第8話 自己紹介 その2
私は、両手を合わせた。それから、突き匙( フォークのようなもの)で、一口分に切り分ける。ローリエの手作りお菓子を、遠慮なく口に放り込んだ。ぱくんっ。
「――っ!」
うううううーん! 美味ひー! これ美味ひーよ! 今まで食べた事ない様なこの味わい。かりっと焼けた生地と一緒に、口に広がるこのまろやかな甘味。その甘さは控えめで、程よい塩梅。食べ応えもあるが、これなら、いくらでもいけそうだ。
顔も、にやけるってなもんさ、ホントにね。ふふふふ! 髪の色も、その喜びを示す黄色へと、淡い紫からすうっと変化していった。凄いな、ローリエ。こんな美味ひーの、作れるんだ。
お菓子の上に載った、みっとうだらも美味しかった。うさぎや鳥と言った飾り切りは、まじまじと見れば、やっぱり可愛くて凝っている様に思えた。
例えば、うさぎの耳なんかは、同じものがなくて、両方立てられたりしているものもあれば、片方垂れてたりしてる。
私は、その一つ一つを目で堪能してから口に運ぶ。うむうむ。ただ、このみっとうだら、生と言うかそのままの味じゃない。捥ぎ立てを食べた事があるから、それが分かった。何かに漬けているんだろうね、これ。お酒?
「どうだ、リリシーナ? 味の方は?」
先生が、ニコニコしながら聞いてくる。ほほーう。髪色が変化していると気付いているくせに、それでも聞いてきますかあ。まあ、ちゃんと答えてあげましょう。
「本当に美味しいですね。これは、先生の好物になったと言うのも頷けます」
「ふっ。そうであろう?」
「はい。こんな美味しいお菓子を作れるなんて。ローリエは、きっと良い奥様になりますよ。ふふっ!」
「そうかそうか! はっはっはっはっ!」
私のよいしょで、超ご機嫌となった先生。その隣で、「あ、ありがとうございます……!」と、ローリエがおずおずといった様子で頭を下げた。
いやまあ……。そんな気の利いた事言ったつもりもなかったんだが。でも、なんか――。ホントに先生、すっげえ嬉しそうだな、おい。思いの外、がっつり響いた模様。
そして、そのお隣で俯いたまま静かになったローリエ。それがふと気になって、もう一度、その様子を見てみるとおおおおおおお!? えええええ!?
私は、びっくらこいた。彼女を窺えば、ぷるぷる震え、なんかめっちゃ泣きそうになってた。それから、涙が零れ落ちないようにか、顔を上向ける。すると、見せたその表情は、精一杯耐えてる感が凄い事に。いや、何でだあああああ!!?
「うううっ……!」
ああ!? 浮かべた涙がぽろぽろ!? ぐすぐす言ってるし! 駄目だこれ! 本格的に泣いちゃいそう!
「ちょっ、ちょちょっと!? ロリーエ!?」
私が慌てて声を掛ければ、イージャンもその姿に気付いたのか、ぎょっと目を見張る。すると、彼女は頭を下げた。きらりと涙が零れ落ちる。
「ず、ずびばぜん……! シドー様には、大丈夫だと仰って頂いたのですが、やっぱり私、殿下のお口に合うか不安だったんです……!」
「えええええ!?」
私のせいなの!?
「でも、本当にそれは杞憂で……! しかも、美味しいって笑って下さっただけでなく、き、きっと良い奥様って――! ううっ。そこまで仰って頂いて、も゛う゛私――! うええええええん!」
なああああにいいいい!? どうやら思いの外、がっつり響き過ぎていた模様。結局、堰を切った様に泣き出してしまった。すげえ! 王女様のお言葉恐るべし――! いや、駄目駄目! 効き過ぎ! 効き過ぎだよこれ!
