第6話 市長との対談
プッペンスタット街 市長宅
―第6紀 366年13月6日(天曜日)3刻
「市長閣下,お初にお目にかかります.エリザリーナの婚約者のパスカル・ファンデルメーレンと申します.賢者級6位マギアス,エルダインです.天曜日のお休みのところ,誠に恐縮ですが,ご挨拶させていただきたくて参りました.」
「はじめまして,パスカル殿.壁守様には大変お世話になっておりますぞ.…(市長の紹介は省略)….しかしながら,壁守様には婚約者がおられたのですか.なかなか隅に置けませぬな.」
かなり広い市長の自宅の応接間で市長とエリー,パスカルがソファーに向かい合って座っており,後ろにアンジェが立って控えている.エリーはこれ見よがしに,パスカルの腕と自分の腕を絡めている.
「でしょう!彼はとても優しいのよ.」と,ニタニタしながら言う.
「仲が良いようで結構ですな.」
「僕はまだ学生なのですが,今日,お邪魔しましたのは,大学校を卒業しましたら,僕もこの街に住むつもりでおりまして,そのことについてご相談がございまして,寄せていただきました.」
「ほほう.どのようなことでしょうか?」
「もちろん,ムリな相談ではないと思っています.僕とエリザリーナとしては,この街で子供を育てたいと考えています.ですので,家族の安全については市政府として,それなりの配慮をお願いしたいのです.」
「おお,もちろん,配慮いたしますとも.壁守様が安心して住めないようでは困りますからな.」
「それと,エルダインはプライバシーを大切にするので,その辺りも配慮願います.従者も最低限にして,基本,自分たちで必要なことをこなすようにしています.」
「ふむ,その件は壁守様ともお話しましたが,プライベートな時間を邪魔するようなことがないよう,こちらとしても配慮させていただきますとも.」
「ありがとうございます.最後のお願いが少し厄介なのですが…」
「なんでしょう.」
「僕は卒業後,ヴィッセンスブルク大学校への就職が内々定しておりまして,ここから通いますと,わざわざズーデンヴァルト経由でヴィッセンスブルクまで行く必要がありまして,非常に面倒なのです.お金がかかるのも問題なのですが.」
「ほう.」
「そこで,プッペンスタットとヴィッセンスブルク直通の転移門を開通したいと思っています.」
「なんと!」
「転移門自体は僕とエリザリーナで作成するつもりなのですが,転移門の管理はしたくないのです.そこで,市長のお力添えをいただきたいのです.」
市長は驚き,考え込んで答える.
「それはプッペンスタットとしては大変ありがたいお話ですな.つまり,私にヴィッセンスブルクの転移門管理官事務所と話をして,調整してほしいと,そういうことですな.」
「ご理解のとおりです.プッペンスタットの特産品の移送か,観光か,何か転移門管理官が利益に飛びつくような目玉となるものがないと,転移門管理官事務所も人材不足でなかなか了解もらえないかと思っているのですが,いかがでしょう?」
「そこまで,お考えいただけているとは,いやはや参りますな.もちろん,転移門を有効に利用できる何かが必要と思いますな.」
「わたしも特産品についてはちょっと考えてみようかなぁと思っているんですよ.」
「いやいや,壁守様にそのようなお手を煩わせていただくのはどうかと思いますので.」
「もうもう,遠慮しなくてもいいんですよ.」
「あはは,ご冗談を.」
「ついでに,わたしからもお願いいいですか?」
「ええまあ,お手柔らかにお願いしますな.」
「わたし壁守として,もっと市長さんとお話がしたいんですよ.前の壁守さんと前の市長さんは大変仲が悪かったみたいですので,市長とわたしの代では定期的に市行政府と断罪府で定例会議をやりませんか?」
「…参りましたな.そのようなご提案いただけるとは.承知いたしました.そうさせていただきますぞ.」
「ちなみに,今日,僕が提案した転移門のことは実はエリーの発案なんですよ.」「!」「僕の婚約者はなかなかできるんですよ.」
「…ほんとに参りますな,壁守様」
「あはは.市長,ほんとよろしくお願いしますね.共に協力してこの街を盛り上げて行きましょうよ.」
話が一段落して,市長が手鎚を打つ.
「そういえば,忘れておりましたぞ.今は高い塔へお住まいですが,住居用の広い土地があるのですぞ.」
「「え?」」
「お貴族様ですので,当然では?」
「わたし,今の高い塔だけでも,実家より広いので満足しているのですよ.前の壁守さんはどうしていたのですか?」
「初代の壁守様はそのうち屋敷を建てるとずって言われていたようですが,建てる前にお亡くなりなりましたな.前の壁守様は家族がおられなかったので,その土地は花壇やオブジェクトを並べて,“アビゲイル公園”として整備されましたな.どうされますかな?」
「あ,あの公園がそうなんだ.う~ん,別に興味ないかな?ねぇ,パスカル,お屋敷建てる?」
「高い塔だけでも十分だよね.」
「まったく謙虚ですな.」
「いやぁ,地元のヴィッセンスブルクって,土地の税金がすごく高くて,毎年平方メルテ当たり金貨1枚とか払わないといけないので,貴族でも小さい土地に高い建物を建てて暮らしているんですよ.それに慣れると,広い土地に住むなんて移動が面倒過ぎるというものですよ.高い塔なら上下移動だけでどこへでもいけますよね.アビゲイルさんが人形で町おこし記念に“アビゲイル公園”を作ったのなら,そのままでもいいのではないかと思いますよ.ね?パスカル.」
「うん,そうだね.贅沢はよくないよ.」
「それに広い家は掃除するのが大変だよ.」
「…」市長はエルダインがあまりにも“貧乏くさい”のに唖然とした.高い塔よりも市長の家の方が広いくらいなのだ.広い家を掃除するために,メイドを雇えばいいが,メイドが家にいるのが嫌だから,手ごろな広さの家に暮らしている訳なのだ.
