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王女楽章 リリシーナ!  作者: 粟生木 志伸
第一楽章 トゥアール王国の王女殿下
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第12話 王妃の部屋 その2

「はー、やれやれ。やっと終わったぞ……」


 そうぼやきながら、箱の蓋をずらしていく。思っていた以上に時間が掛かった。サイコロ落としは、順序させ覚えていれば良いんだが、やはり木詰めは模様を完成させないといけないから、ややこしい。


 部分的に模様が完成しても、必要な詰み木が遠くにあると、崩してまた一から作らないといけないから、「うがあー!」って叫んじゃったわ。おかげで、多少の疲労感も感じていた。けど、六面全部作ると、達成感があるよね。ふふん。で、サイコロ落としは、知ってる手順と同じで合っていて、ほっとした。


「さあて……」


 私は、蓋をゆっくりと注意深くずらしていく。一応、他にも仕掛けがあるかもしれないからね。シビアナのおかげでホント用心深くなってるよ。ま、それでもころっと忘れたりするけど。ははは……。


 結局、蓋は何事もなく開いた。私は、箱の中を覗き込む。お菓子の類は入っていない。だが、空っぽでもない。


「瓶――、だろうな」


 光沢のある白い陶器製の瓶。手の平にも収まる程度だし、小瓶と言って良いだろう。それが、三本。型に嵌って入っていた。


 こうなんと言うか――。女性の上半身みたいな形をしている。パッと見、そう思ってしまった。蓋が頭で、口が首。で、底の方にくびれがあるから、そう思ってしまったのかな。まあ、流石におっぱいはないが。箱に入っているその瓶の一つに、ぺたりと指を押し当ててみる。つるつるとした触り心地だ。


「何だろうね、この小瓶? 薬か何か?」


 薬瓶。よく目にする薬の類には、こういった陶器の瓶が使われている事が多いからね。あとは、調味料とか、飴玉とか入ってそう。ああ成程、飴玉なら腐らなそうだな。やっぱりお菓子?


 この瓶以外にも、入っている物があった。手紙のように折り畳まれた、注意書きらしき紙。それも一緒に。私は、かさりと音立てながら、その紙切れを広げていく。


 使用期限。効用。そんな単語が目に入った。やはり、これはこの瓶についての説明、注意書きのようだ。薬だったかこれ。まあ、それなら興味がないな。


 と、一旦は思ったが、こんな所に隠されていたんだ。一体どんなものだったのやら。それくらいは知っておくかと、眺めてみた。軽く読み進めようとする。だが、


「ちょ……」


 ある一文を見て、もうそれすら出来ない。思考が止まる。他の文は、もうそれ以上目にも入らなかった。この目は、注意書きの一番上に釘付けになっている。そこには、この瓶の中に入っているものの名が、記されている。


 私は、目を見開いていた。それは薬の名。やはり、この瓶には薬が入っているようだ。そして、その名に衝撃を受けたから、思考が止まっていたのだ。しかし、そうもなる。ならざるを得ない。とても信じられない名だったから。


「…………」


 そこには、


「ほ……」


 その紙切れの一番上には。


「『豊胸の薬』――!? だと――!?」


 そう書かれてあったのだ。



**********



「嘘でしょ……。こんな薬があるなんて、今まで一度も聞いたことがないぞ……」


 本当に初めて聞く名。だが、非常に。ひじょおおに、興味深い名だ。とは言え、全く知らない薬というのも事実。うううむ――。私は、戸惑いながらも、やはりこのままにしておくのが惜しいのもあって、詳しく調べてみることにした。まずその注意書きを、読み違いがないよう、ゆっくりと目を走らせる。


「ふー……」


 落ち着け。落ち着けよ。えっと……?


『この薬は、女性の乳房を大きくするための薬です。そのため、男性には効果がありません。また、子供やご年配の方にも、男女関係なく効果がありません。ですが、成長を終えた程度あれば、問題なく効果を見込めます。薬の使用方法は、瓶の封を切ってお早めに経口から摂取して下さい。使用期限は、瓶の封を切らない状態で――』


「おいおい……。おいおいおい……」


 どうやら本当におっぱいが大きくなる薬らしい。そうと分かり、さっきまでの陰鬱な気持ちは吹き飛び、俄かに興奮してきた。


「えーっと。使用期限とか書いてあったな――」


 過ぎていたら、毒以外の何物でもないだろう。飲んで、お腹でも壊したら最悪だ。どうか、期限切れでありませんように――! そう願いながら、読み進めると、封さえ切ってなければ、まだまだ十分問題ないようだった。


