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王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第二楽章 王女殿下の先生
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第6話 先生の研究 その2

 シドー先生。


 王女である私の家庭教師でもあったこの人は、とても博識であり、我が国で指折りの薬学者でもある。


 それもあって、この研究所には、数多くの本が集められている。薬やら植物やら何やらと、色々とてんこ盛りさ。薬や植物関連の本を集めるのは、まあ当然だろう。薬学者なわけだし。必要って分かる。でも、何やらの方は、変わっているんじゃないかな。


 ここって、薬学とは直接関係ないと思えるような、多種多様な分野の本も、同じくらい沢山あるのよね。例えば、建築に関する本とかもさ。


 それは、先生曰く。「薬のことを、より一層深く研究するためには、他分野の知識や技術まで調べ取り入れる必要があったから」との事。だから、あんな図書館みたいな場所が、出来上がってしまったんだ。


 そして、それら別々の分野の知識を組み合わせて、薬学に応用したりするのだとか。一見全く関係ないと思う様な事柄も、突き詰めれば見えて来るものがあるらしい。薬学と通ずるものがあるんだって。


「リリシーナ。全ての事柄は、姿形が違えど皆同じ。繋がっているのかもしれん」


 だから、そんな事も言っていた。そして、そう気付いたからか、以前よりも増してどんどん色々な分野にも手を出して調べ始めたそうな。


 おかげで、本の山が、今までの倍の早さで出来上がって行ったとか。で、「そんな事を繰り返していたから、色んな知識が勝手に身についてしまった」って笑ってたっけ。


 まあ――。今までの研究が、如何に大変な労力を要したのか。それを体験したかったら、ここにあるその本の山を全て読んで全て理解すれば、分かるかもね。この国一番の薬学者にもなれるかも。


 そんな先生は、私の家庭教師になる前から、よく旅をしていたみたい。私も修行って事で、連れていってもらったりしてたんだ。


 その頃は、戻って来るのに、まだ一月、二月だったかなあ? ちょくちょく戻って来てたのは覚えているんだけどね。でも、先生が家庭教師を辞めて、一人だけで行くようになってからは、より長期的により遠方にまで足を運ぶようになった。場合によっては国外も。


 これも、家庭教師になる前かららしいがね。その家庭教師中は、取り敢えず中断して、辞めてからまた再開。ただ、それからは頻度も上がったようだ。


 あの人に国境は関係ない。様々な土地に赴き、その土地の文化や言い伝え、使われている薬、食べ物など、色々と調べてきたそうな。それは、勿論、薬学の研究のため。自分の好奇心を満たすため。


 そして、もう一つ理由があった。先生は、それらのために幾度となく旅をしてきたのだ。


 ただ、この旅、万事順調とはいかなかったみたい。途中で追いはぎに出くわしたり、他国の軍なんかに追いかけられた事もあったらしい。だけど、そこは油断していたとはいえ、我が国最強の騎士イージャンを瞬殺にする程の実力者だ。全て返り討ちにして問題はなかったとか。


 でも、追いはぎは、ともかくとして、他国の軍と揉めて大丈夫にするのが、この先生の凄いところだよ。他国でも有名人で、その顔が結構知られているらしいからね。だから、下手をすれば外交問題にもなりかねない。そういう立場でもあるんだ。それなのに、その辺りを上手くやるのが、この人らしいか。


 まあ、この国一番の武術の腕を決める、『武神大祭』という大会でも優勝したことがあるし。武芸に関しても非常に頼もしい人なのは間違いない。


 しかも、それ以上に。この人を英雄足らしめている理由がまた別にある。この国の最強の一角に足り得る理由がね。


 そして、現在。様々な土地で得たそれら多くの知識や成果を、この研究所で実験をしながら整理中だとか。


 これが、私の尊敬する偉大なる探究者、シドー先生だ。この国最高位の薬学者で、武芸の達人でもあるという、一風変わった組み合わせを持つ、型破りなお人だよ。


 ま。女性に対してはあれな、中年のおっさんなんだけどね。ふふふ――!



