3話 真の能力
自分も楽しく想像しながら書いたので楽しんで貰えたら嬉しいです。
遅い、んー、非常に遅い。
歩く速度が遅すぎて一向に進まない。
牛だから仕方ないんだろうけど腹は減ったし、喉もカラカラだ。
「二郎、その速度どうにかならない?」
『そんなに遅いのかモヴ』
俺が前で歩き、二郎がその後をゆっくり歩いている。
「遅いんだよなー、少しでも早く進めれば楽なんだけど。」
そうはいっても難しいと思う。
牛の速度は、本気で走れば人よりも早いが常に走れるというわけではない。牛にもよるけど走るのが好き嫌いあるし、歩くのも早かったり、遅かったりその牛次第だ。特に二郎は牛の中でものんびりマイペースで遅かった。
『それだったら、手に乗るぐらい小さくなれるモヴ。でもその大きさで歩いたらもっと遅くなるモヴ、悪いけど肩に乗せてモヴ』
「そんなの気にするなよ!早く進めるんだったら肩ぐらい貸すよ。」
突然、二郎の体を光の輪が通った瞬間、二郎の体が縮んでいった。
なんていう事だ。さすがは異世界!
どういう原理なんだろう。
二郎は手のひらサイズになったので俺は二郎を手に乗せて左肩の上に乗せてあげた。
そうして、効率よく進めるようになって霧の中を進んでいくと、なにやら音がする。
両耳でよーく澄まして聴くと、水が流れる音がした。
この音、川だ!
「急げ、二郎!水だ水!」
『王雅、川は逃げないモヴ』
川の方に走った。
霧が段々と薄れてきて川が見えた。
上流から下流に流れる川の中は小石混じりの砂利で覆われている。周りには多種多様な岩が転がっていて、自然を感じる。
これが異世界の川か、思ってたより普通だ。
あっ!でもさすがは異世界、魚が色鮮やかで綺麗だ。
川を覗くと色が透き通っていて、見た事ない40cmぐらいの魚が泳いでいた。
あとで、食べれたらこの魚も取って食べたいけど…
その前に、水だ。
「二郎、この水飲めるかな?」
『ここの川は山から出ている湧水から集まって出来ているみたいだから大丈夫らしいモヴ。モヴも飲むモヴ。』
二郎は、肩から降りて川の水を飲み出した。
俺も二郎の隣で手で掬って飲んでみた。
冷たっ、けど美味しい!
「ずっと思ってたんだけど、二郎って自分の事モヴって言うけどそれ何?」
『モヴは、モヴだモヴ』
モヴモヴ言っててよく分からん。
「二郎って呼ぶよりモヴって読んだ方がいい?」
『二郎がいいモヴ。モヴは王雅がいう俺っていうのと同じモヴ』
モヴは二郎でいう一人称の呼び方って事か。
水を飲み終え、俺は靴を脱ぎ靴下を脱ぎ作業着のズボンの裾を捲った。
魚を捕まえる為だ。
しかし、食べれるか分からない。ここは魔物図鑑の出番だ。
魚を見て、魔物図鑑と念じた。
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図鑑No.2
栄彩魚[魚類]
希少度 白
(説明)
青と赤と白の3色で淡水魚。綺麗な川の上流に主に生息している。泳ぐ芸術品と呼ばれ、食べるとその身は透き通った透明色で刺身が美味い。鮮度が落ちると赤色になる。
図鑑効果 魔力+1
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この魚アミノマスって言うのか。
でも良かった、この魚食べれそうだ。しかも、刺身ときた。
刺身を食べてる姿を想像すると、涎が垂れそうになる。
醤油も付けて山葵も付けると最高だ。
って言っても何一つ調味料はないんだけどな。
拠点が出来たら二郎の能力で作ってみてもいいかもしれない。
魚に期待を寄せながらそーっと静かに川に入ると、ポチャンっと少し音がしただけで魚達が逃げて行った。
やってしまった…
こんな静かな音でも音に敏感な魚からしたら大きい音なのかもしれない。そんな音を出してたらそりゃ逃げるわ。網も無ければ釣り竿もない、手掴みしか方法が思いつかなかった。
うーん、仕方ない。
口は魚の舌になっていたけど諦めて食べれそうな違う物を探すことにした。
薄っすらと見える霧の中、肩に二郎を乗っけて川沿いを下ってみた。
川には、さっきと同じようなアミノマスがウヨウヨいる。
見てるだけで捕まえれないのは苦痛でしかない。
今、何時なのか分からないけど昨日の晩御飯を食べてから何も食べてないからそろそろ何かを胃に入れたい。
「二郎…なんか食べれそうな物ない?」
『こんなのはどうかモヴ』
二郎は肩から降りて地面に前脚の蹄でノックした。
すると、その場所から芽がポンっと出てきた。
その上に蹄から出た水を一滴垂らすと、瞬く間に芽が育ち木となり花が咲き、実がなった。
その実は誰もがよく知る真っ赤なリンゴだった。
なに?その能力!!
