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勇者はいる、主人公はいない  作者: 虹鳥
プロローグ・王都セカンドルト

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31/58

昔ばなしがある、ふざけは無い

「俺はなーやりたいことが多かったんだ、いろんな夢を叶えたいという事とかじゃなくてなー」

「じゃあ、どういったことだ?」


兵隊長は話し続ける、いつものような適当さは少し混じった口調ではあったけど

……何か真面目な雰囲気も感じた


「俺はなー戦闘訓練の時に口癖でよく言っていたことがあるだろ?その事だよー」


どれだ?確かに同じような事を色々と言っていたけど……


「俺はこんなナリをしているけど、この国を守る気持ちはちゃんとある

小さい頃から傭兵とか兵隊とかの仕事に憧れていて、色々と勉強して今のような兵隊長になったんだ」

「……不真面目な所は多いですが、先ほどのような魔物が王都セカンドルトに攻めてきた時はキチンと守っています。いつもこうでしたらいいのですが…」

「一言余計だぞー」


いつもサボってはいるけど、兵隊長は俺たちの仕上げをする前に魔物と戦っていた

本当にいつもサボっている人だったら兵隊長どころか兵隊にすらなれなかったんだろう


「兵隊になった時に当時の兵隊長に武器を使うか?って聞かれて

俺は臨機応変に戦えるように、万能になりたくて

いろんな武器を鍛えるようになったんだ」


……ここを聞いて俺は1つ分かったことがある、さっき話していた「口癖」が何かを


「魔法だって、武器だってなんだって扱えるようになりたかった

槍も盾も大小さまざまな剣も弓矢も治癒魔法も攻撃魔法も召喚魔法もだ

それ以外にだって扱いたかったんだ」

「もしかして…………そんなにたくさんやった結果って…………………」

「あーそうだ、確かに知識は出来たけど強くはならなかった、どれも中途半端

俺がよく言っている『器用貧乏』って奴になってしまったんだ」


俺たちが初めて武器を手に取ったり魔法を学ぶ時によく言っていた言葉


“器用貧乏”


それは、自分自身のことを指していたのか…まるで「自分のようになるなよ」って言っていたことに初めて気がついた


「前線で戦ったりとか、魔物と戦いとかは全然平気なんだけどよー

でも、対人戦は苦手でな…一貫して1つの事や2つの事に強くなった人には負けるんだよー

んでさーセントー」

「え?なんだ?」

「前に休日の時にさー、俺たちで路地裏に行ってあいつらを捕らえただろ?」

「そうだな、その時に呼び方を変えたし」

「あの時に仲良くなったのが分かったよね!」

「盗人のような半端モンは普通に勝てるからどうでもいいんだけど

その時にちょっとした理由でセントに足をひっぱたかれた時があったんだけどなー」

「足を引っ!?引っぱたかれたの!?優しい千斗が!?兵隊長がなんかしたの!?」

「真っ先に俺を疑うの早いぞー」


………その話を引っ張り出されるとは思わなかった、あの時は風俗店に連れて行かれそうにツッコミでマクスラスの持ち手の方で引っぱたいた、事前に言ったのに彼女持ちの俺に風俗店を勧めたからだ

