第16話 降格にするよ!
プッペンスタット 市庁舎の大会議室
―第6紀 367年2月1日(風曜日)6刻
「降格にするよ!シリル副隊長.」
「はっ!」
プッペンスタットに帰ってきて,初日である今日は,かなりの数の司法治安隊のメンバーを集めている.シリルの粗相についての処遇と,今後の司法治安隊の活動方針を連絡するためだ.
「コーディ副隊長はそのまま,副隊長をお願いします.」
「はっ!」
「シリル班とコーディ班の2班体制で行くので,夜の勤務は2班交代でお願いします.」
「「はっ!」」
「では,解散!」
と,かっこよくビシッと決める.
ザワザワ.隊員たちはざわつき始める.
「あ,あの!隊長はどうされるのですか?」と,だれともなく声が上がる.
「隊長の席は空席だよ.現在鋭意募集中.」と,エリーは仕方なく答える.
「いやでも.」
「あの,アンジェリーヌ嬢が隊長をやってくださらないのですか?」
「この前の戦い,かっこよかったのでさ.」
「アンジェリーヌ隊長なら私たちも安心できます.」
「かわいい.」
「はい,お静かにお願いします.アンジェリーヌ様は壁守様の個人的なそば仕えです.我々の都合で公的な業務についてもらうわけにはいかないのですよ.」と,メアリーが断る.
「それはわかりますけども.」
「では,何か不測の事態が起きた時だけでも,臨時隊長としてアンジェリーヌ様に代行していただくことはできないのでしょうか?」
「緊急時だけなら…まあ,それならかまわないの.」と,アンジェも了解する.
「そういう時は仕方ないよ.」と,エリーも同意する.
「助かります.」と,コーディ副隊長が安心したように,お礼を述べた.
「かわいい.」
「我々はアンジェリーヌ様を歓迎いたします.」
「では,壁守様と新隊長代行を囲んで,今から飲みに行きましょう!」
「「ええっ?」」「「「「おー!!」」」」
マルクト広場にある大きな酒場に強引に連れていかれて,歓迎会をされてしまった.エリーは付き合い程度に軽いお酒を飲んでいたが,アンジェとメアリーはジュースしか飲めない.しかし,こいつら酒癖が悪すぎる.当然の成り行きで,酔っ払いたちがどんな異性が好きかという話を振ってくる.
「わたしは彼氏がいるよ.ラブラブだもん.」
「私は今お仕事が大事なので,彼氏はいらないです.責任感のあるしっかりした男性が好きです.シリル副隊長みないな方は一番キライです.」
「ぐはっ」
「わたくしはエルフなので,まあ,エルフの彼氏がほしいですの.もちろん,わたくしを甘やかしてくれる殿方がいいの.シリル副隊長は全くタイプとは違うの.」
「うぎっ」
「シリル副隊長,色男なのにぜんぜんもてませんやね.シンディーさんが亡くなられたのがつらいですやね.人生最後の彼女だったのかも.」
シリルはすでに泥酔しており,泣き出した.どうやら,泣き上戸だったようだ.
「ううう,シンディーどうして死んでしまったんだよ.ううう.」
「副隊長,そのうちいいこともありますやね.」
「シンディーさんて,どんな人なの?こんなダメなシリルさんを好きだったなんて,できた人だったの.」
「いやいや,シリル副隊長も3年前までは仕事もプライベートもブイブイ言わしてましたよ.シンディーさんはポーッとしてるのんきな人でしたよ.でも,人形のデザインでは優秀だったから,前の壁守様にスカウトされて,そば仕えをすることになったんですよ.“キメラちゃん”シリーズとか,デザインしてたんですよ.」
「へぇ,そうなの.確かに,あのシリーズだけ雰囲気が違うと思っていましたの.結構人気があったように記憶しているの.」
「かなり売れていたと思いますよ.もう一人のそば仕えのチェルシーがかなり悔しがっていましたからね.」
「そうそう,あの2人は壁守様の前では仲が良いふりをしていたけど,裏では相当やり合っていたという噂だったよな.」
「ううう,そんなことはない.シンディーはチェルシーなんて気にもしていなかったぞ.チェルシーよりもアビゲイルがうっとうしいって,言っていた.」
「どういうことですの?くわしく!」
「実はアビゲイルは女の子が好きだったんだ.」
「「はぁ?」」
「それに,アビゲイルは男が大嫌いだったんだ…間違いない.少なくとも,アビゲイルとチェルシーとは恋仲だったんだ.」
「つまり,その~,…レズでしたの?」
「シンディーはそう言ってた.それでアビゲイルはシンディーも恋人にしたかったらしいが,シンディーはそっちの“気”は全くなかったんだ.それが理由だと思うが,あの頃はよくオレとシンディーの仲をアビゲイルに邪魔されてたんだ.くそっ.」
「街の有力者に妨害される恋…とても盛り上がってた,ということですの?」
「ぷっ,アンジェ,聞き方(笑).」
「そうさ!盛り上がっていたさ.あの事件がなければ,きっと駆け落ちしていたんだ.すべてを捨ててでも,愛を貫き通したかったんだ!うわぁぁぁ!」
机をドンとたたく.
「それで,副隊長がアビゲイルさんを殺したって,疑われたんですの?」
「こ,殺してなんかいない!オレは夜勤明けで寝ていたんだ.なんでみんな信じてくれないんだ!」
「落ち着いて副隊長.わたしたちは信じるよ.シリル副隊長に,アビゲイルさんを殺害する,そんな根性はないって.」
「……ああ.ない.…根性なしで,駆け落ちすらすぐにできなくて,そのせいで彼女を失ってしまったんだから.」
そのまま,机に突っ伏してしまった.
「あ~あ,またネガティブモードにはいっちゃったぞ.」
「しかたねぇなぁ,とりあえず忘れるまで飲みましょうやね.ほらほら,ジョッキを空けて!」
(シリル副隊長,きっと内務省に連絡もせずに,必死でシンディーさんを探し回っていたのかな.恋人が心配なのはわかるよ.でもね,そのせいで余計事態を悪くしたんだよ.魔法痕跡を調べられていたら,事件が解決していたかもしれないのに….それを今,本人に言ってはダメだよね.また,副隊長の眠れなくなる理由が増えるよ.…はぁ.)
「シリル副隊長は“白”だよ.」
「わたくしも白だと思ってましたの.」
「そば仕えの2人は共謀するほど,仲が良くなかったことがわかったよ.どっちだろう?」
「あやしいのはチェルシーなの,シンディーさんに嫉妬していたのかもしれないの.それで三角関係がぐちゃぐちゃになって,殺しちゃったとかなの.」
「うん,それはありえなくはないと思うよ.」




