表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第一楽章 トゥアール王国の王女殿下
13/27

第13話 種明かし

「――とまあ、そんな感じだったよ……」


 よ、ようやくこれで解放だ……。話し終えた私は、安堵の溜息をいた。ぶへええ……。そして、机の上に寝そべろうと、ゆっくり自分の体を倒していく。顔を横にして、こてんと頭を当てた。はあ、疲れた……。超しんどい……。お菓子。お菓子食べたい……。


 一か月前のあの日。母様の部屋で何をやっていたのか。私は全て吐かされた。豊胸の薬を飲んだ事を。それから、寝台の破壊行動の一部始終も。そうやって覚えている事は当然。覚えてなくても、事細かく質問攻めにされ、無理矢理にでも思い出させてきた。


 尋問前のあれ。確かに怖かった。髪色も、恐怖の深緑に染め上がってたわけだし。だがそれでも、最初は何とか曖昧にして話そうとしたんだ。「そうそう、そんな感じ」って、さらっと流そうとしたの。早く終わらそうとしてね。しかし、そんな思惑は、お見通しと言わんばかりに、事細かに質問責めをしてきて、丸裸にされた。


 嘘をこうとしてもね、もう無理。言葉にする前に「そういうのはいいですから」って遮ってくんの。全力だよ。シビアナ全力の容赦ない尋問だった。だから、私はそうそうに観念せざるを得ず、質問に答えるだけのただの人形と化しました。


 そうやって話し続けて、どれだけ経ったかは定かではない。倉庫部屋だし、暗いし、辛いし。しかも、日の差し込み方も、薄暗くなってるし。何かね、天気が悪くなってるみたいなのよ。ただそれでも、光の筋は見えるから、傾き加減は分かる。それは変わったと思うが、さっきとの差はあまり感じられない。


 つまり、思っていた以上に時間は経っていないのだろう。自分としては、何かもう、一日中話してた気分だったが。しかしだ。そもそも、どうしてそう感じるくらいの時間を掛けてまで、話さなければならない?


 豊胸の薬を飲んだのは、既に分かってたんだ。だったら、寝室入った。寝台の底を見た。薬見つけた。それを飲んだ。寝室から出た。勝手に飲んでごめんなさい。これで済むじゃないか。それなのに、事細かく、くどくどと。おかげで、こんなにくたびれる羽目になった。


 ホント、一から十までたっぷりとさあ。いや、もっと酷いわ。一から千って感じ。だって、寝台まで何歩だったか、肖像画をどれくらい眺めてたとか聞くのよ? そんな事まで聞いてくんのよ? はあ? 覚えてる訳ねえだろうが!


 ったく……。しかも、それだけじゃない。ここまで長くなっているのには、他にもまだ理由がある。


「…………」


 感想を言えってどういう事? 例えば、ゴロゴロ転がってたのも言わされたんだが、その時の事を一々聞いてくんの。何を思ってそれをやったのかって。どうして、何回も転がったのか。やり終えてどうだったかとか、その時の心境をさ。何これ? 必要ないよね?


 しかも、この感想を言わすのは、恒例だから。今回だけじゃない。こういう私が圧倒的に立場が悪い時は、言い返せないのを良い事に、聞いてくんの。何なの、ホント。


 あと、言いたくもないのに、結婚関連の話まで穿ほじくり返された。で、こっちも感想を求めてくんの。結婚できないのは何故か、自分の考えを述べよ、みたいな。この前の縁談相手の、第一印象はどうだったか、とか。


 おい、それはもう話自体が違うだろって、反撃したかったが人形だからね。それに、すぐに切り返されて、また手酷い一撃をもらいそうなのもあって、もう黙っておいた。


 酷いもんさ。私の乙女心は、もう既にズタズタだったってのに。ははっ。自分の語りたくない過去を、感想込みで無理矢理ほじくり返されたんだから、当然だよね。時折、人に戻って、「もういっそ殺せよおおお!」と、何度叫びたくなった事か。


 おかげで、全てを吐いた後は、もーズタズタでボロボロ。憔悴しきってしまったよ。髪色も、うんざり感を示す薄い紫色に変わっていた。だけど、もう終わりなんだ。もうこれで解放される――! って安堵したのに、まーだ終わりじゃないでやんの。


「ありがとうございました、殿下」


 シビアナの声が聞こえる。むくりと起き上がって、そっぽを向きながら頬杖を突いた。


「別にいいって……。それより、ちゃんと仲直りさせなよ……?」

「ふふっ! はい、畏まりました」


 そう。最後に、さっきイージャンと何話してたのかも、吐かされたんだよ……。


 馬鹿なの!? それこそ全然関係ないわ! でも、壊れかけの人形だったからね。もう嫌だとも言えなかった。そんな抗う一言さえ出ないほど、気力を失ってたよ……。


 いやでもさ。あの時は、まさかこうなるとは思ってなかった。いじれれば良かったのよ。だから、答えも返ってくるとも思わなかったし、深くも考えてなかったけど、よくぞイージャンは口を割らなかった。ホント、あそこで踏みとどまってくれて良かったわ。


