第31話 薬草屋へ
プッペンスタット 農耕地の一軒家 薬草屋
―第6紀 367年6月21日(天曜日)4刻
「すみませーん.」
「はーい,お客さんじゃな.やぁ,メアリーじゃないか.おい!どうしたんじゃ!けがをしておるじゃないか.」
メアリーの頭に押さえているハンカチはすでに赤くなってきていた.
「ちょっと,こけてしまったんです.」
「違うでしょ,メアリー!…あー,もういいよ,それで.とりあえず,店主さん,血を止める薬と,化膿止めと,もしあれば,治癒加速の薬とかあるかな?」
「治癒加速の薬は材料があるんじゃ.ちょっとまっとれ.すぐに調合するから.」
「ありがとう.メアリーは椅子に座らせてもらうんだよ.」
「はい.」
「だいぶ痛むんですの?」
「はい,痛いです.」
5周分後,店主は帰ってきて,メアリーの後ろに立つ.
「こりゃ,傷跡が残るわい.髪の毛で見えんから,良いのじゃな?」
「はい.」
「ほれ,痛いから我慢するんじゃぞ.」
ぬりぬり.メアリーはかなり痛そうに顔を歪める.
「このまま,しばらくまっちょれ.傷がすぐに治るように,栄養のつくものを食べて行きなされ.」
「ダリアさん,そこまでお世話にはなれません.大丈夫ですので.」
「ほほほ,いいんじゃ.まっとれよ.」
エリーはダリアという名前からふと思い出して,店を出て,周りの薬草畑を見学した.きれいに区画分けされており,何を植えてあるか,丁寧に小さな看板を立ててある.赤や青の小さな花が咲いていあるものもあれば,小さな赤や紫の実をつけているものもある.素人のエリーでもわかるような,トウガラシやタンポポも植えられている.
(あった,睡眠草だ!それに昏睡薬の原料になる3種類の草.それ以外に毒になりそうなものは…,植物は大量に摂取したらどれも毒だね,そんなの常識だよ.たぶん毒殺ではない,睡眠草か昏睡薬のどっちかのはずだよ.薬草を買い出しに行っていたことは日記に書かれていたよ.役職柄お金もかなり自由に使えたはずだよ.飲ませるのも簡単だったはず,いつも飲んでいたのだから.【記憶閲覧】できないようにいつもより多く飲ませるか,それか,【記憶閲覧】できないところで3種類を混ぜる方法を見つけたらいいだけ.後は,【記憶閲覧】を回避しながらどうやって,もう一度,染料を取りに行かせたかという方法だけだよ.犯人にはそれができたよね…その場にいたんだから.もし,メアリーが薬の調合を手伝わせられていたとしたら,自分の娘になってことさせるのよ!)
店に戻ると,メアリーはおいしそうに肉と豆と野菜がたくさん入ったビーフシチューをごちそうになっていた.
「メアリー,明日はけがを治すため,お休みだよ.明後日,いつも通りの時間に来てよ.それと,2日間のお仕事はキャンセルするよ.」
「ダメです.私がけがをしたくらいで,壁守様のお仕事をお休みにできません.私は大丈夫で…」
「いいや!ダメだよ!」と,エリーは話をさえぎって,きつく言った.
「いい,メアリー.もう壁守のお仕事はメアリーがいないと困るくらいなんだよ.だから,メアリーがちゃんとけがを治すまでは,わたしはお仕事をしないよ.それと明後日に,メアリーに確認したいことがいっぱいあるんだよ.それなりに覚悟して,来てくれるかな.」
「…はい.」
メアリーは下唇を噛んだまま固まっていたが,その後,うつむいたまま,最後までシチューを食べた.




