第12話 回想 大学校 昼休みの出会い
ヴィッセンスブルク大学校 4号館 第2食堂
―第6紀 363年2月6日(火曜日)4刻
「あなたなの?ちょっと調子に乗っているという噂のハーフエルダインは?」
エリザリーナは友達(というか,なつかれただけというか)となったばかりのハーフエルフハーフトールマンのガブリエリナ(通称,リエリ)と一緒に昼のおやつを食べていると,ピンク髪のツインテエルフがやってきて,小さい胸をはって高飛車に文句を言ってきた.エリーは,(こいつもかぁ.)と内心思いながら,胡乱な目でこのエルフを見ていた.入学式以来,ここ4恊日連続で同じような挑戦を受けていたからだ.入学式の日に,ハーフエルフハーフトールマンだというだけでいじめられていたガブリエリナを助けた手前,毎日のようにエルフたちが突っかかってきているのだ.エリー自身もエルダインとトールマンのハーフだったので,ハーフつながりのガブリエリナを助けることになったのだが,ハーフの何が問題なのか,エルフたちの対応が極端すぎてかなりうんざりしていた.知的で高貴なエルフは,さすがに殴り合いなどはしてこないので,何かの競技とかの勝負事で,競争して今のところエリーの3連勝だ.さて,今日で4連勝いただきだよ.
「わたくし,いままでの3人のエルフとは実力が違いますの.アンジェリーヌ・ル・メール,東方エルフの術者級1位マギアスなの.今日こそ,エルフの真の実力を見せつけてやるの.」
「うん,いいよ.私つよいから,あなたからの挑戦も受けるよ.」
・・・(中略)・・・
「そんな…わたくしがハーフエルダインにこんなに簡単に負けるなんて,信じられないの.」
魔法競技である“ティルールローゼ”で1vs1の3回勝負をしたが,3回ともエリーが瞬殺したのだった.実力にかなりの自信があったアンジェはショックのあまりorz状態だ.昨日までの3人は,負けるとすぐに負け惜しみを言い残して逃げて行っていたのだが,初めてちゃんとエルフと話ができそうだ.
「うんうん,わたしすごいんだよ.さてさて,…あのね,種族がマギアスの能力のすべてを決めるんではないよ.」
「そんなこと知ってますの.」
「じゃあ,なぜハーフだと突っかかってくるのよ?」
「…よく考えたら,なぜだか知らないの.それがエルフの常識なの.」
「はぁ,どうせそんな理由だと思ったよ.いい.マギアスはね,マナ量,それと,魔法制御能力,発動速度,判断力なんかの総合力で能力が決まるのよ.種族じゃないよ.性別でもないよ.個人の能力だよ.マナ量は生まれつきで決まるけど,それ以外は今までどれだけ頑張ってきたかで決まるんだよ.」
アンジェは立ち上がり,
「わたくしだって,これまで頑張ってきたの.エルフでよかったとか,術者級でよかったとか,そういう生まれつきの特性で安心して何もしなかったわけではないの.あなたがどれだけ頑張ってきたかは知らないの.あなたが何をしてそんな実力になったか,明日から毎日,見に来ることにするの.」
「「えっ?!」」
「わたくしはあなたと同じ壁守コースなの.では,ごきげんよう,また明日なの.」
エリーとリエリは唖然として顔を見合わせた.次の日から,仲間が2人から3人になった.最初の頃はよくケンカもしたし,ときおりアンジェがリエリのことをバカにしてもいたが,だんだん仲良くなり,エリーの努力家でありながらも,皆を引っ張るようなリーダー気質な性格で4人,5人,6人と,仲間が増えていった.もちろん,この中にパスカルが含まれる.エリーとアンジェはわりと価値観が似ていたので気が合い,やがて6人組の中でも特に仲の良いマブダチと,なっていったのだ.
