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10 侍女が増えました



 図書館でメルナを見つけた翌日、私は王城の応接室にいた。部屋の中には私とメルナとクロードさん。


 メルナはベルミカ公爵(お父様)の代理としての書状を持っていたので、ベルミカ公爵家の使者として取り次いだのだ。


「メルナ、こちらはクロード様。ロッシュ・ヴォワール王太子殿下の執事をされているわ」


 メルナは恭しく頭を下げる。


「ベルミカ公爵家に仕えるメルナ・トミニコと申します。場を設けていただきましたこと、御礼申し上げます」


「クロードでございます。さ、座りましょう」


「改めて。安心してね、メルナ。フレジェス王家に客人として遇して貰えて、楽しく暮らしているから。郵便が回復したら手紙も出そうと思っていたのだけど。心配かけてごめんね」


「はい。クロード様、我が国の愚行にも関わらずご配慮いただき、感謝の言葉もございません」


「いえいえ、歴史あるベルミカ公爵家の御令嬢、当然の扱いでございます」


「その、ルディーナ様の生活にかかる資金についてはベルミカ公爵家で負担させていただければと存じますので」


 メルナの言葉にクロードさんはゆっくりと首を横に振る。


「申し出はありがたく。ただルディーナ様は翻訳などの仕事もしていただいておりますし、ヴォワール家が客人とした以上はコチラで負担させていただきます」


「……承知いたしました。御恩は何かしらの形で」


「それで、メルナ殿は今後はどうされますか? ルディーナ殿の侍女として滞在を希望されるなら、そのように取り計らいますが」


「ありがたいお話ですが、良いのですか?」


「はい。元々使用人を連れて来られると思っておりましたし。加えて、実はルディーナ殿に護衛を付けようかと検討していたところでして。失礼ながらメルナ殿は護衛を兼ねていた方では?」


 護衛? そんな話があったのか。何でだろう。

 ……そうか、ロッシュ殿下のスタッフとしてある程度『情報』を持つ立場になったからか。ネイミスタの治安が良いとはいえ、コレッタと二人でふらふらしているのは良くないかもしれない。

 そして、メルナは確かに私の侍女兼護衛である。


 メルナは少し驚いた顔をして、頷く。


「はい。ご存知でしたか」


「いえ。ただ歩くとき体幹にブレがありませんし、部屋に入ったときの視線の動かし方も訓練された方のソレですので」


「なるほど、流石はヴォワール家に仕える方でいらっしゃる」


「腕が確かで信頼できる女性の護衛となると、余り候補がおりませんで。メルナ殿が務めていただけるなら好都合です」


「私としては願ってもないことです。ルディーナ様もそれでよろしいですか」


「うん。もちろん。コレッタと2人体制になるのかな?」


 コレッタさんが外されることはないだろう。彼女は私の監視も兼ねている筈だ。

 ロッシュ殿下やクロードさんは私を信頼してくれているだろうが、対外的な面もある。『外国人を王城で好きにさせて良いのか』とか言われたときに『ちゃんと監視してます』と返せるのは大切だ。


「ええ。コレッタも引き続き侍女として付けさせていただきます。メルナ殿の武器の所持について、許可の稟議を上げておきます」


「重ね重ねありがとうございます。それと私の他に10名、フレジェス入りしております。彼らは帰りの船が確保でき次第帰国させますので……平にご容赦願います」


 最悪の場合に実力で私を救出するための戦闘要員が10人。下手をすれば外交問題だが、昨日もう私からロッシュ殿下に謝っておいた。


「聞いております。所属と所在が分かっていれば問題ありません。急がずとも観光でもされて行かれれば良いかと」


 メルナが「恐れ入ります」と再び深く頭を下げる。


「それでメルナ、ゼラート王国の方はどうなってるの?」


「はい。一連の顛末に旦那様は激怒しております。兵力の一斉引上げをかけた上で廃嫡の要求をするとのことです」


 やはり、そうなるか。内戦が避けられると良いのだが……


 私は東に顔を向ける。もちろん応接室の壁しか見えないが、その遥か先にゼラートがある筈だ。

 お父様やお兄様はどうせ大丈夫だろうが、友人のことは少し心配だった。王都で役人をしているジラルドやその妻のダリアあたりは不安だ。




読んでいただき、ありがとうございます。


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