補給がある、少しの人助けもある
パニックはすでに収まっており、列は順調に進んで行った
あれから騒がれる事は無かったけど周囲の人達はチラチラとこちらを見たり、コソコソと不安な話をしていたし、門番へ資料を見せるなどの手続きが済んだ人や馬車は逃げるように足早にヒューラルエクジトへ行く
本当にパニックにはなっていないことはまだマシってことなのだろうか
居心地が悪い中でようやく自分達の番なった
「あの……」
「……ッス」
「どうぞ、早めにお通りくだサィ!」
タスメさんは静かに令状を差し出すと他の誰かよりも速攻で手続きは終わった
門番の人はちょっと声が裏返っている感じがする
「大変な中、お仕事お疲れ様です!」
「………しーちゃん?!」
「こっ、これぐらいは言わせて!大変そうだったし!」
「…………分かった…………お疲れ様です」
馬車が進もうとした時に後ろから顔を出して品子さんは大きな返事をした、挨拶はしないと言っていたけど、こういった感謝は確かに大切だ
俺も少し顔を出して挨拶をする
「あの、お疲れ様です、お仕事頑張ってください」
「あ……あっあっ………ああ」
しどろもどろになりながらも、何とか挨拶を返されたようだ
この国に入る時は完全に雑な対応をされたけど、ヒューラルエクジトでは少し…大丈夫なのかもしれない
1人個人しかまだ見ていないが
そう思いながらも街中へ………
ヒューラルエクジトに入って、あまり身を出さないように周りを見渡してみると街中の風景が見えた
基本的には王都セカンドルトと同じように赤い瓦屋根に木組みと白い石造りの建物群が並んでいる
でも見た感じ結構な違いがあって、王都セカンドルトは民家や教会などの建物が一通りそろっているような個性豊かな造りになっていたけど
ヒューラルエクジトは主に店関係の建物が多く見える、釣り看板やスタンド看板を見てどんな店か何となく分かる
RPGにあるような武器や防具屋の店、魔道具なのかアクセサリーの店、レンタルなのか馬と馬車がある店…と豊かに多彩にある
あまり文明の知識に詳しくないけど、こんなに店があるなら何か商業が盛んなんだろうか?
タスメさんが言っていた通り補給するにはピッタリな所に見える
光景を堪能したかったけど、周りからの視線は未だに強く感じて気になってしまう
「こんにちは!
それとも、おはようございます!」
「………お……………おはようございます」
「おはようございます」
「…………はぁ」
「こ……こんにちは」
いつものように、挨拶をすると
セカンドルトの初期のころのように挨拶を返す人もいれば、無視をしたりする人もいる
この街に長く居続けることになれば、挨拶し続けて誤解のようなものは解消されるとは思うけど
勇者として長居はあまりできないと思っている
タスメさん曰く、補給目的で寄った町だから
「さて勇者達……ここから先は様々なのを補給するッス
それらが終ってからこれから先の予定を話すッス」
「補給ですか、最初は何をですか?」
「まずはこれらッス」
そういって、タスメさんは乗っている馬車や馬を指さした
「馬の調子と馬車のメンテナンスをするッス、どこか調子が悪かったら立ち往生してしまうッスからね」
「そういえば、転移魔法とかでの移動はないのですか?
