第14話 種明かし その2
「シビアナ。お前、いつから気付いていたんだ?」
種明かしは、自分から聞くことにした。知りたい事をさっさと教えてもらいたい。で、まずはこれから。一番気になっていたので、最初に聞いておくことにした。
こいつにさえ気づかなければ、事は露見しなかっただろうに。一体、どの時点で、分かっていたんだろ?
「当日です」
…………。
「へ? 当日?」
「はい。あのお部屋から、やけに嬉しそうにして出てこられましたね。髪色も変えられて」
は?
「え? お前あそこにいたの?」
「ふふっ。執務室にそのまま戻られるはずが、一旦、自室の方に寄られるのではないか。私の直感がそう囁きまして」
「ええー……」
どうやら直に見てたらしい。何、その直感……。
「と言うのは冗談ですが」
「冗談かよ」
しっかり信じちゃったわ。まじで有り得そうだもの。
「じゃあ、何?」
父様のとこから、尾行でもしとったんかね。
「殿下は、あの時、陛下と喧嘩をなされたのです。その轟音が、執務室まで届いておりましたので」
「ほう」
「ならば、着替えてからお戻りになられる。その衣服のご用意、ですね」
おいおい……。
「それくらい自分でやるって……」
子供じゃないっての。
「ふふ。どちらかと言えば、用があったのは着ていらした服の方です。修繕なり処分なりが、必要となるでしょうから」
「ああそう……」
私の服は丈夫だが、それでも父様とやり合ったからな。破れたりはしなかったが、確かに、多少裾なんかが綻んでたか。
「修繕ね」
その支度をしようと。あの時も、脱いだ服はそうされていたっけ。
「だから、お前もあの階に来ていたのか」
「はい。ですが、殿下は一向にお戻りになりません。あの階の警備に就いていた近衛騎士に尋ねれば、階自体にお戻りになられた事は確か」
ふむ。
「となると、寄り道をしている。それはどこか。あの階で、殿下が立ち寄られる場所は限られています。簡単な推察ですね」
「なるほどね」
母様のあの部屋と私の自室は、同じ階にある。女性の王族専用の階なんだ。で、私以外で現在使われてる部屋は他にない。なら、寄り道してるなら、まず母様の部屋辺りとなるか。まあ、それは分ったが、
「でも、周りには誰もいなかったはずなんだがな」
廊下の先も、その先にある曲がり角なんかにも気配はなかった。外壁に張り付いて、廊下の窓から覗いてたりもない隠れてもいない。そういうのを確認して退出したんだけど。
「さあ、何処にいたのでしょうね?」
またそうやってはぐらかすー。いいよな、お前はそれが出来て。しかし、気配も感じなかったし、結構遠くから見ていたのか? 視線となると、そうなる。なら、気付けないが。
私が察知できる気配の範囲、その間合いは、シビアナの場合だと、執務室の端から端あたりが限界だ。ただ、視線だともっと遠くからでも分かる。
だから、さっきの執務室でも、シビアナは最後まで視線を向けていないはずだ。向けられてたら、その時点で気付いていた。
「それで? お前も入ったのか。私が立ち去った後、母様の部屋に」
「はい。殿下のあのご様子、そして髪色――。不穏に思いましたので、陛下に事情をご報告し、鍵を拝借させて頂き、私も入室を」
げ……。じゃあ父様も当日から、事情を把握してたのか。
「…………」
――うん? 違和感があった。それが何かすぐに思い至る。当日から知っていた――、だと? じゃあ何で一か月も放置していたんだよ。どうして、すぐに言って来ない? シビアナだってそうだ。
疑問に思ったが、そのシビアナが言葉を続けるので、そちらに意識が向いた。
「入室して、まず、殿下の足跡を見ようと思ったのですが――」
「あ、足跡!? えええ!? 残ってたの!?」
そんな初歩的な事も、出来てなかったのかと驚いてしまった。うわあ……。やられた。それは気付かなかったわあ……。いや、床は埃なんかもなく綺麗だったけど、足跡なんて見えなかったはずなんだが。あったのお? うそお……。
「ふふ。残っておりましたが、かなり見えづらかったですね」
「そ、そうか……」
焦ったあー。良かった。見落としてたのかと思ったわ。でも、見えづらいって……。見ようと思えば見えたって事? えええ……。
「ですが、それを見るまでもありませんでした」
「ん? なかった?」
「はい。前室も居間も、一切変化がございませんでしたので。ですから、すぐに寝室の方へ」
おいおい。
「一切ないって」
良く言い切れるな。どこで判断してんのよ。
「あの部屋の事は、全て覚えておりますから。例えば、家具などでも、ほんの僅かでもずれていれば、私には分かりますよ?」
「ええー……。ホントおお?」
信じられないと、訝しむ視線を向ける。確かに記憶力は相当なもんだ。昔の事でも事細かに覚えている。しかし、流石にお前でも、全てはどうよ? 今言った微妙な変化くらいなら、違和感なんて抱けないでしょ。
証拠もないもんね。さっきの、光さえあれば私の髪色の区別がつくってのと似たようなもんだ。こういう信じ難い話は、その証拠がなきゃあ、そう易々と信じません事よ、私。
まあ――。豊胸の薬は、その証拠があっても駄目だったけどね! ははっ! ぐぎぎぎぎぎ……!