ヴィッセンスブルク大学校 4号館 第2食堂
―第6紀 363年5月13日(土曜日)6刻
「リエリ,まだ論文できてないのかな? 来週提出だよ.」
エリーは“初級刑法”の授業で出された論文について,リエリがまだ完成してないだろうと思い心配して尋ねた.この授業はテストではなく,論文提出が単位取得の条件なので,壁守コースを卒業するためには必須科目だから,絶対に提出しなければならない.エリーは論文のテーマを先生が発表した次の天曜日に書いてしまっていた.
「まだ,ぜんぜん,一文字も,書けて,ないの.ど,ど,どう,しよう.わたし,初等教育で,論文,なんて,書いたこと,なかったから,どう,したらいいか,わからない,の.テストの,方が,簡単で,よかった,のに.」
「リエリ,もしかして,半月もあると思って,余裕ぶっこいて,放置してましたの? わたくし,昨日完成しましたの,ほほほ.」
「うっ.」
「リエリ,大丈夫よ.わたしもね,まだ半分しか書けてないから,一緒に書こう.エリーもアンジェも,どんな内容を書いたか教えてくれるとうれしいな.」と,いつの間にか,4人目の仲間として加わった褐色エルフのクロエリーヌ(通称:クロエ)も誘ってきた.彼女はエルフにはめずらしく,どの種族にも同じように接して,交友関係がとても広く,きわめて社交的だった.最初の頃は,このメンバーの集まりにぽつぽつと現れてはいろいろな話をしていき,それ以外の時は方々のいろんな集まりに顔を出していたようなのだが,とうとうこのメンバーをメインに交友することにしたようだ.
エリーはやらなければならないことはすぐに終わらせる方で,アンジェは,とりあえず“面倒くさい”という意味のことを言うが,コツコツやり続けて,クロエはみんなでワイワイ言いながら楽しくやることにこだわり,リエリは期限がくるまでやらない子だった.
「今日はお菓子を持ってきたの.よかったら食べてね.」
「クロエ,学校には不要なものは持って来ないって校則だよ.」
「エリーったら,お菓子は友達と仲良くなるための必須のアイテムなのよ.」
「クロエの,選んで,くる,お菓子,って,いつも,すごく,おいしいし,おしゃれ,だよね.わたし,結構,好きだよ.」
「はぁ,リエリは完全に餌付けされてるよね?」
「ほんと,そうですの.でも,リエリの言う通り,いいところのお菓子なの.クロエはお嬢様ですの?」
「うふふ,そうだったら,いいよね.ただのお菓子好きなの.お菓子屋さん巡りが趣味なんだもの.」
「今度,わたし,も,お菓子,買って,くるね.」
「さあさあ,リエリ,クロエ.甘いもので脳が働いているうちに,ガツガツ論文を書くよ!」
「「は~い.」」
壁守は司法権を持っているため,この授業は将来役に立つのだろう.架空の事件について,どのような刑罰を与えるかと,その理由を論文としてまとめるのだ.アンジェは情状酌量の余地なしとして,きびしい判決にしていたし,エリーもわずかに緩めただけだったが,リエリは犯人の置かれた状況はかわいそうと思って,かなり緩くしていた.クロエはちょうど真ん中だった.みなでワイワイいいながら,論文を完成させる.各人の考え方がわかるので,こういうのも面白いものだと,エリーは思った.
「完成,したよ!」
「おつかれ.」「おつかれなの.」「おつかれさま.」
「ありがとう,みんなが,いなかったら,論文,できなかった,よ.」
「リエリ,来週論文を持ってくるの,忘れるのではないのよ.」
と,アンジェに釘を刺されたのにかかわらず,リエリは忘れて来る.
「ど,ど,どうしよう.」
「お昼休みに箒で取に帰れば,間に合うよ.」エリーは頭を抱えたが,そう言ってリエリを落ち着かせた.リエリは昼間に取りに帰って論文の提出には間に合ったのだが,その日の朝にあったテストは心配で上の空になって集中できなかったようだし,昼からのテストも気疲れで集中できなかったようだ.
「ううう,辛うじて,合格だった,よ.」
「ひとまず合格したのなら,よかったよ.ドンマイだよ.」
誤記を訂正 9/19




