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王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第一楽章 トゥアール王国の王女殿下
14/27

第14話 種明かし その2

「シビアナ。お前、いつから気付いていたんだ?」


 種明かしは、自分から聞くことにした。知りたい事をさっさと教えてもらいたい。で、まずはこれから。一番気になっていたので、最初に聞いておくことにした。


 こいつにさえ気づかなければ、事は露見しなかっただろうに。一体、どの時点で、分かっていたんだろ? 


「当日です」


 …………。


「へ? 当日?」

「はい。あのお部屋から、やけに嬉しそうにして出てこられましたね。髪色も変えられて」


 は?


「え? お前あそこにいたの?」

「ふふっ。執務室にそのまま戻られるはずが、一旦、自室の方に寄られるのではないか。私の直感がそう囁きまして」

「ええー……」


 どうやら直に見てたらしい。何、その直感……。


「と言うのは冗談ですが」

「冗談かよ」

 

 しっかり信じちゃったわ。まじで有り得そうだもの。


「じゃあ、何?」


 父様のとこから、尾行でもしとったんかね。


「殿下は、あの時、陛下と喧嘩をなされたのです。その轟音が、執務室まで届いておりましたので」

「ほう」

「ならば、着替えてからお戻りになられる。その衣服のご用意、ですね」


 おいおい……。


「それくらい自分でやるって……」


 子供じゃないっての。


「ふふ。どちらかと言えば、用があったのは着ていらした服の方です。修繕なり処分なりが、必要となるでしょうから」

「ああそう……」


 私の服は丈夫だが、それでも父様とやり合ったからな。破れたりはしなかったが、確かに、多少裾なんかが綻んでたか。


「修繕ね」


 その支度をしようと。あの時も、脱いだ服はそうされていたっけ。


「だから、お前もあの階に来ていたのか」

「はい。ですが、殿下は一向にお戻りになりません。あの階の警備に就いていた近衛騎士に尋ねれば、階自体にお戻りになられた事は確か」


 ふむ。


「となると、寄り道をしている。それはどこか。あの階で、殿下が立ち寄られる場所は限られています。簡単な推察ですね」

「なるほどね」


 母様のあの部屋と私の自室は、同じ階にある。女性の王族専用の階なんだ。で、私以外で現在使われてる部屋は他にない。なら、寄り道してるなら、まず母様の部屋辺りとなるか。まあ、それは分ったが、


「でも、周りには誰もいなかったはずなんだがな」


 廊下の先も、その先にある曲がり角なんかにも気配はなかった。外壁に張り付いて、廊下の窓から覗いてたりもない隠れてもいない。そういうのを確認して退出したんだけど。


「さあ、何処にいたのでしょうね?」


 またそうやってはぐらかすー。いいよな、お前はそれが出来て。しかし、気配も感じなかったし、結構遠くから見ていたのか? 視線となると、そうなる。なら、気付けないが。


 私が察知できる気配の範囲、その間合いは、シビアナの場合だと、執務室の端から端あたりが限界だ。ただ、視線だともっと遠くからでも分かる。


 だから、さっきの執務室でも、シビアナは最後まで視線を向けていないはずだ。向けられてたら、その時点で気付いていた。


「それで? お前も入ったのか。私が立ち去った後、母様の部屋に」

「はい。殿下のあのご様子、そして髪色――。不穏に思いましたので、陛下に事情をご報告し、鍵を拝借させて頂き、私も入室を」


 げ……。じゃあ父様も当日から、事情を把握してたのか。


「…………」


 ――うん? 違和感があった。それが何かすぐに思い至る。当日から知っていた――、だと? じゃあ何で一か月も放置していたんだよ。どうして、すぐに言って来ない? シビアナだってそうだ。


 疑問に思ったが、そのシビアナが言葉を続けるので、そちらに意識が向いた。


「入室して、まず、殿下の足跡を見ようと思ったのですが――」

「あ、足跡!? えええ!? 残ってたの!?」


 そんな初歩的な事も、出来てなかったのかと驚いてしまった。うわあ……。やられた。それは気付かなかったわあ……。いや、床は埃なんかもなく綺麗だったけど、足跡なんて見えなかったはずなんだが。あったのお? うそお……。