ちなみに、普段、シビアナとか私に優しくない連中が周りに多いからか、こういった反応はとても新鮮に思えてしまった。と、そんな感慨に耽っている場合ではない。
「せ、先生!」
隣りに座ってるんだから、何とかして! イージャンと二人で、あわあわしながら助けを求めれば、先生は豪快に笑う。
「はっはっはっ! だから言ったであろう、ローリエ? 大丈夫だとな?」
「は、はい……!」
「ほら、これで涙を拭くと良い」
「あ、ありがとうございます……!」
ローリエは、手渡されたおしぼりで涙を拭いつつ、私たちにぺこぺこと何度も頭を下げた。先生も、大丈夫だとこちらに頷いてみせる。確かに、泣く声も止んできて、落ち着き始めた様に思う。
「はあ……」
あ、焦ったああ……。二人の様子を見て、私もほっと一安心だ。イージャンも同様か、前のめりになった姿勢を戻した。
気付けば、髪色も変わっている。前髪の一房を手に取れば、驚きの深い水色だ。ありゃりゃ。いや、でもまさか。こんなに驚く事になるとは、思いもよらなかったからなあ。
うーん、そおねえ……。まあ、多分、結婚に何かしら特別な思い入れがあったんだろう。だから、こんな感じにまで、なっちゃったんじゃないかな。別に王女である私の言葉だったからではなくて。うむうむ。と、人知れず保身に走る。
しっかし――。ローリエのあのいじらしい姿を、じいっと眺めていると――。私も何だがほろ苦い気分。うんうん……。王女様のお墨付きだからね。それを違えてはいけない。本当に良い奥様になるんだぞ?
でも、うちに来て、その結婚相手がすぐに見つかって良かったよねえ。先生に最後に会ったのは――、半年ぐらい前? その時に、この子はいなかった。
だから、多分ここに来たのは、その後くらいなんだろう。それから出会ってとかだろうから、私からすれば、まさに奇跡、僥倖だと言える。
ローリエは別の国から来た。でも、この国の風習である、赤い婚約指輪を嵌めている。こんな風習、他の国にもあるとか聞いた事がない。ってなると、お相手はやっぱりうちの人間なんだと思う。
はあ……。決まる時は、あの子みたくぱぱっと急なものなのかもねえ。全く以て、羨ましい限りですな。ね、先生? 我が同志たるその先生は、気遣って、新しいおしぼりなんぞをまた手渡していた。
場の空気が変にならない様にか、笑ったまま。その雰囲気は、シビアナも察したようだ。
「味見させて頂いた際にも思いましたが――。このお菓子は、本当に美味しゅうございますね」
「あ、ありがとうございます……!」
「ふふふ――!」
こいつにも好評みたいだな。そして、彼女を気遣ってだろう。止まってしまった会話を再び始めてくれた。よし、そのまま頼むわ、シビアナ。
「こちらの飾り切りも、大変可愛らしいです。心も和みますね」
うんうん、そだねー。
「ここまでのお菓子を手作りするには、しっかりとした料理の腕前が必要です。しかしながら、この国へお越しになる前は、違っていらしたとか」
「は、はい……」
「やはりそうでしたか。であれば、他の料理も、是非頂いてみたいものですね。一体どれくらいの腕前になられたのでしょう?」
「い、いえ。そそそれは……」
「ふふふ――!」
あせあせと俯いて縮こまるローリエ。まじか。うちに来てからかよ。どうやら、この料理の腕は、半年くらいで獲得したらしい。これはやるやる。
「ローリエ殿は、料理の腕前だけではございません。私からしましても、日々の掃除や整頓も申し分なく。他にも、隣の資料部屋。その変わり様を拝見し、感服いたしました」
ホントにねー。綺麗になってたわ。
「新調した本棚も良質。頑丈なものを選んでおられます。しかも、お手頃価格。聞けば、この国の一般教養を習得し、王都の相場をご自身で調べられた上で、シドー様にご相談。それから、購入を決められたとか」
ほおー、そうなのか。あと、文字とかもちゃんと覚えたのね。これも、もしかして半年? だとしたら、ホントに凄いな、この子。
「シドー様は、失敗してもそこから得られる経験を、決して軽視なさらない御方。ですから、自分で考え好きなようにと、そう仰ったそうですが――。それでも、使用するお金はシドー様のもの。そのお金を使い購入する際に、確認を取って独断を避けられる。ここに気付けると言うのは大切な事です」
なるほど……。まあなあ、この国でのお金の使い方とかも、よく分からんってのもあっただろうからなあ……。
「他にも、王都にある様々なお店に出向き、市場を調査。どういった物がいつ安くなるか。そういった傾向を掴み、不要な支出を抑えようと心掛けていらっしゃる。そう聞き及んでおります」
おーおー。どんな物があるか、その価格も見て回ってるのか。春はどの食材が安くて、どの食材が高い、みたいな。
「また、お給金の方も、今まで無駄遣いもせず、ずっと大切に貯蓄なさっているそうですね? 素晴らしい事です。ここまでとなれば、この国でも十分通用する、しっかりとした金銭感覚をお持ちであると、私も確信を持たずにはおれません」
おお、そりゃ良いじゃないの。あの子とは違うな。――ん?
