第48話 ファ?エリザ…
プッペンスタットの南西側名もなき平原
―第6紀 369年9月56日(土曜日)7刻
「ヴェイザ,オテヌー,ファ?」
ヅォークジェネラルは目の前の状況を理解できずにいた.オーバーキルできる十分な数の魔法をエリーに撃ちこんだにもかかわらず,それがすべてそれで味方に当たって,方々でヅォークやゴブリンが消し飛び,爆散している.その爆煙が消えた後に,無傷のエリーはまだアンジェの首を持って,座っていた.
「アンジェ,なんて怖い顔をしているの.ほら,笑ってよ.笑っているアンジェがかわいいんだから.」
と,アンジェの目を閉じて,口角を指で押してムリやり笑顔のようにする.顔についている血を魔導ローブの袖できれいに拭いてあげる.右前にいたヅォークソーサラーがおびえながら,
「ソレア・マグエル!」
と叫び,魔法を撃ってくるがエリーを避けて,反対側にいたヅォークが爆散する.
エリーは「ちっ!」と舌打ちをすると,攻撃したヅォークソーサラーは頭だけが吹っ飛び血しぶきをあげながら,倒れる.周りのヅォークたちは一歩下がる.エリーは大事そうにアンジェの頭を持ったままゆっくりと立ち上がる.エリーの白いローブはところどころ,アンジェの血で赤く染まっている.そして,恐ろしい眼光でヅォークジェネラルを睥睨する.ヅォークジェネラルは恐怖のあまり,1歩後ずさる.
「ねぇ,あなた.アンジェの首から下はどこにやったのよ!…返しなさいよ!」と,怒鳴り散らす.
「…」
言葉が通じなかったからなのか,エリーを恐れて返事をしなかったのかわからない.少なくとも,アンジェの首から下がどうなったのかは,エリーは知らない方が良かったのだ.エリーは返答がないことにイラッとして,【マナブラスト】を17発ぶち込み,ヅォークジェネラルを爆散させる.
(あまりにも怒りが度を越えると,人って逆に冷静になるんだね.周りから色がなくなって,周りがゆっくりと動いて見えるよ.なんだろう,この感覚.)
ウォーーー,ウォゥ,ウォーーー.ドン,ドドン,ドドン…ドン.再び,敵が鼓舞してくる.エリーの正面から,まるで道が開かれるように魔物がいなくなる.一人(一匹)の魔物がその道を優雅に,そしてなぜか楽しげにも思えるくらい軽い足取りで歩いてくる.ヅォークでもない,もちろんヅォークジェネラルでもない.頭にいびつな2本の黒い角を生やした独特の存在感を放つ存在“魔人”だ.そういえば,シリルが死ぬ直前に魔人がいることを話していたのを今更のように思い出す.エリーから11メルテのところまで進み,歩みを止める.とてつもない魔法領域の圧力を感じる.エリーよりも地位が高く,現在のマナ量が非常に多いからだろう.しかし,魔人なのに瘴気を発してなくまだ不死になっていない.
(魔人はみんな不死なのかと思っていたけど,いろいろいるのかな.よく考えたら,魔人のことは教科書に書いてあること以外あまり知らないよ.)
『やあ,新しい白の魔法使い.エルフ語はわかるかね?わたしは四魔殺のグシオニブブだ.』と,優雅にお辞儀をした.
エリーはさすがに驚いた.魔人がエルフ語をしゃべってきたからだ.しかし,エリーの方はエルフ語だということはわかったが,エリー自身はエルフ語が片言しかわからないし,しゃべれるほど習得していなかった.だが,さっきの文章はわからない単語がほとんどなく,意味が理解できた.
無視するか,ファーストネームか,ファミリーネームか,一瞬悩んだが,自分に親指を向けて,
「エリザリーナ」と答える.共通語の発音で答えたので,魔人はエリーがエルフ語を喋れないことを理解した.だから,ゆっくり発音し,手振りを合わせて話しかけてきた.
