第7話 自己紹介
「では、ローリエ。シビアナ。とりあえず、少し用意を頼む」
「は、はい!」
先生に促され、まず助手(仮)ちゃんが、お盆を両手におずおずと入ってくる。
動きはぎこちない。表情や体の強張り。それでも、頑張って目の前の卓にお盆を置いてくれた。やっぱり、まだまだ緊張は取れないみたいだ。
あー、いや。と言うよりも、ぶり返したのかな? ふふ、ごめんね。
彼女の後には、同じようにお盆を持ったシビアナが。こっちは普段通り。先生へ答えるように笑顔を向けてから、悠然とした足取りで入って来た。そして、お盆に載っていた陶器の白い食器やら何やら色々を、卓に並べ始める。
うんで。ローリエの方には、何が載っていたかと言うと――。彼女が、両手で抱えるようにして、大皿を卓に置いた。
「おおー」
でかい。あと、厚みもあって円い。その上には、黄色い果物が切られて、散りばめられている。焼いた麦餅(パンのようなもの)のような色をしたお菓子だ。
ううん――。何と言えばいいか。生地となった円い桶の中に、果物がふんだんに盛られている。って感じかな。
あと、生地の方には、焦げ色なんかも付いていて、カリッとしたその見た目が食欲を誘った。しかも、焼き立ての様な芳しい香りも、ふわりと漂ってくる。
わあお、美味しそうじゃないの。ふふふ! お団子を平らげた私だけど、まだまだ余裕。何故なら、別腹すら使っていないのだからねえ。おほほほ。
ええっと。あれって――、やっぱりお菓子で良いんだよね? 甘い匂いするし、果物載ってるし、お茶に出されてる訳だし。
王都にある美味しい甘味処は、ほぼほぼ制覇していると自負する私。でも、見た事がないと思うんだがなあ、あんなお菓子。だから、ちょいと腑に落ちなかった。
ただ、載っている黄色い果物は、知ってるやつだと思う。王都でも売られている時があるから。あれは『みっとうだら』という果物のはずだ。
皮も薄いから、そのまま噛り付ける。固さは、林檎に近いかなあ。ただ、一つ一つその形が変わっているというか。皆、同じ大きさをしていない。私の両拳くらいのもあれば、テレルのような子供の拳くらいのものもある。
形も同じじゃなくて、そのせいで人の顔に見えたりもするし、それこそ握り込んだ拳の様な形にも見えたりする。まあ、ちょっと変わった果物さ。
他にも、動物の形なんかにも見えたりするからね。だから、その輪郭を切って、飾り切りとかに用いられる事もあるとか。あ、よく見ると――。
ちょいと遠めだから、最初は気付かなかった。だけど、どうやらあれも、飾り切りにされているらしい。薄い皮で長い耳を形作ったうさぎとか、羽を形作った鳥。そういったものが色々と沢山見えた。
あら、黒い点で目も作ったりして、可愛いじゃないのー。テレルも見つけたら、きっとはしゃいじゃうに違いない。ふふふ! 何とも、女の子に人気が出そうなお菓子のようだ。うちの側付の子たちなんかでも、歓声とか上げちゃいそう。
しかも、パッと見だが――。盛られたみっとうだらは、恐らく全部飾り切りにされているのだろう。ううむ。凝ってるお菓子ねえ。豪華よ。おかげで、私も何だか特別な歓待でも受けている気分。
でも、このお菓子自体は、見た事がないと思うんだがなあ……。もしかして、お店で買って来たものではないのかも。となると、ローリエの手作りではなかろうか。あ、それとも先生が作った?
先生って、料理上手なのよ。今までにも、色々食べさせてもらった。異国の料理なんかもね。このお菓子も、ひょっとしたらそうかも。だから、知らなかったりして。
ただ、何と言うか。いかつくて、どでかいあの風体だからさ。女の子が好みそうな、可愛らしいあのお菓子もかと思うと。その作っている姿が思い浮かんで、何だかちょっと可笑しかった。ふふふ――!