俺たちは召喚されてきた勇者だからその手の魔法などは…」
まあ…馬車とか沢山見えているから、マナで何でもできるとしても馬車が主な交通手段と考えてみるに多分存在していない…と思う
ゲームとかだったらファストトラベルという一度行った町に一瞬で行ける機能があったりするけど……
「うーん…魔法の理論上は可能らしいッスけど、膨大にマナを使うらしいッスし
実用性はないッスね、もしかすると俺の知らない魔道具で出来る可能性があると思うッスし
とりあえずは現在は不可能ッス」
「やっぱりそうでしたか……」
「できてたら………………もう移動してますよね…………〇ーラみたいに」
「え?ポケ〇ンのそ○○とぶとかタ〇シーとかできないの?!」
「え?なんッスかそれ?」
「えっと、俺の世界のゲーム……えっと遊びであった『一度来たことのある街に一瞬で移動できる魔法』みたいなものです」
「便利ッスね
話を戻すッスが、まず馬車と馬はあの入り口にあるあの店に一旦おいて行くッス」
さっき視界に入った馬車をレンタルできそうな店を指さした、馬車のことについても詳しそうだ
そう言って一度俺たちはそれぞれの武具を持ち馬車を出る
「いらっしゃいま……うわっ!?」
「おはようございます!」
「おは…………ようござい…………ます」
「おはようございます」
「おはようッス」
「えっ、あ、おはようございます?」
「うわっ!?」って言っていたけど挨拶をしたら普通に返された
陰湿な作品では扱いの悪い主人公に対して高額請求や待遇を悪くしたりととんでもない贔屓をされるとかあったけど
どうやら変に店の待遇が悪くなることはなさそうだ
「こういうモノッス」
「やっぱり勇者達ですか……えっと要件は」
「馬と馬車の様子を見て欲しいッス、昼から夕方ぐらいは帰って来るッス」
「わ、分かりました」
「代金も渡しておくッス」
そう言いながらタスメさんは店を出て行った
俺たちも「よろしくお願いします」といって店を出て行った
「と言う訳で、ここから先は食料などの補給をするッス
俺は買い物や魔物から狩った奴を売りに行くッスけど…あー、勇者たちはそれまで自由に行動していいッス
時間が近くなったらまたこの店の前に集まるッス
…………礼儀正しいから大丈夫と思うッスし」
最後にボソッと言っていたけど、いつもの事だから聞かなかったことにしよう
「え?自由にしていいの?」
「まあ、ヒューラルエクジトを出たりとか、あまり遠くに行かなければいいッス」
「3人で……………行動したほうが………いいですよね?」
「そうッスね、この街はまだ小さくても初めての場所となると迷子になるッス」
「そうなると、王都セカンドルトで持ったようないろんな魔道具が……」
「こちらを渡すッス、中の賃金はあの時よりも少ないッスがこの時間を過ごすには十分と思うッス」
「あっ、ありがとうございます」
タスメさんから貰ったのは、あの休日に貰った皮で出来たカバンだ
小さいクリスタルの探知機のような魔道具もついていた
「じゃあ、俺は言ってくるッス
どうかお気を付けてッス」
「行ってらっしゃ~い」
「行って………らっしゃい…………」
「行ってらっしゃい」
街中へ歩いて行くタスメさんを見送って俺たちはなんだか久しぶりに3人になったような気がした
「ねえ、どうする?挨拶しながらあちこち散歩する?」
「うーーん…………………なんか………」
「取り合えず今は…」
って言いながら周囲を見ると、こちらを見ながらヒソヒソと話している人が何人かいた
勇者と気づいた人が不安そうに話している様子にしか見えないな……
「大きい声で挨拶と言うよりかは、普通の声で挨拶したほうがいいかな?
あまり大きな声で挨拶をすると周囲の人達が驚いてしまうから」
「………威嚇………………みたいになるかならね」
「分かった!おはようございます」
そう言ってさっきまでひそひそ話をしている人に真っ先に挨拶していった
相手の人は……非常に驚いたのか逃げてしまった
「あっ!ちょっと!」
「しーちゃん…………もうちょっと落ち着こうよ……………」
「うーん、難しいよ!」
「………」
とは言っても、挨拶しているだけでは進展は進まなそうだ、時間も限られているし
信頼を壊すのは簡単と聞くけど、逆に信頼を得るのは本当に難しい
何か挨拶できそうな人は……ん?
「ちょっといいかな、蜜巳さん、品子さん」
「ん?」
「どうした……の?」
「あっちの方、人が困っている様子が見えたから行こう」
「分かったよ困っている人は助けないとね!」
「あっ…………ちょっと……………待って!」
後になって思えば
丁度人助けできて信頼を…とかそんな打算的な下心は一切なかった、キョロキョロと話かけて挨拶できそうな人を探していたけど
困っている人を見かけたら、自然と体が動いた
この世界に来て勇者としての自覚ができていたのかもしれない
「おい!誰か!誰でもいいから手伝ってくれ!」
向かって行った場所にいたのは1人の60代ぐらいの初老の方がいた
この異世界の馬がいたが何か息切れを起こしており座り込んでいる
そして、引っ張っていたであろう馬車の車輪が外れており、荷台に載せていた球体で青リンゴのような果物が落ちて周囲に散乱していた
遠くから見た時は「困っている様子」しか分からなかったけど近寄ってみれば大変な状況なのがまるわかりだ
周りの人達は動こうとしていたけどそれよりも先に………
「手伝います!」
「手伝うよ!」
「ま………まって…………手伝い…………ます!」
早く助けたいという気持ちが前走った
「おお!?いい感じに若い人が!助かるから取り合えず落ちたリンゴを集めてくれ!」
「はい!」
「分かった!」
「……えっと……はい!」
取り合えず、持っていたマクスラスは一旦背中に置いとく、蜜巳さんも品子さんも武器を背中にしまって
しゃがみこんで一つ一つ拾っていく、集める場所は取り合えず箱の中でいいかな?