**********



 先生は、着替えてくると言うので、研究室の鍵を開けてもらってから、取り敢えずそこで一旦別れる。私だけで、その中に入って待つことになった。


「ふむ……」


 あれの話だから、ここでするんだろうけど。さて、どうなるやら。おっと、いかんいかん。どきどきわくわくとしてきた。私は、その聞きたくて聞きたくて仕方がない気持ちを切り離す。封印した。


 薬飲んで失敗してるからね。今度はそうはいかん。そう思えたからか、封印はしやすかった。しかし、久しぶりの研究室を見渡すと、別のわくわくが押し寄せてきた。


 長四角の部屋。隣の図書館と隔てる壁よりも、奥に見える硝子戸の並んだ面の方がより長い。その図書館ほどではないけど、ここも広いね。


 向こうは部屋五つ分だが、こっちは三つ分と言ったところか。だが、その通りの広さを感じさせる事はない。壁沿い並ぶ本棚の前。そこに本の類が山積みで乱立しているのは、勿論のこと。様々な物で溢れているからだ。


 助手(仮)ちゃんは、ここにまだ入れないのか、それとも触らせていないのか。以前の図書館もどきのよう。雑然さは、あまり変わっていなかった。いや、ちょっと狭くなってるかも。見たことない物もあるし。


 変な顔をしたお面や、古い剣や槍、宝石が埋まった杖――。


 皆、この国で見かけないような造りだ。そういった物が、本の山に乗っけられていたり、周りに数多く立て掛けられ、散乱している。


 それから、綺麗な色彩の箱も。ごろごろ転がってるわ。模様も変わってて、これも見た事がない。


 大きさも色々あるね。手に乗せられる物もあれば、私でも中に入れそうな物もある。その上側が開いていて、中にごちゃごちゃと道具の数々が入っているのが見えた。


 ここは、本当に色んな国の色んな物で溢れている。その品の数々が、部屋の内装や装飾みたいになっていて、異国情緒とでも言うべきか、そんな雰囲気をそこかしこに作っていた。


 私は、部屋の真ん中辺りに目をやる。そこには、大きくて楕円となった木卓。窓際に向かって伸びている。


 奥には細長い書斎机。どちらも良い味を出している古い木製で、卓の方は私が寝そべって、いやそう言うよりも先生が寝そべっても手足が出ないくらい大きいな。ふふっ。


 この卓の上には、実験道具とかが置いてあったりしてたんだが、綺麗に片付けたようだ。なんにもない。てか、ごちゃまぜの箱に入ってるの実験道具だな。


 もう一度その箱を眺めて分かった。見たことがある。薬研やすり鉢、透明な硝子瓶が重ねられ、その中には匙。乱雑に放り込まれている。


 あの様子から察するに――。ええい面倒だと、卓の上に置いてたものを、全部あそこに入れ込んだな……。


「全く、あの人は……」


 やれやれと一つ溜息を吐いて、今度は書斎机の方を見やる。あれは、私の執務室にあるのと比べて二回りくらい大きいかねえ。


 その前に行くと、山積みの本とは別に、私の知らない土地の物らしき本が何冊もあった。厚めの表紙に、この国では使われてなさそうな絵柄が表紙に刻まれている。


 私は見ても触っても大丈夫。許されてる。だから、パラパラとめくれば、嗅いだことのない匂いが鼻に当たる。そして、見た事もない文字の羅列が、私の好奇心を刺激した。おお、なんて書いてるんだろう、これ?