まあ――。それはそれで、良いんだけども。
「…………」
私は、視線をちらりーの。イージャンを見た。すると、どうにも様子がおかしい。ローリエが持って来てくれたお菓子を眺めて固まっている。しかもだ。
そのまま彼の顔を窺えば、何だか青褪めている。そんな感じがした。何だ? また妙に顔色が……。そうやって不思議に思っていると、どうやらお茶の用意が整ったようだ。
配膳の音も静かになり、見渡せば綺麗に並べられていた。すると、席に戻った先生が立ったまま言う。
「ローリエ」
「は、はい!」
先生に手招きされて、その傍に立つ。シビアナは、私たちの方にある席に座ってもらった。イージャンの右隣ね。
ふふん。イージャンは私とシビアナ。美人に挟まれて、さぞ嬉しかろう。って、私とイージャンとじゃ挟まれてと言うには離れているか。
まあ、そもそもそんな事は思わん奴だが。てか、今はそんな冗談を言っても、全然聞こえそうにない感じがするんだが。
彼は、お菓子を凝視したまま。うううむん。さっき程ではない――か? でも、やっぱりどうにも顔色が悪い気がする。どうしたんだろ?
訝しんでいると、先生が口に拳を当て一つ咳払いをしたので、気にはなったがそちらに視線を移した。
「では、お茶の前に、改めて紹介しよう。この娘が、わしの助手を務めてもらっておる、ローリエだ」
「ロ、ローリエと申します! よよよろしくお願いします!」
先程と同じ様な勢いで、元気良く頭を下げてくれた。そして、これにて正式に助手(仮)から、助手(真)ちゃんへと昇進。おめでとう。いや、ありがとうだな。こっちも、きちんと確認が取れました。
しかし、こうなると。きちんと礼儀を弁えなくてはなるまい。助手とは言え、それは何たって先生の助手なのだ。私が王女だからと言っても、そこはね?
いや、だからこそか。ちゃんとそれ相応の対応をしっかりと。例えば、変に偉そうにする、とか。逆に、馴れ馴れしくするとか、しちゃいかんでしょ。
そんな事を考えてると、その彼女のお辞儀が戻る。すると、先生が自分の手の平を私たちの方へと差し向けた。
「ローリエ。本人から、既にもう聞いていると思うが、この者がシビアナだ。王宮で王女の側付侍従官、その者達を取り纏める筆頭をやっておる」
そう紹介されて、シビアナが立ち上がる。そして、にこりと微笑みお辞儀。
「改めまして、シビアナと申します。以後お見知りおきを。ローリエ様」
――ん? 様?
「は、はい! ――って、ええええ!?」
彼女もお辞儀、だが途中で気付いて、おっかなびっくりのご様子。然もありなん。確かに、彼女は王女である私の先生、その助手。だから、礼儀をと私も思ってはいるが、そりゃちょっとやり過ぎだろうに。
「ん゛ん゛! あー、シビアナ。様付けはやめておけ。反って萎縮する」
「ふふふっ。承知いたしました」
咳払いをする先生。当然、私と同じ意見。うむ。いやまあ、今のが冗談ってのは分かってるけどさ。でも、そういうのは、この子にはダメなんじゃない、シビアナ? 初対面ってのもあるだろうし。
そう念を送ってみると、私を見て微笑んだ。
ふむ……。そうねえ……。こっちからちょいと踏み込んでいった方が、慣れるのも早いかもしれない、か。先生流ってわけね。と、思い直した。すると、シビアナは、先生たちに視線を戻してお辞儀。
「申し訳ございませんでした。それでは、シドー様。ローリエ殿、でよろしいですか?」
「ど、殿……」
それでもローリエは、あわわしてるが、先生は納得気に頷いた。
「うむ。初めは、その程度で良いだろう」
「ふふっ。はい、では今後よしなに。ローリエ殿――」
そう言いつつ、彼女に視線を向ける。が、いきなり強烈な決め顔を炸裂させた。
「はわ!?」
キラッキラとしたその微笑みが、耐性のないローリエに直撃。表情がぽわん。耳やおでこまで全部、顔を真っ赤にさせた。いや、何してんだお前は。流石に、それは踏み込み過ぎだろ。
ローリエは、何とか自我を取り戻したようだ。はっと気付いた様にして、慌てて頭を下げる。
「は、はい! こここここちらこそ! よろしくお願いします!」
また赤くなっちゃったね。可愛いらしく思えたけど、シビアナのせいで、その姿に思わず苦笑いだ。先生は満足そうだが。そして、そのまま次にと、目と手を向ける。
「その隣におるのが、イージャンだ。この国の近衛騎士、その副隊長を任されておる」
「…………」
おい、イージャンよ。呼ばれてんぞ。しかし、彼の視線はお菓子からじっと動かない。どうやら自分が紹介されているのに気付いていないご様子。
「どうした? イージャン?」
「…………。――っ!」
先生にもう一度名を呼ばれて、ようやく気付いたようだ。はっとして立ち上がる。そして、ビシッと敬礼。
「はっ! も、申し訳ありません! 近衛騎士隊副隊長、ダンディストー・イージャンです! 以後お見知りおきを!」
「は、はい! ここちらこそ! よ、よろしくお願いします! さ、先程はありがとうございました!」
「いえ! お怪我がなくて何よりです!」
ん?
