49 あの人
鉄格子の嵌った小さな窓から外を見ていた。
青空を雲が流れていく、もうとっくに飽きた眺めだ。
だが、それでも完全に見飽きた室内よりはずっと良い。雲の形はいつも少しずつ違うのだから。
「あの雲は少しシロツメクサの花に似てるわ」
独り言を呟く。花なんて随分と見ていなかった。
コッコッとノックの音が聞こえた。ドアの方を振り向く。
目に入るのは、ベッドが一つに小テーブルが一つあるだけの、飾り気のない狭い部屋だ。
鍵を外す音がして、金属補強された木の扉がギィと開いた。
「はいはい、食事です。今日は丸パンとラズベリージャム、茹で野菜ですよー」
お盆を手にした茶色い髪の若い女性が入ってきた。そしてテーブルの上にお盆をポンと置くと、そのまま去ろうとする。
「あっ、あのっ!」
エミリー・ブランダ子爵令嬢は食事を運んでくれた女性を呼び止める。
この女性は彼女が接する人の中では会話をしてくれる方だ。
「どうしました? ラズベリージャムよりバターの方が好きとかですか? そのぐらいなら便宜も」
エミリーは「いえ、ラズベリーは嫌いではありません」と早口で言う。
お盆に乗せられた食事は質素ではあっても不味い訳ではない。最初は不満もあったが、そこはもういい。
「私はどうなるのですかっ!? もう長いことこの牢に居ます、裁判とかかけられるのですか」
女性は露骨に困った顔をする。
「そんなこと聞かれても、知りませんよ何も。前にも言いましたけど、私は囚人の世話を命じられているだけですから」
「でも、何か、何か動きとか知りませんか」
エミリーは食い下がる。最初は裁判にかけられるかもと怯えていた。法律や政治なんて全然知らないから、どうなるのかさっぱり分からなくて不安で泣いていた。
だが、今はせめて裁判が始まって欲しい。
「んー貴方には別命あるまで牢に入れろって命令が出てるとは、仕事仲間に聞いたけど、その別命がいつかなんて分からないですよ」
「だって、今日で何日目ですか」
「さぁ、私が関わってからは60日ぐらい? まぁ、元気出してください。そうだ食材が余ったから厨房の人がクッキー焼いてくれたんですよ。食器の回収のときに持ってきてあげます」
「……ありがとうございます」
別に欲しいのはクッキーではないが、しかし退屈な日々の慰めにはなる。エミリーは素直にお礼を言った。
女性は「じゃ、また」と言って部屋から出て行く。
ガチャリと鍵の閉まる音が大きく響いた。
足音が遠ざかると、部屋は静寂に沈む。エミリーの目に涙が滲んだ。
食事は健康的だし、布と桶の水で汗も落とせる。囚人としては配慮された環境だが、何の展望もないまま過ぎる日々は辛い。
「何よぉ……私ちょっと色仕掛け頑張っただけなのに……お父様とお母様もどうなったか分からないし」
ポロポロと涙が落ちる。
王城がベルミカ公達に制圧された日、エミリーはザルティオの私室で拘束された。女性貴族ということで最低限配慮された環境での虜囚生活となったが、処罰も何も下されないまま放置されていた。
ベルミカ公爵は忙しく、完全に彼女の存在を忘れていた。彼女の両親も国王派貴族として窮地に立たされ、娘は死んだのだろうと勝手に思っていた。ザルティオすら、たまに肉体を恋しがれど、身を案じたりはしなかった。
ふと、彼女のことを思い出したルディーナによって救出されるのは、まだずっと先の話。
読んでいただき、ありがとうございました。
ここで一旦完結にさせていただきます。
続きはそのうち書くかもしれませんが、とりあえずハイファン↓を完結させたい。
へっぽこ王女が追ってきた
https://ncode.syosetu.com/n0949hn/
続きを書く場合は、ロッシュとルディーナが自分達の結婚式に向けて頑張る話になると思います。
「何で私達の結婚式なのに、グラバルト皇帝とトグナ皇帝の直接会談実現が目標になっているんだろう?」と嘆きながら調整に明け暮れるルディーナさん。
広告下 ↓ の☆☆☆☆☆から、作品へ率直な評価を頂けますと、とても嬉しいです。