「確かに、殿下が疑われるのも無理からぬことでしょうね」
あの薬だきゃあ――! 人をあんだけ、ぬか喜びさせやがって――!
「ですが――。だから、分かったのですよ、殿下」
ああ、腹が立つ! え――?
「何が分かったって?」
聞き逃した? 聞き返すと、シビアナはそれがどうしてか、分かっている様に微笑んだ。
「ふふっ。寝台にあった寝具の違和感に、です」
「寝台の?」
「はい。綺麗の戻しておられましたが、それだけでは不十分でしたね。布団や枕の形や位置も、それに出来た皺も。以前のものとは全く違いましたので」
な――!?
「また、一度でも、敷布団を引き剥がせば、折り目がつき厚みも変わります。そこが分かりましたので、私も同様に。そして、寝台に施された仕掛けを動かし、この箱も。と言う訳です」
シビアナは目を落としから、その箱を優しく撫でた。おいおい、ホントに全部記憶してるってのか……。私は元あった様に戻したつもりだ。再確認までして丁寧に。ただ、今回はそれが裏目に出たようだが。
でも、確かに分かっているなら、違和感を抱かない方がおかしいのかもしれない。とは言え、皺のでき方や布団の厚みでさえ、そんな些細なものまで把握してるってのか、こいつは……。
「あとは、香りです。殿下の残り香が寝具に付いておりました。ですから、間違いなく寝台で何かしらされていたのだと分かりましたね」
げげ。まだ他にもあった。こりゃ言い逃れなんて、やっぱり初めから出来やしなかったな。
はあ……、やれやれ。大したもんだ。ホントやばい奴だわ、シビアナって。尋常じゃない。だから、まあ――信じよう。こいつは、全て記憶し把握しているんだ。折り目とか分からんて。
香りを頼りに隈なく調べてみただけ、という線も思い浮かんだりしたが、もう疑う方が面倒くさい。とりあず、あの部屋に限っては、全て記憶しているのだろう。しかし、信じはするが、うんざりした。だってさあ。
「お前……。そこまで分かってて、よくもまあこんな尋問なんかを……」
何なんホント。全然必要ない。全部分かってんじゃん。しかもだ。
「それから。その薬が何なのかって、それを調べるのは分かるがさあ。まあ、毒があるかもしれないし? でも、その薬を、いつ飲んだとかまでは調べなくても良かったじゃないか……」
御大層に、色々調べまくって割り出したみたいだが。全く必要なかっただろうに。そこまで分かってるなら、もうそれで良かったじゃない。
それでもやったのは、私をただ追い詰めて、あたふたする様を見たかっただけとしか思えん。そのためだけに、するなっての。
掛かった経費は、自腹でやってるんだろうがさ。それでも、勿体ないわい。そんなお金があるなら、テレルのために使いなさいよ。
「ふふ。日にちの割り出しですか」
「ああ」
「確かに仰る通りです。痕跡は、肖像画と寝台辺りだけ。そして、先程お伝えしたように、紅の銀粉が付着しておりましたので、殿下に間違いありませんでした。ですから、そこまでは必要なかったでしょうね」
「だろ?」
「はい」
ほら見ろ。要らないじゃん。ったく、徹底的にやりやがって……。
「ですが、殿下」
「なに?」
「逆にお尋ねしますが――。その必要ない事を、ただの無駄を。この私がするとお思いですか?」
「え?」
するかだって? したんでしょうが。あと、お前のする無駄は、必要な無駄だからな。ただの無駄ではない。ここまでやってるんだと、私を追い詰めるのには良い手であったわけだし。なのに、いきなり何を言い出して――。って――!? ああああ!?