「何かあったの?」
尋ねてみると、シビアナが答えてくれた。
「実は、先程。ローリエ殿が、このお菓子のお皿を、お盆に乗せる際、転びそうになりまして」
「あー」
「は、はい……。申し訳ありません……」
ローリエがしょぼんと俯く。なるほどね。危うく、このお菓子がおじゃんになるとこだったのか。それを助けたと。
「はっはっはっ! そうだったか。でかしたぞ、イージャン」
「はっ!」
イージャンが、先生に向かって再び敬礼。そして、その先生の隣にいるローリエが、俯いたまま遠慮がちに口を開く。
「うう。申し訳ありません。本当に私は……」
「菓子は無事だったのだ。良いから気にするでない、ローリエ。それに、こういった事は初めてやる様なものだ。要は、これから。慣れだ慣れ」
「は、はい……」
先生に労われて、ローリエも心持ちが軽くなった様に見えた。辛そうではない。上げた顔は、ちゃんと笑顔ではある。ほっほ。しかし、このやり取り。微笑ましいですなあ。
そう思ったのは、私だけではないようだ。イージャンも、普段よりどこか優しそうな面持ちをして二人の様子を眺めていた。と、思ったんだが。
彼は、隣りで自分を見上げてくるシビアナの微笑みに気付いて、何故だか知らないが、口許を引き締め一気に緊張した面持ちとなった。
「…………」
何か一瞬ピリついたな、こいつら……。えええ……。何だよ……。気になって、イージャン達のその様子を窺っていたが、
「そして、一番奥におるのが――。このトゥアール王国の王女、リリシーナだ」
先生の声が聞こえて、そちらに視線を移した。お、私の出番か。
「ロ、ローリエです! よよ、よろしくお願いします!」
「…………」
シビアナ達同様、勢いよく頭を下げてくれたこの子を見て、私は思案する。さて、どうしたものか。先程、接し方を考えたのもある。が、やはり、最初の印象は重要である。
これが上手くいくかどうかで、今後、私がどういった人間か、その見方が決まると言っても過言ではあるまい。
外見からは受ける印象は、問題ないな。私は超美人だ。では、やはり内面。内面から来る印象。素敵な王女。威厳があり慈愛があり――。なんやかんや沢山ある私の良い所。それらをちゃんと伝え、「わあ、何て素敵な王女様なんだろう! ぽろぽろ」と印象付ける。そんな自己紹介をしたい。
しかし、だからと言って、話が長くなってはならない。くどくど長くすると、うちの説教爺と同じだ。そういった印象を与えてしまう事になるだろう。となると。
「私が、トゥアール王国第一王女、リリシーナだ! よろしくね! きら!」
みたいな。すくっと立ち上がり、威風堂々と大声で名乗りを上げる。からの、愛嬌よく声を高くし。トドメに、シビアナより、きらきらした笑顔を振り巻く。
これはどうだろうか? これ面白くない? いきなり威厳の満ちた声を張り上げて、びっくりさせたところで、急に可愛くすんの。これなら、気さくさも持ち合わせる素敵な王女って事にならない?
