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第14話 恋人か友人か

ヴィッセンスブルク エリーの実家 メルの部屋

― 第6紀 367年1月34日(水曜日)3刻



「わたし,アンジェにだけは言ったけど,常時【真偽判断】って魔法が発動しているんだよ.」

「とっても便利な魔法だと思うの.」

いろいろと落ち着いたので,今日はエリーの家にアンジェが遊びに来ていた.

「まあ,壁守には間違いなく便利な魔法だよ.相手の話が本当か嘘かがわかるんだよ.特に,容疑者と話すときにすごく役に立つよ.それに,パスカルと話すときにも役に立つんだよ.」

「パスカルは絶対に浮気できないですの.」

「もう!パスカルは浮気なんてしないよ!わたしにべたぼれなんだから!」

「なんか,のろけられちゃったの.」

「パスカルったらね,わたしが【真偽判断】が常時発動しているのを知っているのに,ときどき嘘を言うんだよ.それがね,すっごくやさしい嘘でね.もう,私のことを気にかけすぎちゃって,嘘でかばってくれていると思うと,わたしとっても幸せだなあと思うんだよ.あはは~.」

「わたくし,…口からキャンディーがボロボロこぼれそうですの.」

「なによ,その変な例え!…あっ,話がそれちゃったから元に戻すけど,その【真偽判断】がね,いらないなって思うときもやっぱりあるんだよ.ちょっと凹むんだよ.」

「何を知ってしまったんですの?」

「この前,大学校のみんなでパーティをしたよね.最後に,婚約発表したのだけど,その時にリエリからも“おめでとう”と言ってくれたんだけど,それが【真偽判断】では“嘘”って判断になってたんだよ.はぁ.わたしだって,目が節穴じゃないから,リエリもパスカルを好きだって思ってたことくらいわかるよ.リエリとパスカルは同じ区に住んでいるし,初等教育も同じで,言わば幼馴染だったんだよ.パスカルとわたしが大学校で出会うきっかけをくれたのは,リエリなんだよ.それなのに,私がリエリからパスカルをかっさらった感じになってるんだよ.やっぱり気にはなるよ.リエリは自分の気持ちを表に出したりしない子だよ.内心すごく穏やかじゃないんだろうってね.私,リエリを傷つけちゃったんじゃないかって思って,凹んでるんだよ.」

「でも,リエリにパスカルを譲るつもりなんて,これっぽっちもないのではないの?」

「そんなの当たり前だよ!わたしはリエリよりもパスカルのこと好きだし,パスカルは私を選んでくれたんだよ.譲ったりなんか絶対にしないよ!」

「なら,リエリのことは憐れんだりせずに,勝者として堂々としていればいいの.わたくしもエリーとパスカルがとてもお似合いだと思うの.リエリはあまりにも自分に自信がなくて,自分から積極的に行動できるタイプじゃないの.これからだって変わらないと思うの.リエリとパスカルがうまくいくようには,とても思えないの.もし,2人が付き合ったとしても,正直,リエリはパスカルの足を引っ張るだけな気がするの.ともに支え合って,成長していくカップルになるのはエリーの方なのよ.リエリだって,エリーに勝てないことぐらい自覚していると思うの.ああ,別にこんなこと言うのは,彼女がハーフトールマン*だからじゃないのよ.いい?」

「うん,それが正しいのかもっては思うよ.アンジェはエルフだから,達観してるんだよ.」

「どうしても気に病むのなら,トールマンみたいに,リエリを第2夫人にでも迎えてあげたらいいの.もちろん,パスカルがオッケーしないといけないの.」

「うん,種族によって,一夫多妻や一妻多夫をしているのは知っているけども,エルダインは独占欲が強いし,プライバシーに厳しいから,一夫一妻制で核家族制なんだよ.わたしにはそれもムリだよ.半分はトールマンの血を受け継いでいるはずなのに,とっても拒否感があるんだよ.」

「もう結論はでたの.エリーはパスカルと幸せになる.リエリとはこれからも友達で,決して彼女を可哀想とか思わないの.それがベストなの.」

「うん,…そうするよ.アンジェ,ありがとう.いやな相談しちゃって,ごめん.」

「いいのよ,わたくしとエリーの仲なの.」


*) ハーフトールマン:エルフから見たら,エルフであるのが普通.だから,ハーフエルフハーフトールマンは“ハーフトールマン”と呼ぶ.“ハーフエルフ”のエルフ側からの呼び方.

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