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王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第一楽章 トゥアール王国の王女殿下
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第4話 倉庫部屋と近衛騎士隊副隊長

「何で、ここ?」


 鍵を閉め、執務室から前室を抜けて。白っぽい石畳の廊下に出ると、私はすぐにシビアナに追いついた。


 それから、その後ろをとことこと付いて辿り着いた場所は、王宮の一階。その奥の方にある、倉庫部屋がずらりと並んでいる廊下だった。


 うーん? こんな所で、一体何をするというんだろうか? 探し物でもあるのかね? でも、そんな事では、私を呼んだりしないだろう。本当に探し物なら、他の侍従官達にやってもらえばいい。それで事が足りる。


 しかも、これは私の側付でなくてもいいような。この王宮内で働く、王宮侍従官に頼んでも構わないんじゃないか? 


 父様の命令で、私が必要となるとしたら、それは宝物庫ぐらいじゃない? だけど、その宝物庫はここ一階にはない。って事は、やっぱり探し物じゃないよねえ、多分。じゃあ、何かなあ? むむむむ――。私は、疑問に思いながらも、シビアナの後ろを付いて行った。


「あれ?」


 廊下の角を曲がると、また倉庫の扉が並んでいる。その奥に見えた一つ。そこに、見覚えのある若い騎士が一人いた。


 隙のない強者の雰囲気と、裏地が赤の黒い外套を身に纏い、腰には長剣を下げ、直立不動で立っている。着ているのは鎧だ。暗い鈍色の金属製で、光沢の少ない金色の装飾が、端々にまで施されていた。


 そんな黒い鎧と似たような、短めの黒髪。長身で、私よりかなり背は高い。その体躯は細めだが、がっちりとした印象はあり――。ていうかあれ、シビアナの夫のイージャンだわ。


 彼は、この王宮を守護する『近衛騎士隊』、その副隊長だ。騎士の中では一番強いだろう。私より年上だが、まだ二十代で経験不足ということで副隊長という事になっている。ま、隊長って色々やる事あるからね。


 それから、妻帯者なのにも拘らず、若い侍従官達をきゃーきゃー言わす人気がある。強くて格好良くて頼れるんだと。うーん。確かに、武芸の才はあるし、目付きがキリっとして端正な顔立ちとは思うが――。


 まあ、シビアナの夫であることは、純粋に凄いと思う。夫婦仲も傍目から見れば、かなり良いよね。主導権は、妻にしかないけど。


 ちなみに、結婚の申し出は、何と驚く事にシビアナの方からだったらしい。いやあー、婚約を決めた時はね、ホント驚いたもんだよ。こいつ、見てくれは確かに良いんだけどさあ――。でも、私はあの性格まで知ってるからね。だから、ホント驚いたの。


 一体どういった基準で、イージャンをお相手に決めて、結婚しようとまで思ったんかな? それは本当に謎だが、どういう経緯で結婚まで至ったのかも謎。だから、非常に興味がある。でも、教えてくんないし。イージャンも言葉を濁すね。シビアナに口止めされてるって。だけど、それでもいつかは参考なまでに、詳しく聞いてみたいものだ。


 ていうかさ。何でこんな場所で、あいつに新人衛兵みたいな真似をさせているんだ? いや、近衛騎士って結構位は高いのよ? そんな騎士の副隊長が、一人でわざわざ出張ってきている。その事に違和感を覚えていた。もしかして、結構大事なのかなあ?


 そう思いながら、私とシビアナは歩みを進める。近くまで行くと、私達が来たことに気付いたイージャンが振り向いた。一瞬、私と視線が合い、目が見開かれたが、それは多分一か月ぶりに変わったこの髪色を見ての事だろう。ちなみに、彼も髪色が変わる事は知っている。


 って、まあ王宮で働いていれば、知らない方が少ないだろうけど。ただ、イージャンはシビアナの夫でもあって、ちょっと特別なの。そのまま近づいていくと、敬礼をしてくれたので、疑問に思った事を直接尋ねてみた。