あ、趣味とか特技を言うのも良いかも。そういうのも、その人となりを簡潔に表現できるよね?
「はじめまして! トゥアール王国第一王女、リリシーナだよ! きら! 特技は、人のおでこを指で弾いて、記憶を飛ばすことだ! ローリエのおでこも、いちころだぞ! ばちこん! きらりん!」
すくっと立ち上がり、最初の名乗りを愛嬌よく。からの、ちょいと声にも凄みを利かせて威圧。実際に指を弾いてみせる。
ああ、弾いたついでに、嵐弾を出すと言うのも良いな。これなら、ローリエのおでこまで、風圧が届く事だろう。悪くない演出だ。で、締めに可愛い笑顔でこれは冗談だと察してもらう、と。
ふむ……。この演出するってのは良いよね。あっと驚かせるじゃん? 言葉で説明するより長くないし、見た方が分かりやすいから効果もある。では、ここはひとつ。私の髪とかを使って――。
「全部、却下です。殿下」
ひん。シビアナからダメ出し。止めた方が良いらしい。まあまあ、今のは私も冗談だから。本当にやるつもりはなかったから。
事情の知らないローリエを見れば、ぽかんとしてた。すると、隣りに立つ先生が少し屈む。
「ローリエ。あれはな、何か格好良い自己紹介を捻り出そうとして、固まっておるのだ」
「ええ!?」
あ!? 何たる事。すげなくバラされてしまう。ったく! これじゃあ、もう何言ってもやってもダメじゃないの!
「先生。私はその様な事、考えておりません」
「そうか。分かったから早くしろ」
「…………」
――ち! この舌打ちを視線に込めて、恨がましく睨んでから目を瞑った。酷いもんだ。これでは、最早どんなに恰好付けても、興覚めである。はあ、しょうがない……。
「あー、こほん」
話を切る様にして、拳を口許に置き咳払い。それから、目を開く。
「よろしくね、ローリエ」
座ったまま、軽く。軽い感じで手を振って、微笑んでおいた。もうこれしかあるまい。
「は、はい! よろしくお願いします!!」
うんうん、こちらこそさ。しかし、ローリエには、シビアナ達と同じように勢いよく頭を下げられたが、不満は残る。
素敵な王女様云々は置いておくとして。私も、あの子の顔をおでこまで、ぽわーっと赤く染め上げてみたかったなー。
そのための候補とした案も、ちゃんと考え付いたと言うのに。残念である。――え? いや、ホントよ? ホントに閃いたから。うむうむ。
それから、先生が私たちを見渡す。そして、一度頷いてから、
「リリシーナ。シビアナ、そしてイージャン。三人とも――」
そう言いながら、再び私たちを見渡す。そして、
「これから、この娘の事、よろしく頼む」
と、頭を下げた。その姿を見上げていたローリエも、緊張したようにして、慌てて後に続いた。うんむ、お任せあれ。って、何が出来るかは、まだよく分からんが。
逆に、こっちがお世話になりそうなんだけどね。何たって先生の助手だし。その先生共々、これから色々迷惑掛けるだろうけど、よろしく頼むー。と、シビアナとイージャン同様、私も頭を下げておいた。
それから、先生は顔を上げると、横によく伸びた自分の口髭を片手でなぞる。
「さて。紹介はこんなもので良いだろう」
ありゃ?
「先生。私たちの紹介、簡単過ぎでは?」
こんなもの? 何か、ちょと淡泊だよね。もうちょっとあっても良いような。シビアナとイージャンが夫婦だとかさ。これも知ってるとは思うが、ちゃんとって感じで。そういうの伝えておいても良いんじゃない?
