凌空さまが悪いんだよ
「凌空さま、起きて」
そう言って眠っている凌空さまを揺さぶった。
「…ん」
「掃除するからどいて」
「……いいところだったのに」
凌空さまは上半身を起こすと言った。
「夢を見ていたの?」
「うん」
眠たげに目をこする。
毎日十数時間は寝ていると言うのに。
「どんな夢?」
「紅羽がここから僕を連れだしてくれる夢」
それを聞いて私は肺を絞られたような気持ちになった。
上手く息ができなくなる。
「…掃除するからどいて」
凌空さまは転がって布団の上から退いた。
「凌空さまが悪いんだよ」しどろもどろになりながら答える。「いい子にしていればここから出して貰えるよ」
「そっかあ」
がっかりした様子でため息をついて、凌空さまは足を宙に遊ばせて鎖をじゃらじゃら言わせた。
私は目をそらし、凌空さまに背を向けた。
「お父さんもお母さんも辛いんだよ」
間を持たせようと布団の敷布をはがしながら言いきかせる。
「ふうん」
「凌空さまのためを思ってしてるんだよ」
「紅羽さあ」
凌空さまはくすくす笑うと、敷布を替えている私の首に脚を回して捕まえると引き倒してしまった。
そして私を正面から見下ろして、
「絞め殺してやろうか?」
この鎖で。
目を爛々と輝かせて、凌空さまはそう言った。
私は何か言おうとしたが、声にならなかった。
「ふん」
何も言えず、ただ目を逸らして泣き出した私を、凌空さまは興ざめしたようにそう鼻で笑って解放すると、再び寝転がると私に借りて来させた本に手を伸ばして読み始めた。