「イージャン。こんな所で一人何してるんだ?」

「はっ、殿下。その、申し訳ありません。詳細の程は、私も聞いていないのです。シビアナに言われて、ここに立っていろとだけしか――」

「ふうん……」

「――あ。ただ、陛下からはご許可を頂いているかと。近衛騎士隊の方へ、命令状で正式に通達がありましたので」

「へえ……。そうなのか」

「はっ!」


 敬礼したイージャンと、二人してシビアナの方に顔を向ける。しかし、彼女は静かに微笑みを湛えるだけであった。


「…………」


 私は、眉を歪めて視線を落とす。ううむ。父様からの命令状が出たにも拘らず。近衛騎士隊の副隊長にさえ、詳しい事情説明がなしという事は――。どうやら、まつりごとの類でしかも結構な機密に関わることかもしれないな。なるほど、だから敢えてこんな場所を選んだのかもね。


 ここは、倉庫部屋だけあって、人目に付きにくくて、ひっそりとしている。しかも、奥の方だから、王宮侍従官も、あんまり来ない。今も私たち以外の気配を感じる事はなかった。足音もなく静かなもんさ。


 けどこれ、私の執務室でもいいんじゃないの? あっちも十分人目を避けれるし、誰にも話を聞かれないようにするのだって、ちゃんと出来る。内緒話をするのにも、問題はないはずだ。それなのに、ここに来るだけの理由は何だ?


「…………」


 ふむ――。執務室には呼べない人間でも、来るのかもしれないな。思い当たる節を組み合わせ考えていくと、それらしい答えに行きついた。


 やっぱり大事っぽいな。急用らしいし。やれやれ、何があったんだか。私は、落とした視線を上げる。すると――。あれ? イージャンの様子が変だな。何で、今一瞬ビクってしたんだ? 表情も強張っている。


「殿下。申し訳ございませんが、しばらくこの部屋でお待ち下さい」


 シビアナが、鼓帯つづみおびと上着の間から鍵を取り出す。その鍵を使い、倉庫部屋の扉を開けながら促してきた。


「ん――。分かった」


 イージャンの挙動が気にはなったが、私は取り敢えず中に入った。倉庫の中は薄暗くて、奥の壁にある換気用の小さな鉄格子から、光が差し込んで床を照らしていた。倉庫部屋なのに特に荷物もなく、がらんとした感じだ。


 ただ、部屋の真ん中には、単純な造りの四角い木の作業机。あと、木の椅子がその机を挟んで手前と奥とで向かい合って置いてある。そして、扉の近くにも、もう一つ同じ様な椅子があった。机は小さく、一人用といった所か。ま、向かい合って食事くらいは、出来そうだが。


 その机の上には、蝋燭が刺さった燭台。そして、その蝋燭の火を覆える程度の、小さな釣鐘のような筒が先に付いた、黒い金属製の細長い棒。長さは、筆よりやや伸びたくらいか。あれは『落としがね』と言って、あの筒の中に火を納めて消す道具だ。それ以外何もない。


 でも、机の下。その足元の脇に、角張った黒い鞄が置いてある。厚みは私の拳よりあるが、これも小さいな。机に広げても、全然問題ない。書類とか本とかが数冊、入っているくらいか?


「シビアナ。ここで一体何をするんだ?」 

 

 部屋の様子は分かったので、顔を向ける。一応聞いてみるか。


「お話は後程。一先ず、こちらにお座り下さい」

「ああ」


 駄目か。話してくれそうにないな。シビアナは、それから手前の椅子を勧め、


「殿下。すぐに戻って参りますので、しばしお待ちを」

「ん」


 そして、そのまま部屋から出て行った。ただ、扉の外に立つイージャンの前を通り過ぎる時。目配せをしてそれにイージャンも頷いていた。それから、元来た廊下を歩いて戻っていく。


 ほほう。あれが目と目で通じ合うというやつか……。いやまあ、私もあるけどね? シビアナとそういうの。でも、別物に思えたからさ。実は、夫婦でやるああいうのは、私も憧れてんの。だから、その夫婦って感じがして、少し羨ましくなってしまったのだ。


 あいつら、結婚して何年ぐらいだっけ? あの子が六歳になるわけだから、五年――、は経ってるか。それくらい経てば、出来るようになるのかな? ああ、でも結婚する前からも含めると、もっと長くなるわ。そんな事を考えながら、椅子に座った。それから、すぐに首を傾ける。机の下にある鞄を見下ろした。


「…………」


 気になるね……。何入ってんだろ? 後ろを振り向けば、扉が開いたままでイージャンの姿が端に少しだけ見える。だが、こっちを向いていない。後ろ姿だ。これなら、いける。私は、そっと手を伸ばし、鞄を持ち上げた。重くはない。すぐに膝元まで持ち上がる。そのまま膝上に置いた。


