技術は無い、本格はある
依頼者に案内されるがままに俺とナイヴォさんは着いて行く
ここに来たばっかりとは違ってなんだか緊張感がある、でもそれと一緒にワクワクする気持ちもあった
歩いてくと、何か体育館の舞台袖のような場所に出た
俳優の方々に軽く再び挨拶と改めての自己紹介をして周囲を見てみると
小さな階段があり、その先には幕は降りているが舞台がある……
既にセットはできあがっており、木材で山や街並みを表現したような結構本格的なものだ
……学校でやるような学芸会とかとは本当に桁が違う、予算とか規模とか…そして熱意も
「……ここで、やるのか……ちょっとした役でも」
「そうだな…俺もちょっと驚いている」
ナイヴォさんでも少し驚いてた
けど、その目には決意が見える
「出番の順番では俺が先になるけど、見ててもらってもいいか?」
「はい、とくとその目に焼き付けておきます」
「では2人は手番まで待っていてください!」
舞台袖の小さな空間で座って待つことに
他の俳優の方々はいたけど、最初にやさしく挨拶した後は黒板に書かれている台本?を真剣に見ていた
一切として話しかけられない様子に何も声をかけられそうな気配がした
舞台を見た後に俺とナイヴォさんはそのまま無言で待機していた
「…………」
「…………」
ちょっとの時間を待っていると、舞台から「シャラララン」と鈴のような音が聞こえて来た
現代で言う所のブザー音だろうか?そういえばスズノネ族っていう鈴の音が聞こえる種族がいると聞いたことあったけど実際には分からない、この音がそうなんだろうか?
「まもなく本日の舞台『冒険者の日常、盗賊団討伐偏』を開始いたします」
ナレーターの方がそう言った、魔道具を使ってスピーカーのようにしていると思うぐらいこれが良く響いた
タイトルはシンプルで内容が分かりやすい、ライトノベルだと長く要素をてんこもりしているのが多いけど俺はシンプルな方が好きだ
拍手音と共に幕が上がっていく、舞台が非常に明るいからか観客席は真っ暗で見えない
現世にある劇場と同じようだ
「これは、ごく普通の冒険者の話である」
観客からの拍手の音が聞こえると舞台には4人ぐらいの役者が立った、見た感じ格闘家に弓使いに魔法使いに剣使い…バランスのとれているパーティだ、その人たちが雑談しながら足踏みをしていると背景にある木材がが自動的に動いて行く…え?!すげえな!?これ客席から見ると4人が歩いているように見えるのか!?魔法で動かしていると思うけどこんなにも自然に見せられるのか?
「旅をしていた冒険者たちは、ある街にたどり着きました
その町は、ちょっと荒れ果てていて
人々は困っている様子が見えました」
舞台の方も街並みの風景に変わっていき、1つの建物が見えてきた
ヒューラルにある風のたまり場のようなギルドのようだ
そうやってナレーターが話していると、ナイヴォさんが立ち上がた
え?もう出番なのか?
「じゃあ、先に失礼」
「頑張ってください!」
そう言って立ち上がって、進んで行ったナイヴォさんは
舞台に立った瞬間、突然弱弱しく背中を曲げ足を震えさせて歩き始める
初めてで舞台の助っとではあるのに本物の役者のようだ
これが依頼に全力の姿勢のランク1の様子という事か!
「はぁ……はぁ……あ、ああ!冒険者さん!いいところに!」
「どうしましたか?そんなにも疲弊して?」
「この街はずっと……ずっと、あの盗賊団のせいで困っているのです!