「ふふ。残っておりましたが、かなり見えづらかったですね」

「そ、そうか……」


 焦ったあー。良かった。見落としてたのかと思ったわ。でも、見えづらいって……。見ようと思えば見えたって事? えええ……。


「ですが、それを見るまでもありませんでした」

「ん? なかった?」

「はい。前室も居間も、一切変化がございませんでしたので。ですから、すぐに寝室の方へ」


 おいおい。


「一切ないって」


 良く言い切れるな。どこで判断してんのよ。


「あの部屋の事は、全て覚えておりますから。例えば、家具などでも、ほんの僅かでもずれていれば、私には分かりますよ?」

「ええー……。ホントおお?」


 信じられないと、訝しむ視線を向ける。確かに記憶力は相当なもんだ。昔の事でも事細かに覚えている。しかし、流石にお前でも、全てはどうよ? 今言った微妙な変化くらいなら、違和感なんて抱けないでしょ。


 証拠もないもんね。さっきの、光さえあれば私の髪色の区別がつくってのと似たようなもんだ。こういう信じ難い話は、その証拠がなきゃあ、そう易々と信じません事よ、わたくし


 まあ――。豊胸の薬は、その証拠があっても駄目だったけどね! ははっ! ぐぎぎぎぎぎ……!


「確かに、殿下が疑われるのも無理からぬことでしょうね」


 あの薬だきゃあ――! 人をあんだけ、ぬか喜びさせやがって――!


「ですが――。だから、分かったのですよ、殿下」


 ああ、腹が立つ! え――? 


「何が分かったって?」


 聞き逃した? 聞き返すと、シビアナはそれがどうしてか、分かっている様に微笑んだ。


「ふふっ。寝台にあった寝具の違和感に、です」

「寝台の?」

「はい。綺麗の戻しておられましたが、それだけでは不十分でしたね。布団や枕の形や位置も、それに出来た皺も。以前のものとは全く違いましたので」


 な――!?


「また、一度でも、敷布団を引き剥がせば、折り目がつき厚みも変わります。そこが分かりましたので、私も同様に。そして、寝台に施された仕掛けを動かし、この箱も。と言う訳です」 


 シビアナは目を落としから、その箱を優しく撫でた。おいおい、ホントに全部記憶してるってのか……。私は元あった様に戻したつもりだ。再確認までして丁寧に。ただ、今回はそれが裏目に出たようだが。


 でも、確かに分かっているなら、違和感を抱かない方がおかしいのかもしれない。とは言え、皺のでき方や布団の厚みでさえ、そんな些細なものまで把握してるってのか、こいつは……。


「あとは、香りです。殿下の残り香が寝具に付いておりました。ですから、間違いなく寝台で何かしらされていたのだと分かりましたね」


 げげ。まだ他にもあった。こりゃ言い逃れなんて、やっぱり初めから出来やしなかったな。


 はあ……、やれやれ。大したもんだ。ホントやばい奴だわ、シビアナって。尋常じゃない。だから、まあ――信じよう。こいつは、全て記憶し把握しているんだ。折り目とか分からんて。


 香りを頼りに隈なく調べてみただけ、という線も思い浮かんだりしたが、もう疑う方が面倒くさい。とりあず、あの部屋に限っては、全て記憶しているのだろう。しかし、信じはするが、うんざりした。だってさあ。


「お前……。そこまで分かってて、よくもまあこんな尋問なんかを……」


 何なんホント。全然必要ない。全部分かってんじゃん。しかもだ。


「それから。その薬が何なのかって、それを調べるのは分かるがさあ。まあ、毒があるかもしれないし? でも、その薬を、いつ飲んだとかまでは調べなくても良かったじゃないか……」


 御大層に、色々調べまくって割り出したみたいだが。全く必要なかっただろうに。そこまで分かってるなら、もうそれで良かったじゃない。


 それでもやったのは、私をただ追い詰めて、あたふたする様を見たかっただけとしか思えん。そのためだけに、するなっての。


 掛かった経費は、自腹でやってるんだろうがさ。それでも、勿体ないわい。そんなお金があるなら、テレルのために使いなさいよ。


「ふふ。日にちの割り出しですか」

「ああ」

「確かに仰る通りです。痕跡は、肖像画と寝台辺りだけ。そして、先程お伝えしたように、紅の銀粉が付着しておりましたので、殿下に間違いありませんでした。ですから、そこまでは必要なかったでしょうね」

「だろ?」

「はい」


 ほら見ろ。要らないじゃん。ったく、徹底的にやりやがって……。


「ですが、殿下」

「なに?」

「逆にお尋ねしますが――。その必要ない事を、ただの無駄を。この私がするとお思いですか?」

「え?」


 するかだって? したんでしょうが。あと、お前のする無駄は、必要な無駄だからな。ただの無駄ではない。ここまでやってるんだと、私を追い詰めるのには良い手であったわけだし。なのに、いきなり何を言い出して――。って――!? ああああ!?


