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ヒューマンドラマ

電気の消し間違い

作者: しぃ太郎
掲載日:2025/12/22

この話は、特別な出来事が起きる物語ではありません。

仕事をして、家に帰って、眠る。

そんな、どこにでもある夜の話です。

ただ一つだけ、

その夜には、消してはいけなかったものがありました。

 

 一昨年、家を買った。

 まだローンが残っている。

 仕事が終わると、俺は家中の電気を付ける癖が付いた。


 ――半年前からだ。


 1人で朝に炊いた白飯をよそい、スーパーで買ってきた総菜をおかずに夕食をすませる。


 風呂には、カビたシャンプーハット。

 ――そろそろ捨てなければ。


 湯船に浸かり、それに洗剤をかける。


 風呂を出ると、タオルを巻いて裸でビールを取り出した。


 テーブルの上を見れば、空き缶が何本も並んでいた。


 頭を乾かすのが面倒だったので扇風機の前に座り、録画を確認する。深夜帯のアニメから、日曜朝の番組まで――。


 もうとっくに終わった、興味もないその番組を飛ばして、最新の録画だけを確認する。


 いつも通り。街グルメや芸人が大騒ぎしているだけだった。


 テレビがやけに耳の奥に響く。

 頭が痛くなってきた。


 不快でリモコンを取り出した。


 家の中は、物音一つしなかった。


 明日は朝が早い。

 もう寝ないと。

 

 スマホのアラームを確認すると、ホーム画面が目に入る。直視出来ないが変える勇気もない、その写真。


「寝よう。……おやすみ」


 次々と家中の電気を消していく。

 大きな鏡台とよくわからない化粧品の瓶が並んだ。部屋。ハンガーにかかったスーツ。


 ――パチリ。


 次の部屋に行って電気を消す。

 勉強机の上には紙粘土で作った工作と、広げられたノート。


 足元にはボールが転がっている。


 ――パチリ。


 もう一部屋には、ベビーベッドが置いてあり、封も空けていない小さな服が何枚も置いてあった。


 ――パチリ。


 あぁ、失敗した。部屋中の電気を消してしまった。どうやってリビングに戻ればいいのか……。


 俺は廊下の電気のスイッチを手探りで探した。

 

合い言葉は、言葉とは限りません。

仕草や、音や、癖のように、

誰にも説明しないまま続けているものかもしれません。

この物語の中で、

あなたが見つけたものが、

あなたにとっての「合い言葉」なら、うれしいです。

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