「ですが、本当に素晴らしいのは、一生懸命に頑張ろうとするその直向きな姿勢です。この国へ身寄りもなく一人お越しになって、まだ日が浅いですのに、それにも拘わらず――」
い、いや、シビアナ。もうその辺で……。
「シドー様のお役に立てるようにと、美味しい料理を。それが作れるよう、失敗しながらもめげずに毎日頑張られて――。この広い邸の手入れを怠らず――。また、この国に早く馴染もうと学び、方々を駆け回り――。お金も大事に無駄遣いもしないよう、こつこつと――」
だから、ちょっと!?
「そのお若い身空で、ここまでの事。並の女性に出来ますでしょうか?」
シビアナ! おい、やめろ!
「殿下が仰った事は――。いえ、私が申し上げたからではなく、殿下が仰ったからこそ、間違いはございません。ローリエ殿は、きっとこの国一番の良妻になられます」
「び、びえええええええん! あ゛り゛がとう゛ございばずー!」
シビアナ、お前ええええええ!! 俯いて黙り込み、どんどん顔を赤くしてたローリエの限界が突破。また感動して泣き出してしまった。号泣である。
しかも、私を巻き込み、自分の責任を回避してくる始末。最悪である。イージャンも察してか、顔を伏せ居た堪れないようだ。先生と同じく眉間揉んでる。
「きっと、ローリエ殿の伴侶となられる方も、この国一番の幸せ者ですね。ふふふ――!」
え、まだ続けるの!? どうして!? もう止めなさいよ! えええい! このアホは当てにならん! そして、そのアホに任せた私もアホだった。
「ほ、ほら、ローリエ! もう泣いてないで、お前も自分が作ったそのお菓子を食べなさい! これは王女命令だ!」
「は、はい!」
王女様のお言葉は、効果があったようだ。ぐすぐす言いながらも、ローリエは泣き止んでお菓子を食べ始めた。はあ……。疲れた……。そして、シビアナを見れば、口許を隠して、彼女を見ながら満足そうに微笑んでいる。
ホント何なの、お前!? ローリエにも、やりたい放題か! もう先生流とか踏み込むとか、そんなもんじゃなかった。そもそも、そんな事考えちゃいやしない。思うがまま。ガッと抱き着いて、ぐるぐる回して放り投げてる。
そして、そのために。味見をした時にでも、優しく声を掛けたりなんかして、予め甘言を弄しているはず。あの子の心の壁を、それなりに取り払ってると見た。じゃないと、あそこまで感激しないだろう。
しっかし、こいつ……。やっぱりローリエの事、結構調べていたみたいだな。さっきも探りを入れていただろうし。ただ、恐らくあの言い様から察するに、もっと前から調べてた分もあると思う。料理の腕前が今どれくらいか、とか聞いているから。
他にも、色んなお店回ってるとかさ。これは、隠密に護衛でもさせてたんじゃないかな。となると、先生にも許可取ってからやってるはず。
て言うか、そんなに知ってるんだったら、私にも事前に教えなさいよ! 私の先生の助手なんだぞ、ローリエは!
