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王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第一楽章 トゥアール王国の王女殿下
16/27

第16話 お団子の山

「殿下。お団子のお味は如何でしょうか?」


 お団子の山、その十段目に差し掛かった頃。シビアナがそう尋ねてきた。ん?


「ああ、美味しいよ。やっぱり、百花堂のお団子は最高だな」

「ふふ。そうですか。それはようございました」

「うんうん」


 嬉しそうにして答えると、向こうもニコッと朗らかに笑顔で返してくる。


 ホントこのお団子って、いくら食べても飽きが来ないんだよねえ。流石、定番だわ。限定品も、また出さんかなあ。あれもホント美味しいから。ふふふ! まあ、それは良いんだが――。


 ふと気付いた。シビアナが、何故かそのまま、じっとこちらを見てる。私から視線を外さない。え? 何? 何なの? 


 最初は、意味が全然分からなかった。しかし、すぐに察したくもない、その視線の意味を察した。ああ――。


「…………」


 このお団子、寄越せってか。だから、私は本当に察したくなかった。のだが。


 まあ……。まあ、良いだろう。私が悪かったもんな? 色々と迷惑を掛けた事だし……。それもあり、気前良く山分けする事に決める。お盆を回して、二人とも串が取りやすい位置にずらしした。


「良かったら、シビアナも食べるか? 別に構わんぞ?」

「ありがとうございます、殿下。それでは頂きます」


 即答。お前は遠慮を知らんな。とは言え、そっちも、ずっと尋問してたんだ。そりゃ、疲れただろうし、お腹も空くわな。


 でも、だったらさ? 自分の分は、それこそ自分で用意すれば良かったんじゃないの? 私の分だけじゃなくて。で、一緒に食べれば良かったじゃない。いつもの事でしょ? 


 しかし、大体にしてだ。大体にして、王女様だよ私? 立場的には、この国で二番目に偉いのよ? お前なら、そこら辺しっかりと弁えていらっしゃいますよね? 


 確かに私が悪かった。それは本当にごめんなさい。でも、それでもさ。それでも、王女であるこの私のお団子様を食べようとか思っちゃう? それをマジで実行に移しちゃう? おかしくない? あの子じゃあるまいし。


 私の側付には一人、すんごい食いしん坊ちゃんがいるのだ。ただ、私もシビアナも、理由があって大抵黙認してる。ダメな時はダメって言ってるし。


 あ、もしかしてこれ? だから、自分も良いって思ってんの? あの子を言い訳に使ったりしてる? ええー。だとしたら、それは、ちょっとどうかなあ。ねえ、側付筆頭侍従官様?


 ほら、ちょっと答えてみなさいよ。そこんとこどう思ってんの? 心読めてんでしょ? ほら。ほら。


 既に、串団子を手に取って口に運んでいるシビアナに、念を送る。ほらほらぬううん! ――ふっはあ! すると、一つお団子を食べて、こちらを見た。


「殿下」

「ん? なんだい?」


 にこっとして言うと、シビアナもにこっとして返した。


「本当に美味しゅうございますね、このお団子は」

「でしょー?」

「はい。ふふふ!」

「はははは――!」


 はははは。そうかそうか。また無視か。はー、どつきたいなー、その笑顔ー。はははのはーっと。


 自分も笑顔そのまま、お団子串を手に取る。ああ、分かっていたさ、こうなるって! ふん! そして、勢いよく、ぱくついていく。腹いせに、せめて、こいつより沢山食べようと思った。


 シビアナは、私が取った後に、それに合わせるようにしてお団子を取っていく。だが、食べてる本数はこっちが多い。三本くらい取ったら、向こうも一本取って食べると言った感じ。ふふん。勝てるなこれ。


 私たちは、そうやって、段を一段ずつ綺麗に崩しながら、減らしていく。食べ方は、合わせてきおったな。私は、こうやって一段ずつ端から平らげていくのが好きでね。何か達成感がある。


「…………」


 ちっ。しかし、シビアナめ。まあ、こいつも私の心を読めるなんて、そんな事一度も自分から言ったことがないし、認めてもいない。尋ねても、笑ってはぐらかす。


 だけど、そうでないと説明できない事が、色々と多くてね。だから、私は読めるんだと思っている。その思いは、さっき分析をしていると知って、更に強い確信となったかな。


 そりゃあ、私だって人の心が読める時はある。それは、他の者でもそうだろう。その人となりやら感情、表情。あるいは経歴などと言った情報から、こう思っているんじゃないか、こう動くんじゃないかって想像を巡らせる。本来、心を読むとはそういう事を指すのだろうしね。