どうか…………どうか、助けてください!」
……危うく、俺が「ああ、もちろん助けよう」と言いそうになってしまった
それ程までに懇願している様子が本当に伝わった
アニメとかでもこういったチョイ役の演技がしっかりしているのは名アニメの法則ってあるし
「ああ、その依頼を引き受けよう!そうだよなみんな!」
「ええ!」「ああ!」「もちろんよ!」
「お願いします!またあの盗賊団がいつ襲ってくるか分からなくて怖くて怖くて!」
「そう依頼人から盗賊団の事を聞いた冒険者さんは、街で情報を集めることにしました」
そのようにナレーターが言っているとナイヴォさんが引き返してきた、どうやら出番が終わったらしい
「お疲れ様です,大丈夫でしたか?」
「はぁ……初めての劇で非常に緊張したけど
上手くできてた?」
「……本当に、最高の演技でした」
「ああ、ありがとうな
言われるとうれしいな……」
本当に心からの言葉だ、今のシーンは全体を考えると結構短かった。
だけども、その時間の間に全てを注ぎ込んでいるようにも見えた。
俺も…………自分のシーンは絶対に全力をだす、そう本気で思えてくる
それからもナイヴォさんは他の出演者たちからもお褒めの言葉を頂いていた
舞台を見てみればシーンが流れていく、街中で様々な人に聞いて情報を集めるシーン、次第に盗賊団の居場所が分かっていき街の外れの洞窟内と言う情報を知った、そして出発
途中で魔物との戦闘にもなったけど、舞台装置のように魔法を周囲に浮かばせたりして派手なエフェクトを作っていく
魔物はサンドバッグのようなハリボテではあったけど、それを容赦なく壊していく
物を操作する魔法を使って動かしているのか、実際に戦った魔物よりも派手に見えてしまう
冒険者たちも楽しそうに声掛けを押していて、関係性も良く見ていて気持ちが本当に良い
観客からの歓声とかも聞こえてきて、非常に大盛り上がりであると同時に緊張が走って来る
刻一刻と自分の番も回って来る
そうして、冒険者メンバーが歩いて行った先に洞窟が見えて行った
「いくつかの魔物と戦い苦難の乗り越え、ようやく冒険者メンバーは盗賊団の隠れている洞窟にたどり着いたのだった」
「ここがあの盗賊団のいる洞窟か…」
「どうする?1回休憩して態勢を整えてから行くか?」
「それとも?街の人達の為にすぐに行っちゃう?」
「うーむ………」
「そうやって、悩んでいる冒険者たちでしたが不穏な声が聞こえます」
ここだ、ここでいったん俺の出番だ
一旦深呼吸をした後に、拡声器のような魔道具を手に取って話しかける
事前に聞いたが、この魔道具は劇場内に声を響かせる効果があるらしくて
ナレーターの方もこれを使っている
俺は、意を決して話しかける
「おやおや!?俺たちの家の前にいる獲物は4人か!
のんきに休みおって」
「っ!?誰だ!」
もちろん、ここは台本は無い
あくまで書かれていたのは「休もうとしている冒険者たちを挑発して洞窟内に入れさせる」と言う指示のみだ
けど、そのように自由に話せるのは非常に楽しい!!
「俺達盗賊団にビビっているのか?
俺たちを討伐しに来たんだろぅ?今装備を全部置いて帰れば見逃してやるけど
変な行動するならあの街を総出で襲っちゃうぞー」
「んなっ!?そんなことはさせない!!みんな!態勢を整えたら一気に行くぞ!」
「やれるもんならやってみなー!」
そう言うと、冒険者たちが進んで行ったと同時に拡声器のような魔道具を置いた
こういった三下キャラのロールは経験ないけど、なんだか上手く行った気がする
…………それと、さっきは声だけだったけど俺はまた出番がある
「凄いな、今の演技?」
「ありがとうございます、俺結構こういった演技をするの好きですから」
「ああ、次の本登場も頑張ってな」
「はい!」
そう言って舞台を見てみると冒険者たちが洞窟内を進んで行くシーン
中には結構罠とかがあるらしく、横から縦から奥から襲い掛かって来る罠をダイナミックに回避していく
動きが本当にカッコいいけど、俺の出番も近い
俺以外の盗賊団の人達も準備をしていて、俺も衣装を一通り確認して
普段使うマクスラスではなく、舞台用の偽物の槍を持って行くことに
……でも偽物でも思いっきり叩いたら痛いよな、子供のオモチャだって使い方を誤ったら怪我をするから気を付けないと
他の出演者の人達と達と一緒に舞台袖に並んだ
「えっと、勇者さん?」
「はい?」
「さっきの演技すっごく良かったです」
「あっありがとうございます」
「この先の演技も頑張ってください」
「はい、冒険者でもありますから全力を出させていただきます」
そう俳優たちからの声援を聞きながら待機していると……
「非道な罠を潜り抜けた先には、盗賊団の集団がいました」
今いる舞台袖から見て、正面から冒険者たちが歩いて行く
ここからの台本ではなく指示は「真っ先に出て、ちょっと戦って負ける」と言う役だ
冒険者の人達とのリハーサルとかはしていない
アドリブ劇とは言えど、全力で楽しんで全力で演じさせてもらおう
鉄砲玉だから俺は1番前で行く、逆にしんがりにはボスらしい人がいた
普段はそんな持ち方はしないけど、肩に掲げて軽そうにポンポンと叩きながら歩いて行く
身体はヤンキーみたいなだるそうな歩き方をしてみる、これこそ三下だろう
「ほう……貴様らがこいつの情報で聞いた命知らずな冒険者共か
殺して装備を売ればちょっとした小遣い稼ぎにはなりそうだな」
「おまえ!人々を困らせている盗賊行為はやめて、今すぐ街の人達に謝罪しろ!」
「そして捕まりなさい!」
冒険者とボスのやり取りが続いて行く…………たしか、ボスが合図をするはずだ
「はっ!そんな簡単にゆうことを聞くと思ったか!