 鞄を見ると、鍵は付いてない。上側の両端に留め金具があるだけの、至って普通に見える革の鞄のようだ。でも、この鞄はシビアナの持ち物かも。ならば、油断はしない。仕掛けでもしていそうなんだよね。何かが飛び出してくるとか。


 私は、留め金具を外し、少しだけ開く。何も起きない。良かった、大丈夫そうだ。それが分かっても油断せず、ゆっくりと鞄を広げていく。結局、最後まで何もなし。全開に出来た。


 さあて。中身は――。ちょっとだけ、わくわくしながら、覗き込む。すると、見えたのは書類の束と、本が数冊。本当に、さっき思っていた通りの物しか入っていなかった。


 何だ、つまんないの。もっと面白いものでも、入ってんのかと思ったのに。それでも、どんな事が書いてあるのかと、まず書類の方に目をやる。表紙には、「王都で発生した未解決事件と、その経緯について」と書かれてあった。


 私は、その下の数枚にだけ、ざっと目を通す。確かに、それに関する報告書のようだ。聞いた事がある事件の名があった。本の方も、それに類するようなもの。法律やらが記載されている。ま、難しい本さ。一応、中を捲ってみたが、特に変わった物はない。ただの本だった。


 他にも何かないかと、鞄の底を探ってみたが、特にない。結局、興味を引かれそうな物は、見つからなかった。ふむ。ちょっと残念だが、まあいいさ。これから、どういった話になるか見当が付けられたから。


「未解決、か……。なるほど。そういう話ね……」


 恐らく、何か進展があったんだろう。犯人が見つかったとかさ。うーん。王女の私に、急ぎで秘密裏にって感じだと――。その犯人は、実力行使も必要な、厄介な相手ってとこかな? 


 だから、イージャンも来てるのかもね。あいつ強いし。なら、そのイージャン達、近衛騎士隊とか、腕っぷしの強そうな者たちだけで、片を付ければいいって話にもなるんだが――。そうはならない事もある。何故なら、王家が直接出張って、直接拳で片を付ける。うちは、そういう事もする国だからだ。


 私は、中身を収め鞄を閉じると、机の脚元に戻す。これで、問題なしと。でも、シビアナが戻って来るまで暇だ。


――よし。このまま待つのもあれだな。すぐに戻ってくると言ってたし、せっかくだからその間イージャンと話をすることにしよう。シビアナを交えずに話すってのは、あんまりないからね。ちょっと興味が湧いてきた。


 別に、妙な探りとかを入れる気はない。シビアナが帰って来た時、そんな話をしてたらやばいし。ただの雑談さ雑談。私は、立ち上がり、扉の前へと歩いていった。



**********



「しっかし。よくあんなのと、夫婦やってるな?」

「やっぱあれか? おっぱいか? おっぱいが大きいから良いのか?」

「あれ揉んだら、お前どうなるんだ?」

「ねえねえ、どうだったの? 一つ感想を――」

「い、いえ、あの! その! 殿下――!」


 にょほほほほ。愉快愉快。真面目な奴を、からかうのは面白いのう。しどろもどろになっておるわい。他愛もない雑談でもと思っていたのが、何故だかイージャンをいじることになっていた。さっきのシビアナにやられた腹いせとばかりに、夫の方に答えづらい質問でもしてみるかと思ったのがいけなかった。


 ふふん。こちらの優位性を保ちながら、ちくちくとちょっかいを出す。お相手は王女様だからな。その性格も相まって、強くは言ってこられまい。シビアナと違って。


 しかも、イージャンは普段、寡黙で余計なことを話さないのは知っている。だから、この手の話は同僚にもしていないだろうから、対応に困るはずだ。その証拠にほら。お顔が真っ赤っ赤である。にょーほほほほ。