『ただの無駄』と、敢えて口に出したんだと、その悠然とした表情を見て気付いた。そう、私を追い詰めれば良い。それだけの事が叶えば良いんだ。だから、調査は必要ない。私が信じればそれで良い。つまり、


「あれも、ただのはったりかよ!?」

「ふふふふふ――!」


 こ、こいつはああああ! 大嘘吐きまくりやがってええええ! やられた。状況が状況ってのもあるが、これはもう全然疑ってなかった。だって、こういう時は今までやってきたもの。徹底してたもの。しかし、だからこそ、その事実を逆手に取れたってわけか。


 で、こうやって印象付けは終わっているんだ。って事は、今までも、きっとあったんだな。そのはったりは。


「はあ……。ったく。調査は、まあ分かったわ……。でも、尋問の意味はなくない?」


 呆れて溜息が出るってなもんよ。ちきしょうめ。だけど、こっちは、ホント必要ないじゃん。


「ふふふ! いいえ? とても重要ですよ?」

「ホントおお?」


 それこそ、私をおちょくって、自分が楽しむためにしたんじゃないのお? 重要ってそういう意味じゃないのお?


「ふふふ! 重要ですとも。なにせ――」


 なにせ?


「殿下が、どういう条件下で、どういった行動をとるのか。その特性を分析するのに必要となりますから――」

「分、析……?」

 

 またいきなり何を言い出してるんだ、こいつは。何だよ、分析って。うん、分析? 行動の? う゛っ――!?


「ま、まさか!? だからお前! いつも私に感想を――!?」


 そうやって聞き出し、分析を繰り返して、行動を読んでいたのか!? 


「と言うのは冗談ですが」

「いや、冗談じゃないよね!?」


 にこっとして言うな腹立つ! 私の直感がそう囁いとるわ! 絶対違う。こいつは分析してたんだ。間違いない。


「あらあら。ばれてしまいましたね。これは秘密でしたのに。つい口が滑ってしまいました。ふふふっ!」

「…………」


 こっちは、唖然を通り越して、開いた口が塞がらない。き、気を付けよう。これからは、率直に感想を言うのを避け――。


「ま、構いませんね。分析方法は、これだけではありませんので」

 

 ちょっ!?


「ま、まだあんのかよ!?」

「はい。それはもう色々と。ふふふ――!」

「ええー……。い、色々って……。何……?」

「ふふふふ――!」


 尋ねても答えは返ってこない。口元を隠しただ悠然と笑うシビアナに、身の毛もよだつ戦慄を覚えた。ホント一体、何があるってんだ……。超怖い。


 しかし……。まさか、分析のために尋問されていたとは……。今までもそうだったわけだな。やれやれ、堪ったもんじゃない……。


「いいえ。今回は特別です。尋問の理由は、分析のためではありませんよ?」

「え? 違う?」

「はい。分析も重要でしたが、それはあくまで二次的なものです。尋問をした本当の理由ではありません」

 

 じゃあ――。何だってんだ?


「ふふふふふ……」


 え? 何その笑い。今みたいな、からかう様な笑い方じゃない。あと様子がおかしい。何か暗い感じに変わった気が。


「殿下……」

「な、何?」

「実は、殿下の一撃で、寝台が歪み補修する事になったのですが――」

「え? そうなの?」

「はい……」


 えー? いや、最初はそう思ったが、結局、変わりなかったよねえ? 壊れてなかったよなあ? 仕掛けもちゃんと動いてたし。


「いえ。仕掛けも、歪みが見受けられましたので、調整をしなければなりませんでした」


 ふーん。そうなのか。ていうか、さっきからまた私の心読むの止めてくんない? 急に始めるのもさ? 今は尋問中じゃないんだ、必要ないでしょ?