「本当に、色んな所へ行ってるんだなあ、先生って……。ふふっ。でも、おかげでちょっとわくわくした」


 本を閉じて机に戻すと、今度は並んだ硝子戸の前に立った。両開きで私より大きい。天井近くまであるし、先生よりも大きいか。それが壁の代わりに何枚も続いている。私は、換気も兼ねてその扉を一つ開ける。


 ちょっと籠ってる感じがするのよ。ずっと閉め切ってたのかな? 他のは――、全部鍵も掛けて閉め切れているっぽいから、そうかもね。


 開け放って外に出ると、その先には露台が付いている。扉の列に合わせて細長い。私は、そのまま二、三歩足を進めて手摺に手を掛けた。


「そっか。こっちは中庭側になるんだったよね」


 ここは二階だが、この館の構造上、三階と言っても差し支えない高さだ。見下せば、さっき私たちがいた広い中庭が一望できた。


 風はなく、部屋の中の書類なんかが、はためく事もない。天気は良くないが、今日は穏やかなもんだ。ううーん。静かでゆったりだなあ。


「だけど、そのせいでイージャンの痕跡が、妙に生々しいんだよね……。あーあ……」


 彼が砕いた地面は、しっかりと残っている。それが、こんな穏やかな日に場違いな気がして、苦笑いが出た。


 空を見ると、ここに着く前より雲が一面どんよりとしてて、天気は徐々に悪くなっているように思えた。これだと――、恐らく夜は無理じゃない? 皆が寝静まる頃までには、雨が降ってそうだ。それでも、所々明るいから、夕方までは持ちそうかな? 


 そう思ったせいで、ちょっと歌劇の事が過った。大丈夫かな、テレル。雨に濡れないと良いけど。しかし、流石のシビアナも天気までは操れないか。


 まあ、余程崩れなければ、行けるだろうからなあ。屋内だし。今回の策とは関係ないってとこかね。


「――ん?」


 金属のがちゃがちゃと擦り合う様な音。それが足音ともに少しずつ聞こえて大きくなってくる。そして、その音が止むと、ごとりと床が重く響く。それは隣の部屋――、図書館からの様だった。


 何だ? そう思っていると扉が開く。


「すまぬ。待たせたな」


 麻色の上着を着て、白衣を羽織った先生が、戻ってきた。それから、イージャンも一緒。あら。


 シビアナに外された鎧は、もう元に戻っている。離れた時は、まだ外れている箇所もあったんだけどね。ま、あいつに手伝ってもらって、否、二人でいちゃこらしながら着たのだろう。


「…………」


 ふむ……。さっきの音は、この鎧の音――、ではないな。明らかに違う。もっとがちゃがちゃしてたよね。あんな音はしない。まあ、ここに来るついでに、何か荷物でも運んで来たのだろう。


 しかし、イージャンが来ているって事は――、シビアナももうすぐ来るか? そう思っていると、先生が、手前の木卓に並べられた椅子の一つに、ドンと音を立てて腰を掛ける。すると、


「リリシーナ」


 露台に立っていた私にも、手招きをしてこっちに戻って座るよう勧めてくれた。


「はあい。あ、先生。窓は開けたままでも、よろしいですか?」

「ああ、構わんだろう」

「分かりました」


 そう返事をして、先生の向かい側の席に腰を下ろす。しかし、椅子の大きさが随分と違うよね。先生が座っている椅子は特注品だな。かなり大きい。それと比べると、私は子供用の椅子にでも座っているかのようだ。


 イージャンは私の傍に立っていたが、先生が座らせろと言うので、右隣りの席に座ってもらうことにした。とは言っても、卓が大きいから、隣りとはならんか。向かいに座った先生と私の中間くらいだ。


 腰に帯びていた剣は、羽織っていた外套と一緒に、側の剣置き台に立て掛けてもらった。近衛騎士の剣って、その騎士の身長にも寄るんだが、基本的に長いのよね。しかも、ごついし。


 剣身も幅がある上、分厚い。そのせいで、椅子とかに座りにくいから。しかし、そもそも彼は立場上、警護のため剣を手放したり、座るなんて事はしちゃ駄目だ。


 それはそうなんだが、私たち三人だと――、いやもう数人いるが、まあこんな風になる事が多い。内輪って感じ。ま、よくある事だ。それから、先生がイージャンが座ったのを見て言う。