「もう、そんなに照れるなよおう。気楽に考えて気楽にね?」

「は、はい……」


 ふふふん。イージャンの困り顔。それを見て、更に困らせたくなる。すると、ちょっと面白い事を思い付いてしまった。


「あ。じゃあ、ちょっと質問を変えるから。そういうのに。で、私の結婚の参考までに、聞かせてくれると助かるな?」


 くくく。さあどう答えるか。


「い、いえ。その、殿下。誠に申し訳ございませんが、私はそもそも、そう言った話は――」

「む……」


 ほう、反抗的な。いけないなあ、そんな態度は。イージャンに、じとっと力を込めて目線をぶつける。すると、彼の背筋がしゃきんと伸びて、びしっと敬礼。


「はっ! わ、私で宜しければ、何なりと!」

「ん。ありがと」


 よしよし。では――。私は、にこりと笑って尋ねた。


「あいつのどこに惚れたんだ?」

「惚れっ!!?」


 結婚の申し入れはシビアナだが、それは縁談じゃない。二人は、好き合って結婚しているのだ。ぐふふふ。さらに赤くなりおったわ。


「ねえ、どこなの? どこに惚れたの? 教えてよおう。うりうりー」


 人体の急所でもあるみぞおちを、鎧の上から拳でぐりぐり攻める。すると、イージャンの赤い顔が、さーっと青褪めた。


「も、申し訳ありませんが、殿下! それは、シビアナにきつく口止めをされておりまして――!」


 知ってるうー。


「えー? そんなのいいじゃなーい。私とお前の仲じゃないのー」


 主に、どつき合う仲だが。近衛騎士隊の訓練でね。


「それに、あいつも今いない事だしさあ。ほれ、こそっと」

「ええ!?」

「いいからいいから。ほれほれ、言ってみ? この私にこそっと言ってみ? ほーれほれほれー」

「い、いえ、その。そ、それは、で、で殿下――!」


 おやおやあ? 慌て過ぎて、呂律が全く回っておりませんなあ。けっけっけっ。これは楽しいですのーう。っと、いかんいかん。髪の色が黄土色に変わっている。これは、何を思っているか、ばれてしまったかな? イージャンって、この色の意味知ってたっけ? ま、知ってても何もできないけどー。ごりごりー。


 今は、愉悦といったところだね。人を弄んでいる時に出やすいか。ちなみに、この色合いと感情の組み合わせだが、これは人によって違ってくる。例えば、ある者は怒りで髪が黒くなるとする。しかし、また別の者だと、怒りで白くなるといった塩梅さ。色は決まっていない。


 あとそれから、感情ってのは、細かく分ければそりゃあもう沢山ある。しかし、髪色が変わるのは、何もその全部ってわけじゃない。


 色が変わる感情は、決まってて限られているの。それ以外だと、どんなに強く抱いても、変わらないんだそうだ。怒りで黒にも白にも変化せず、そのままの者もいるって感じ。


 また、喜怒哀楽とか、そういう括りだけで大まかに纏めて、「喜」なら安らぎとか歓喜、つまり好感を一つの感情として見る事もある。


 これは、色々と含まれたその大まかな感情に対し、変化する色が全て同色、一つの場合に限ってだ。安らぎでも歓喜でも同じ色に変わるんだったら、区別がつけれないって事でね。


 他にも、その喜怒哀楽全てが、同じ色だったりした事もあったらしい。変化する色は、一つの感情に付き一つではない。種別に関係ない事もある。この様な感じで、髪色の変化に統一的な法則みたいなのは、ないんだとか。


 でも、私個人で言えば、それはあるんだけどね。嬉しかったら黄色系。怒ったら赤色系、悲しかったら青色系――。と、まあ大体こんな感じでころころ変わる。ただ、例外はあって、絶対じゃない。ま、これもきちんと考えれば、例外じゃなくなるかもだが。


 その例を挙げると、嫉妬の色でもある緑系は、不安や心配とか怖いと感じる時になりやすい。だけど、嫉妬と不安や恐怖が、同じ系統だってすぐに結びつく? そう考え込んじゃって、「うーん」と私は首を捻ってしまった。


 だけど、我が師曰く、「お前の緑の嫉妬は、大切にしている者が、他の誰かにしか関心を向けぬ、自分には向けてくれぬやもと、そう心に不安がある様な時に、感じるものなのだろう」と。


 そして、「それは例えば、確かめられない期間が長い程、つまり会えない期間が長い程そうなる。そうやって募った結果、関心を向けられた者に対し、その分ずるいと強く嫉妬を抱いてしまうのではないか?」との事。大雑把に言えば、こんな感じ。