食べ物だから雑にいれるわけにはいかない、丁寧に入れていく
そういえば、この果物は「リンゴ」って名前なんだな、見た感じは青リンゴだけど馬みたいに翻訳魔法の影響で「同じ言葉だけど現世と異世界で形が違う」と言う形だろうか?
「ありがとうじゃ!そうやって優しく置いてくれよな!」
「……なあ、おい」
「あの3人って……」
くっ…なんか嫌な感じの話し声が……いや気にするな!
何か手助けに夢中の最中に、主人公の悪評を広めるような展開で何度も見た時の「始まりの終わり」のような言葉が聞こえたけどスルーだ!
とにかく拾い続けよう
「おいじーさん、あの3人は………」
「おお、人ではいくらでも欲しい!お前たちも手伝ってくれ!」
「いやあの、この人たちはゆう………」
「口よりも手を動かしてくれ!手伝わないなら邪魔だからどこか行ってくれ!!」
おじいさん、ありがとうございます
勇者って言われたら追い払われていたかもしれないけど、その覇気があれば変に口答えする人はいないだろう
さっきの2人組は……黙々と拾い集めて行った
よかった、どっかに逃げたりしなくて…そうなると、後から沢山の人を引き連れて野次馬まみれになるとかそんな展開も見たことあったし
「これと!これ!」
「よいしょ………ん……………しょ」
「これと…これと…」
「いやー本当に助かるよアンタら!
これとこれ……これも…」
6人で拾っているけど、それ以外にも多分必要な事がある
馬車の車輪が外れており、馬もなんだか疲れている
この青リンゴのような物を拾い終わっても馬車は出発するのは難しそうだろう
「…ん?もしかして、アンタらって勇者か?」
「え゛っ?!」
「はい!人助けするのが勇者だから!」
「がっ……………がんばります!」
「おお!カッコいいな勇者!助けてくれるなら良い勇者でも良い魔物でもなんでもいい!!
それならどんどん拾ってくれよ!」
一瞬バレて身構えてしまったけど、勇者とか関係なしの対応で本当に良かった
さっき、俺たちが勇者と言いかけた2人は「マジかよ」って表情でこっちを見て…やばい、ちょっと目が合ってしまった、気まずいと思ってしまったけど一礼したら向こうも返してきた
良かった…噂とかに関することで怖い人と思っていたけど、大丈夫そうだ
「おお!拾うののありがとうな!」
そう思っている内にリンゴは拾い終わった
荷台にあった積み荷も再び崩れる二次被害を警戒して一旦下ろしていった
でも、これだけでは終わらない
「他に手伝うことはありますか!?」
「おお!?いや、リンゴを拾ってもらっただけでも結構助かったんだが、誰か治療できるのはいるか?」
「はい!あまり経験ないけどできます!」
「私も…………治療は出来ないけど…………………馬のことは王都で学んだので………………見ることできると思います!!」
「じゃあ、馬たちを治療してくれ!車輪が外れて足を怪我してしまってな!
じゃあ、男の人らは馬車の修理を手伝ってくれ!!荷台や車輪を持ち上げてくれるだけでいい!」
「はい!分かりました!」
「えっああ…分かった」
「お…おお!」
二人組の男性の片方は近くの車輪を拾ってきた、けっこな大きさではあるけどマナの身体能力上昇なら問題ない
俺ともう片方の男性は車輪が無い馬車の方を持つ
「行きますよ?せーの!」
「おりゃあ!!」
声掛けをするとキチンと相手の男性は持ち上げた、マナのおかげなのもあって荷台の荷物を降ろしているのもあって持ち上げられる
車輪を持っている人が中の軸をはめていき、そこにおじいさんは留め具のような杭を打ち直していく
あまり詳しく構図は見えなかったけど、これで安定したのかもしれない
「よし…よーし!もういいぞー!」
そう言われて手の力を抜くと、車輪はしっかりと固定された
これで馬車は直った
「はぁ…ハァ……お2人もお疲れ様です」
「え……ああ、あの」
「その…」
「どうしました?」
「……偏見を持ってすいませんでした!」
「悪い人と思っていてすいませんでした!」
「いえ、大丈夫ですよ!王都でもよく怯えられていましたので
でしたら、ちょっとお願いがあります」
「な…なんでしょうか?できることでしたら?」
「俺たち『は』怯えなくてもいいこと
その事をヒューラルエクジトの人達に伝えて行ってください」
『は』って強調した
今まで怯えられている「何か」と比べられているのは知っている
そいつらとは決して違う事を理解して欲しいという気持ちがある
「お馬さん治ったよ!」
「足の怪我…………治って良かった!
