1話 現実世界の仕事
選んで頂きありがとうございます。
趣味で書いているので好き嫌いあると思いますが読んでもらえると嬉しいです。
「おーい、王雅!真美子と二郎と和美に餌やってくれ!」
父さんの声が聞こえる。
真美子と二郎と和美は牛だ。うちは代々牧場を経営していて父さんは3代目の牧場主で、息子の俺は4代目になる為父さんの指導のもと毎日大変だけど楽しく働いている。
酪農の専門大学を卒業後、父さんから見習いからと言われ3頭の牛を任された。高校からの友達から見習いで牛ってどうなん?って言われたけど、この牛たちが生まれた頃から知ってるし、高校の頃から手伝いをしてきたから余裕だ。
ただ、唯一苦手なのは朝が弱い。
うーん、酪農家からしたら割と致命的だと思うけどまぁ、なんとかなるだろう。
外から聞こえた父さんの声で起きて真美子と二郎と和美に餌をやるのが1日の始まりだ。
餌は2種類あって、牧草と麦芽粕、とうもろこし等入った配合肥料を混ぜた物がある。それを、朝イチと夕方に1日2回やる。
そして、牛が食べ終わってるところから畜舎内の掃除をして、3頭の体を綺麗に洗い、乳搾りをして休ませる。これを午前と午後1回ずつそれが1日のルーティンだ。
朝6時、外に出るとまだ朝日が出始めといったところか薄暗い。俺は家から10m離れた倉庫から猫車を持ち出し、隣にある餌場から2種類の餌を猫車に乗せていく。それを20m先にある牛小屋まで運ぶ。
中に入ると、早くくれと言わんばかりにモォーっと真美子と和美が鳴いている。その隣でイビキをかいて二郎はまだ寝ていた。朝が弱いところとか二郎は何かと俺に似ている。
兄弟のいない俺からしたら弟みたいなやつだ。
牛小屋には他にも牛がいて3頭以外の牛は父さんが世話をしている。その牛たちは父さんと他の従業員達が既に餌を与えていて、ムシャムシャ食べている。
餌を3頭に配り終わったら、家に戻り朝食の時間だ。
朝食は、母さんが父さんと同じ時間に起きて作っている。
「母さん、終わったよ!」
台所に繋がる勝手口を開けて、長靴を脱ぎ散らかし椅子に座った。
「王雅っ!あんた、また長靴散らかしてんじゃないでしょうね?」
台所から母さんが眉間に皺を寄せて詰めてくる。
「いいじゃん!腹減ったんだよ!」
「あんた、いつも言ってるでしょ!長靴を大事にすれば心も体も豊かになるって!」
「だから、誰の言葉だよ!?」
「母さんに決まってるでしょっ!」
すると、うちで飼っている牧羊犬のハチがやれやれと言わんばかりに首を横に振ってソファの上に乗ってくつろぎだす。
そんないつものやり取りを終えたタイミングで父さんが早朝の仕事を終えて帰ってきた。
「おい、王雅っ!」
鼻の下に髭を生やして熊のようにゴツい体をした父さんがいつものように勝手口を開けて入ってきたと思ったら、何かと慌てていた。
「何?」
ぽかんとした顔で返事した。
しかし、父さんが慌てているのは珍しい。
「二郎がいないが、お前知らないのか?」
「いや、さっき寝てたのは見たけど。餌は目の前に置いたんだけどなかった?」
俺は不思議に思って父さんに確認した。
「いや、…無かったな!」
腕を組んで、仁王立ちで少し考えた後自信満々に言い放った。
「じゃあ、後で探してみるわ!多分、そこら辺にいるやろ?」
「アホかっ!今行けっ!」
俺の服の襟元を掴んで引きずって外に連れ出そうとした。
「アイタタタッ!、と、父さん、服伸びるからやめてくれっ!」
「だったら今すぐ探すか?」
「探す探す、探すから離してくれっ!」
怯えた俺の目を真っ直ぐ見て父さんはため息を吐いた。
「二郎を連れて帰るまで戻ってこなくていいからな!」
