40 メルナ
メルナは馬車に付いたランプを消すと、御者台の横に固定していたサーベルを腰に差し、馬車から飛び降りた。
場所は一本道、道の両側は草っ原で所々に木が生えている。周りに他の馬車はいない。
「騎兵は馬車を守ってください! 私は攻めます。道から外れて進み、横から突撃します。牽制射撃を!」
騎兵は「承知した!」と返すと、下馬して腰から短銃を抜く。
月明かりを頼りにメルナは走り出す。今日は半月だが、月に雲はかかっていない。メルナにとっては十分な光だ。
襲撃者がルディーナを狙ったのか、王家を狙ったのか、それは分からない。だが、何にしてもルディーナに向け発砲した以上、容赦はしない。
道から外れ、前傾姿勢で駆ける。
護衛の騎兵と襲撃者の双方から発砲音が響いた。ひとまず牽制は成功だ。
襲撃者の持つ銃がマスケット銃かライフル銃かは不明だが、もし命中精度の高いライフルだったとしても、夜闇の中で適当に撃って当たる距離ではない。無駄な発砲で装填済みの弾を消費させた。暗い中、弾薬包を破って火薬と弾丸を装填するのは素人には時間のかかる作業だ。
抜剣しつつ、距離を詰める。道に立つ襲撃者達がメルナに気付いた様子はない。敵はやはり10人、全員男のようだ。その中で周囲を警戒できているのは一人だけで、残りは困惑した様子で銃を構えている。恐らく周辺警戒をしている男がリーダーだろう。
襲撃者の横までたどり着くと、メルナは突撃する。
未だ、敵はメルナに気付かない。
一番端にいた男の首を目掛け、剣を横薙ぎに振るう。頚椎を断つ確かな感触、まず一人だ。そのまま素早く剣を引き、その隣にいた男の喉を突き貫く。刃を捻りながら引き抜くと、血が噴き出した。
流石にメルナに気付いたらしく、リーダーの男が「敵だ! 倒せ!」と叫ぶ。だが、襲撃者達は「敵って?」「何処だ!」などと騒ぐだけだ。
リーダーらしき男が銃を構えメルナに向ける。メルナは脱力し体を右に傾けると、左足で地面を蹴り右に跳ぶ。銃弾は脇を通り過ぎていった。そのままリーダーらしき男に向けて突進し、斬り付ける。両手首が飛んだ。悲鳴を上げる男の顎に回し蹴りを入れ、意識を刈り取る。
襲撃者はただ混乱するばかり。
こうなれば後は”作業”だ。メルナは刃を振るい、次々と襲撃者を仕留めていく。残り4人になったところで、襲撃者たちは一斉に逃げ出した。
メルナは小さく笑う。バラバラに逃げるならまだしも固まって逃げている。
矢のように駆け、逃げる襲撃者を後ろから斬り付ける。狙うのは足の腱、刃を振るう度に悲鳴を上げて倒れていく。程なく逃げた全員が地に伏せる。
できればリーダーらしき男も生かしておきたい。メルナはすぐに踵を返して男に駆け寄ると、止血帯を使う。腕が壊死しても知った事ではないので、力任せに締め上げる。
止血を終えると、メルナは馬車の所まで急いで戻った。騎兵達が駆け寄って来る。まずは騎兵達に状況を伝える。
「終わりました。敵は10人、うち5人は死亡、両足の腱を斬った4人と両手首を落とした1人が生存しています」
「承知した。生存している賊は私が拘束しておく。メルナ殿は他の3騎と共にルディーナ様を急ぎ城まで」
「承知しました。馬車のランプは点けたくない、騎兵側で周囲を照らして貰っても?」
「承知しました」
騎兵とのやり取りを終えると、メルナは急ぎ馬車の御者台に登る。
「お嬢様、終わりました。出します。念の為、そのまま伏せていて下さい」
ルディーナの「了解!」の声と同時に、メルナは馬車を走らせた。




