由来はある、言葉は同じじゃない
馬車に乗り、異世界のリンゴの酸味に驚愕して口内を水で洗いながらヒューラルエクジトを去っていく
ちょっとの時間しかいなかったし、セカンドルトの時と違って見送りなどは無かったけど、あのリンゴ拾いで人々の考えが変わって行けたらいいな
既にセカンドルトを越えてから結構な距離を進んでいるはずだけど、ヒューラルエクジトはまだ通過点だ
首都までもっと遠いのだろうか?それとも近いのか同じぐらいなのか?
そういえば、王都セカンドルトを出てから1つ思ったことがある
「なんか……風が常に吹いている気が?」
風は俺たちが元々いた世界でも天気や気候によって吹いていた
普通であれば気にならないぐらいと思っていたけど、大体王都を出てから数日経ったとき吹いていた
それも常にだ、馬車内で寝泊まりするときも風音が聞こえていたし木の近くを通れば葉の音が聞こえていた。
一旦町中に戻ったときは城壁に囲まれていたからその音が止んでいたけど町を出たら風の音が目立つように聞こえる
とても気持ちのいい風だ
「ああその事ッスか?
それならちょうどいいッス、ヒューラルエクジトを出たッスからこれからの予定を伝えたいッス」
その言い方だとこれからの予定と関係する?
風を使うのか?どのように?
「ヒューラルエクジトを出た後ッスけど、この先はトランスリンの首都ヒューラルに行くッス
そこを一旦の拠点にしてアミルクリスタルを探すことになるッス」
「名前が似ている?っていうか、ヒューラルエクジトの一部分になってますね」
「そうッスね
世界中の町や国、全部の名前がって訳ではないッスけどヒューラルもとヒューラルエクジトの2つは名前の由来があるッス
……ちなみに王都の名前セカンドルトは由来を知らないッス」
「名前か…」
人の名前でもそうだけど、親から与えられた名前には特別な意味を込められている
俺の名前もその由来を親から聞いている
「名前は大切なものだからな、キャラクターに付けるにしても愛称を持ちやすいし」
「キャラクター?本とか作っているの!?」
「いや、アルティマ・ザン・ガーゴイルとかだ
他に言うならゲームの主人公に付けるとかそんな所」
「演じるのは………………形からと言いますからね……………」
以前に見ていたアニメであったけど、主人公がクラスでボッチ過ぎるからと言ってほかの登場人物の名前がメインキャラであっても「生徒1」「生徒2」とか名付けられていて…
それが風刺的な表現だったらオシャレと思ったけど…意味も無く主人公はイキリ散らして初対面でも失礼な態度をとっている人で「ああ、名前を考えるのがめんどくさかっただけか」と落胆したことがある、当然速攻で切った
そんなこととは打って変わって、俺と玲香が自分達の設定を2人で考えて
俺が「アルティマ・ザン・ガーゴイル」で玲香が「冷華様」と名前を付けた後は、一気に設定が湧き上がってきた
名前って言うのは本当に大切
小説を書くとか話を作ったことは無いけど、もしやる時は絶対に名付けることにしよう
「話を戻すッスが、まずトランスリンは気候や山々の関係でほぼ常に風が吹いているッス」
「風があると…………飛び道具に影響がありそうですけど………………これぐらいだったら……風を読んで調整できます。」
「凄いッスね、流石は勇者ッス
ヒューラルという言葉自体は現在吹いている風の音から来ているッス」
「ヒューーーーとか言うよね!」
「そんな感じッスね
その音からヒューラルは『爽やかな風』って意味にもなるッス、そこから名前を取っているッス………ちゃんと翻訳魔法効いているッスか?」
「え?ああそういうことですか、聞こえますよ!」
「よかったッス」
そうか、今話したのは異世界人からして見たら「爽やかな風」も首都の名前としての「ヒューラル」も同じ言葉なんだろう、でも動詞としての「ヒューラル」と名詞としての「ヒューラル」を翻訳魔法としてちゃんと聞き分かれているんだろう
本当に高性能で良かった…まだこっちの世界の翻訳機械ではお世辞にもそんなに高くないし
「そしてヒューラルエクジトの『エクジト』は『出口』と言う言葉をちょっと変えた意味ッス」
出口…翻訳魔法的には英語のExitをもじった形になったようだな、この翻訳魔法はユーモアもありそうだ
「出口?あの町が出口なの?」
「まあ、簡単に言えばトランスリンから見ての出口ッス」
「トランスリン………から見て?」
「この世界の人は、自分のいた国で働くという人もいるッスけど