「はっはっはっ! さあさあ、ローリエも落ち着いたところで。わしらも食べようではないか!」
多少苦笑いになりながら、先生が場を纏めてくれた。はーい……。まあ、いい。シビアナはどうにもならん。気を取り直して、私もお菓子を頂く事にしよう。
「リリシーナ、お代わりもあるからな。まだまだいけるであろう?」
ん――? ふっ。愚問ですな、先生。
「良いんですか、先生? 私にそんな事言って? 全部食べちゃいますよ?」
「おっと、それは敵わん。わしも自分の分が無くなる前に食べるとしよう」
「ふふふっ!」
私の言葉に、先生もようやくお菓子を食べ始める。さて、ローリエも落ち着いて来たようだから、話を振ってみるか。泣いちゃったからさ。このままだと、気まずくて居辛いとか思っちゃったりしてそうでね。
いやまあ、王女のお言葉は刺激が強いようだから、出来れば控えたいところだが――。シビアナのアホは当てにならんし、イージャンも余計な事話さないし。
先生は喋る方だと思うが、ローリエが女の子だからなあ……。だから、あんまり頼るってのも、ちょっとね。
「ローリエどう? この国には慣れてきた?」
「は、はい!」
そかそか。
「王都はどうだい? どこか面白いとこでもあったかな?」
「はい! た、沢山ありました!」
「お、どこどこ?」
「え、ええと――、トゥアール王立図書館キッハマリテ、カトゼ大神宮――。それから、リリファルナ歌劇場です!」
「おおー」
「ほ、他にも、美味しい食材が並ぶ市場とか――」
ローリエは、王都の有名所をぽんぽん挙げていく。うんうん、ホントに色々行ってるのねえ。ちなみに、リリファルナ歌劇場は、今日シビアナ達が行く所。
ううむ。ローリエは、結婚相手とでも一緒に行ったのかねえ……。恋人たちにも人気だそうだから。――ち。
「そう言えば、ローリエの結婚相手って、どんな人なの?」
「え!? い、いえ、それはその……」
おっと、踏み込み過ぎたか。あ――、いや。これ失言だわ。結婚するとかそんな話出てないし、私が婚約指輪を見ただけで判断し聞いている。
しかも、私たちは初対面なわけよ。それなのに、いきなりこんな話振られても、話しづらいわいな。
「あー、ごめんごめん。えーっと、名とか職業とかじゃなくて、性格とかさ? どんな感じの人かなあってね?」
「え、えっと。はい、そ、それは……」
「うんうん」
聞いてしまった以上、もう構わないかと思いもした。でも、誰と結婚するかなんて、いずれ分かる事だから、今は控えよう。この子に無理強いはしたくない。
名は当然、それから職業だけでも王女である私が調べれば、当たりは付くと思われてそうだし。だから、これも聞かない。
事実、それは確かにその通りで、結婚を控えているってのが分かれば、ちゃんと絞れちゃう。ま、そんな事しなくても、後でシビアナに聞けば分かっちゃう事ではあるんだけど。
ふん。ああそうさ。こいつは絶対に知っている。絶対に見付けている。私はさっきのやり取りでその確信を得た。
しかも、名や職業だけでなく、どんな容貌だとか、年齢、身長、体格、家族構成、周囲からの評判などなど。すらすらとその人物の仔細まで列挙してくる事だろう。ただ、それもシビアナが素直に教える気があればの話だが。
そんな事を考えつつ、ローリエの様子を窺っていると。彼女は、おずおずと恥ずかしそうに、顔を伏せてから答えた。
「強くて、頼り甲斐があって、優しくて――。笑顔が、その、す、素敵な方です……」
「…………」
…………。何とも幸せそうであった。そんな彼女に向かってシビアナが微笑む。
「ふふふ! ローリエ殿は、本当に良き伴侶に巡り合えたようで、何よりです」
「あ、ありがとうございます……」
………………。私は、しばし固まってから言う。
「ホ、ホント、シビアナの言う通りみたいだな! はははは――!」
「はい。ふふふ――!」
「はははは――!」
はははは――! うーーーん。そういう感じかー。なるほどねー? 照れ照れと俯いたままのローリエと、コロコロと笑うシビアナ。彼女たちに向けた、爽やかな笑顔を凍り付かせたまま、私は思う。
聞くんじゃなかった――! まさか惚気になるとは、うう。いやまあ、そりゃなるよね。なるとは思ってなかった私が浅はかであった。
はあ……。心の損耗も酷い。何かゴリゴリ削られた。髪色が変わらなくて良かったわ……。え、何色にかだって? 嫉妬の色? まあ、そうだな。深緑色か暗い赤紫。あと、可能性があるとすれば――。おっと、私が出来る事を一つ思い付いたぞー。
「ローリエ」
「は、はい!」
「確かに、お相手は良い感じっぽいが――。でも、もし何か酷い事でもされたら、すぐに言う様に。私が叩き潰すから。この拳でね?」
ぐっと握った拳を見せる。
「ええ!?」
