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第10話 司法治安隊の隊長

プッペンスタット街 街壁の上

― 第6紀 366年13月68日(風曜日)1刻



「た,たいへん,申し訳ございません.どうか,どうか,追放刑だけはお許しください,壁守様」.

朝日が完全に昇っていた.結局,シリル隊長が来るより,赤の太陽ゾーラスが昇る方が先であった.シリルは土下座して,平謝りしている.決して,エリザリーナが土下座を強要したわけではない.本人が勝手にやったのだ.メアリーも日の出前には,街壁の上に登って来ていた.

「シリル隊長,壁守様が魔物と防戦していただけたからよかったものの,どういうことですか!魔物から街壁を防衛するのは“街壁防衛隊”の業務だと言っても,昨晩は“司法治安隊”にも緊急招集がかかっていたではないですか!」

ガチギレである.エリーとアンジェはメアリーの怒りようにドン引きしていた.

「オレは無能で役立たずです.隊長を解雇されても文句はいいません.でも,どうか追放刑だけはお許しください.」

「あのですね,隊長のあなたがそんなのだから,司法治安隊の皆がですね・・(あまりにもひどい中傷なので中略)・・.ほんとうにあなたより猫の方がまだ役に立ちますよね!」

エリーも昨晩はシリルに対してかなり怒っていたが,さすがにシリルがかわいそうになってきたので,そろそろ助け舟を出す.

「まあまあ,メアリー,それぐらいでいいよ.さすがに魔法が使えるシリル隊長の方が猫よりちょっとだけ役に立つよ.それより,シリル隊長.もしかして,体の調子が悪いとか,何か起きられない理由でもあるのかな?理由によっては,罰則を軽くしてもいいですよ.」

シリル隊長は顔を上げた.目がウルウルしている.エリーは,シリル隊長が何百歳か知らないけれども,大人のハーフエルフを泣かすとは…

(メアリー,恐いよ.)と思った.

「あの,あの,」

「あの?」

「あのですね.」

「はい.」

「オ,オレは…夜眠れないものでして,寝る時に”眠り薬“を飲んでいるのです.そのせいで,朝まで起きることができないのです.」

「ふぅん,眠れないと.昔のつらい記憶を思い出すとか,かな?」

「はい,3恊年前から,薬を飲まないと眠れないのです.最近,薬の効きが悪くなってきていたので,昨日は少し多めに飲んでいました.」

オーバードーズと言うやつだ.アンジェがシリルから見えないように指言葉で『彼も怪しすぎる.』と言ってきた.

「市長さんにそのこと,話しているのですか?」

「いいえ,首になったら困るので,言っていません.」

「すみませんが,市長さんには報告しますよ.あたなの処遇は市長さんと相談して決めますね.ちなみに,副隊長はどなたなんですか?」

「や,やっぱり,くびなのですね.」

「…副隊長は?」

「副隊長はコーディです.彼は副隊長ですが,戦術級マギアスではありません.」

「わかりました.わたしは前の壁守さんと違って,朝寝坊したくらいで,追放刑にしたりしませんので,安心していいですよ.」

「ううっ.」

(はぁ,前の壁守さんの悪影響がすごいよ.どれだけ街の人たちにトラウマが植えつけられているのかな….ほんと,この先思いやられるよ.)

これ以上,シリル隊長を見ているもの,かわいそうすぎると思って,彼のところから去ることにした.


3人で市庁舎へ行き,緊急で市長と対談する.

「(シリル氏の実態の説明は省略)…と,言うことなんですよ,市長さん.ほんと,困りますよ~.」

「…面目ございませんな,壁守様.彼を解任したいのはやまやまなのですが,生憎代わりが務まる魔法使いがおりませんでな.3恊年前に不手際があって,彼は解任されるはずだったのですが,そのままずるずると今日までそのままになっておりました.申し訳ないですな.」

「えっと,隣の街に募集をかけてみる,とか?」

「残念なことに,3恊年前から募集しておりますが,なぜか一人も応募がございませんな.」

「例の事件の影響で?」

「かもしれません.」

「はぁ.」エリーはため息をつくしかない.これはちょっとひどすぎる.

「よいですかな,壁守様.兵士たちに聞きましたが,こちらの従者様が魔法ひとつで5匹の魔物を倒した,と言っておりまして,できましたらですな,従者様に司法治安隊の隊長を…」

「ちょっと待ってよ!あっ…すみません.あのですね.このアンジェリーヌはですね,わたしの“そば仕え”で,わたしの資金で,わたしのために手伝いをしてもらっています.さすがに公的な司法治安隊の隊長をやらせるわけにはいきません.もちろん,お断りいたしますよ.」

メアリーは怒っているし,アンジェはすました顔で成り行きを見届けている.

「まあ,それは理解いたしますな.もちろん,シリル()隊長に支払っている給与を差し上げますので,壁守様のそば仕え,兼,司法治安隊の隊長と言うわけにはいきませんでしょうか?」市長の心の中でも,すでに()らしい.

エリザリーナは返事を保留して,市庁舎をでた.


「ちっ,魔物どもには楽勝だったけど,政治的には市長に完敗な気がするよ.新しい仕事を断れる余地もないまま押しつけられたよ,こんちきしょ~う.」

「言葉遣いが悪いですの,エリー.」

「壁守様,アンジェ様,シリルのしりぬぐいなどする必要なんてありません.わたしが後でもう一度市長とかけあってみます.」

「シリル…もうメアリーには“元隊長”とすら,呼んでもらえてないよ(笑).だけど,まあ状況を冷静に考えると,次の人が見つかるまで私とアンジェで魔物から街を守る必要がありそうだよ.」

「しかたないですの.はぁ.」

「そう…ですか.承知しました.このような状況になり大変申し訳なく思います.」

「ううん,気にしなくていいよ,メアリー.メアリーのせいじゃないよ.…アンジェ,念のため,今日は早く寝て,深夜に起きようよ.もし,まだたくさん魔物がいるなら,私たちが殺した魔物を,仲間が行方不明になったと思って,探しに来るかも.」

「魔物って,そんなに仲間思いなんですの?」

「さあ?知らないよ.」


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