まあ、蜜巳さんと品子さんには言わないでおこう

俺は必死の抵抗して目を背きまくったから後ろめたい気持ちは無いけど、一応兵隊長とは友達になったから名誉をぶっ壊すのは流石に気が引ける


「何があったか男同士の秘密だー

アレはなー、もしもセントがまだまだ練習中だったらあれぐらいのは簡単に回避できたんだけど

アレが当たった時に発覚したんだ、もう俺の実力に近づいていたってことに」

「アレでか!?」

「そう、アレでだ

勇者アキハラシナコも勇者コヌマミツミも翌日の実践訓練の時も見ていて強くなったと思ったんだ

やっぱり一貫して強くなった人の方が器用貧乏の俺なんかよりも強いってことなんだな

さっきやった仕上げで証拠になったって訳だ」

「兵隊長………もしかして……………さっきのって、本当に手を抜いてなかったってことですか?」

「ああそうだ、勇者3人が偉く成長した証だぞー

俺は今まで通り戦っただけだぞー器用貧乏になるってこういうことだからなー」


俺たちは成長した、でもそのことに気がつかずに兵隊長が「手を抜いた」と思ってしまった

まるで、自己否定の強いキャラが自分の圧倒的な才能に気づかずに、自分を卑下すると共に遠回しに無自覚に他者を見下したりしているようなキャラ

そう思うと心の奥底から溢れるように申し訳ない気持ちが湧いて、湧いて

そう思うと自然に口から言葉が溢れて、体がすぐに動いた


「すいませんでしたあぁ!!」

「ごめんなさい!!」

「ごめん………なさい!」


蜜巳さんも品子さんも同じように、腰を90度曲げて謝罪をした


「偉いねー3人ともー

まあでも、最初に言った通り俺はとっくに割り切っている事だー

たしかに実力は他の兵士や傭兵と比べると俺は弱い、けれどもなー

色々学んだからこそ、武器と魔法の扱い方をうまく教えるのが出来るようになったんだー」

「俺のいた世界では、怪我の功名という言葉がありまして

失敗とかで悪いことが起きたと思ったら、思いがけない所でいい結果ができた

という意味になってます、まさしくそんな感じだな」

「怪我の功名かー、確かになー

まあ、兵隊長になるのは乗り気じゃなかったけど、こう見えてもまとめるのと褒めるのは得意だからなー

誰がどのような才能を持っているかってゆうのも理解している

例えば…ほらそこの」

「え?俺ですか?」


兵隊長は1人の兵士を指さした、臨時で隊長をやっていたリスト隊長……今はリストさんか?


「ああ、そうだリスト

多分このセカンドルトの中で1番強い、剣をめっちゃ極めているからな

俺と比べて分かりやすくするために、1回手合わせしてみるか?」

「ええーっ!?でも防衛線の後に仕上げして…お疲れではありませんか!?本人がいいならやりますけど……」

「私はいいや、体力に自信があるけど流石に疲れちゃった」

「私も………休みます……………」

「俺は…」


正直に言うなら、疲れているのはある

マナによって体力的なのは回復はしているけど、心境的には疲れている

休みたいような気持ちがあるけど、リストさんにまた出えるのかは分からない

今は平気だけど初めて会った時は他の兵隊と傭兵よりも勇者に怯えていた

もしかすると、まだ払拭しきれてない恐怖心でしばらく離れてしまい、こういった機会を失ってしまう可能性がある

本当に単なる「せっかく」だからという形で……


「せっかくの機会ですのでリスト隊長、お願いできますか?」

「あっ、分かりました、あともう臨時ではないので隊長は付けなくていいですよ」

「分かりましたリストさん!」


という事で、一旦リスト隊長と手合わせすることになった


「はぁ…兵隊長の気まぐれは本当に…ごめんなさいセントさん

セントさんはそんなにも無理をして大丈夫ですか?」

「平気です、高揚感があるからかもしれません」

「無理しないでねー!」

「千斗さん…………」


2人は、応援というよりも俺の身を案じているような言い方をしている、蜜巳さんはどうか分からないけど品子さんはリストさんの動きを見ているから、それで心配されているのかもしれない

結構無理をしているようにも見られているのかもしれない


「よーしでは準備はいいか?」

「ああ!」

「行けます」

「じゃあ、開始ー!」


その声を聞いてマクスラスを構える

兵隊長とは戦ったことはあるけど、リストさんとは今日初めて会ったばっかりだ

今の所は剣を持ったまま動きは無いけど何をしてくるのだろうか?

そう思いながら普通に1回瞬きした


「はい!」

「え?」


何があったのか分からなかった

瞬きをしている間にリストさんの姿が消えたと思ったら至近距離にいた

そして剣を向けられていた


「え?え?え!?今何が起きたの!?」

「動きが…………早すぎない!?」


蜜巳さんと品子さんもも非常に驚いている

状況が未だに理解しきれない、視線を少し下に向けるとリストさんの剣先が俺の首のすぐそばにあった

それを見たとたんに、ようやく理解したのか、一気に冷汗がでて、しりもちをつくように座り込んでしまった


「あ、え、…降参だ」


本能によるものなんだろうか、自然と口から降参の声が出た

え?今瞬きをしている間に接近されたの?

下手すれば品子さんの突撃よりも早くなかった?そのうえでこんな至近距離で止められるコントロールの良さ?一貫して強くなるとこんなにも………ヤバいの?