一番大きな国であって街である王都セカンドルトヘ行く人もいるッス」
「こちらの世界で言うと、上京という事ですね」
「ジョーキョー?」
「田舎に住んでいる人が都会に行くことですね」
「ならジョーキョーであっているッスね」
上京はこの世界の言葉に無いらしい、まあ上京の「京」の元はたぶん東京から来ているわけだけど、異世界に『東京』はあるわけないから『上京』って言葉がないんだな
「ヒューラルで生きた人たちが王都セカンドルトへ行くときは、道なりに進めば必ずヒューラルエクジトを通るッス
俺たちがあの町で準備をしたように、ジョーキョーする人もヒューラルエクジトを通るッス
そして、ヒューラルエクジトで準備をして王都セカンドルトへ行って働く…って流れになるッス
だから、ヒューラルからしての出口と言う意味になるッス」
………こういった、名前の由来を聞いて行くの本当に面白いな
インスピレーションで付けていくのも良いとは思うけど下手すれば『ヴ』や『ラ行』ばっかりになって似たり寄ったりになるって事故を見たこともあったりした
由来から考えて行ったら物語も考えやすいのかな?
「名前の由来になったこの風は爽やかッスけど肌寒いと思うこともあるッス
だから……あ、ちょうどよく馬車が見えてきたッス」
俺たちが、馬車の正面側から顔を覗かせると、反対側から馬車が走って来た
こっちの馬車と比べてみると小ぶりではあるけど造りはシッカリとしていて頑丈そうな形をしている、商人かもしれないし旅をしているのかもしれない
すれ違いざまにタスメさんは手を上げて軽く挨拶、相手の方も手を上げて軽く挨拶をした
なんだか、現代でバス同士ですれ違った時の挨拶みたいだ
それなら俺たちも、そう思って馬車の後ろ側に行こうとしたら既に品子さんは馬車の後ろから顔を出していた
「こんにちは!」
「こんにちは」
「こん………にちは」
相手の方は一瞬ビックリをしていたけど、戸惑いながらも手を振り返していた
普通に挨拶返されてよかったけど1つ気が付いたことがある
「相変わらず挨拶いいッスね」
「うん!挨拶って大切だからね!」
「そう……ですね…………もっと大きな声で挨拶………したいな………………」
「ああ、そういえばタスメさん?」
「どうしたッスか?」
「さっきの人ですが、なんだか暖かそうな恰好をしていましたね?」
早い馬車同士だったけど、穏やかに動いていたから相手の姿をしっかりと確認できた
なんだか…ポンチョだっけか?上半身はそのような物を羽織っていて少し着込んでいるような恰好をしていた
この世界には四季の概念が無くて、地域による違いがあれど冬服や夏服が無いと思うと基本的に同じ格好しかないだろう
王都セカンドルトでは布の服に肘と膝を守っている動きやすそうな恰好をしていた
だからこそ、さっきの人の格好は目立つように見えた
「気づいたッスね?そのことを話したかったッス」
「凄いね千斗!」
「本当に…………好奇心旺盛………ですね!」
「ああ、まあ、ありがと!」
「この国は風が多いっすから、王都セカンドルトを比べてみると人々の格好が今のように着こんでいるようになるッス」
「分かったよ!私はこの恰好で大丈夫だけど!」
「しーちゃんは…………熱いのも寒いのも……………結構平気だからね
……………日本の気候だったら」
日本ぐらいだったら平気な雰囲気は確かに感じている、でも確か…火山や砂漠地帯に雪道があったから流石にそこでは難しいかもしれない、都合のいいマナでも難しいかも
そう言えば、ナリアン先生の授業を受けた時に様々な国の気候を聞いたけど…あまり覚えてないんだよな、先生が「実際にたどり着いてから覚えるのもいい」と言っていたから気候だけでなく住んでいる人々の格好がどうなるかも楽しみだ
気候に関しては覚えていないけど、種族に関しては覚えがある
「そう言えば、トランスリンは主に人間族が住んでいると聞きましたが、他の種族である獣人とスズノネ族とムロム族はいますか?」
「分からないッス、ほとんど人間族が住んでいるッスから」
「そうか…ちょっと会って見たいなと思いまして」
「運よく会えることを望んでおくッス」
「はい!」
「ヒューラル………ヒューラル………」
「ん?どうしたのみーちゃん?町の名前を何度も言っていて」
「なんだか……人間を英語にした『ヒューマン』に言葉が似ていまして………………そこから来ていると思っていました」
「ん?人間をエイゴにした?