 私は注意書きを床に置き、箱の中を覗き込む。三つの小瓶。封を示す紙が貼られている。封はしっかりとしているようだった。よし! よし! 良いじゃないか! ホントにこの薬は飲めそうだ。いや、それは良いんだが。


「どうする……?」


 ホントどうする? 飲むべきか、それとも飲まざるべきか。ううううむ……。腕を組んで唸る。果たして、本当に効果があるのか? こんな都合の良いものがある? だが、先生も言っていた。世の中分からない事だらけだと。ならば、やはりこんな薬もあるんじゃないか? 私は、小瓶を一つ手に取ってみる。すると、すぐに分かった。


「え!? 嘘!? 中身ないの!?」


 軽い。中身のある様な重さではなかったのだ。慌てて、他の二つの瓶を手に取る。重い。どうやら、内一つだけが空っぽで使用済みだったようだ。よく見れば、残り二つは、木栓と瓶の隙間に、薄い茶色の筋も見えた。恐らくこれが完全な封。蓋だけではなく、樹脂か何かで、しっかり密閉されているようだ。


「はあー……。良かった……」


 焦るわあ……。ホント焦った。だが、ここで一つ疑問が出てきてしまう。二つは無事だったが、一つは空の瓶だったわけだ。つまり、


「誰かが、もう使ったって事だよね?」


 という事になる。しかし、こんな所に隠してある薬を誰が――。って、それはもう一人しかいないだろう。何やら視線を飛ばされてるような気配。その方向を見れば、肖像画の母様がこちらを見ている。そんな雰囲気がある気がした。まあ、つまり、この薬を飲んだのは、


「母様だよなあ……」


 って事になる。じゃあ、その大っきなおっぱいは――。


「うん? うううん?」


 私は小瓶を手に持ったまま立ち上がる。それから、肖像画の前まで行って、母様をじっくりと見る。じっくり、そのおっぱいに、じいいっと目を凝らす。そして、その目を瞑り、昔の出来事を辿って、それを手掛かりにし。数が少なくなった生前の母様の姿を、出来うる限りよおく思い出そとうとした。


「…………」


 おかしい。改めて、思い出してみれば、おかしい。母様って、おっぱいあったっけ? いや、記憶の中じゃあ、そんな事は一つもない――。ここまで大きくなかったような。むしろ小さかったような。


 いや待て。ちゃんと思い出そう。人は、自分の都合の良い物しか信じない。そういう情報しか集めようとしない。そんな傾向を持っているって、先生も言ってたし。今の私も、その状況下じゃないのか? そう考え、気持ちを切り替えるため、姿勢を正し正座してみる。


「ふー……」


 瞑想――。母様との思い出。思い出――。何があった? 誕生日のお祝い。東都への遠出。他には……。そうやって色々と単語を上げて、記憶と繋げ辿っていく。


 その記憶に、母様は出てくる。出てくるのは良いが、顔だけだ。うううむ。ええい。もうちょっと視線が下にならんかこれ。でも、胸なんてそんなとこ見てないよなあ。朧げなのもあるが、他の記憶でも大体、顔が思い浮かんできた。


 優しい顔。笑った顔。おちょくる顔。怒った顔――。って感じ。それが堂々巡り。


「…………」


 ただ、


「怒った顔か……」


 何度目かのその顔を思い出そうとして、ちょいと引っ掛かりを感じた。いや何か、もの凄く怒られたことがあったよ。その時って何か言ったのよね、私。それが原因でそんな目に。だったはず。しかし、そうやって怒られたのは確かにそうなのだが、どういう状況だったか、そこまでの記憶が浮かんで来ない。


「うううん」


 うーん。駄目だ。どうにも思い浮かばん。やっぱり、がみがみと怒るその顔だけで他は――。ああ、もどかしい。こう出てきそうで出ない感じ。


 イライラして来て、頭をぐるぐる回し、胸の前で腕を何度も組み直した。手に持っていた小瓶を、何度も親指で叩く。


「ううううううん」


 もどかしさは続く。思い出せん。こういうのは、ふとした瞬間に思い出したりする。だから来い、ふと。今来い、ふと。ふとふとふとふとふと――。


「うううううむん。ふとふとー。ふとふとふとふと――」


 声にも出して繰り返しながら、小瓶もぺたぺたと叩いていく。ふとふとふと――。ぺたぺたぺたぺたぺた――。しかし、


「駄目だ。くうう……」


 どうにも出てこない。上手く出て来なくて、笑いの方が込み上げて来てしまう。


「はあ……」


 こりゃちょっと駄目だな。やれやれ。私は諦めて、小瓶を摩った。つるつるとした手触り。それをぼんやりと眺めなが、別の記憶を探す。つるつる。つるつるか。つるつるだな。そして、それは、女性の姿を模したような小瓶。


