MUD GIRL 1
「ゲギャ、ゲギャ」
「……ヴォ゛ォ~(……そんなことある?)」
この仮想世界へ降り立ってから、およそ一分での出来事である。私の前方をうろつく敵の頭上には、こう表示されている。
【デッドリーゴブリン/Lv.181】
「ギャッ、ゲギャ」
もう一度言っていい? そんなことある??? 助けて。
***
まずきっかけは、懸賞応募を老後の趣味としているおばあちゃんが最新VR機器を当てたことだった。
応募する際、「当たったら蓮月ちゃんにあげるからね」と言われてはいたもののまさか本当に当たると思っていなかった私は、ひとしきり喜びの舞を踊った後、VR未経験者の自分には過ぎた代物であるそれをもて余すこととなった。
そんな時、フルダイブ型VRMMO『Another World Adventure Online』正式サービス抽選の広告を見かけ、せっかくのVR機器を『寝転んで使えるPC』くらいにしか扱えてない現状から脱却するべく応募してみたところ、見事に当選。祖母と孫でクジ運ぶんぶんしてやりました~。
リア友は落選しちゃって、私と一緒にプレイ出来ないのめっちゃ悔しがってなんならちょっと泣いてたけどね。かわいそうだからチューしてあげようとしたら怒られました。なぜなのか。
そしてサービス開始当日。とりあえずキャラクリなわけですが、種族は初期選択可能なものの他、ランダムで三回ガチャを引いて選べるらしいので回してみたところ、通常の選択肢にない『マッドン』という種族を引いた。泥の魔物らしい。
花の高二女子がゲームとはいえ泥て……とも思ったけども、初期種族の中に無いやつだしこれ当たりでは? と考えたのと、私の名前に『蓮』が入っているから、蓮と泥は切っても切れない関係だしな~となんとなく愛着が湧いてきて、その場のノリでマッドンに決定。アルラウネとか花の魔物だったらもっと良かったんだけどね~。
一応キャラクターの外見も、リアル自分をスキャンしたモデルを元にちょっぴり美少女度を高くして仕上げておいたんだけど、いざキャラクリを終了させてみたら泥は泥のままでした……。目と口っぽい穴と腕っぽい部分が付いてるだけの、どろどろしたただの泥の塊です。
しかも「ヴォォ~」とかデスボイスみたいな声しか出せません。友人達から「恵まれた清楚系の声と顔から飛び出すクソみたいなSNSのオタク口調が全てを台無しにする」「ずっと古今和歌集とかだけ音読しててほしい」と絶賛される私の美声も、これじゃ宝の持ち腐れなんだが? 人間形態になれる魔物に進化を遂げるよう祈っておこうね。
そしてここからが問題のシーンです。
ゲーム開始時の初期位置は、何もいじらなければ人族側・魔物族側それぞれの最初の街で固定らしいのですが、ネタに走ったりハードな異世界人生を送りたい酔狂なプレイヤー用に、開始位置ランダムの項目が用意されております。
それを見た私は、これまでのクジ運の良さで調子こいてたのに加えて、他人とは違う自分を演出したいお年頃であったがために、やめとけばいいのに『ゲーム開始位置ランダム』の項にチェックマークを入れる余計な操作をしてからプレイ開始のボタンを押す暴挙に出た訳ですね。
まばゆい光に包まれる私。
キャラクリAIからも「ようこそ『Another World Adventure Online』へ!」と大歓迎を受ける私!
漆黒の岩で形成された洞窟っぽい背景のリアル感にワクワクが止まらず、泥を飛び散らかしながら這いずり回る私!!
そしてスタート地点の小部屋から抜け出し、いざ冒険へと飛び出した私!!!
その結果が、はい、こちらです。
***
「ヴォアア~ォ(これ詰んでない??)」
現在、岩影に身を潜めつつ絶賛絶望中です。
いやこれ無理でしょ。レベル差180の場所に突然放り込まれた泥の気持ちにもなってみてほしい。キャラクターリセット権の使いどころさんですよ、これは。泥に対する愛着とか木っ端みじんに吹き飛んだわ。……いや待て、まだ慌てるような時間じゃない。ひとまず打開策を模索するためステータスを確認しよう。
《ステータス》
【名前】ドロータス
【レベル】1
【性別】不明
【種族】マッドン
【属性】地、水
【種族値蓄積】0 / 地、水
【HP】350 / 350
【MP】60 / 60
【SP】0
【STR】15
【VIT】30
【INT】10
【MND】25
【DEX】6
【AGI】3
【LUK】20
【特性】
<半流体> <泥潜伏>
【スキル】
<潜伏 Lv.1> <泥飛ばし Lv.1> <捕食Lv.1>
【装備】
右手武器:泥(固定)
左手武器:泥(固定)
頭:装備不可
体:装備不可
腰:装備不可
手:装備不可
足:装備不可
アクセサリー1:なし
アクセサリー2:なし
アクセサリー3:なし
アクセサリー4:なし
【称号】
・なし
なるほどね。
…………これ詰んでない???
小説初めて書きます。お見苦しい部分も多々あるとは思いますが、よろしくお願いします。