第1話 トゥアール王国の王女殿下
とある国に~。とても美しい~、リリシーナという王女様がおりましたあ~。
彼女には~、ある悩みがありましたあ~~。ふふふふーん。
清らかな心を持ち~、民の皆から愛され~。その国一番の~、美少女だと~、誰もが持て囃すのにいい~~~。
どうした事か~。どうした事かああ……。
「………………。はあ……」
け、結婚がああ~……、出来ないのですううぅぅ……。くっ……!
もちろーんー。こんな超優良物件をー、世の男性達が見過ごすはずがありませんー。
王女様は、美少女でええ、性格も良くてええ。あと、結婚相手を募集してますとおお、きちんとお触れも出していますしぃー。
ですのでええ。王宮には、そんな美しい王女様と結婚しようと~。毎日のようにいい、大勢の魅力的な男性が会いに来ますうぅ。かっこいい王子様ー。かっこいい騎士ー。
あとはー……。えーと、あとは……。かっこいい……、大金持ちの商人とか……、か?
「――ん゛っんん!」
しかし! 王女様と顔を合わせた途端ー。彼らは、その神々しいまでの美しさを前に、平伏してしまーいいい、「自分なんかではー、王女様にはふさわしくありませーん!」と、自ら身を引いてしまうのでしたあ~。
そーう。王女様はー、美の神にも匹敵するであろうー、自分のその美貌によってー。自らの首を絞める結果を招いていたのでえぇす……。
美しさは罪ー。ららららー。そんな言葉が、王女様の胸を掠めますー。そして、王女様はーー。ひとり悲しくー、物思いに耽る日々を送るのでしたー。
ああ! 王女様と結ばれる御方はー、いつ現れるのでしょおおーかああー? らっらっららーんらっらっ。ららっ!
つづく。
「――結婚したいな」
そのためには、やはり、このおっぱいを――。
「何をなさっているのです? 殿下?」
「ぎょんわあああ!!?」
透き通った、流れる清水のような冷たい美声。その声は毎日聞いてはいるが、いきなり背後から浴びせられたもんだから、跳び上がる程びっくりした。
あと、「ぎょんわ」って声が、自然に出ることにも気付いて二度びっくりだ。いや、そんな事はどうでも良い。
私の名は、リリシーナ。ここ『トゥアール王国』の第一王女である。
早めに摂った昼食の後。予定されていた公務が急に無くなった。おかげで、ぽっかりと時間が空いて暇だった私は、一人であることを良い事に。王宮内にある自分の執務室で、即席の演劇を作って遊んでいたのだ。
ここって、結構広い割に調度品が少な目なので、多少動き回る程度なら問題ない。造りも石だから頑丈さ。内壁は、白っぽい石が積まれていて、それが大人より太い石柱で交互に挟まれている。ああ、床の石畳みは白と言うより灰色っぽいか。
で、縦長の部屋、になるんだろうね、ここは。王宮の内側に向かって伸びてるからさ。出入り口の扉も短い壁の方にある。
その扉から入って、ええっと――。左側を見れば、本棚や収納棚が一面を占拠してる。右側は、暖炉やら横長の背が低い飾り棚。そして、部屋の奥には、天井まで届く縦長の窓が一面ずらり。そこを開け放てば露台(ベランダ)もある。
そして、その窓の列の手前には、はいでっかい執務机がどーん。それから、部屋の真ん中には、応接とか談話用の細長い座卓がどーん。
で、その座卓を挟んで同じ様な長椅子が二つ、どんどんって感じ。この長椅子は、一つ十人くらいは一緒に座れるんじゃない?
後は、身だしなみを整えるための縦に長い姿鏡が、執務机の近くに立て掛けてあったり。飾り棚には、花瓶が置かれてある。赤と白の百合が、花束のように入ってこんもりと。
その上には、私の体くらい大きなうちの国章旗が掛けられている。他にも、色々とあったりするが――。ま、大雑把に言えば、こんなところか。
これくらいの調度品に囲まれてても、余裕で広く見える。執務机と座卓の間も余裕。私が使っていたのはここら辺だ。窓の外から見咎められず、ちょとした舞台としては申し分なしで、持って来いって感じ。声もよく響くしね。
ただ、そうなると、その声は私の専属侍従官――。これは、『側付侍従官』って言うんだけど、その者達が普段仕事をしている扉の先、隣の前室にまで届いてしまう。
でも、そこは大丈夫。誰もいないのは確認済み。皆、別の場所でお仕事中だったのだ。私は必要ないって事になって、一人残ってたのよ。
だから、聞かれる事はない。帰ってくれば、賑やかな声が聞こえてくるから、すぐに分かる。鍵も掛けているから、もう万全。そのはずだったのに。
それに、そもそも初めからこんな演劇を、していたわけじゃないんだ。自作の歌を口遊む程度だったの。
だから、それ以上警戒しようなんて思わなかった。例え、奴の存在があろうとも、このくらいなら別に問題ないってね。だけど、その歌に合わせて、自然と体が動き出しちゃって。
それから、軽快な足取りで軽くよ軽く。軽く踊りながら口遊んでいたんだけど――。最近観に行った歌劇を思い出してね……。じゃあ、ちょっと自分でもやってみようかと、どんどん興が乗ってしまったのだ。