 あと、いっつも思うけど、なんで言葉に出してないのに答えられるの? どうやってんの、お前? 分析のおかげなん?


「それで、殿下……」


 おう、無視か。いやまあ、無視と言うのもおかしいんだが。心の中で思ってるだけだし。


「なんだよ?」

「また、逆にお聞かせ願いたいのですが――」

「――? ああ」

「補修と言う事は、それはつまり。殿下は、あの方の私物を破損された、となるわけですが――」

「え?」


 まあ、補修するのなら、そうなるのか。


「う゛――っ!?」


 唐突に、ぞっとする気配が私を襲う。その怖気は、まるで得体の知れない何かが潜む暗闇のよう。それが、眼前のシビアナを覆い隠すように発せられていた。


 だが、その表情だけは分かる。両目を見開らいた、それは笑ってない。微笑すらない。怒ってる時でも絶やさないような、あの笑みが一切ない。真顔だったのだ。それは、尋問前の詰問時に見せたものの比でなかった。何!? 何なの!? お前、また何でいきなり――!? 


「殿下……」


 ひい!? それは、仄暗い井戸の底に籠った怨嗟のような声。その声が私の首を鷲掴みにする。


「あの方の薬に、無断で手を付けるだけならまだしも……。あまつさえ、あの方の寝台を破壊しかねない行為をするなどと――。その様な畏れ多い事をしでかしたら――」


 あわわわわ――!? 更に、その声が何重にもぶれて聞こえてくるようだった。そのぶれが膨らんで、私の首を絞めつけていく。


「それが誰であろうと――。この私が何もせずに――」


 がくがくぶるぶる――!


「許すと――。お思いですか――?」


 ひいいいいいいい!? 圧倒的殺意。そして、怨念。憎悪。鷲掴みにされた首がへし折られそうだった。その恐怖で、最早、髪色も目に入らない。こ、これは――! やばいやばいまじやばい! そうか! だから、こいつ! 最初っから、あんなにも怖かったのか!


 仕掛けは動いたし、寝台の歪みも気付かなかった。破壊とはもう考えてなかった。だから、思い至らなかったんだ。そう、シビアナは、母様の事が大好きだったんだよ! その母様の寝台を壊してたかもしれないとなれば、そりゃあ――!


 あんなにへとへとになるまで終わらなかった尋問を何故やったか。その本当の意味を私は理解した。それは、物が物ってのもあるが、薬を使ったとかじゃない。これは恐らくまだ許容範囲。


 だが、母様の私物の破壊ともなると、当然と言えば当然。話は全く違うんだ。この尋問は、その母様の寝台を壊そうとした事への罰。いや、報復と言っても過言ではない。


「ごごご、ごめんなさいいいい!!」


 今日一で怖いのは、これでした。私は即座に机を両手で抱え、その机に額を打ちつける。もうしませんから! いやホントにいいい! 


 そうやって、打ち付けたまま頭を伏せる。がくがくと震える体のせいで、カタカタと机が音を立てる。すると、しばらくしてシビアナから恐気が、ふっと消えた。


「ふふふ……。殿下には、尋問の罰を受けて頂きましたので。この話はもうお仕舞です……」


 ほっ……。


「ですが――」


 びくう!


「次また同じような事をしでかしたら、その時はどうなるか――。それを、よくお考えになってから。今後は行動なさって下さいね……?」

「わ、分かってる! 分かったとも!」


 また顔が笑ってないよおおお! 今度こそ、まじもんの報復になる。それが分かって、ぶんぶんと首を縦に振った。


「ああ、それと殿下」

「な、なにかな!?」

「取り調べ自体は、特に面白かったとは思っておりませんので。そこは、誤解なき様お願い申し上げます」

「は……?」


 いや、いまさら何? そんな訳ないじゃない。ずっと、私をおちょくって楽しんでたと思ってたよ? そうとしか思ってないよ? そうやって、恨みを鬱憤を晴らそうとしてただろ、お前。


