物語 プロローグ
ユグドラシルの森 ― 第1紀 某年某日
[聖典 神託編 第6節 聖典授与の章]
偉大なる原初三柱神の一柱エルファルは,人類種と世界樹に奇跡をお与えになられた.
そして,こう語られた.
「この聖典を授けよう.聖典を読み,悟り,図り,為し,顧みよ.
さすれば,再び,三度と,繰り返し奇跡が行なわれよう.」と.
[聖典 神託編 第12節 十二戒律の章]
一, 三柱の創造神と,その御子神たる維持神を崇拝せよ.
二, 神々へマナを捧げ,その御威光を讃えよ.
三, 神への請願は祈願祭に限り,それ以外に私欲を述べるべからず.
四, 神託に疑義を挟むことなかれ.その御言葉こそ真理なり.
五, 魂の鍛錬を怠るべからず.善なる行いは,魂を成長させる糧となる.
六, 内なる神聖なる力を磨け.心身の修練は,その道の一つである.
七, 真実を見極める知恵を求めよ.叡智は,汝に力を授ける.
八, 親を凌ぐ強き賢き子を産み育て,我らの同胞を繁栄させよ.
九, 同胞に悪意を向けるべからず.我らは一族,互いの安寧を願うべし.
十, 同胞を守護し,相互に助け合え.その結束こそが,我らの力となる.
十一, 同胞に偽りを語るな.真実の言葉は,我らの絆を強固にする.
十二, 強き者は弱き者を導き,弱き者は強き者を敬い,付き従うべし.
※聖典 トリア コルムナルム プリンキピア 神託編より,引用.
ユグドラシルの森 ― 第1紀 某年某日
[聖典 追補 第144詞 真理の詩]
聡明なる大樹神グランディアフィールは,偉大なる原初三柱神の一柱イーファルの言の葉を思い出でて,かく詠いけり.
一つの魅惑の女神は,
やすらかな憩い場を,穏やかな時を与え,
その美貌で,すべてを惹きつけ,皆を突き動かす.
けれど,「七」のものは,心を持たぬ.
二つの夫婦神は,互いに強く惹かれ合う.
二柱は陰と陽,正と負,北と南,上向きと下向き.
「光」に結ばれし夫婦神は,他を認めず.
「十字」の旅路を進み続け,止まることなし.
二つの双子神は,鏡に向かい真似しあう.
動いてみても,回ってみても,真似しあう.
しかし,三つの変化が双子の一人を静かに変える.
知らぬ間に,鏡に映る像はない.
三つの「魂」は,
ひとつは増え続けることを願い,
ひとつは静かに眠ることを願い,
ひとつは他からすべてを奪いつくす.
魂は,記憶であり,歴史なり.
その名は,星とともに永遠に.
三つの「原色」は,
表裏を纏い重なりて,八色の「虹」を織りなす.
足枷に重しを付けられ,小さな檻にとらわれても,
強欲な虹は,手離すことなど決してない.
だが,強欲ゆえ,隣の檻にも手を延ばす.
三つの変化は,
陰と陽を創り,時を気づかせ,
静かに変化へと導く.
目に見えぬものさえも,変化を与える.
それが,たとえ弱き「発端」であったとしても.
四つあるべき世界は,
三つであり,一つ.一つであり,三つ.
一つはすべてを持ち,一つは奇妙に歪み,一つは空.
聖なる鐘の音が,三つの世界に鳴り響き,
見えぬ絆で,ひとつに結ばれる.
まだ知らぬ,四つ目の世界を目指して.
四つであろう定められし世界の規則は,
世界には唯一であること.
世界では他を排すること.
世界にて己の類を呼び寄せること.
世界は光を愛するであろうこと.
その名は,神が与えし,一つ限りのもの.
四つあるべき元素は,
火,風,水,土.
同じものは集まり大きく育ち,
火と水,風と土は憎み合う,
火と風,火と土,風と水,水と土は,
互いに惹かれ合い響き合う.
そして,最後にはすべてが混じり合う,
マナの導きのままに.
四つであることが明らかな存在は,
一から四までを抱く,「奏でる輪」なり.
マナから生まれ,すべてを形作り,
すべてを世界へ帰属する.
けれど,誰も知らぬ「零」が,
すべてを消し去り,
暗き虚無へと誘う.
深淵を覗き込むものから,順に.
※聖典 トリア コルムナルム プリンキピア 追補 グランディアフィールの書 より,引用.
※詞は現代標準語に翻訳されています.
2026年1月頃,本編「トリフェルティア物語 第1章 ガブリエリナ編 開戦前」を連載予定です.