『白の魔法使い エリザリーナ,私がそのエルフを殺したんだ.さあ,悔しかったら,かかっておいで.』
グシオニブブと名乗った魔人は,最初自分を指さし,次にアンジェの首を指さし,手のひらを自分の首のところでひらひら動かし,エリーを指さして,こぶしを見せ,ニタニタ笑った.
(こいつがアンジェを殺したのか!許さないよ!!わたしよりマナ容量が多いのに,わたしを弱らせるために今まで部下にやらせて隠れていたんだよね.私にはもうわずかしかマナが残ってないから,わたしを殺すのなんて余裕だと踏んだんだろうね.ほんと,なめられてるよ.私だってわかっているんだよ.こいつとは“格“も違うし,残っているマナ量もぜんぜん違う.もう,こいつに勝つことも,ここから逃げることもできないって!パスカルはぜんぜん間に合わないし,ズーデンヴァルト軍がここに到着できて混戦になっても,わたしを助けるのにはもう間に合わないよ.わたしはこいつに殺されるんだろう.でも,ただで殺されるつもりなんてないよ.わたしの大好きなアンジェにこんなひどいことをして許さないよ.ただの一矢だったとしてもアンジェの仇だけは必ずとらなければならないんだよ!わたしの覚悟を思い知ればいいよ!)
首だけだったとしても,なぜだかアンジェと一緒にいると怖くないと感じる.不思議な安心感があった.後先どうなるかを何も考えていないことだと頭では理解していても,できるとしか思えなかった.
北方の遠方から今まで感じたことない“強い視線”を感じる.
「グシオニブブ!お前がアンジェを殺したのか!そして,わたしにかかってこいと!言っておくけど,わたし強いよ!お前たちが何しにプッペンスタットに来たか知らないけど,ほんとふざけないでよ!わたしはただパスカルと友達たちと,ココで仲良く平穏に暮らしたかっただけだったんだよ!わたしの大切な親友のアンジェとメアリーまで殺して,しかもわたしの街の人を皆殺しにしておいて,ただで済むとは思わないよね?わたしの命はお前たち全員の命より重いのよ!わたしの覚悟をしっかりと見ておくのよ!うっ…」
涙がこぼれる.エリーの独白をグシオニブブは手をあごに当てて,しっかりと聞きいっているようだ.エルフ語と共通語は同じ単語も多いので,一部は聞き取れるのだろう.そういえば杖を【視覚聴覚記録】したままだったのを思い出した.
(杖だけでも残せるかな?)
「パスカル,ごめんなさい.わたし,この人生ではあなたと一緒に添い遂げることができなかったよ.わたしはアンジェと一緒に,先に星に還るよ.あなたと出会えてよかった.大好きだよ,パスカル.どうせだったら,パスカルが学生だったとしても,先に結婚しておけばよかったよ!…次の人生でも必ず出会って,こんどこそ,一緒に添え遂げようよ!約束だよ!
パパ,ママ,サリー大好きよ,みんな仲良く元気でね.それから,クロエ,ウィリアム,リエリ,ありがとう,みんなとすごせて楽しかったよ.
…ふぅ~…もし,できることなら,大地母神アリアンフィール様,私の命と引き換えに私の最後の願いを叶えてください!」
【第31領域を円柱配置して杖 変換行列[(8.00,0.00,-8.00),(0.00,8.00,-8.00),(-8.00,8.00,0.00)]設定 第31領域空間歪曲 全魔力消費-第27階梯魔法 温度昇温 +600ケルビン 発…】
魔法を発動しようとしたら,世界が停止する.いや,停止していると感じるくらい時間がゆっくりと流れている.わたしに“強い視線”が向けられているのを感じる.今度は3つもだ.突然,文字や声のような“言葉”とは異なる意思伝達で頭の中に直接“イメージ”が飛んでくる.言葉よりも明確に意図がわかり,しかもわたしに伝わるのは一瞬だ.
(えっ?大地母神アリアンフィール様?)
アリアンフィール様からの神託だ.