「はっはっはっはっは! いや冗談さ、冗談! 半分、冗談ね!」
「ええええ!?」
ふふ。ごめんごめん。半分だなんて、そんなのが冗談さ。全部、本気だよ? その相手がまじで何かやらかしたら、徹底的にぼっこぼこだから。慈悲も容赦も加減もない。この国の神の教えにも則ってな。
しかし、結婚相手は、彼女曰く強いらしいが、果してその強さが私に通じるかな? まあ、油断はせんさ。くふふふ……。
「ローリエ殿。もし、万が一にでも、その様な事態に陥ったのであれば――。その際は、私も助力いたしますので」
「ええええ!?」
「ふふふ!」
お、シビアナも加勢か。よし、勝ったわ、はっはー。先生も参戦する事だろうし。
「はあ……。同時に、この二人を敵に回して、生きておられる男なぞ、この国にはおらん……。なあ、イージャン?」
「は、はっ……」
あら。その男二人が、何か渋い顔してますけど。でも、ローリエは二人を見て笑顔になった。困った様な苦笑いではあるけれど、まあ、さっきより余程明るい表情だ。
それから、先生がやれやれと溜息を一つ。切り分けたお菓子を一つ、突き匙を使って口に運ぶ。それを食べ終わってから、シビアナが言った。
「ふふふ。シドー様?」
「――ん? な、なんだ?」
「話は変わるのですが――。このお菓子、アニハカランヤでは、『グーラビルデ』と呼ばれてそうですね?」
そう尋ねられて、先生はどこかほっとしたような表情になった。
「ああ、そうだ。あの辺りの古い言葉でな、黄色い絵本と言う意味のお菓子だそうだ。上に載ったみっとうだらで、おとぎ話の一節を表しているらしい」
「やはり、そういう意味でしたか」
「みたいだな」
「その絵本は、どういったお話になるのでしょう? シドー様はご存知ですか?」
「ああ、知っておるぞ。その話はな――」
グ、グーラビルデ? ほーう、そういう謂れのあるお菓子だったか。おとぎ話の一節。なるほど、色んな動物が沢山出てくる様な場面があるってわけね。てか、それを話題に振りなさいよ。私もそういうのを期待してたんに。ったくもう……。
ともあれ、これで、のんびりとお菓子を食べれるそうである。ローリエも、元気良く、ぱくぱくと食べている様に思えた。よしよし、あれくらいになれば、取り敢えずもう良いだろう。
泣くなんて事も、もうないさ。シビアナもそこまでアホじゃないし。まあ、満足したから、これ以上しないってだけかもしれんが……。まま、私も食べましょ!
再び、お菓子を口に運んでいく。ううーん! やっぱり、このお菓子は、美味ひーわ! ふふふ――! こりゃ堪らんわいと嬉々として、ぱくぱく平らげいった。
すると、髪色がまた喜びの黄色に変わっていく。それは、ローリエにも見られていた。向こうも嬉しそうに笑顔になって、お菓子をもぐもぐ食べていく。
ふ。どうやら、髪色の意味も、先生に教えてもらっているようだ。ただ、それは助手としての範疇。流石に、使える力までは伝えてないだろう。ぱくぱく。
しかし、グーラビルデか。これはぜひとも、うちの子達や、テレルにも食べさせたいお菓子だ。今度、あの子とお茶会をする時にでも、ローリエに頼んでみようか。
若しくは、うちの子に作り方を教えて貰うとか。シビアナでも良いけど。まあ、こいつの事だから、もう聞いているかもしれんが。
お茶会は、テレルが来たら、よくやってるんだよね。それで、あの子その時にね、自分が体験した色々を教えてくれるのよ。そのお話が面白い。黄色い絵本ってやつよりもきっとね。ふふっ。
ホント色々と教えてくれるんだよね。前はねえ、確か――。両手で持った湯呑みを傾け、お茶を飲みつつ。私は、その時の事を思い返していった。
「…………」
あ――。湯呑みを傾ける手が止まる。私は思い出した。その時、笑った話の事を。それがどんな内容だったかを。
だが、同時に気付いてしまったのだ。その話が本当であるならば、それが今とても厄介な事になるだろうと。
私は、それを確認するために、イージャンをちらりと横見した。彼は、私と同じように、湯呑みを手に持って傾けている。その姿には、違和感がない様に思う。
だが、問題はそこではない。私はそのままじっと様子を窺う。彼は、傾けていた湯呑みを卓の上に置いた。それから、お菓子でも食べるかと思いきや。何もしない。
ただ、そのお菓子を見下している。青褪めた様な顔で眉間のしわを深め、口を一直線にぐっとつぐみ睨んでいた。一切手を付けていない、そのお菓子を。
「…………」
間違いないな……。私は視線を戻す。それから、目を瞑って眉間を揉んだ。道理で、顔色が悪いとか怪訝に思ったわけだ。私は、自分の目の前にある、食べ掛けのお菓子を見下した。
「はあ……」
みっとうだらって、イージャンの超苦手な果物なんだよ……。