「ああ。勿論、それも分かっているさ……」


 しかし、完全にこちらが悪いので、もう何も言い返さない事にする。超怖いし。


「はあ……」


 ともあれ。シビアナの怒りが治まって、ほっと一安心だ。私は、そのシビアナの傍にある小瓶に目をやる。


 ったく、あの薬のおかげで、とんだ目に遭った。効果が出たならまだ許せる。まだね。でも、全っ然効果ないし。


「結局――。その薬の事は、どうやって調べたんだ?」


 そう言えば、これ聞いてなかったな。覚え書きはあった。そこにその名も記されていた。だが、それだけじゃあ、こいつは納得しない。必ず裏を取っている。どうやって取ったんだろ? 覚え書き以外で、何か手掛かりとかあったのかね。


 なかったら一からだ。記録してある薬の中から、その性質、色、形状なんかを調べて照合していかないといけなかったりするけど。


「それは、陛下の元へこの箱を持参しましたところ。その陛下ご自身が、この薬についてご存知でしたので、すぐに裏が取れました。色々と調査もなされていたとか」


 あら。


「へえ。何だ、父様も知ってたのか」

「はい」


 知ってる者が身近にいたのは楽だったな。それが国王である父様となれば尚の事。調査もしてたって言うし。そりゃすぐに判明するわ。


「しかし、すぐに判明はしたのは良いのですが――。やはり、本当に合っているかどうか、その確認は必要です。ですから、その成分の照合はして頂きました。その結果、同じものだと確認が取れています」

「そうか」


 やっぱりやってた。でもまあ、これはやらないとね。別物に入れ替わってる可能性とかあるもの。ちゃんと密閉されていたが、そんなの簡単にできるから。


「でも、あの父様がよく知ってたな」


 全然興味ないだろうに。


「調査の際に一悶着あったそうです。そのため、覚えておられたとか」


 一悶着かあ……。


「ただ、複数本あった事までは、ご存知ありませんでしたが」

「へえ……?」


 瓶三本分の型に嵌って、箱に入ってたのにね。


「また、その当時の事も詳しく聞かせて頂いたところ、結局この薬は服飲される事はなかったとの事」

「え? 母様、飲んでないの?」

「はい。陛下が寸でのところで取り押さえられたとか。これが、一悶着のようですね」

「ふうん。そうなんだ……」


 そんな事があったのか。――んん? ちょっと待って、それは別としておかしい。


「いやでも、シビアナ。飲んでないって変じゃないか? あの寝室の肖像画、お前も見てるだろ? おっぱい大きいじゃない。ばいーんって。で、母様ってお前の方が覚えてるでしょ? 実際の、ホントのおっぱい、あんなんじゃなかっただろ? つ――。本当に飲んでないのか?」


 つるぺったんとはもう言わない。もうなんかね? これが冒涜的表現みたいな感じがして来てね?


 でも、おっぱいが小さかったのは、これは間違いないと思うんだが。ぺちぺち叩いたのも思い出したし。なら、辻褄が合わないでしょ? 


「確かに仰る通り、あの肖像画はふくよかですね」

「うん。でしょ?」

「はい。ですが、殿下。あの肖像画――。あちらは嘘です」

「――へ? 嘘?」

「そうです。初めから絵師に依頼して、大きくするよう偽装されたのです」

「はああああああ!?」


 偽装って、盛ったって事!? 特盛!?


「それホント!? ホントなの!?」

「ふふっ。はい、本当です。私も、その場におりましたので覚えております」

「そ、そええええええー……」


 いやあー……。その考えは、なかったなあ……。そこまでしたか。何やってんだよ、母様。よし、私もそれでいこう。じゃなくて。


 何てこった。肖像画は、まさかの偽造。つまりこれは、自分が浅はかな行為に走ったと言う事。何の根拠もなく、訳の分からない薬に手を出してしまったことに等しいのだ。


「シビアナ。その薬は、毒の類だったのか?」


 そうだったら、ホントやばいわこれ。ああ、でも――。シビアナが何の対策もしない訳がないか。飲んだのは当日から分かってたわけだし。


 これを知らなかったのもあって、さっきは気付けなかったが、だから毒の可能性はまずないはず。案の定、その首は横に振られた。


「陛下は、一悶着の際、薬の入ったその小瓶を取り上げられたそうです。それを使い、薬の成分を調べられたとか。そして、その結果。毒の類ではなかった事が、確認されております。また、殿下のお飲みになった方も、その残りを使い確認を取っています。毒ではありません」