「お茶の用意を頼んだのは、先程だが――。ゼニシエンタが来たからな。お前たちがいつぐらいに来るかは、もう見当がついておった」


 ああ、あの子が来てたのか。やっぱり、あの二人じゃなかったな。今出てきた名が、私の側付の子。その内の一人だ。


「だから、下準備も終わらせておる。もうそろそろ、ローリエたちが持って来てくれるだろう」


 もう一つ名が出てきた。しかし、これは側付の子じゃない。


 うううむ。ローリエ? さっきの案内してくれた、あの女の子の事だよね? おでこの可愛い助手(仮)ちゃん。でも、名は知らないから少し首を傾げると、先生が「ああ、そうか」と頷いた。


「ローリエというのは、お前たちを中庭まで案内してくれた者の名だ」


 やっぱり合ってたらしい。


「ふっ。あのは、ちと、そそっかしいところがあるからな。自分の名を、お前たちに伝えなかったのだろう?」


 ふふっ、まあね。私は笑顔で頷いた。


「はっはっ。やはりそうか。緊張すると、どうしてもそうなる様なのだ。慌てて大事な事を、ぽろっと忘れてしまう。それから、勘違いなどもな」


 そなんだ。でも、さっきは状況がね。案内してくれれば、それで良かったから。私も名乗らなかったし。


 そうしたのも、かなり緊張してたみたいだから、あまり関わろうとしなかったのが理由なんだけど。これは、応対したシビアナも同じかな? 私の事を伝えず、さっさと案内してもらおうとしていた。


 自分の事を、第一王女の側付筆頭侍従官って名乗らなかったのと一緒さ。もし、王女だと紹介したら、平伏しそうな緊張っぷりだったし、時間が掛かっていただろう。


 それは、あの子にも申し訳ないし、避けたかった。だから、シビアナの応対は、私の意を汲んでくれている。まあ、心読めるだけの事はあったってわけさ。ああ、そうか、そう言えば。


「先生。ごめんなさい」


 私は頭を下げた。


「ん? 何だ急に?」

「いえ、実は――。あの子、私たちを出迎えてくれた時に、玄関の扉でおでこをぶつけたようで――」


 真っ赤っ赤だったもの。ホント悪いことしちゃったよねえ。そう伝えると、先生は面白そうに笑い出した。


「はっはっはっはっ! そうだったか。いや実はな、それもよくやっておってな」

「あらー」


 どうやら、日常茶飯事っぽい。


「やはり慌てると駄目らしい。しかも、それで落ち込んでおってな。気にするなとは言うんだが、どうにもそう思えんらしいのだ」

「そうですか……」


 私は苦笑いだ。気にする人は、とことん気にするからねえ……。私の知り合いにもそういうのがいる。あれはまあ、かなり病的だが。あの子には、そこまで気にしないようにして欲しいもんだ。


「いやはや、この性分だけはままならんよ。ま。これは、ローリエだけでなく、そういった事はみな、多かれ少なかれあるものだが。無論、わしもな? はっはっはっはっ――!」


 ふふ。そうね、確かに先生の言う通りか。この人は、大雑把なところがある。イージャンは生真面目で朴念仁。そして、シビアナは、執念深いところがある反面、飽きっぽいところがあるね。テレルは照れ屋さんだ。それが超可愛い。えへへ。


 私はどうかなあ……。ふううむ。凝り性なところがある、かな? まあ、シビアナみたいに、肩は凝った事ないけど。おっぱいでかくないしね! ちきしょうめ! あほか私は。


 そんな事を考えながら、先生と一緒に笑っていたが、


「…………」


 その先生が、不意にその笑いを止めると、少し渋い顔になった。そして、


「あのは――、ローリエはな。わしが、今、研究をしておる『神の悪戯』の被害者なのだ――」


と、そう教えてくれた。


「…………」


 そっか、だからか――。何故、あの子が助手なのか、私はこれで得心がいった。


 神の悪戯――。先生が、色んな場所へ旅をしている、もう一つの理由がこれだ。そして、私やシビアナが、あれと呼んでいた研究対象でもある。


 この神の悪戯は、数年に一度くらいの割合で報告が上がる、何とも不可思議な現象で、我がトゥアール王国では大抵そう呼ばれている。その報告によると、何もない所にいきなり炎が現れたり、水の玉が空中に浮いたりするんだそうだ。