『え、なんだモヴ?』
「いや、いや、いや、おかしいだろ!何も無い所から芽が出たと思ったらリンゴが出来たんだぞ?」
『それはモヴの能力モヴ』
それがどうかした?みたいな顔をしてこっちを見るんじゃない。
頭が混乱する。
夢なのかと頬をつねる。
「痛っ!」
『何してるモヴ!?』
「いや、気にしないでくれ。これは確認だから。」
『何の確認なんだモヴ』
思い切って本気でつねってみたけど痛すぎた。
これは夢では無さそうだ。
もういい、考えれば考える程混乱する。
考えるのが無駄なような気がしてきたのでこの世界はこれが普通なのだと思い、俺は何も考えないようにした。
とりあえず、腹は減ってるしリンゴを食べよう。
「二郎もリンゴ食べるか?」
『もちろん食べるモヴ』
木からある分だけ全てのリンゴを取って二郎と分けた。
リンゴを手に取り、一口皮のまま齧り付いた。
シャクっ
んっうま〜い!
このリンゴ美味すぎる。
今まで食べたリンゴの中で一番美味い。
甘いし、蜜が入ってるし、酸味と甘味のバランスがいい。
そして、一つ一つが大きく食べた時のシャクッ、シャリっとした食感がいい。
もしこの世界にもお金があったら、これを売ってみてもいいかもしれない。
二郎も美味しそうに齧り付いている。
食べれない余ったリンゴをズボンのポケットにしまった。
ポケットの中がぎゅーぎゅーに詰まって歩きづらくなった。
よし、腹も膨れたしこの世界の情報収集をするか。
やっぱり情報収集には人に聞くのが一番か。
その為には人がいそうな街か村を探すのがいいよな。
何処にあるか分からないからこのまま川沿いを下ってみた。
歩いていると、急に胸の奥がザワザワする。
森の奥から何かが来る予感がした。
『王雅、何かが来るモヴ』
「わかった。」
何が来ても冷静にいられるように心の準備をする。
しかし、心臓の音がバクンっバクンっと鳴り響く。
うっ、収まれ、心臓よ!
胸に手を当てふぅー、ふぅーっと息を整えようとしても鎮まらない。
どうする…俺。
すると、森の中から鳴き声がする。
ウォンウォン!ウォンウォン!
犬か?
少しずつ鳴き声と共に近づいてくる。
もう、そばにいる。
近い、近い、近い。
緊張か、足が強張る。
その時が来た!
木と木の間から顔をヒョコンっと出したその顔は狐だった。
狐?狐って森にいたっけ?
なんか雪国とか砂国のいるイメージがあったので不思議に思った。
そんな時は魔物図鑑の出番でしょって事で念じてみた。
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図鑑No.3
果種狐[獣類]
希少度 青
(説明)
果実の種を好む狐。魔力の高い種を食べると魔力が増加し、稀に卵を産む。卵はほぼ無精卵。黄色い体から発する魔力によって魔力量の下回る魔物は近寄れない。
図鑑効果 魔力+4
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フルシードフォックスっていうのか。
ちょっと可愛いかもしれない。
フルシードフォックスは少しずつ鼻息を荒げながら寄ってくる。
鼻をクンクンさせながらズボンのポケットに鼻が当たるぐらいまで近付いてきた。
なになに?ポケットの中に入ってる物が欲しいのかな。
このポケットには、リンゴがポケットいっぱいに入っている。
フルシードフォックスはどうやらリンゴの種が欲しいようだ。
ポケットからリンゴを出して目の前に出してあげた。
「ほら、食いな。」
リンゴを見たフルシードフォックスはリンゴに頬を擦り付き笑顔になる。
その顔を見るとこっちも顔が緩んで癒される。
そして、それを横目に尻尾を使いぶんぶん勢いよく振り回してリンゴを叩いた。
見事にリンゴは真っ二つになった。
半分になったリンゴを器用に爪を使い、種だけ取り出して一つずつ口にいれた。
すると、口に入れた瞬間鳴き声を放った。
ウォーーーーン!
どうした!?
鳴き声と共にフルシードフォックスの腹を光が包み込む。
今までの癒しの場が静寂に包まれる。
すると、その場にポンっと卵が出てきた。
フルシードフォックスが卵を頭で押してこっちを見つめる。
どうしたのか。
頭でこっちに寄せて見つめるのを繰り返した。
そして、ピンときた。
「その卵、もしかして俺にくれるのか?」
ウォン!
フルシードフォックスは元気よく返事をした。
どうやら、リンゴが美味しかったからそのお礼らしい。
魔物図鑑によると、ほぼ無精卵だから大丈夫なんだろうけど使い道があるか分からない。
一応、お礼だし貰うことにした。
「ありがとう、貰うよ。」
卵をポケットに入れた。
すると、フルシードフォックスは森の中に帰って行った。
結果、なんか思ってたのと違って癒されたな。
続
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次回の投稿は3日後の18時になります。
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