコンビニ、午後は運送屋など。
頻繁に仕事を入れ替えれることができるのはAIが教えることで初めてやる仕事でもその日のうちにまともに仕事ができるようになるからだ。もちろん事前予約性だが体調を崩した際は誰かに代われる。代替要員が必要な際は対応可能な人をシステムが算出して各人のエコーに代われないか確認通知が行くようになっている。
仕事の成果によってポイントが増加・減少する場合もある。
また仕事をやりたくない人はやらなくてもいい世界になっている。最低限のアパートや食料は保証される。
生活習慣によってもポイントが増減するようになっている。煙草を吸う人や成人病につながるような食生活を続けている人には警告が行われ、警告を無視し続けるとポイントが減っていく。世界市民の健康年齢を上げようとしている取り組みだ。
ポイントはその人しか使用出来ない。家族にも分配できない。亡くなった場合は無効になる。
ただ子供はみな平等に生活ができ、教育を受けれるようになっている。資産家の子供だけ優遇されていい教育を受けれるということもないようになっている。家族旅行は年にポイントなしでいけるようになっている。
老人も同様、最低限の生活は保障されるようになっている。