地球って言葉が色々とあるッスか?」
「あ…えっと…日本語………っと………えと………英語が…………千斗さんお願い………します!ごめんなさい!」
「え!?急に?!」
突然話を振られて蜜巳さんはビックリしてしまったんだろう
「ああ、なんか悪いッス」
「いえ、ああえっと、分かったよ蜜巳さん」
「ハイ………すいません」
「えっと、こっちの世界では俺や品子さんや蜜巳さんは日本に住んでいて『日本語』を扱っているのですが、海外に行きますと英語や中国語やドイツ語やフランス語と言葉が変わるんですよね」
「………なんか…申し訳ないッスけど凄くめんどくさそうッスね」
「まあ、ここグラーフィアからして見たらそう思いますよね
人間と言う言葉も日本語だけでなく先ほど蜜巳さんが言っていた『ヒューマン』は英語で話した『人間』、後は……ちょっとほかの国の言葉は学校でも学んでいないので分からないです
……翻訳魔法で全部同じになっていないですよね?」
「違って聞こえるッス、確かにエイゴでの言葉があるならそう思うのも当たり前ッスね」
となると……この世界では言葉が全国共通なんだろうか?
それも聞いてみよう
「という事はグラーフィアって世界中で言葉が統一しているのですか?」
「…多分そうッス」
「多分?」
「世界全部を回った訳じゃないッスけど、どこの国に行っても言葉が同じだったッス
だけども、グラーフィアはマナが流れているッス
そのマナのおかげで俺たちは言葉を交わせるッスから、もしかすると本来は国によって言葉が違うかもしれないッス
でも、魔法を使いまくってマナの枯渇で言葉がどんな感じか?なんて試すのはちょっと人として良く無いッスから試せないッスね」
シュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーの翻訳魔法ってことか
何かと異世界作品でも「何の説明もなく」言葉が当たり前のように通じているのも多かったりするけど、やっぱり何かしらの理由があった方が俺にとっては読みやすい気がする
「そういえば、この世界は紙が貴重なんですよね?」
「ある程度はあるッスけど、貴重ッスね」
そう思って周囲の荷物をチラリと見てみたけど、紙のような物は見当たらないようだ
「でも、王都セカンドルトの人達を見た感じ、結構識字率……えっと、文字を知っている人しかいないように見えましたが誰でも字を読めるのですか?」
「え?普通に読めるッスよ?」
「え?どうゆう事なの千斗?
紙がないと字が分からない人多いの?」
「ああ、こっちの世界のノートのように自由に紙を使えるから書いて勉強して練習できるから日本人は基本的に読める人が多い…だと思うんだ」
「紙が貴重だから………識字率が低い……………異世界作品とかあったりするのですか?」
「ああ、そんな作品もあるぞ」
〇好きの下○○…名作だったな、けれども結構ハードな内容だった
アレを読んで家族の大切さを思い知って、親孝行をこれまで以上に行おうと意識したぐらいの名作
「書く勉強ッスか?でもナリアン神父様の所で色々と学んだッスよね?」
「はい」
「その時に黒板を使って色々とやったすね?