「…………」


 …………。


「ああ――!?」


 はっとする。蓋が弾き飛ばされ、記憶が止めどなく噴き上がる。そう。ふとは、やって来たのだ。それは夜。服を脱いで、お風呂場に向かう途中だ。私は母様に抱き抱えられていた。そこでも、私はふと気付いたのだ。幼いこの手が、それに向かう。


 ぺたり。押さえたそれは母様のおっぱい。そのおっぱいをペチこら叩きながら、「私と同じだ!」と気付いた事を無邪気に笑ってる。そして、大きな声で思いつたまま、楽しそうにペチこら歌い出す。


「ぺったんぺったん! つるぺったん!」


 次の瞬間。浮遊のようなふわっとした感覚。浴槽に向かって、自分の体が勢いよくぶっ飛んで行く。そして、目に映ったのは浴場のお湯の水面。豪快な湯柱が立つような轟音――。その記憶の光景が、しっかりと浮かんだ。


「そうだよ……。母様のおっぱいは、大きくなんかなかった。つるぺったん! つるぺったんだったんだよ! 今の私よりも!」


 そうそう。いやあ思い出したわ―。そんで、お湯から掬われて、二度とその言葉を使うなとめっちゃ怒れてね。あとで、他の人に聞いたら、やっぱりそれ言っちゃ駄目って、何か知らんが物凄く怯えながら忠告された。ううむ、凄い。一つ思い出すとここまで思い出せるな。


 間違いない。母様のおっぱいは小さかった。つるぺったんだったのだ。って事は、つまり。私は肖像画に問い掛ける。


「母様――。もしかして、あなたこれ――。飲みましたか?」


 だから、そんなにおっきなおっぱいになったんでしょ? ねえ? そうなんでしょ? ねえねえ? そう尋ねても、じっと動かない母様。そりゃそうだ。しかし、しばらくして、


「てへ!」


 それでも見つめていると、母様が愛敬満載で「使っちゃった!」と不意に右目をつむり、舌を斜め右上にぴょこっと出したように見えた。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 私は、小瓶を両手で高らかと持ち上げた。来たああああああああ! 来たよこれ! 千載一遇の好機到来だ! 私は何て運が良いんだ。母様ありがとう。愛しい娘を導いてくれたのですね! 感謝、感激です!


 前例があるとは、なんと心強い事か。つるぺったんが、でかくなっているのだ。つまり、この薬は効果がある。この肖像画は、その証左だ。と言う事である。


 そう確信に至った私は、その場で持ち上げていた瓶の封を切り、中身の液体をぐいっと飲み干す。少し苦めの味がした。だが、これが巨乳に至る為の味なんだと、しっかりとその味を覚え噛みしめた。


「くくく……」


 これで――! 


「ぎゅふふふ……」


 これで、私のおっぱいは――!


「うはははははははは! バインバインだ! ヴァインヴァイン!」


 くけけけけけけけ――!


 髪色も、恍惚の黄土色に染め上げ。一頻り高揚したこの気分に浸った後。私は、瓶に着いた口紅に気付き、それを懐にあった手巾で綺麗に拭き終えると、箱の仕掛けも最初見たように戻して、菓子箱も被せる。それから、寝台の下に潜り込み、箱を乗せてそこの仕掛けも丁寧に閉じた。


 敷き布団にできた皺も、撫でて綺麗に整え直し、掛け布団も元あった様に寝台にひき直した。ふふん。これで完璧。もう誰も、部屋に入った形跡なんて気付かないだろう。

 

 とは、思ったが。シビアナの顔が過る。そのせいで、不安になってもう一度、寝台の仕掛けを探る。すると、敷き布団の下に親指程度のずらせる突起があった。なるほど、ここら辺をぶちかまして、無理矢理仕掛けを外したっぽい。だから、あんな悲鳴のような音が出てのかな?


 その突起をずらすと、先程とは違い綺麗に外れたような音が。下を覗けば、やはり仕掛けが動いていた。ここで気付く。良かった。仕掛けの方も無事だ。私は、この仕掛けが使えるかどうか見ていなかったのだ。


 いや、危なかった。一撃食らわしてるからなあ。やっぱり再確認は大切だわ。そして、寝台の下に潜り、箱を取り出して初めから確認。さっきと同じ事をやった。その結果。


 うん――。良いね、問題ない。箱よーし。寝台の仕掛けよーし。布団よーし。うむうむ。今度こそ、完璧。と、納得できた。


 それが終わって、肖像画に感謝を込めて深々とお辞儀。そして、私は、意気揚々と母様の部屋を出ていったのだ。

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