 だが、シビアナは、それだけじゃない。こいつは、私が心に思った言葉まで当ててくる。私の言葉を、本に書いてある文章の様に読んでくるのさ。と、そう思っている。いつもがいつも、全部が全部ってわけじゃないがね。


 でもだから、こんな事が出来る人間を傍に置くって、大丈夫なのかと聞かれた事もあった。思考が筒抜けな訳だし。まあねえ。そう言われれば、確かにそうかも。とは思う。


 だが、その程度だ。これも慣れちゃってるんだよね。それに、嘘なんかも含め、良く見抜かれている。他の連中にも。だから、まあどうにでも。って感じ。


 最悪、私が認めなきゃ良いしさ。シビアナが、勝手にそう思ってるだけで済ませる。豊胸の薬も、飲んだのが知れただけで、さっきみたいな状況にならないなら、それで済ませていただろう。


 だから、証拠としても使わせないし、使っても来ない。さっきの尋問も、まあそうかな? 証拠がなければ、ちゃんと言質を取ろうとして来る。そして、私はのらりくらりを決め込もうとした。


 これは、光さえあれば髪色を見分ける事が出来る。母様の部屋の把握。こういうのと同じ類って事だね。


 それに、弱点というか抜け道もある。本当にいつもがいつも、全部が全部ってわけじゃないのさ。多分ね。


 例えば、尋問前に、執務室で悪戯をしようとして、私がやろうとしたその全てを当てられ驚いてたわけだが――。


 これもあれなのよ。私はあの時、思考を言葉にまではしていなかったからなの。その悪戯がどんなものなのかをね。だから、あそこまで驚いたんだ。


 あと他にも、尋問中に豊胸の薬についての注意書きがないとなって、シビアナがその内容を知らないかもと喜んでいたけど。これも、その内容まで言葉にしていなかったからね。薬の名もさ。それがあって、あれだけ喜んだってわけ。


 つまり、シビアナが、心の中で思っている事を読んでくるとしても、それはその言葉でなければならない。急に、母様の顔を思い浮かべても、それは分からないのさ。


 まあ多分、そのはず……、そのはずだ……。いや、これも確証がないからさ……。それに、その分からないだろうってのも、何の脈絡もなければの話で。


 流石に、母様の話をしていたら、思い浮かべているくらい察する時はあるだろう。ただ、これはシビアナじゃなくても、になるんだろうけど。


 と、こんな感じで、抜け道っぽいのもあったりはする。ううむ。確かにあるにはあるんだが、そもそもこいつはなあ……。私の心をこうやって読まなくても、察しが良すぎるから……。どの道、一度疑われれば、その隠し事を隠し続けるには困難を極める。


「はあ……」


 こう言うのにも慣れたと言うか、それが当然だと受け入れてしまっている気がするな……。


 しっかし、当然――慣れか。いやはや、この慣れってのは大切だが、慣れ過ぎると怖いもんだね。他の人からすれば異常な事でも、平然としてられるんだもの。まあ、こいつ基本超優秀だし。いないと困るから。だが、それ以前に――。


「ふふ。さて――」


 シビアナが、一串食べ終わって、その串を別で用意された小皿に置く。それから、お茶の入った湯呑みを手に持ってから言った。


「慣れはともかく。話は変わりますが、殿下」


 ほら。慣れって何の脈絡もないじゃん。やっぱ分かってんだろうが、お前はよお!


 その言葉がどうして出て来たのか。突っ込んでやろうとも思わない。どうせ、笑ってはぐらかす。だから、私も無視して、湯呑みを口に運ぶ。それから、お互い、お茶を一口飲んでから尋ねた。