『ただの無駄』と、敢えて口に出したんだと、その悠然とした表情を見て気付いた。そう、私を追い詰めれば良い。それだけの事が叶えば良いんだ。だから、調査は必要ない。私が信じればそれで良い。つまり、
「あれも、ただのはったりかよ!?」
「ふふふふふ――!」
こ、こいつはああああ! 大嘘吐きまくりやがってええええ! やられた。状況が状況ってのもあるが、これはもう全然疑ってなかった。だって、こういう時は今までやってきたもの。徹底してたもの。しかし、だからこそ、その事実を逆手に取れたってわけか。
で、こうやって印象付けは終わっているんだ。って事は、今までも、きっとあったんだな。そのはったりは。
「はあ……。ったく。調査は、まあ分かったわ……。でも、尋問の意味はなくない?」
呆れて溜息が出るってなもんよ。ちきしょうめ。だけど、こっちは、ホント必要ないじゃん。
「ふふふ! いいえ? とても重要ですよ?」
「ホントおお?」
それこそ、私をおちょくって、自分が楽しむためにしたんじゃないのお? 重要ってそういう意味じゃないのお?
「ふふふ! 重要ですとも。なにせ――」
なにせ?
「殿下が、どういう条件下で、どういった行動をとるのか。その特性を分析するのに必要となりますから――」
「分、析……?」
またいきなり何を言い出してるんだ、こいつは。何だよ、分析って。うん、分析? 行動の? う゛っ――!?
「ま、まさか!? だからお前! いつも私に感想を――!?」
そうやって聞き出し、分析を繰り返して、行動を読んでいたのか!?
「と言うのは冗談ですが」
「いや、冗談じゃないよね!?」
にこっとして言うな腹立つ! 私の直感がそう囁いとるわ! 絶対違う。こいつは分析してたんだ。間違いない。
「あらあら。ばれてしまいましたね。これは秘密でしたのに。つい口が滑ってしまいました。ふふふっ!」
「…………」
こっちは、唖然を通り越して、開いた口が塞がらない。き、気を付けよう。これからは、率直に感想を言うのを避け――。
「ま、構いませんね。分析方法は、これだけではありませんので」
ちょっ!?
「ま、まだあんのかよ!?」
「はい。それはもう色々と。ふふふ――!」
「ええー……。い、色々って……。何……?」
「ふふふふ――!」
尋ねても答えは返ってこない。口元を隠しただ悠然と笑うシビアナに、身の毛もよだつ戦慄を覚えた。ホント一体、何があるってんだ……。超怖い。
しかし……。まさか、分析のために尋問されていたとは……。今までもそうだったわけだな。やれやれ、堪ったもんじゃない……。
「いいえ。今回は特別です。尋問の理由は、分析のためではありませんよ?」
「え? 違う?」
「はい。分析も重要でしたが、それはあくまで二次的なものです。尋問をした本当の理由ではありません」
じゃあ――。何だってんだ?
「ふふふふふ……」
え? 何その笑い。今みたいな、からかう様な笑い方じゃない。あと様子がおかしい。何か暗い感じに変わった気が。
「殿下……」
「な、何?」
「実は、殿下の一撃で、寝台が歪み補修する事になったのですが――」
「え? そうなの?」
「はい……」
えー? いや、最初はそう思ったが、結局、変わりなかったよねえ? 壊れてなかったよなあ? 仕掛けもちゃんと動いてたし。
「いえ。仕掛けも、歪みが見受けられましたので、調整をしなければなりませんでした」
ふーん。そうなのか。ていうか、さっきからまた私の心読むの止めてくんない? 急に始めるのもさ? 今は尋問中じゃないんだ、必要ないでしょ?