俺の出る幕までもない、行って来い新入り」
…来たっ!
「分かったよボス、まーったく装備を置いてくれれば
こんなメンドーな事をしなくて済むのになー」
そう言いながら槍を前に構える
いつものマクスラスでの構え方ではなく、適当に片手で持っている感じ…要は素人みたいな構え方だ
「死んでも文句言うなよー
いや言えねーかー」
「こっちは全力を出すぞ!!」
……死んでも文句を…そういえば、この世界は蘇生ができるから
犯罪者に対しては殺す気で来てもおかしくないか…けど、この勝負が全力で来るわけではなく見せる勝負になる
…………三下の演技はするけどウルティマ・ザン・ガーゴイルで演技はしたくない
さあ負け確だが全力で演じさせてもらおうじゃないか!
「へへっへー!手柄は俺のモンだ!」
そう言って持っている槍を地面につきながらがすぐさま前進をする
いつも相手の様子を見て攻撃しているいつもの俺とは一切違う
そうやって突くと、格闘家の人が前に出て俺の槍を掴みそのまま後ろに放り投げる
「うわああああああ!!」
情けなく叫びながらも受け身を取る
あっという間に魔法使いと弓使いと剣使いに囲まれている
「へっ、俺を囲ったからと言っていい気になるなよ!」
と言い、槍を頭上で回していく、観客席も結構盛り上がっていき冒険者の人達を応援する声が
「…れー!」
……ん?
アレ…なんか、聞き覚えのある声が
「千斗ー!頑張れー!」
……あれ?なんで俺を応援する声援が聞こえるんだ?
そう思ってチラリと観客席に目を見ると
……目が合った
「ソラアミセントー!頑張るッス!」
思いっきり、観客席に3人共いた
蜜巳さんと品子さんとタスメさんが
え!?なんで!?今日は休みでは!?いや休みでたまたまここに来たってことなのか!?それともどこかで聞きつけたのか!?
蜜巳さんの声が聞こえないけど、応援しているみたいだし
…………えええい!恥とか後で何か言われるとかんな心配は後回し!!!今は演技に全力集中だ!
「3人まとめてやっちまえば俺も、へへへ偉くなれる
全員まとめて行くぞ!」
と言いながらもまずは無策に剣を持っている人に向かう
そして適当に槍で突くと
「たぁ!」
剣で先端を絡めとられてつい槍を落としてしまった
演技だとしても思った以上に剣さばきが上手い!?
結構ガチで驚いていると
「トドメだ!」
「なっ…がハッ!?」
剣の横切りが思いっきり腹に命中した、痛みは決してない
なにかハリセンみたいに引っぱたかれたような痛みのない衝撃が腹部に来る
ちょっと大げさにそのまま俺は背後に吹き飛ぶように後ろにジャンプをした
「はあああああああ!!!!!!?」
「千斗ー!」「ソラアミセントー!」
2人の声を聞きながらそのまま舞台袖の方へ飛ぶ…あ、ヤバイ背後だと受け身が!?