 きつく口止めされているのに、それでも本当に馴れ初めを話してご覧なさいよ。私も弱みを握ったと喜べる? それで、この尋問を回避出来てた? そんな事には絶対ならないのさ。


 今まで積み上げてきた私の弱みの数と、シビアナの弱みの数は天地の差だ。あいつには微塵しかない。そして、使っていない弱みもある。在庫があんのね。だから、それを持ち出し呆気なく相殺して尋問を続ける。だけでは間違いなく終わらない。その上で、とんでもない仕返しが私に襲い掛かってたわ。


 その証拠と言うべきか、それを聞いたと恐る恐る吐いたらさ。仄暗い井戸の底に籠った怨嗟のような怖い声で、静かに凄んでくるんだもん。


「殿下……。その件については、お話しできないと、お伝えしていたはずですが……?」


 ってね。まー、怖かったのなんのって。さっきの比じゃないね。今日一でやばかったわ。今でも思い出すと、ぶるりと体が震えそうだよ。私は、すぐにごめんなさいをしました。あの声からも察するに、それ相応以上の罰を受けてたと思うわ。


 シビアナって、結構あれで融通が利いてんのよ。例えば、王宮の外に出て、買い食いしに行ったりとか出来てんの。そういうのが、まずなくなるね。全部禁止。理はあちらにある。余裕で可能だ。


 他にも対処してくれてた苦情の数々。それが私に直で来るようになる。仕事の量も倍増。毎日ひーこら言わなきゃなくなっちゃう。で、最悪なのが、テレルとは当分会えなくなる。会えなくなるんだよ? これがホンット怖いわ。


 イージャンにも、とばっちり。いや、それどころではないな。あっちが本命だ。きっと、物凄く酷い事をされてたに違いない。私には使えない実力行使。それが解禁され、想像を絶したはずだ。


 握ったその弱みが、危険過ぎるんだよね。扱いに困るの。何て言うか、別物なんだよ。さっきの執務室でのやり取りは、まだ冗談の範疇っていうか。でも、これはその線を越えてるの。今度は、私が踏み込んじゃってるのよ。だから、現状、あいつと同じことをすれば、それは悪手もいいところなのだ。


 いやー、ホント怖かった。しかし、あそこまでって相当なもんよ。一体何が隠されているのやら。気になるわー。ま、今後とも聞けそうにないけど。


 それから、その話の続きで、イージャンとテレルの喧嘩についても、当然吐かされた。けど、やっぱり歌劇は、そのためだったみたい。私の予想は当たっていたわけだ。


 でね、ここで思い出したの。あいつのやりたい放題の設定を。こっちも攻撃情報を入手してたわけよ。この程度ならいいの。この程度なら、弱みを持ち出して相殺もない。仕返しも、超怖いのは来ない。


 だから、せめてって事で言ってやったんだよ。「お前が女神か。はんっ」て。そしたら、「歌劇の役としては、よくあるものですが?」と、さらり。全然動揺しなかった。つまんないの。ま、そんな感じだろうと、予想はしていたが。


 ああでも、そのあと不意に「どうやらあの人は、要らない事を、少々話し過ぎてしまったようですね。ふふふふ……」って、顔を暗くして闇微笑してたから、何かあったらごめんよ、イージャン。結局、被害は行くかもしんない。


 あ。けどいっか。お前も被害を受けるがいい。私を助けてくれなかったんだからな。まあ、入られてもいけなかったわけだけど。でも、助けを求めたのがシビアナだったら、声が聞こえた途端、壁を壊してでもすぐに助けに来る癖に。


 で、そのイージャンに歌劇へ行けるのを言っちゃったのと、助言した事も最後にばれたんだが、その役を取った事は、別に何か文句とか言われなかった。逆に、助言のお礼を今、言われたってわけ。全然嬉しくないけどね。疲れの方が、圧倒的に勝ってるわ。けっ。


「…………」


 うーん。でも、ま……。ちょっとは嬉しかったかも。


「はあ……」


 しっかし、こいつにだけはホンットに、豊胸の薬を飲んだ事を、ばれたくなかったあ。何か、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど。あと、腹も立つ。言葉にはしないが馬鹿にしくるからね。そういう顔してくんの。薬を使ってまで、大きくしたいのですか? ぷって。

 

 はあーああん!? 大きくしたいに決まってるだろ! 文句あっか、おらあ! 持つ者の余裕と言うか、別に何とも思われていないかもしれないが、持たざる者の性がそう思う事を阻害する。まあ、こいつはそういう奴だから、間違っていない。先の尋問でもそう感じた。


 んで、また当然の如く弱み追加。これよこれ。これがきついわ。この弱みは、かなりの代価を要す事だろうからね。一体どんな事を要求してくるのやら……。それが何になるか想像しようとしても全然思い浮かばない。そのせいで、私は、げんなりと大きく肩を落とす。