市長宅からの帰り道で,
「エリーどうだった?」
「うん,市長さんはただ単純にわたし,つまり新しい壁守に対して,すごく警戒しているだけだよ.例の事件があったから,仕方ないんだろうけど,時間をかけて壁守,いいや,マギアスに対する悪い印象を埋めていくしかなさそう.わたしは第一印象より好感が持てるようになったよ.それと,市長は常に本当と嘘をあいまいにして話しているんだよ.ちゃんと【真偽判断】魔法は有効に働いていたよ.市長さん,いつもそうしてるんじゃないかな.」
「それはそれで,やっかいな人だね.」
「政治家って,そういう生きものじゃないのかな?」
「ただの狸おやじなの.」
高い塔へ帰り,自室のベッドの上で,座っているパスカルに,エリーが抱きついて,
「あはは,パスカルぅ.パスカルぅ.」
「あはは.」
「はぁ~~っ,ぜんぜんパスカル成分が足りないよぅ.」
エリーはパスカルにすりすりしていて,パスカルがエリーの頭をなでているのだが,別にエッチなことをしていたわけではない.二人は純血のエルダインとハーフエルダインなので,基本,発情期である春以外は,性的な高ぶりを感じることはない.ただじゃれ合っていただけである.リビドーがなくても,スキンシップがあれば,それなりにちょっとした多幸感を感じることはできる.毎日会えないから,エリーがただ甘えていただけだ.まあ,一種のグルーミングかマッサージみたいなものだ.
アンジェがフェブエルのことを卑猥と呼んだのは,ヅォーク,フェブエル,ロベルマンの3種族だけが毎月発情期があるので,そう言ったのだが,毎月発情期があってリビドーが分散されているのと,エルフのように4年に一度しか発情期がこなくて溜め込んでいる種族と,どちらが“卑猥”のか,見方次第だ.
「あの~,取り込み中,申し訳ないですの.」
と,高い塔の真ん中の縦穴から頭と腕だけを出して,アンジェが覗いていた.高い塔は階高が2.7メルテになっており,アンジェの身長1.52メルテでは絶対に上の階には手が届かないはずだ.エルフの運動神経なら,ジャンプして届くのだろうか?
「もう,アンジェのエッチ.覗かないでよ!」
「久々に会って,甘えたいのはわかるの.でも,そろそろ30周分はいちゃいちゃしてたんだから,もう十分ですの.3人で話すことがあるのではないの?」
と,腕の力だけで登ってきた.そのまま,ベッドのパスカルの反対からエリーに近づいて,ベッドに座った.
「アンジェでも,パスカルは分けてあげないよ.」
「おいおい.」
「はぁ,エリーはだいぶ重症なの.でも,二人を見ているとちょっとだけ,うらやましく思うの.わたくしもちょとだけ仲間に入りたいと思うの.」
と,アンジェはエリーに背中から抱きついた.
「ふぇっ!」
エリーはパスカルに抱きついたまま,首を回してアンジェを見ようとしたが,背中の方はどうやっても,見えなかった.エリーとパスカルは目を合わせ,お互い「「?」」という顔をする.エリーはパスカルを離し,振り向いて,アンジェに抱きつき押し倒す.
「あはは,アンジェ.」
エリーはアンジェのほっぺを両手ではさむ.
「わたし,アンジェが好きだよ.大好き.」
「ななな,なにを言っているの!こ,こんどはなんなの?彼氏の前で不倫発言なの?」
と,顔を真っ赤にして,恥ずかしがった.
「3人で話すことって,何だい?」と,パスカルがふってくる.
「も,もちろん,例の事件のことなの.」
アンジェは動揺を隠すようにエリーから逃げ出す.
「う~ん.」エリーはさっきまでのあまあまモードから,一瞬でスンと,通常モードに戻って,右手をパスカルと,左手は逃げようとしたアンジェと手をつないだ.
「例の事件だけど,私としては犯人がだれとか,正直どうでもいいよ.前の壁守さんの友達でも知り合いでもないし,聞いた話だけでも前の壁守さんの自業自得なんだと思うよ.…でも,ここで壁守として暮らして,子供を育てていくと考えると,例の事件が未解決なのはリスクがあると思うよ.特に,かくれマギアスがいる可能性があるのはゆゆしき問題だよ.一方だけど,マグニルはマギアスをまず殺せない.絶対ではないけど,殺される方が油断しすぎだと思うよ.ただでさえ,マギアスはマグニルから妬まれていて恨まれやすいのに,前の壁守さんはちょっとやりすぎだよね.だから,マグニルが犯人である可能性がないわけではないよ.」
「うん,そうだね.」
「だから,わたしとしては,だれがどうやって殺したのか知っているよ,って,意思表示だけして,放置しようと思っているよ.内務省ですら知らんぷりしているのに,わたしがほじくり返して追及するのも違うと思うよ.変に深追いして追及して,わたしの関係ないことで恨まれたくはないんだよ.」
「わたくしもエリーの考えがわかったの.それでいいなら,もちろん協力するの.」
「ぼくも反対しないよ.」
「いまのところ,情報が少なすぎて,だれが犯人なのかわからない.マギアスが殺害にかかわっていないと不可能と思うのだけれども,どうも腑に落ちないんだよ.」