 私はこれを聞いて納得。さっきので言えば、あの子と会ってないのは、一か月以上。その分寂しさもあったが不安だった。次に会えるのはいつだろうってね。


 そして、この不安がなければ、確かに余裕が出来る。それでも嫉妬は抱くが、強くはないだろう。やはり、不安があったればこそなのだ。


 だけど、私の嫉妬って、緑だけじゃなく暗い赤紫に変わる時もあるのよね。二つあるの。これは、同じ感情で、二色の内どちらかに変わるってわけじゃない。これも我が師曰く、「嫉妬の種類が違うのだ、リリシーナ」との事。妬ましくとも、嫉妬ではなく羨望の方に近いらしい。


 近いらしいって曖昧に暈しているけど、これは仕方がない。妬ましいと羨ましいが、ごっちゃになってる所があるみたいで。やっぱり、感情を細かいところまで定義するのは難しいんだよ。


 心内って、そういうあやふやな部分を、多分に含むんだもん。それを口で説明するのはね。喜怒哀楽とか大まかになら言えるけどさ。


 それでも言葉にすれば、これは自分が持っていない物を持っている事に対する、怒りや憎しみを孕んだ妬み。って感じらしい。


 そして、この怒りの赤と、憎しみの紫色が合わさって、暗い赤紫となっている。感情と感情が混じり合うと、色も合わさってるみたい。これは私のもう一つ法則でもある。ただ、こっちにも例外があって、ちょっと変なの。


 さっきの恥ずかしくて出た色は、淡い青。これって恐れの緑と嫌悪の紫が合わさっているらしいんだが、これを実際絵の具で混ぜると、その色にならない。


 同量だと褐色に近い色になった。量を変えれば、褐色を帯びた緑か紫どちらか。青からは程遠い色だったんだ。ここら辺の事情は、虹と何やら関係あるらしいのだが――。


 でも、赤紫の嫉妬はいいんだよね。絵具でもそうなった。紫系は、嫌悪とか憎悪になるから、怒りなんかの赤系と合わさって赤紫色になるって事。


 まあつまり、おっぱいが――。いや、まあそれはその――。と、とにかく私のは複雑なのよ。妬みっぽいのが二種類あったりするわけだし。


 あと、恐怖だけでも緑の嫉妬とよく似た深緑色になるから。そういうのは他にもある。驚きと羞恥もそうか。だから、どういった感情を抱いたかを、色で全部見分けるのは、長年の付き合いがあっても、かなり難しいだろう。


 それに、どの感情が、どの色に当てはまるかを知るためには、私の性格も良く知らないといけないし。全ての感情を、短期間で見るのは無理。強い高揚が必要となるわけだから、それが起きないと何時まで経っても見れない可能性だってある。


 とは言っても、記録はちゃんと取っているから、それを読めば絶対ではないが、分かるようにはなっているんだけどね。しかし、それを読むことはまず出来ない。許可されないんだ。許されているのは国王である父様と、この髪の持ち主である私のみ。これにも、例外はあるにはあるが、かなり限られている。


 だけど、実際のところさ。その記録を見てもどうなんかな? だって、ぱっと見、分かんないよ。そんな細かい違いって。


 深緑は深緑。水色は水色。多少の差なんて関係ない。粗方なら分かるだろうけど、無理でしょ。私だって、偶によく分からなくなる時があるのに。


 でもねー。あのシビアナだけは違うんよね。


「明暗の差は、はっきりとあります。そして、嫉妬は黄みを。恐怖は青みを帯びています。そのため、髪の色が明確に異なるのです」


 って、きっぱり言い切っちゃうのよ。で、しっかりと当ててくるし。


 ま、髪色の変化で、私の感情の機微までを推し量っているのは、シビアナぐらいなもんさ。ただ、あいつなら、それすらも必要ないかもしれないが。


 しかし、今日はもう駄目だな。やっぱり感情にすぐ反応してるし。まあ、今さら構わないか。シビアナもこんな状態で、私が不利になりそうな仕事をさせることはない。


 今回の様に、父様から下った命令。つまり、真面目な話の場合。あいつのその仕事に対する姿勢は、国益になる事を最優先で徹底している。この命令は、髪の色が変わると分かっていても、それで問題ないのだろう。


 さて。気も晴れたし、答えづらい質問は、このあたりにしておこうか。ありがとね、イージャン。楽しかったわ。ふふふっ! 彼のたじろぎっぷりに満足した私は、拳を収める。別の話題にすることにした。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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