あと、いっつも思うけど、なんで言葉に出してないのに答えられるの? どうやってんの、お前? 分析のおかげなん?
「それで、殿下……」
おう、無視か。いやまあ、無視と言うのもおかしいんだが。心の中で思ってるだけだし。
「なんだよ?」
「また、逆にお聞かせ願いたいのですが――」
「――? ああ」
「補修と言う事は、それはつまり。殿下は、あの方の私物を破損された、となるわけですが――」
「え?」
まあ、補修するのなら、そうなるのか。
「う゛――っ!?」
唐突に、ぞっとする気配が私を襲う。その怖気は、まるで得体の知れない何かが潜む暗闇のよう。それが、眼前のシビアナを覆い隠すように発せられていた。
だが、その表情だけは分かる。両目を見開らいた、それは笑ってない。微笑すらない。怒ってる時でも絶やさないような、あの笑みが一切ない。真顔だったのだ。それは、尋問前の詰問時に見せたものの比でなかった。何!? 何なの!? お前、また何でいきなり――!?
「殿下……」
ひい!? それは、仄暗い井戸の底に籠った怨嗟のような声。その声が私の首を鷲掴みにする。
「あの方の薬に、無断で手を付けるだけならまだしも……。あまつさえ、あの方の寝台を破壊しかねない行為をするなどと――。その様な畏れ多い事をしでかしたら――」
あわわわわ――!? 更に、その声が何重にもぶれて聞こえてくるようだった。そのぶれが膨らんで、私の首を絞めつけていく。
「それが誰であろうと――。この私が何もせずに――」
がくがくぶるぶる――!
「許すと――。お思いですか――?」
ひいいいいいいい!? 圧倒的殺意。そして、怨念。憎悪。鷲掴みにされた首がへし折られそうだった。その恐怖で、最早、髪色も目に入らない。こ、これは――! やばいやばいまじやばい! そうか! だから、こいつ! 最初っから、あんなにも怖かったのか!
仕掛けは動いたし、寝台の歪みも気付かなかった。破壊とはもう考えてなかった。だから、思い至らなかったんだ。そう、シビアナは、母様の事が大好きだったんだよ! その母様の寝台を壊してたかもしれないとなれば、そりゃあ――!
あんなにへとへとになるまで終わらなかった尋問を何故やったか。その本当の意味を私は理解した。それは、物が物ってのもあるが、薬を使ったとかじゃない。これは恐らくまだ許容範囲。
だが、母様の私物の破壊ともなると、当然と言えば当然。話は全く違うんだ。この尋問は、その母様の寝台を壊そうとした事への罰。いや、報復と言っても過言ではない。
「ごごご、ごめんなさいいいい!!」
今日一で怖いのは、これでした。私は即座に机を両手で抱え、その机に額を打ちつける。もうしませんから! いやホントにいいい!
そうやって、打ち付けたまま頭を伏せる。がくがくと震える体のせいで、カタカタと机が音を立てる。すると、しばらくしてシビアナから恐気が、ふっと消えた。
「ふふふ……。殿下には、尋問の罰を受けて頂きましたので。この話はもうお仕舞です……」
ほっ……。
「ですが――」
びくう!
