29 ロッシュ怒る
「いい度胸だ。我々は少々新聞社とやらを甘やかし過ぎたかもしれん」
ロッシュは新聞『バーグフレジェス』を机の上に放り投げる。
「ええ、全くですな」
落ち着いた声でそう返すクロードも、目は笑っていない。
「さて、どう対処するか……気持ち的には今から力で潰したいが、まぁ悪手だな」
今から兵士を引き連れ『バーグフレジェス』の社屋を制圧し、主だった幹部を不敬と外交機密暴露で逮捕することもできる。しかし、それだとまるで"認めた"かのように見えてしまう。
「ですな。となれば――」
コッコッとドアがノックされた。
「メルナです。コレッタもおります。少々よろしいでしょうか」
外から声がする。ロッシュは「入れ」と返す。
ドアが開く。入ってきた2人の表情は硬い。記事を見たのだろう。
「これの件か?」
ロッシュは『バーグフレジェス』を指差して問う。
「はい。その件でごさいます。ルディーナお嬢様がかなり弱ってしまいまして」
ロッシュの怒りが一段階上がる。もう、どう見られても良いから攻め込むか? 逮捕なんて面倒なことをせずに榴弾砲をぶち込んでやれば気分も晴れそうだ。
「殿下、暴走してはなりませんよ」
不穏なことを考えていると、クロードが釘を刺してくる。
「すまん。ちと榴弾の魅力について考えてしまった」
メルナが目に怒りを秘めたまま、口を歪めて笑う。
「確かに大砲も素敵ですが、今回の状況なら"真実"が一番有効でしょう」
「真実か……しかし面白い虚偽の方が強いのが世の常だが」
スキャンダルを淡々とした否定で打ち消すのは難しい。醜聞を否定するのは当たり前だし、"問題はなかった"という結論は民衆にとって面白くない。
特に今回はルディーナの引き渡しという主要な部分は真実なので、信憑性という面からも厳しい。
しかし、クロードの反応は違った。メルナに大きく頷く。
「なるほど"真実"ですか。それですね」
「……案があるなら聞こう」
「はい。僭越ながらご提案させていただきます」
メルナが説明を始める。なかなか大胆な作戦だ。
「クロードはどう思う?」
「やりましょう」
即答、クロードは乗り気のようだ。
ロッシュは提案を吟味する。まぁ、仮に失敗しても王家に大したダメージはない。国王陛下の同意さえ取れれば悪くはないか。
「分かった。休日に悪いが皆を集めよう」