「はい、模擬戦ありがとうございました

そして、ご無礼をすいませんでした!!!」

「い……いや、同意の上で戦った訳なので大丈夫だ、じゃなくて大丈夫です」

「な?俺なんかよりもめっちゃ強いでしょー?」

「はい、何が起きたのか分からない…って気持ちの方がすごかったですが」

「まあー、一貫して強くなるってことは、言わばこうゆうことだ

これだけの強さがあれば国を守ることができる

俺の自慢の部下の1人だ」

「今回の戦いは心配な所もありました、大型の魔物に大軍…専門外の空飛ぶ魔物

勇者様方がいましたから俺たちも安心して戦えました!」

「心意気もこの通り、俺よりも優れているんだー」


勇者よりも強い、そういった場合って「なんでそっちが戦わないんだろうか?」って思う時があったりするけど、この世界の場合だとそれぞれの役割が存在しているからだろう

ガリウス兵隊長、ナリアン神父、リストさんは王都セカンドルトを守るのであって

俺たちはアミルクリスタルを回収して、空高くにある魔王を討伐

そう思ったら、誰もが出来ることと出来ないことは違っていてお互いに役割が与えられてバランスが保たれるようなものだ

他の人の手伝いをすることはあれど、完全に観賞してまで手伝ったら空きが出来てしまい、バランスが崩れてしまう

器用貧乏とガリウス兵隊長は言っていたけど、それでも彼なりに割り切っているなら……今の立場の方がいいのかもしれない


「まあ、とにかく、俺はこれまで通り手を抜いて生きることにするからなー

真面目な時はちゃんと真面目にするしー」

「はぁ……王都を守る時だけでなくもっとまじめな時が多くなるように叱っておきますから」

「勘弁してくれよー神父様~

さっきの仕上げだって早く終わりたいからってちょっと手を抜いて、あ」

「……」

「……」

「……」


…オイ、今何つった?

手ぇ抜いた?って?


「今のは冗だ……」

「ガーリーウースゥゥゥゥゥゥ!!!」

「セント!?」


怒っているわけではない、これは壮大なツッコミだ

マクスラスの刃の方ではなく持ち手の部分を振り回しながら兵隊長を追い掛け回す、とりあえず軽く痛い目に合わせないと気がすまないような、そんな気分だからだ


「手ぇ抜いてたんじゃねえか!!今の俺の謝罪を返せ!おいコラアアアアアアアアアアアア!!!」

「おわー!?オイ!その槍の手持ちを振り回しながらこっち来るなー!」

「千斗さんが………怒った!?

こんなにも………………えっと、感情的になるの!?」

「でも、仲良しそうだね!」

「…ええ、男の人って元気ですね」


そんな、それぞれの感想を述べている女性人たちの会話をよそに、俺は傭兵と兵士達の防衛線の後始末が終わるまで追い掛け回していった


……

……


「ゼェ……ゼェ……3発は痛かったなー」

「はぁ……はぁ……」


追い掛け回すのがようやく終わって、後始末も終わった頃

時間帯は夕方になっていた、そういえば朝食以降は何も食べてないから昼ぶっ通しだったんだな


「おなかすいたー」

「私も………………空腹です」

「ええ、戻りましたら食事にしましょう!」


その言葉を聞くと俺も腹が減って来た

この世界の食べ物は味が濃いけど、戦いという激しい運動をするから栄養の消化も激しい

気持ちの疲れもあって、この世界に来てから一番腹が減ったかもしれない

気がついたら開けられている門が見えて、全員でそこを歩いてく

門番らしき人は何回も頭を下げながら「ありがとうございます!ありがとうございます!」と言っており、俺らも「どういたしまして」と言いながらその場を後にした

そうして、王都セカンドルトに入ると……………


「勇者様方!本当にありがとうございます!」


真っ先にカイザムさんが駆け寄ってきた、そして避難していたはずの国民の人々は道の両サイドに並んで笑顔で手を振っていたり、両手を合わせて祈っていていたり、大きな声で「ありがとうーーー!!」って叫んでいたり、一種のパレードのようになっていた

俺たち勇者だけでなく、街を守った兵士と傭兵、ガリウス兵隊長にナリアン神父の事も祝われていた

人に感謝されるのは本当に心地いい

そう思いたかったけど…けれど1つだけ、違和感があった


「………うーん?いないな」

「千斗?どうしたの?キョロキョロして誰か探しているの?」

「ああ、何というか…俺たちはこの世界に来て初めて勇者らしいことをしたと思うんだ」

「そうですね……………目に見えて行える…………行動をしましたから

とてもうれしいです」

「だったら王様が来てもいいんじゃないか?と思うのだが…」

「確かに…………………でも、表に出ないというのも…………………王様らしいと思うのですが?」

「それもあるけど…」

「トラウマだったよね?これでも難しいってことなんじゃないの?」

「まあ、それなら仕方ないが、

せめていつか来る、この国を出てアミルクリスタルを集める行動するまでに見送りの1つは欲しいな…って思って」


でも、トラウマだから無理強いは出来ない

祝福パレードを見ながら王城に戻って行ったけど、結局最後まで王様の姿は見えなかった

……そういえば、俺たちは王様の名前すら知らない

勇者がトラウマだから「呼ばれる」こともトラウマなのかもしれない、この場合だと周囲の人に聞いても隠される可能性もあるのかな?

いつか聞いてみたいな、もちろん本人の口からで

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