「次また同じような事をしでかしたら、その時はどうなるか――。それを、よくお考えになってから。今後は行動なさって下さいね……?」
「わ、分かってる! 分かったとも!」
また顔が笑ってないよおおお! 今度こそ、まじもんの報復になる。それが分かって、ぶんぶんと首を縦に振った。
「ああ、それと殿下」
「な、なにかな!?」
「取り調べ自体は、特に面白かったとは思っておりませんので。そこは、誤解なき様お願い申し上げます」
「は……?」
いや、いまさら何? そんな訳ないじゃない。ずっと、私をおちょくって楽しんでたと思ってたよ? そうとしか思ってないよ? そうやって、恨みを鬱憤を晴らそうとしてただろ、お前。
「ああ。勿論、それも分かっているさ……」
しかし、完全にこちらが悪いので、もう何も言い返さない事にする。超怖いし。
「はあ……」
ともあれ。シビアナの怒りが治まって、ほっと一安心だ。私は、そのシビアナの傍にある小瓶に目をやる。
ったく、あの薬のおかげで、とんだ目に遭った。効果が出たならまだ許せる。まだね。でも、全っ然効果ないし。
「結局――。その薬の事は、どうやって調べたんだ?」
そう言えば、これ聞いてなかったな。覚え書きはあった。そこにその名も記されていた。だが、それだけじゃあ、こいつは納得しない。必ず裏を取っている。どうやって取ったんだろ? 覚え書き以外で、何か手掛かりとかあったのかね。
なかったら一からだ。記録してある薬の中から、その性質、色、形状なんかを調べて照合していかないといけなかったりするけど。
「それは、陛下の元へこの箱を持参しましたところ。その陛下ご自身が、この薬についてご存知でしたので、すぐに裏が取れました。色々と調査もなされていたとか」
あら。
「へえ。何だ、父様も知ってたのか」
「はい」
知ってる者が身近にいたのは楽だったな。それが国王である父様となれば尚の事。調査もしてたって言うし。そりゃすぐに判明するわ。
「しかし、すぐに判明はしたのは良いのですが――。やはり、本当に合っているかどうか、その確認は必要です。ですから、その成分の照合はして頂きました。その結果、同じものだと確認が取れています」
「そうか」
やっぱりやってた。でもまあ、これはやらないとね。別物に入れ替わってる可能性とかあるもの。ちゃんと密閉されていたが、そんなの簡単にできるから。
「でも、あの父様がよく知ってたな」
全然興味ないだろうに。
「調査の際に一悶着あったそうです。そのため、覚えておられたとか」
一悶着かあ……。
「ただ、複数本あった事までは、ご存知ありませんでしたが」
「へえ……?」
瓶三本分の型に嵌って、箱に入ってたのにね。
「また、その当時の事も詳しく聞かせて頂いたところ、結局この薬は服飲される事はなかったとの事」
「え? 母様、飲んでないの?」
「はい。陛下が寸でのところで取り押さえられたとか。これが、一悶着のようですね」
「ふうん。そうなんだ……」
そんな事があったのか。――んん? ちょっと待って、それは別としておかしい。
「いやでも、シビアナ。飲んでないって変じゃないか? あの寝室の肖像画、お前も見てるだろ? おっぱい大きいじゃない。ばいーんって。で、母様ってお前の方が覚えてるでしょ? 実際の、ホントのおっぱい、あんなんじゃなかっただろ? つ――。本当に飲んでないのか?」
つるぺったんとはもう言わない。もうなんかね? これが冒涜的表現みたいな感じがして来てね?
でも、おっぱいが小さかったのは、これは間違いないと思うんだが。ぺちぺち叩いたのも思い出したし。なら、辻褄が合わないでしょ?
「確かに仰る通り、あの肖像画はふくよかですね」
「うん。でしょ?」
「はい。ですが、殿下。あの肖像画――。あちらは嘘です」
「――へ? 嘘?」
「そうです。初めから絵師に依頼して、大きくするよう偽装されたのです」
「はああああああ!?」
偽装って、盛ったって事!? 特盛!?