あとは、ローリエの事とか。だけどまあ、こっちはなあ……。
「ふっ。お前たちは有名人だからな。それに、詳しい事情はもう伝えておる」
「お。そでしたか」
「ああ。だから、当然、お前の髪色が変わる事もな?」
「!」
にやりと口許を歪める先生。なるほど、だから初見が見せるような驚いた顔を、拝めていないのか。今は淡い紫色だが、玄関前だと黄色だった。それでもだもんね。
どうやら私たちの方は、予め伝えていた模様。納得して頷く。それを見てか、先生はローリエに顔を向けた。
「では、ローリエ。わしも小腹が空いてきおった。菓子を切り分けてくれるか?」
「は、はい! 分かりました!」
「うむ。シビアナ、茶を頼む」
「ふふ。畏まりました」
先生が席に座ると、シビアナは卓に何個か置かれた、急須の一つ手に持つ。それから、先生の隣に立ち、そこにあった湯呑みへと、優雅にお茶を注ぎ始める。
ローリエは、あせあせとお菓子が載った大皿の前で、包丁を使い切り分けを始めた。私はその姿を眺める。
「…………」
ふうむ。私たちの事を伝えていたのは分かったけど。ローリエの事は言わんなあ……。これは、やっぱり敢えて詳しい紹介をしたくなかったのかな?
さっきの事情から察するに、言いにくい事もあるだろうし。ああ、だから、先に教えてくれたのかも。聞かない様にって。この可能性はあるだろう。まあ、何かあったらその時にでも。先生かシビアナに聞けば良いでしょ。それに、私も今は――。
「ど、どうぞ!」
「ん。ありがとー」
おしぼりで手を拭いていると、ローリエが、私たちにお菓子を並べてくれる。やたー! そうそう、今はこれよこれ。このお菓子! ええっと八等分? それくらいに切り分けられたお菓子。それが目の前にあったお皿を上に置かれた。シビアナも湯呑みにお茶を注いでくれる。
そして、皆に行き渡ると、先生はローリエを自分の右隣に座らせた。私からになると向かって左。さて、準備は整いました。実食のお時間でございー。
飾り切りにされた、みっとうだらは、やっぱり可愛いかった。食べるのが勿体ないくらい。でも美味しそうだこと、ふふ! そうやって眺めていると、先生が自慢げに言う。
「この菓子は、ローリエが作ってくれたものでな」
手作り。おおー、やっぱりそうか。でも、先生ではなかった模様。
「この菓子はな、リリシーナ。王都で揃えた食材で作られているが、元々は『アニハカランヤ』で見つけた菓子だ」
「ほおおー」
あの国かー。
「トゥアールに戻る途中に立ち寄ってな。その際、ローリエが美味しいと言って、作り方も自分で調べて覚えてくれたのだ」
なるなる。アニハカランヤは、この国より西域にある領邦の一つだそうだ。王国とか公国、侯国が割拠しているとこがあるんだって。
私たちは、その辺りの人々を『西邦人』と呼んだりすることもある。どうやらローリエはその西邦人。若しくは、それより遠方の国から来たっぽい。
「わしもなあ……。この様な菓子は、今まで知らなかったし、故に食べた事もなかったのだが……。ローリエが、あまりにも美味しい美味しいと言うのでな。流石に気になってしまい食べてみたのだ」
ほう。
「そして、実際に食べてみれば、これがもう何とも――。実に美味くてなあ……。おかげで好物にまでなってしまった」
「へえええ。そんなに美味しかったんです?」
「ああ、本当に美味かったぞ。だからな、リリシーナ?」
「はい?」
首を傾げると、先生はにやりと笑う。そして、
「この菓子の悪口は許さん。きちんと残さず食べるのだぞ? はっはっはっはっ!」
と、破顔しながら警告してきた。ローリエは俯いて顔真っ赤だな。――まあ、恥ずかしいよね。何か、ごめん……。
しかし、冗談の様に見せてはいるんだが……。あの笑顔――、本気っぽいな。本当に食べ残したりしたら、がっつり怒りそうだ。
でも、先生の味覚は、特段変ではないと思う。美味しいと言う時は、私も美味しいし。美味しくなくて、食べ残してしまうって事もないだろう。
だから、別に気にしないし、逆にどんな味がするんだろうって楽しみになってる。と、言う訳で。
「ふふ、分かりました。それじゃあ、先生、ローリエ。頂きます!」
「うむ」
「は、はい!」
話を聞いたのもあって、さらに興味津々。両手を合わせてから、突き匙( フォークのようなもの)で、お菓子を一口分に切り分ける。それから、ローリエの手作りお菓子を、遠慮なく口に放り込んだ。