 いやまあ、注意書きはシビアナが持ってたし、だから父様達にもバレてるだろうし。もう私達二人だけの秘密の勝負って事にはならないだろうけど……。これはなあ……。潔く負けを認めるべきかなあってね。


 それから、バレたくなかったのは、何もシビアナだけではない。他にもいる。それは、おっぱいの大きさに悩む世の女性達に対して。罪悪感もあったからね。自分だけ――みたいな。


 あ――。この薬の存在が、もしばれたりでもしたら、やばくない? 残り一本しかないから、私のような女性が殺到するんじゃないかな? 血を見るよな。


 恐らく、効果がないと分かっても聞きやしないだろう。絶対に試そうとするはずだ。私は駄目だったが、自分なら違うかもしれないってね。


――そうだよ……。結局、この薬を飲んでも、私には一切効果がなかったのだ。ちくしょうめ。ああ腹が立つ! 


「はあ……」


 効果がないと分かった時のあの絶望感。それを実感したあの空しさは、時折私の中に舞い戻り、こうやって溜息を吐かせている。泣きたい。母様には効果があったのに、何でなんだよおう。ううっ……。


 シビアナにも伝えたら、ちゃんと確認してきやがった。この胸に手を当ててきた。で、


「確かにないですね」


 って言われた。どういう意味? どっちの意味で言った? 効果がないのか、それともそういう意味なのか? 分かってる。どっちもだよ。どっちの意味でも言いやがったんだ! ふん! この巨乳め! これも非常に腹が立ったわ。人形から一瞬、人へと覚醒するぐらいは、いらっとした。


 まあ、ともかく。薬を飲んで、一か月くらい経ったが、私のおっぱいに変化はなかったのだ。あの日から毎朝鏡を眺めて確認をし、胸囲も測って調べてみたが、いつまーーーーで待っても無駄だった。


 それで、もしかしたら量が足りなかったのかと思い至り、残りの一本に手を出そうか迷っていたら、シビアナに取り調べを受けているってわけさ。とほほ……。


 しかし、そもそもさ。一体何でこんな所に来てまで、尋問される羽目になったのか? あの薬を飲んだだけだよ? それが、そんなに重大な事だったのだろうかね? 落ち着いてきたので、少し考えてみる。私は腕を胸の前で組んだ。


「…………」


 ううーんぬ。まず、根本的な事から考えてみようか。何が原因で怒られたか。これはやっぱり豊胸の薬という得体の知れないものを飲んでしまったからで、間違いないわけだ。そのせいで、あんなにも――。私は、ちらりと、シビアナの方を見やる。すると、思案気な表情で目を瞑って黙っていた。 


 最初から怖かったよな、こいつ。箱を取り出した時、すごく冷たい声出してたし。反射的にやばいと踏んで、嘘を吐いて誤魔化そうとしたくらいだ。


 やっぱり、母様の私物を無断で使用したのがいけなっかたのか。あんな所に隠されていた物だから、何かしら価値があったのか。高額な商品だったとか?


 まあ、効用からして、巨大な邸宅を一つ二つ買えても、それ以上でも私は食い付いてた。何とかお金を工面してたね。だけど、効果がなかったから。もし、商人とかから買っていたならば、私はその商人を必ず見つけ出して、報復してやってただろうよ……。ふふふ――。


 でも、それ位でこんなとこに連れ出して、取り調べみたいな事するかね。そこまで高価だったのか? それは……。どうだろう? 考えにくくない? いやまあ、あの薬の事は、覚書きに書いていた事以上のものは知らないから、そう思うだけかもだが。だから、私が知らないだけで、他にも何やら影響があるとか。


 ――あ。つまりそれは、毒の類だったて事か? あの時はそこまで注意していなかった。だって、母様が飲んでるんだもの。その事実が、私から躊躇いという言葉を忘れさせた。


 でも、健康だよねえ? 今んとこ、苦しいとかないし。違和感も感じられない。うーん。体に異常を感じることが今出来ないからと言って、毒とは関係ないと断言できないか。今後、その症状が出たりするのかも。


「…………」


 最悪――。おっぱいが大きくなってから、死ぬのかもしれない。なんてね。母様の死因を私は知らない。遠出をしている時に訃報を受けた。しかし、あの薬が原因だったとしても、おっぱいが大きくなっているわけだ。薬の効果が出ている。でも、私にはその効果が、なかったんだよなあ。だから、違う?


 ま。今思いつくのはこの二つかな。薬の代金を弁償させられるのか、はたまた毒の可能性か。うーん。説得力がいまいちだが、分からない。これ以上はお手上げだ。情報が少な過ぎるわ。


 もうこれ聞いた方が早いな。そう思っていると、シビアナが目を開いてこちらを見た。さて。そろそろ種明かしをしておくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