言葉を学んだ子供たちはそれを使って勉強するッス、俺もそんな感じに学んだッス」
「そうだったんですか!」
「そうッス、だからこそ…そうッスね『話せるなら紙を用意する必要ない』って文明になっていると思って欲しいッス
看板とか値札とかは加工した木材に書けばいいッスし」
そうゆう形で紙が無いという文明もあるんだな
一応、あるにしたことはないとは思っているけど…だからと言って紙の作り方は覚えてないし、変にこの世界の文明を開花させるのは気を付けたほうがいいのかもしれない
開花させまくって戦争の道具に使われて「こんなつもりで、技術を教えたわけじゃいのに…」とか作品でいくつも見たことあったし
それにしても木材に書くか……細い木に文字を書いたモノ、木簡みたいだな
「……あ、魔物ッス
任せるッス」
「あ、分かりました」
なんだかシームレスに魔物が出てきた
ちょっと慌てながらも武器を準備してまた倒していった
「じゃあ、また戻っているからねー」
「よろしく………おねがいします」
2人はまたも馬車に戻って行った
さて……慣れてきてそろそろ俺もやってみようかな
「タスメさん」
「どうしたッスか?」
「見ているのは結構慣れてきましたので、ちょっと解体をやってみてもいいですか?」
「大丈夫ッスか?最初の頃は吐き気を催していたようだったッスけど」
「その事があっても、やってみたい気持ちがあります」
「分かったッス、じゃあこのナイフを持って欲しいッス」
目の前にいるのは頭が全部牙でできている魔物
何度か見ている魔物で確か頭の牙が回収できるんだったような
「首を切ればいいって感じッスけど、普通にナイフを入れるだけでは骨に当たって切れないッス
だから、頚椎を…こう!と言う感じにやれば簡単に切れるッス」
………具体的なやり方と言うよりかは、タスメさんは感覚で教えていた
「こう!」って言われても
もしかすると、思った以上に切りやすいのか?そう思ってナイフを大体の位置に入れてみて……
「かっ!?硬い!」
「そこは骨ッスね、もうちょっと頭に近い方がいいと思うッス」
「えっと、こうかな?」
タスメさんに言われた通りの場所を切ってみると、骨から肉になった感じになってナイフが入っていく感覚がした
魔物の戦いだと、一気にズバッっと行けるとこであったけど
解体ではナイフを前後に動かしてざくざくと切っていく
料理経験も全然ないから肉を切っていく感覚に…こみあげて来るモノがあった
「……うっ」
「そこまでッス、頑張ったッスけど大丈夫ッスか?」
「…ちょっと危ないので…水を飲みます」
そう言って水を飲んでいると、背中をさすられた
…優しくて、こみあげてきたものがスゥッっと消えて行く感覚がした
「あっ…ありがとうございます、結構楽になりました」
「よかったッス、回復魔法を軽くかけて置いたッスからね
じゃあ残りは俺がやっておくッス」
変に無理をして吐いて掃除の手間を増やしてしまうのは良くない
この世界のリンゴを食べたばっかりだし、下手すれば胃酸が凶悪になって食道に致命傷を負ってしまうかもしれない
ここはタスメさんに甘えるのもいいと思う
「……時に勇者ソラアミセント」
「ん?急に改まってどうしたんですか?」
「何日も経過した時ッスけどそろそろ勇者ソラアミセントは柔らかい話し方をしてもいいと思うッスけど」
「つまり、俺が品子さんや蜜巳さんと話しているようにして欲しいってことですか?」
「そうッス」
そういえば、馬車に乗ってから数日は経過している
今までの3人と違って結構早い気がするけどいいのかもしれない
「じゃあ、これからもよろしくな、タスメさん」
「ああ、よろしくッス」
そう言ってナイフを返しながら握手をして行った
魔物の解体が終わったのちに、馬車に戻ってヒューラルへ向かっていくことにした
戻ったのちに品子さんと蜜巳さんにタスメさんと関係が深まったことに関してとても喜んでいた
…特に品子さんは、俺が名字じゃなくて名前で呼ぶ時に積極的に動いていたしな
翻訳魔法に関する話も結構聞けたし、有意義な時間を過ごして満足な気持ちになっていった
こちらの小説内の翻訳魔法は、ただのご都合主義でなないぞ!
……って思います、少し力を入れて書きました