「何じゃい?」

「実は――。近々、『シカルアヒダ王国』より、王族の方がお越しになります」

「――うん? 王族が? シカルアヒダの?」

「はい」


 ほおおー? しかし、あの国の王族とはねえ。また珍しいとこから来る。一瞬、その国が何処にあるかも思い出せなかったもの。


 シカルアヒダ王国。ここトゥアール王国の西に位置する国だ。でも、かなり遠い。交流がある国の中でも、群を抜いて遠い国だ。まあ、近くもなったりするそうだが。


 ただ、その交流自体は、至って普通にあると思う。だが、王族とってなると、ないなあ。私だって初めて会う事になるのよ。


 しかし、王族か――。以前の様な事にならなきゃ良いが。面倒くさいし。


「いつ来るんだ、シビアナ?」


 新しくお団子の串を手に取って尋ねる。


「まだ未定です。近く来訪すると、その連絡自体はシカルアヒダより届いておりますが――。西都からの報告は、依然として届いていない様子ですので」

「あら」


 その王族が、この国に入るっていうなら、西から国境を越えて来るだろう。そうなると、シビアナが言う様に、その西にある都、『西都』から連絡が来るはずなんだ。


 シカルアヒダ来たから、そろそろ用意しといてねってさ。でも、それがないとなると、近々と言っても、まだ先の話になりそうだ。西都とも距離があるから。馬車だと十日くらいは見ておいた方が良いだろうね。


「ふううん。それで、その王族は、何をしに来る?」

「遊学を兼ねた外遊、という事らしいですね」

「ああ、そういう」


 なら、楽そうだ。私が、特に何かをしなければならないって話じゃないかな。初対面って事もあるし、その挨拶と――、良くて晩餐くらい?


「殿下。私たちはいつも通りです」

「ふぉえいふぉえい(へいへい)」


 お団子を頬張りながら答える。おう。いつも通り、お前に任せるわ。すると、シビアナも、お団子の串を手に取った。


「はい、お任せを。そして、いつも通り、粛々と――」


 そう呟くと、串に刺さったお団子を一つ食べる。そして、また一つずつ食べ終えると、


「淡々と――。悠然と――」


 自分に言い聞かせるように、ゆっくり、ぽつりぽつりと。


「そして、完璧に――」


 そう言葉を続けて、全て食べ終わった。串を小皿の上へ音も立てず静かに乗せる。ま、大抵今言ったような感じになる。シビアナが仕切るとさ。ただ、今回はそこまで気張らなくても良い気はするがね。


 この話はここで終わりの様だ。もう何も言って来なかった。とりあえず、こう言った予定があると伝えたかっただけみたい。


 そして、お団子の山も、終わりを迎えようとしていた。シビアナが食べ終えて、最後に一本だけ残っている。勝負は私の勝ちだ。それは串の数を見れば歴然。


 しかし、一本か……。何だろうね。こういう時、手を出すのを躊躇っちゃうってのは。まあ、相手にも寄るんだけども。うううんと? でも、これは、ねえ? これは、私が食べても良いでしょうよ。ねえ?


 ちらりとシビアナに目をやる。目を瞑り、両手で持った湯呑みを、悠然と静かに傾けている。大丈夫そうだな。まあ。まあまあまあ、そもそも私王女様だし? 尋問の件があっても、流石にね? 


 そう言い聞かせて、ひょいっと最後の一本を取った。そして、若干気まずく思ったのもあって、すぐにぱくりと食い付く。


「――!?」


 な!? こ、これは――!? もぐもぐとした口が瞬時に止まる。驚愕で目が見開かれた。シビアナの目も開かれ、満足したように笑みを浮かべる。この味――! 白玉団子じゃない! これは、この味は――!


 崇高にも似たもっちりとした甘味。その味をちゃんと堪能してから、ごっくんと飲み込んだ。


「し、真・白玉団子だと――!?」

「ふふふ!」 


 真・白玉団子。このお団子は、百花堂の限定品の一つだ。見た目は、職人の遊び心から、白玉団子とそっくり。ホント良く見ないとその違いが分からない。だが、味の方は全然違う。一口で分かる。


 何故なら、使われている餅米が違う。我が国の最高峰と名高い『稲里餅いなりもち』。これを用いているからだ。


 この餅米は、月夜に照らされ黄金色に光輝く稲穂としても有名だが、採取量が少ない。また神事に使われるのが最優先で、市中にも優先的に回す。だから、王女である私でも早々食べれるものじゃない。


 そして、この稲荷餅。これを初めて食べた者は、一口食べただけで唖然とする。これがお餅なのかと。それほどまでに、他のお餅を圧倒するだけの威力がある。


「実は、先程、一旦席を外した折。注文していた白玉団子を取りに行ったのですが、それと共に献上品として届いておりまして。ならば、殿下に召し上がっていただこうかと」

「ひょおはっはのね!(そうだったのね!)」


 どうやら、最後の一串は、私が食べるのを見越して、その献上品にしていたらしい。なんだよもおお! シビアナこいつううう! 粋なことしちゃってさあ! その美味しさも相まって、頬張り顔が緩むこと緩むこと。