と思っていると、自分の体がふわりと降りていく
そして舞台袖の中でゆっくりと仰向けに着陸していった
「はぁ……ハァ………」
ちょっと驚いて周囲を見てみると、1人が何か魔法をかけていた
「派手に飛んだね、でも怪我しないようにしっかりとサポートはさせてもらうから
演技お疲れ様」
「あ、ああありがとうございます」
起き上がろうとしたら、差し伸べられる手が
ナイヴォさんだ
「凄かったな…見入ってしまったよ」
「ありがとうございます、精一杯演じさせていただきました」
手を取り立ち上がる、2人の出演はこれで終わり
後は舞台袖からだけど演劇の方を楽しむ事に
俺を吹き飛ばした後の冒険者たちは、そのまま盗賊団の方に向き直る
集団で襲いかかってきても、派手な魔法のエフェクトを出しながら倒していき
その後はボスとの戦い、ボスは大柄であって力強い戦い方をして…正直この劇場が揺れているような錯覚を覚えた
大きな槌を持っていて叩きつければ、天井から砂煙が落ちて来る
本当に揺れているようで冒険者たちも体制を崩していく
その隙に攻撃を受けて苦戦をしていく、けれども弓使いが槌を下す前に攻撃をして隙を作り
本当に冒険者たちの連携が素晴らしく輝いていて、俺も正直応援したくなるぐらいだ
そうして戦っていくうちに戦闘に勝利することができた
「こうして冒険者達の戦いによって盗賊団たちは捕まって、街は平和になりました」
そうナレーターが言うと空から何か紙吹雪のような物が舞った
実際の紙ではなく地面に落ちると消えて行くようで魔法で作られているのが分かる
幕が下りて行き、セットも役者も舞台袖に隠れていく
そして、主役も脇役も全員歩き始めて……
「では、冒険者さん達もこちらへ
最期の挨拶は、みんなでする決まりなので」
「あ、ああ……」
「分かりました」
ちょっと慌てながらも衣装のまま舞台に全員上がっていく
そうして、学校のクラス写真のように並ぶと舞台の幕が上がっていく
「はい、それでは今回の舞台を演じていただいた方々に拍手をお願いします!」
そう言われると観客席から壮大な拍手が送られた
主役も脇役も、そしてチョイ役も平等にだ
観客に手を振りながら少し恥ずかしさを感じていながらも、とても心地いい気持ちになっている
こんなにも……良い物なんだ……舞台で演じる者ってものは
俺の様子を見て勇者と思って恐怖を思った人もいるんじゃないか?という心配も一瞬感じた
けれども、今日までこの舞台での依頼も、ガーゴイルを作った依頼の時もかなりと言っていいほど信用されている気持ちもあった
観客席を見てみれば、感動していたり喜んでいる人もいる
なんだか……俺達が1つになったような気持ちになる
俺の好きな小説のアニメOPにある「誰も主人公だって誰かが言ってた」
その様子がよく分かる光景になっていた
「これは、本当に楽しいな」
そう、独り言がつい出てきた
三下の盗賊を演じていた時に見かけた仲間たちの様子も見てみると
「千斗ー!すごかったよー!」
「……さん…………よかった……………」
「ソラアミセント!すごかったッス!」
3人も俺の名前を言って呼んでいる、蜜巳さんは周囲の歓声であまり聞こえないけどそれでも伝わった
後で色々と聞かれそうな気がするけど、それも思い出として受け取らせてもらう
恥ずかしいけど楽しみと思っている
舞台ではあったけど一緒に演劇を共にした冒険者同士、ナイヴォさんと向き合って握手もした
この依頼でたまたま一緒になってちょっと交流があったけど、また会えればいいな
…………しかし、1つちょっとしたヒトを見てしまった
1人だけ厳しい顔をしている男…いや、子供がいた
あの子は、石を投げてきた子供だ
金髪で名前は………流石に何日も前だと思い出せない
一緒にいた少女と名前を呼び合っていたぐらいだし
睨みつけている表情をしていたけど、ちょっと目が合うと逃げて客席から出て行ってしまった
親とかは見当たらないらしく1人で来たのか?
この依頼が終わって舞台の人達との挨拶や相談が終わった後に探しに行ってみたけど
結局その日は見つけられなかった




