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第20話 許すつもりなんてないよ

プッペンスタット 高い塔 別館 地上階 厨房

―第6紀 366年3月48日(火曜日)1刻



「なんとなく朝から食欲がありませんの.」

二人ともほとんど寝ていない.昨日読んだ日記の内容が,気持ちに重くのしかかる.

「アンジェ,朝ご飯は大事だよ.私も気分が滅入ってるけど,それはそれだよ.食べないと,後でおなかすくよ?」

「はぁ,でもですの.」

「そうだ!この前,実家からイチゴを送ってもらったんだよ.パンケーキにはちみつと生クリームをいっぱいかけて,イチゴをのっけて食べようよ.」

「う~ん…そうですの.甘いものには罪はありませんの.」

甘いものでおなかが膨れると,だいぶ気持ちも上向きになる.


「少し元気になったところで,昨日の日記の件だけれども,私,許すつもりなんてないよ!アビゲイルさんのこと.いいや,もう“さん”づけなんて,いらないよね?あのアビゲイルのこと,許さないよ.ほんと,アビゲイルを殺した人を称賛したっていいと思えるくらいだよ.」

「…人って,…どこまで残酷で,利己的で,傲慢になれるんですの?わたくしもエルフだし,普通のエルフとして育ったから,傲慢で高飛車なところがあるって,自分でも思うことがあるの.でも,ちょっと信じられなかったの.なんで,あそこまでのことが平気でできるんですの?日記を読んでも,まったく良心のかけらも感じなかったの.考えだしたらすごく怖くなったの.」

「それで,私の布団で寝てたんだよね?」

「あっ,ごめんなさいなの.」

「ううん,いいよ.私も一緒にいてくれて,ちょっと安心できたよ.」


コンコンコン,ガチャッ.メアリーが出勤してきた.

「壁守様,アンジェ様,おはようございます.」

「おはよう,メアリー.」

「おはようなの.」

「…あ,あの,どうかされたのですか?」

2人の様子がおかしかったので,メアリーは尋ねた.ほんとに気が回る子だ.

「う~ん,そうだね.…あのね,メアリー.今日の予定だけど,全部キャンセルしてくれるかな.」

「はい.」

「それで悪いんだけど,セリーナ次席断罪官と,シリル副隊長を呼んできてくれるかな.それで仕事道具一式が必要って,伝えてよ.」

「あの,何があったのですか?」

「うん,メアリーにも2人と一緒に話すよ.」

「わかりました.すぐに連れてまいります.」と,急いで出て行った.

「さて,アンジェ.6階をちょっとお片付けしようよ.」

「なぜですの?」

「みんなに見せるためだよ.」

「ええー,わたくしのプライベートスペースなの.」

「仕方ないよ,そこから日記が出てきたんだから.」


高い塔の1階に急遽,円卓を置いて皆が座るのを待つ.

「忙しいときに,ごめんなさい.ちょっと困ったものを見つけてしまって,集まってもらったよ.」

「いえ,今日は空いていたので,問題ございません,主席断罪官.」

「まずは,これを見てほしい.故アビゲイル・フォン・エイドリアン杖爵の署名入りの日記だよ.この高い塔の6階に隠し部屋があって,そこから見つかったんだよ.まず,この日記を第1級犯罪の証拠として,登録したいんだよ.」「「「!」」」「で,みんなにその手続きを手伝ってほしい.」

「主席断罪官,それは故エイドリアン杖爵を死亡のまま,罪人と認定されるということでしょうか?」

「そうだよ.ここに本人の自白書があるから,罪人認定できると思っているよ.」

「しかし,亡くなっているうえ,一応,彼女は貴族でしたが,問題ないのでしょうか?」

「問題があるかどうかは,この日記に書かれていることの信ぴょう性次第だと思うよ.書かれていることが本当なら,いくら貴族でも,そして死亡していようが,間違いなく罪人認定できるよ.」

「私は前壁守が行方不明になってから,現市長の紹介で空席だった次席断罪官に任命されて赴任して来たため,前壁守様を知りません.悪い噂はたくさん聞きましたが,本当に重罪を犯すような方だったのでしょうか?」

「ああ,そうだ.街の皆,沈黙を守っていたんだ.次は自分が壁守様から同じようなことをされないようにするために.…黙っておくしかなかったんだ.」

「シリル副隊長もアビゲイルの元部下だったよね?」

「形式上はそうでした.しかし,直接彼女から命令を受けたことは数えるしかありません.いつも,マージョリーというメイドから伝言されました.」メアリーが一瞬ビクッとしたことをエリーは見逃さない.「私が邪魔だったんだと思いますが,一日中,南の街壁の上を警備しろとか,そういう命令が多かったんです.俺としてはシンディーを人質に取られているみたいなものだったから,明確にあの女に逆らうようなことはできなかったんです.」

「まあ,シリル副隊長がそう思っても,仕方ない状況だったと思うよ.この日記を読んだら,そう思うよ.」

「壁守様,そんなにひどい内容だったのですか?」

「そうだよ,メアリー.もう,“人”のすることじゃないよ.」メアリーの様子に目を離すことなく,そう答える.

「主席断罪官,私に読ませてもらってもいいでしょうか?」

「うん,いいよ.だけど,先に犯罪証拠登録をお願い.そのあとで,ゆっくり読んでくれたらいいよ.」

セリーナ次席断罪官がメアリーに書類の作成方法を教えながら,メアリーがきれいな字で清書する.発見した6階の隠し部屋を確認(唯一,箒に乗れないメアリーはエリーが乗せてあげた)して,セリーナ次席断罪官がエリーとアンジェの昨夜の記憶を【記憶閲覧】して発見した状況を確定し,犯罪証拠登録書を作成する.できた文書を全員で読み合わせて確認し,全員で署名し,【魔法刻印】する.これで確定証拠となる.魔法が使える世界では証拠を改ざんできるため,そのあたりが厳しいのだ.

「では,お預かりいたします.」

「うん,それと,日記の裏付けをお願いできるかな?できれば,証人もほしいのだけれど,いるかな?証言してくれる人.」

「わかりました.数恊日お時間をいただきます.」

「よろしくね,次席断罪官.シリル副隊長もセリーナ次席断罪官の調査のお手伝いよ.」

「はっ!」

「さて,メアリー.メアリーにも調べてほしいことがあるんだよ.あの日記帳に記載されている4名の人物を特定してほしいかな.一人目はアビゲイルのメイド長,二人目はアビゲイルが人形を作らせていた工房の針子長,三人目はその工房でアビゲイルに骨を折られた針子,四人目はこの街で薬草を育てて売っている老女よ.」

「わかりました.氏名と住所を調べればよいのですね.」

「できれば,今何をしているかも知りたいよ.」

「はい,では行ってきます.…あの,壁守様.大変申し訳ございませんが,ここから降りれないので,降していただけないでしょうか.」メアリーは高い塔の真ん中の縦穴の前で立ちすくんでいた.


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