…………元気になって良かった!」
「おお、すごい!本当に助かった!!5人とも助かった!!!
おにーさんの言っていた通りいい勇者って業者仲間に言って多くぞ!」
「助かります、ですがまだ手伝います。
一旦下ろした荷物を荷台に乗せていきましょう」
「おう!いいな!よしみんな!片づけるぞ!!」
そう言ってバケツリレーするかのように箱を持つ人、荷台の中継、中にいる人と別れてどんどんと積んで行った
気が付くと、手伝ってくれる人が少し増えていき置いていた荷物もどんどんと減っていく
俺たちが勇者とかで怯えている人もいたけどそんなことも関係なく、リンゴの箱を乗せていった
「よし…よし!本当に助かった!!これで元通りだ!ありがとう!!」
「元に戻って何よりです」
「全部なおってよかったよ!」
「………はぁ……はぁ…………直った……よかった」
「おい!勇者達と手伝った人ら!
これだけですまないが、1人1つリンゴをあげるぞ!」
ざっと周囲を見ただけで10人近くはいるけど、おじいさんにとっては大丈夫なのだうか?
商人の人らしいし利益は…いや、善意は素直に受け取って置こう
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
「あり………がとう………」
「よしよし、これで全員だな!本当に助かった!勇者達も達者でな!」
そう言っておじいさんは町の中心の方へ馬車を進めて行った、去っていくその背中を手を振りながら眺めていた
「…なあ、あんがい勇者ってい良い人じゃないか?」
「ああ、俺もあの荷台もち上げた時にちゃんと力を込めていたし」
「積極的に手伝っているの見たし、なんならおじいさんが助けを呼んでいた時に真っ先に三人共駆けつけていたの見た」
「すごい丁寧な人たちだったな…」
……どうやら、俺たちの行動を見てちょっと考えを改めてきているようだ
このまま偏見が治ってくれたらいいが
「……おっ、いたいたッス」
「あれ?タスメさ…」
そういえば、おじいさんを助けていて気が付かなかったけど空を見てみればもう昼か…
って考えてタスメさんの声が聞こえて来た方を見ると……大量の荷物を抱えていたタスメさんがいた
1人で持てるのか!?それ!?てか正面見えているのか?!
俺たちが持っていたリンゴの箱の10個分はあるんじゃないか!?
「デッ……デカ過ぎんだろ…」
「すっごい!こんなに持てるの!?」
「余裕っす、戦闘以外は何でもできるッスからね」
「お……多すぎます………」
「何かしていたッスか?」
「あっ、ああ、ちょっと馬車が横転した人がいまして、助けていました」
「…凄いっすね、自由時間で人助けをするって
って、そのリンゴは助けたお礼ッスかね?」
「そうです」
「自由に食べていいッスよ、俺は荷物を馬車まで持って行くッスから
そろそろ、メンテナンスが終わると思うッスから」
「分かりました」
そう言ってリンゴをカバンに入れてタスメさんの荷物を持って手伝うことにした
……けど、リンゴの箱に比べたら結構重くて、これを沢山持っていると思うと
思った以上にタスメさんは力持ち過ぎるんだ…戦闘以外できるって言っていたけど本当に凄いな…
あの馬車を預けた所へ行くと少しの間待つ事になった
そのちょっと間に貰ったリンゴを食べてみた、いつものように味が濃くて甘みが強いと思っていたが
「うお!?すっぱい!」
「うぅうぅぅぅううぅぅうぅぅぅう~~~~~~!!!!」
「…………っ!!っ!!!!」
味の濃さは酸味に極振りをしていたようだ、でも貰い物だったし芯も残さずに完食して
品子さんは悶えながらも完食して、蜜巳さん眉間を抑えながら……半分以上は品子さんにあげた
そんな異世界のリンゴを食べ終わるとメンテナンスも終わったようで馬車に乗りヒューラルエクジトを去ることに、去る時に周囲の人達の声を聴いてみたが来た時よりも結構マシになっているような雰囲気がした。
俺たちがリンゴの商人のおじいさんを助けたことがあっという間に広がって行ったらしい
功を奏したっていう物なんだろうか、タスメさんが言っている首都でも同じようなってくれたら……