イメージの内容は,わたしの願いをかなえてくれることを約束してくれていること.次に,先ほど発動しようとした魔法は“四魔殺の一人,中断のグシオニブブ”に妨害されて,発動しないことを教えてくれた.アリアンフィール様はエリザリーナの魂は救えるが,“聖典”に記載されている通り,エリーの肉体の死を救うことはできないことを謝られた.神々は“エリザリーナ,そなたの覚悟を認たので,アリアンフィールとルミナフィールが魔法発動を援助してもよいが如何に?”と.
(はい,お願いします.杖も…)
大地母神アリアンフィールはエリーの返事を最後まで聞くことなく,エリーの周りの空間ごと,時間を0.3周秒ほど巻き戻し,魔法発動のところからやり直す.
【アリアンフィールの第■領域からエリザリーナの魂に接続 第23領域を展開 アリアンフィールが魔法を代行-第29階梯魔法 浮遊 エリザリーナ 発動-2.6Gマナエルグ消費,第33領域を平面展開 アリアンフィールが必要マナを代行-第62階梯魔法 全ベクトル反転面生成 2周秒時限発動-アリアンフィールから貸与3.8Gマナエルグ消費,アリアンフィールはエリザリーナの魂をプラーナ極からノイトルーナ極に変換準備 ルミナフィールはエリザリーナ及びアンジェリーヌの肉体の質量をマナに変換準備 ルミナフィールの第■領域からエリザリーナの魂に接続 ルミナフィールが必要マナを代行】
エリーは,時間が遡ったため,神々との会話する以前の状態に戻ってしまったので忘れてしまった(正確には,忘れたではなく,話していない)が,勝手に魔法が展開される.
(あれ?わたしこんな魔法をどこで覚えたっけ?そうだ,早く杖を上に投げないといけないよ!)
上空に鏡のような面が見渡す限り展開しようとしている.エリーはゆっくりと11メルテ程上昇する.鏡面が完成する前に,杖をその上に放り上げる.すると鏡面は杖を乗せてゆらゆらと地上16メルテで漂う.空中でエリーは杖を投げたために上げた右手を優雅な腕さばきでゆっくり胸の前に持って行きながらかるく膝をまげてお辞儀をする.貴族最高礼の挨拶だ.
「さあ,グシオニブブ!わたしたちの最後の魔法を見るのよ!覚悟なさい!」
【-第56階梯魔法 超新星爆誕 発動-神々への魔法発動報酬0.4P*マナエルグ献上+全マナ1.4Pマナエルグ消費】
エリーとアンジェは体が光りだし,輝く天使のような見た目になってゆく.それを見ていたグシオニブブはエリーの魔法を中断させようとしたが,なぜかそれができず,次に慌てて指をパチンと鳴らす.そして,間抜けな顔で口をぱっくり開けて,最後の一言を発した.
「ファ?エリザ…」
強い閃光が起こる.プッペンスタットの街壁の内部は一面真っ白の光に満たされる.光に触れた物,魔物や建物などすべては一瞬にして20,000ケルビンまで温度が跳ね上がる.あらゆる物質が蒸発し,熱と気化によって体積が爆発的に膨れ上がる.上空は鏡面によって蓋をされているため,その体積膨張によって発生した膨大な圧力は,逃げ場を求めて街壁に内から外に向けて押しかかる.グシオニブブがプッペンスタットのすべての魔法を停止したため,街壁を形成する魔導レンガは互いを結合する力をなくしており,街壁はただ重力によってのみ形を保っていた.そこに外方向へ強い圧力がかかったため,街壁の魔導レンガ5億個は300メルテ/周秒以上の速度で周囲に飛散した.
街壁の外にはまだ四魔将キマリザルドが率いる魔族軍の魔法兵や一般兵約5万と輜重部隊,工作部隊,防壁攻略部隊,転移門設置部隊,輜重護衛部隊など合計8万を超える多くの部隊がプッペンスタットの陥落を待って待機していた.これら魔族軍と北にあった攻撃性森林も含め,レンガの弾丸によって,壁の近くにいた魔物は肉片になるほどぐちゃぐちゃに破損され,1キロメルテほど遠くにいた魔物でも,頭に当たれば頭が吹き飛んでいった.
*) P:Tの1,000倍.Gの1,000,000倍.