 許そう。今日の全てを――。素直にそう思えた。


「百花堂は、予約の方も開始したとの事。それを知らせるため、今回は献上品も用意したのでしょう」

「ひゅむ(うむ)」


 父様は献上品を嫌う。だから、いつもじゃないが、それでも限定品をその献上品として、持って来てくれることがあるんだ。


「予約はいつも通りです。それから、レイセインとアットランゼの分もお願いしております。もちろん、あの子達の分も。近日中にはまた届くでしょう」

「ひょうかひょうか(そうかそうか)」


 うむ、大義。今出たアットランゼってのが、レイセインと同じくシビアナの副官みたいなもんだ。彼女も今日はお休み。ああいや、夜の方にだけ来るんだっけかな。


 それから、予約分もそうだが、百花堂が私たちに献上品として贈ってくる場合も、王宮がその調理の最初から立ち合っている。毒の混入を危惧しての事だ。その後も毒見などの検査をする。


 うううん! 美味しかったああ! 私は食べ終わった串を、感謝も込めて丁寧に、他の串が一緒くたになった小皿に添える。そして、お茶をしみじみと飲み干し、ほっと一言。


「ごちそうさまでした……」


 白玉団子からのこの締め括り。最高だった。余は満足じゃあ……。気付けば、髪の色も喜びを示す黄色に変わっていた。


「ふふ。本当に美味しゅうございましたね、そのお団子は」

「ねー!」

「はい。ふふふふ!」

「うんうん!」


 ありがと、シビアナ! ホント美味しかったー! お互い笑顔でうなずき合う。だが、


「………………」


 私の笑顔だけそのまま固まった。んーーーーーー? あっれえーーーー? 今こいつ何て言ったーーーー?


「シビアナ……」

「はい、何でしょう?」

「お前も、真・白玉団子食べたの……?」


 そう言ったぞこいつは。確かにそう言った。さっきもそう言った。だが、


「いいえ?」


 シビアナは首を横に振る。笑顔でそれを否定した。どうやら食べてないらしい。ほおおう。そうかそうか。そのお団子と言うのは、真ではなくただの白玉団子と言う意味だったか。


 だが、別にばれても構わない的な、その余裕のある雰囲気――。疑惑が深まった。私は、シビアナの食べ終わった串が乗る小皿をじっと眺める。ざっと見三十本くらいあるように思う。


 しかし、その残った串は、証拠にならない。竹を細く割った串。先は尖っている。これは、白玉団子に使われている串と同じだ。


 証拠はどこにもない。あるとしたら、それは全て奴のどす黒い腹の中。


「…………」


 だが、私はその本数を見て気が付いた。いや待て――。そもそもおかしい。


「シビアナ……」

「はい、何でしょう?」

「献上品として届いたこの真・白玉団子――。残りはどうした……?」


 何故一本なんだ? 献上品が一本だなんて、そんな事はないはずだ。百花堂は真・白玉団子を木箱に入れて献上してくるのが常。


 その箱に入ったお団子は、三十本ほどになる。そう、三十本。シビアナが食べた本数くらい。つまりだ。その残りは、やっぱりさっきのお団子のお山に潜ませてたんじゃないか?


 確かに潜ませれば、まず見分けが付かない。だが、お前なら看破できるはず。それに出来なくても、その位置は把握できるだろう。記憶力は相当なものだ。


 そして、私の食べ方――。段を綺麗に一段ずつ、端から平らげていく。その食べ方を知っているお前は、それに合わせるように見せかけ。こっちが取った後に、悠然と潜ませた真なる白玉団子を我が物にしていた。


 最初から寄越せと言わなかったのは、段にある本数が少なすぎるから。私の手に渡る可能性が高いから。だから、お前は中盤に差し掛かる、十段目辺りから潜ませ、その上で声を掛けてきた。


 私はその仮説をぶつける。すると、シビアナは悟ったように目を伏せた。それから、その顔をゆっくり上げると、にこりと笑う。そして、片目を閉じて目配せをしてきた。よし、有罪。私はこのアホの心を読み切った。


「シビアナアアアアアアア!!」

「ふふふふふ!」


 何笑っとんのじゃお前はあああ! あと、そんな目配せやっても、全然可愛くないんじゃぼけええー!


 シビアナはやっぱり解任させたい。私は素直にそう思った。

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