第30話 猛ダッシュのメアリー
プッペンスタット 慈悲の屯の前
―第6紀 367年6月21日(天曜日)3刻
「あれは…メアリーですの?」
遠くから全速力で走ってくる人物がいる.仕方なく,屯の前で待つことにした.
「はぁ,はぁ,はぁ…,あ,あの,はぁ,壁守様,はぁ,アンジェ様.はぁ,はぁ…」
「まあ,落ち着いてよ,メアリー.呼吸が整うまでしばらく待っているから.水いるよね?」
メアリーに水をあげて,2人はしばらく待った.
「すみません.ここに向かっているって,連絡があったので,走ってきました.あの,説明していなかったので,説明させてください.」
「天曜日なんだから,私たちのことは気にしなくてもよかったんだよ?」
「いいえ,天曜日でも私のお仕事ですので.ここは初代壁守様が,魔法使いに苦手意識を持っている方を救済するための施設で,魔法使い立ち入り禁止になっております.初代壁守様の時代から,壁守様を含め全魔法使い,もちろんあの女も,中に入ったことはありませんので,どうぞ,慈悲を持って,ご了解ください,壁守様.」
「うん,看板にそう書いてあったから,入ってないよ.」
「それはよかったです.帰りましょう.」
「とっとと帰りやがれ,魔法使い!」
ゴツン!
「きゃっ!うっ!」「メアリー!」
屯の前で,長い時間たむろしていたので,住民たちが複数現れて,投石して来た.さっきの女がそうするように促したのかもしれない.【物理絶対防御】のない,メアリーの頭にかなり大きな石があたり,頭から血が流れて来た.メアリーは頭を押さえて,うずくまってしまった.
「搾取者どもめ!」
「消えろ!魔法使い.」
「お前たちは魔物と同じだ!」
「魔法使いどもも,猫より役に立たないフェブエルも,帰んな!」
アンジェが急いで,メアリーの前に立つ.すると不思議なことに,石がとんでもなくポンポン跳ね返っていく.実は,アンジェがツインテールを止めている古めかし髪留め型のアーティファクトはアンジェを物理的に守るタリスマンなのだ.
「エリー,あまりここの住民を刺激するもんじゃないの.わたしたちに石が当たらなくても,とりあえず撤退するの.」
「そうだね.メアリー立てる?」
「はい…大丈夫です.」
エリーはメアリーの肩を持って歩いて,100メルテ程街の方へ戻り,大きな石があったので,メアリーを座らせる.
「ここで休憩.ちょっとメアリー,頭を見せてよ.」
「大丈夫です.」
「いや,大丈夫じゃないから,見せなさい.」
「…はい.」
「わっ!結構,ぱっくりいってるの.」
「ちょっと痛いけど,我慢するのよ.」
【純水生成】エリーは傷口を水で洗い.持っていたハンカチで,傷を押さえた.
「自分で押さえられるかな?」
「はい.」
「神殿まで箒で連れて行くよ.」
「ちょっと先に,薬草屋がありますので,そこで薬をもらいます.この程度のけがで,神様のお手を煩わせるのはよくないです.」
「その考えには同意しかねるけど,とりあえず薬草屋に行こうよ.」
五星魔法は万能と思われがちだが,けがや病気の治療だけはいまだに実現できていない.第6紀では神聖儀式魔法で(神様にお願いして)治してもらうことしかできなかった.