 中には、その現象に出くわした者が気絶することもあって、神の力だと畏れられている。まあ、現象の規模は、基本的に小さく、すぐに消えてしまうようで、騒ぎの方も治まりは早い。大きな怪我をする者も、いないと聞いているしね。


 ただ、先生によれば、稀に大きな災害を招くこともあったみたいで、その時の被害は尋常ではなかったらしい。これは、伝説の類として教えられた。


 我が師シドー先生は、何とこの神の悪戯を、人の手で自由に使えないかと研究しているのだ。ま、確かに便利かも。誰もが道具を使わず、火とか出せるんだったら、凄いよ。水とかも、旅には欠かせないし、そうやって出せるんなら有り難い。


 水ってホント荷物になるからね。それが新鮮であれば、更に重宝するだろう。私はこう考えたりするんだが、受け取り方は、国によって変わってくるようだ。


「あの娘は、元々、両親を事故で亡くしていてな。他に家族もおらぬ……。それにあの国にそのままおってもな……」

「…………」

「まあ――。経験した神の悪戯の、その再現が出来るかもしれんと考え、無理を言ってこの国に付いて来てもらったのだ」  


 何となくだが――。先生は、言葉を濁しているように感じた。


 他国では、この現象に関わった人間は、その畏れからか疎外され、下手すると酷い罰を受けるところもあるとか。被害者と言うからには、ローリエは恐らくそういった国の人間なんだろう。


 それで、助けたんじゃないかな、先生は。あの子を害する奴らをぶっ飛ばしてね。だったら、手加減は一切なかっただろう。先生って、そういう奴らに容赦なんてしないから。そして、そんな人間がここにもう一人いる。


「…………」


 イージャンだ。眉間の皺がかなり深くなって、目付きも鋭く卓を睨みつけていた。膝の上に置いた拳も、握り込んでメキメキいってる。めっちゃ怒ってるなこれ。嫌いなんだよね、こいつも。そういうのがさ。だからか、この手の話がどんなものか勘付くのは早い。


 その様子は先生にも見られていた。すると、困ったように表情を歪め、思い立ったように言う。


「しかし、あれだ! 来てもらって良かった! 何せ、わしはこんな性格だからな。気付かぬ事も多々ある。代わりにその分、色々、気が利くので大いに助かっておるよ。はっはっはっはっ!」


 ふふ。敢えて笑い飛ばしてるね、これ。確かに、場の雰囲気が良くなかったから。ま、こういうのが如何にも先生らしい。


 イージャンもその姿を見て、怒気を引込めた。普段の彼に戻ったようだ。そして、そのままその豪快な笑いが部屋に響いていると、扉を叩く音がして先生は立ち上がった。


「し、失礼します! お茶の用意ができましたので、お持ちしましたぁ!」

「ああ。扉を開けるから、少し離れておれ」

「は、はい!」


 ここの扉は外に向かって開く。しかし、シビアナが一緒にいるのも気配で分かる。だから心配ない。のだが、それでもあの子のそそっかしさを考慮してか。扉が当たらない様にと、先生は注意を促してからゆっくりと開いた。


 すると、開いた扉の先に、ローリエが――。って、先生が邪魔で見えん。私はちょいと顔をずらして、その先を見る。すると、あの子が強張った面持ちで、長四角のやや底の深いお盆を、両手で抱え立っていた。


「お、お待たせしました!」 

「うむ。ありがとう、ローリエ」


 先生もあの子の方を向いているから、その顔が見えない。でも、勢いよく頭を下げる彼女に掛けた感謝の言葉。その声色から笑顔で答えているように思えた。

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