「…わかったよ」
腹が減っていたけど、渋々返事をした。
俺は、家を出て牛小屋に向かう道中も辺りを探しながら二郎を探した。しかし、見つからない。
ぐぅ〜〜
お腹の音が鳴る。
腹減ったな…、どこ行ったんだよ、二郎…
とりあえず、牛小屋に行って手掛かりがないか探す事にした。
牛小屋に着くと、二郎が寝ていた場所に向かう。そこには何も無く、さっき置いた餌も無い。しかも、ここから強引に出ようとした形跡もなく、壊した物もない。
二郎はどうやってここから出たのだろうか。
…うーん、
考えた結果、分からなかったのでとりあえず牛小屋全体を調べる事にする。
すると、家と反対側の牛小屋の出入口の扉が壊れているのを発見した。
ここは牛はおろか人すらあんまり通らない扉だ。
まぁ、ここなら父さんが見逃すのも分かる。
しかし、無理矢理通ったような有り様で扉の残骸が彼方此方に散らばっている。
俺はそこから外に出て、二郎を探す。真っ直ぐ進んでいくと柵が見えた。その柵は近づくに連れて、扉と同じく木の破片がバラバラに散らばっていた。
はぁ…ここもか…
柵の一部がちょうど二郎の幅分だけ壊れていた。間違いなく、ここから敷地外に出たに違いない。そう思い、そこから出て真っ直ぐ進むと森が見えた。
モヴオォーーーー
森の奥から牛の鳴き声が聞こえてくる。
間違いない、この独特な低い鳴き声…
「二郎っーーー!」
急いで鳴き声の方へ向かった。
走っていると、木々が段々と少なくなってきて岩壁が出てきた。その岩壁には洞窟らしき穴があいていた。
モヴオォーーーー
二郎の鳴き声だ、あの洞窟からだな。
しかし、洞窟は暗く中がどうなっているのか全く見えない。嫌な予感がした。
ドッドッドッドッドッドッドッドッ
何だ、この音は!?
洞窟から音が次第に大きくなって聞こえてくる。なにやら、何かがこっちに向かってくるようだ。すると、二郎が洞窟から走って出てきた。
「お〜、二郎〜会いたかったぞぉー!」
モヴオォーーーーーーーー
あれ?
モヴオォーーーーーーーー
おいおいおい、俺の方に向かってきてないか?
「二郎、待て待て待てって!」
うおぉ〜〜
二郎は俺に突っ込んで首元の襟を咥えて、洞窟に向かってUターンした。
あれ、二郎〜〜〜!どこ行くのぉ〜〜〜?
洞窟に入ると、入った瞬間は暗くて見えなかったが突然眩い光が一面中に広がった。
その瞬間、光はあっという間に消えて俺は二郎に咥えられたまま洞窟の中に立っていた。
辺りを見渡すと、あらゆる岩壁の隙間からキラキラとした緑色の水晶みたいな塊が照明のように辺りを照らしていた。
なんなんだ、ここは!?
凄く綺麗だ…こんな洞窟見た事ない。それに、この水晶の塊が綺麗すぎてうちに持って帰って部屋に飾りたい。
しかも、質屋に持って行ったら金になるのではと思い、次郎に服を離すように言おうと振り向いた。
「なぁ、二郎。じ、二郎?」
緑の水晶に照らされた次郎は牛にはあるはずの無い耳の横に鹿のような2つの木の枝が生えていて、身体も緑色になっている。
「お前、二郎だよな?」
モヴオォーーーーーーーー
この声、間違いなく二郎だ。
うーん、とりあえず父さんに相談するしかないか…
この洞窟を出て牛小屋に戻る事にした。
「二郎、牛小屋に帰るからとりあえず離してくれ」
モヴオォー
二郎は俺を離してくれた。
俺は二郎を連れて洞窟の外に出る事にした。洞窟内は一直線の道しかなかったのですぐに出れた。
外に出ると、入る前とは違う景色が広がっていた。
ーーーーー続く
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