「ほっ。そっか」


 良かったわあ。だが、軽率すぎた。素直に反省だわこれ。やれやれ……。


「毒ではありませんでしたので、陛下も、もう放っておいて良いと仰られましたが――。念のため、ご許可を頂いて、私の方で最後の一本を使い、この薬を調査する事に致しました」


 ふむ――。正体も割れて、毒でもないなら、もう必要ない事だよね。でも、シビアナは無駄な事はしない。やっぱり、こいつの無駄は必要な無駄。念のためなのさ。しかし、それがよく当たる。だから、気になった。


「何が引っ掛かったんだ?」


 尋ねると、微笑みを返して、それから答えた。


「この薬は、シドー様が研究なさっている、あれ・・と関係している可能性があります」

「え――? そうなの?」

「はい」


 シドー様。シビアナの言う、この人が私の師――先生だ。


「ですから、調査はそのシドー様に」

「ありゃ。先生だったんだ」


 どうやら、調査も頼んでたらしい。まあ、あれについては、第一人者も良いところだからな。


 先生の所には、元々行こうって思ってたが、結局行けてなかった。だけど、こりゃあ絶対に行かなきゃならなくなっちゃったな。調べてくれたお礼をするためにもね。


「しかし、あれかあ」


 まあ、この薬の効用からして、可能性はあるのかなあ。どうだろ?


「ちなみに、母様の時も調べてたの? 知ってる、シビアナ?」


 調査したってんなら、やってそうなんだが。すると、今度はその首を縦に振った。


「当時も、その可能性を考慮し、調査して問題はないとされたそうですね」

「ほう」

「ですが、それもまた随分と前の話になります。ならば、シドー様のご研究が進んでおられる今なら、どうか? また別の事実が判明するかもしません。ですから、念のため。ですね」

「そう言う事」

「はい。そして、その報告は既に届いております」


 なるほど、先生待ちだったんだな? だから、シビアナは、今まで何も言って来なかったんじゃない? 


 こいつは情報を相当、重要視している。しかも、ちゃんと貰える情報なんだから、それを待ってからの方が良いと判断したのかも。何をするにしてもね。


 父様たちは、ううむ即日怒られても不思議じゃないんだが。まあ、放っておいて良いって言ってたみたいだし、めんどくさかったのかね。


「で? その報告で、先生は何と言ってきたんだ?」


 はあ……。一体どんな結果だったのやら。毒じゃないのは良かったが、あれと関係しているかもしれないと、シビアナも疑っている以上――。やれやれ。ホント軽率が過ぎたよねえ。碌でもない事になっていなきゃ良いけど。


「やはり、関係はあるそうですね。それが分かったと」

「うげ」


 やっぱり当たってた。これだよ。シビアナの無駄は必要な無駄。まあ、今回もその無駄になっていないが。


「ただし、殿下」

「うん?」

「シドー様が仰るには、この薬は不完全だそうです」

「え? 不完全?」

「はい」


 不完全……。まあ――、私には効果なかったもんな。


 でも、何だろうね、その言い方。完全な物があるみたいな――。つまり、その完全な物って事になれば、それが本物の豊胸の薬だってことか!? おおおお!?


 あれ? 碌でもない事になってなくなくない!? え? これだとどっち? 碌でもない? ああ、いやいや待て待て。とにかく、先生に聞いてみるのが先だ。肖像画の二の舞は嫌だぞ。私は反省したんだ。落ち着け、どうどう。


「シドー様から、不完全について、詳しい説明はありません。それを知りたければ、研究所へ来るように、だそうです。恐らく、あちらでなければ説明できないのでしょう」


 ふむ――。あれについてなら、そうかもね。


「ですから、殿下には今からシドー様の研究所へ向かって頂きます」

「え? 今から?」

「ふふっ。はい、今からです」


 おお、そりゃ有り難い。そう素直に思ったのだが、


「――あ」


 私は気付いてしまった。うわあ……。


「だからか……」

「ふふふふ!」


 流石、手回しが早いですこと……。そう。だから、私の公務がぽっかり無くなってたんだ。尋問だけじゃない。先生の所にも行く気だったんだよ、こいつは。纏めて片付けるつもりだったんだ。


 ともあれ、不完全というのが超気になる。なら、早いに越した事はないのは確か。よし、行こう! さっさと行こうじゃないか!

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