「それホント!? ホントなの!?」
「ふふっ。はい、本当です。私も、その場におりましたので覚えております」
「そ、そええええええー……」
いやあー……。その考えは、なかったなあ……。そこまでしたか。何やってんだよ、母様。よし、私もそれでいこう。じゃなくて。
何てこった。肖像画は、まさかの偽造。つまりこれは、自分が浅はかな行為に走ったと言う事。何の根拠もなく、訳の分からない薬に手を出してしまったことに等しいのだ。
「シビアナ。その薬は、毒の類だったのか?」
そうだったら、ホントやばいわこれ。ああ、でも――。シビアナが何の対策もしない訳がないか。飲んだのは当日から分かってたわけだし。
これを知らなかったのもあって、さっきは気付けなかったが、だから毒の可能性はまずないはず。案の定、その首は横に振られた。
「陛下は、一悶着の際、薬の入ったその小瓶を取り上げられたそうです。それを使い、薬の成分を調べられたとか。そして、その結果。毒の類ではなかった事が、確認されております。また、殿下のお飲みになった方も、その残りを使い確認を取っています。毒ではありません」
「ほっ。そっか」
良かったわあ。だが、軽率すぎた。素直に反省だわこれ。やれやれ……。
「毒ではありませんでしたので、陛下も、もう放っておいて良いと仰られましたが――。念のため、ご許可を頂いて、私の方で最後の一本を使い、この薬を調査する事に致しました」
ふむ――。正体も割れて、毒でもないなら、もう必要ない事だよね。でも、シビアナは無駄な事はしない。やっぱり、こいつの無駄は必要な無駄。念のためなのさ。しかし、それがよく当たる。だから、気になった。
「何が引っ掛かったんだ?」
尋ねると、微笑みを返して、それから答えた。
「この薬は、シドー様が研究なさっている、あれと関係している可能性があります」
「え――? そうなの?」
「はい」
シドー様。シビアナの言う、この人が私の師――先生だ。
「ですから、調査はそのシドー様に」
「ありゃ。先生だったんだ」
どうやら、調査も頼んでたらしい。まあ、あれについては、第一人者も良いところだからな。
先生の所には、元々行こうって思ってたが、結局行けてなかった。だけど、こりゃあ絶対に行かなきゃならなくなっちゃったな。調べてくれたお礼をするためにもね。
「しかし、あれかあ」
まあ、この薬の効用からして、可能性はあるのかなあ。どうだろ?
「ちなみに、母様の時も調べてたの? 知ってる、シビアナ?」
調査したってんなら、やってそうなんだが。すると、今度はその首を縦に振った。
「当時も、その可能性を考慮し、調査して問題はないとされたそうですね」
「ほう」
「ですが、それもまた随分と前の話になります。ならば、シドー様のご研究が進んでおられる今なら、どうか? また別の事実が判明するかもしません。ですから、念のため。ですね」
「そう言う事」
「はい。そして、その報告は既に届いております」
なるほど、先生待ちだったんだな? だから、シビアナは、今まで何も言って来なかったんじゃない?
こいつは情報を相当、重要視している。しかも、ちゃんと貰える情報なんだから、それを待ってからの方が良いと判断したのかも。何をするにしてもね。
父様たちは、ううむ即日怒られても不思議じゃないんだが。まあ、放っておいて良いって言ってたみたいだし、めんどくさかったのかね。
「で? その報告で、先生は何と言ってきたんだ?」
はあ……。一体どんな結果だったのやら。毒じゃないのは良かったが、あれと関係しているかもしれないと、シビアナも疑っている以上――。やれやれ。ホント軽率が過ぎたよねえ。碌でもない事になっていなきゃ良いけど。
「やはり、関係はあるそうですね。それが分かったと」
「うげ」
やっぱり当たってた。これだよ。シビアナの無駄は必要な無駄。まあ、今回もその無駄になっていないが。
「ただし、殿下」
「うん?」
「シドー様が仰るには、この薬は不完全だそうです」
「え? 不完全?」
「はい」
不完全……。まあ――、私には効果なかったもんな。
でも、何だろうね、その言い方。完全な物があるみたいな――。つまり、その完全な物って事になれば、それが本物の豊胸の薬だってことか!? おおおお!?
あれ? 碌でもない事になってなくなくない!? え? これだとどっち? 碌でもない? ああ、いやいや待て待て。とにかく、先生に聞いてみるのが先だ。肖像画の二の舞は嫌だぞ。私は反省したんだ。落ち着け、どうどう。
「シドー様から、不完全について、詳しい説明はありません。それを知りたければ、研究所へ来るように、だそうです。恐らく、あちらでなければ説明できないのでしょう」
ふむ――。あれについてなら、そうかもね。
「ですから、殿下には今からシドー様の研究所へ向かって頂きます」
「え? 今から?」
「ふふっ。はい、今からです」
おお、そりゃ有り難い。そう素直に思ったのだが、
「――あ」
私は気付いてしまった。うわあ……。
「だからか……」
「ふふふふ!」
流石、手回しが早いですこと……。そう。だから、私の公務がぽっかり無くなってたんだ。尋問だけじゃない。先生の所にも行く気だったんだよ、こいつは。纏めて片付けるつもりだったんだ。
ともあれ、不完全というのが超気になる。なら、早いに越した事はないのは確か。よし、行こう! さっさと行こうじゃないか!




