第38話 特産品が順調に売れて
プッペンスタット 高い塔 地上階
―第6紀 368年6月8日(火曜日)5刻
「プッペンスタット人形,10,000個販売達成です!」
メアリーがめずらしくハイテンションで報告してきた.ひとつ銀貨3枚と,アビゲイル人形より高い価格設定にしたのだが,順調に売れ続けているのだ.
「すごいよね.こんなに売れるとは思ってなかったよ.だいぶ利益がでるから,売上の3%程度は補償に回すことができるよね.もし,このペースで売れ続けるのなら,ザラさんの腕を毎年1本ずつ治療できるよ.」
神聖儀式魔法による治療費は非常に高く,針子の給料では支払うことなどできないのだ.
「市場調査によると,ライバルのアビゲイル人形の売り上げが最近極端に下がっているらしくて,事業から撤退するみたいです.我々の勝利ですね!」
エリーはそう言われると思い当たることがあった.
「イサラミナ先輩,やりやがりましたの!」
同じことをアンジェも思ったらしい.きっと,裏でアビゲイルの悪い噂を流して,アンチキャンペーンをやったのだと思う.このプッペンスタットでアビゲイルの名前が消されたことは事実であり,悪い噂を裏付けてしまったのだろう.
「あの女の実家も,3恊年も儲けられたんだから,別にいいよね.引き際をわきまえていて,ちゃんとした判断ができる人たちなんだよ.」
「ザラさんに腕が治せるって,急いで伝えなくちゃ.一緒に行こうよ,メアリー.」
その後,あの女の実家はアビゲイルが成人になった時に,素行の悪さから実家から追い出して,ファミリーネームすら引き継がせてもいないので,我々は関係ないと言い出しているらしい,との噂が聞こえて来た.
プッペンスタット 高い塔 地上階
―第6紀 368年7月40日(天曜日)5刻
「パスカルぅ,プッペンスタット人形がかなり売れているんだよ.」
「そうなんだ.よかったじゃないか.」
「うん,そうするとだよ.特産品ができちゃったから,転移門を現実的に考えないといけないんだよ.どうしよう….」
「確かに,市長には見栄を張って,ああ言ったけど,めんどくさいな.」
「うん,わたしもそう思ってたところだよ.でも,パスカルが通勤するのに必要だから,作らないといけないんだけど,どうするよ?一番のネックは時間がないって,ことなんだけども.ないよね?」
「うん,ないね.」
「壁守様,私,転移門の作り方を知らないのですけども,大変なのですか?」
「そうなんだよ,メアリー.転移門って,入口と出口があるよね.実はこの2つは1つの魔法陣なんだよ.プッペンスタットとヴィッセンスブルクの間で魔導線をつなげないといけないんだよ.7000キロメルテをずっとだよ.気が遠くなりそうだよ.」
「そ,そうだったんですか.7000キロメルテ…想像できません.すごく長い魔法陣なんですね.」
「わたくしに“いいアイデア”があるの.」
「アンジェの“いいアイデア”かぁ~.う~ん.」
「なんなの!その興味なさげな態度は!すっごくいいアイデアなの!」
「うん,せっかくだから,聞こう.」
「来年,二人は結婚なの.」
「「うん.」」
「新婚旅行に,プッペンスタット発ヴィッセンスブルク直通,箒の旅!魔導線とともに,なの.」
「7000キロメルテ全行程,箒かよ!」
「さすがにお尻がいたくなるよ!途中で,ベヒモスとか,アーモドンとかに追いかけられる新婚旅行はいやだよ!サバイバル感がパないよ!しかも,新婚旅行が完全に労働だよ!」
「はぁ,ざっと計算してみたけど,まったく睡眠をとらなかったら,7恊日4刻46周分かかる距離だよね.」エルダインはムダに計算が早い.これだから….
「寝ないのはちょっとダメかな.お肌のはりつやに良くないよ.」
「それ以前に,箒から寝落ちするの.」
「なら,無難に仮設 転移門 移動工法だよね.」
転移門は一方通行なので,まず,プッペンスタットに出口と入口の門を完成させる.そこから魔導線をそれぞれに4本ずつを引いていく.箒に乗って,長い棒で地面に魔法陣を描きながら飛んで行き,行けるところまで行ったら,その場所に対となる仮設の転移門の入口と出口を組み立てる.完成した転移門を使って,プッペンスタットに帰ってくる.翌日,プッペンスタットから仮設したところまで転移して,転移門を取り外して,魔導線をつなげて,箒で飛んで行く.これをひたすら繰り返して,目的地まで,魔導線を引くのだ.夜の間に,仮設の転移門を魔物どもに壊されないように,防御結界が必要だし,意外と準備するものが多いのだ.
「だよね.夜は戻ってくるとすると,倍の時間がかかるから15恊日かかるよ.ちょっとリスクあるよね.途中で仮設転移門が壊されたら,スタートからやり直しだよ.」
「まあ,7000キロメルテの転移門は,最初からリスクがあるよ.変なところに魔導線を引いて,何かに切られる可能性が高いからね.余裕をみて,30恊日くらいで作ろうか?」
「うん,そうだね.来年の13月に作成を開始しようよ.必要な道具は何でも売ってるイサラミナ先輩のところから買えばいいよね.」
「私,壁守様の予定を空けておきますね.」
「うん,よろしくね.」