いや、誰も見ていないと心が解放されるね。羞恥心が無くなるよ、ホント。結局、警戒心さえもぶっ飛んで、その歌劇に出演していた女優の真似もし始め、それはもう乗り乗り。
くるくると回りながら、あっちに行っては愛敬満載、美少女の構え。そっちに行っては、嫋やか自在、美女の構え。
そして、最後は、左膝をついて左手を胸に置き。天から降り注ぐ一条の光に向かうが如く。右手を手前へ高々と挙げた状態だった。
ああ、表情は、こちらも女優を参考にして、深い悲しみを湛えてるようにしてみた。頭を左右に流れるよう揺らすと、更に役へのめり込める。
こうやって、自分の演技に酔い、気分は最高潮。そして、終劇。決まった……。完璧――。
って、余韻に浸ってたら。結局、それを見られていた。最悪だよ。
「ちいっ!」
体が勝手に動く。すぐさま声の主との間合いを取る。
窓が並ぶ部屋の奥に向かい。ごろりんと素早く転がし。左膝を突いたまま向き直す。右拳を握りしめ、意識を刈り取る為の攻撃体制に入った。記憶を飛ばし全てをなかったことにする為に。
そして、声の主が本当に奴かどうか、きちんと確認するため顔を上げ始める。
まず見えたのは、爪先立ちするくらいには踵が高くなった黒の『革履き』(サンダルのようなもの)。それを足首まで巻き、すらりと伸びしたその足で、扉の前から優雅にゆっくりと向かってくる。
それから、紫色の長い髪。左右に別れ、腰下あたりまで伸びている。それが、歩を進める度に、ふわりふわりと後ろへ流れゆく。
腰には、脛の辺りまで覆う、黒の『細裾』(タイトスカートのようなもの)。これが巻かれおり、合わさった端と端が、右足に沿って切れ込みのようになっている。
その隙間からは、中に穿いている同じく黒色の『緊袴』(レギンスのようなパンツ)が見えていた。この緊袴は、足首あたりまである。
続いて上着だ。その上着は、襟付きの白い長袖で、お腹には暗い紫と白の縦縞模様となった『鼓帯』(コルセットのようなもの)を。
両腕は、肩の辺りまでを覆った『柔ら籠手』(布製の籠手のようなもの)。こちらは黒と白の縦縞が何本か入っている。
そして、喉元の襟には、赤くて幅のある平紐が結ばれてあった。つまり、着ているのは侍従官の服。しかも、私の側付専用の服なのだ。
こんなの改めて見直すまでもない。すぐに分かった。さらに言えば、その顔も見るまでもなく、誰であるかも分かるんだよ。その体つきでなあ!
「――くっ!」
それでもと、最後まで見上げて奴の顔を見た。ああ、駄目だ。やっぱりだった。しかも、こいつには、この攻撃を当てても効果がない。記憶が飛ばん。そもそも、そんな事は出来ない理由がある。
だが、それでもと一撃ぶちかましたい衝動に、私は突き動かされた。それを、ぐっと我慢して抑え込み、構えを解く。
「…………」
いやまあ、最初っから分かってさ。誰かなんてのは……。聞き間違い様もない。毎日聞いている声なんだ。
とは言え、それでも一応ね? 一応、違う場合も考慮してね? 声色真似るのが上手い奴とかもいるからさ……。
そう自分に言い訳をしながら静かに立ち上がる。すると、向こうも立ち止まった。警戒してか少し距離がある。
「お前か……」
「はい」
目の先には、まあ多分この国で二番目くらいの美女がいた。そんな奴が、若干垂れたその目を細め、悠然と微笑んでいる。
瑞々しい口許も緩み、薄紅色の紅が、透き通るような白い肌に美しく映えていた。私には嫌らしくくらいにしか見えんが。
こいつは、シビアナ。王女であるこの私を補佐する側付、それを纏める『側付筆頭侍従官』だ。年は向こうが上だが、そこまで離れていないか。
幼少の頃からずっと私の侍従官で、付き合いも一番長い。あと、教育とか世話係みたいなもんも兼ねていて、で、今じゃあ筆頭にまでなっちゃった。
まあ――。ひじょーに、優秀な奴ですよ、ええ。そこはもうホントに。筆頭の名に恥じぬその能力は多岐に渡り、かつ、どの分野でも如何なく発揮させてきた。
あと、武芸の方もかなりやる。特にあっち方面を。だから、劇に夢中になっていたとは言え、この私に。扉の鍵を開ける音も、扉が開かれた事にも気付かせず、この執務室へ侵入した挙句。声を掛けるまで気配を殺すなんて事ができたのだ。
いや、しかし大体にして、
「お前――、何故ここにいる? 仕事はどうした?」
結構、時間が掛かるっぽかったのに、何で戻って来てるんだよ? しかも、一人だけ。と、いうことはまだ終わっていないんじゃないか? まあ、こいつが一番乗りってだけかもしれないが――。
「他に用件がありましたので。後は皆に頼み、一人戻って参りました」
「用件――」
ちっ。それでか――。
「私がいなくても、問題ないでしょう。指示は出しましたから」
「ふうん……。そうなの……」
「はい」
「…………」
用件――。本当にそうなんだろうな? 言われてた書類作るのほっぽいて、遊んでいるかもと、様子を見に来たんじゃないんだろうな……? その可能性は大いにある。私は、一見優しそうなその顔を予断なくじっと見つめた。
深くて暗い青の瞳――。いつだって、この私を見透かしてきた。黒みがかった紫色の髪――。艶やかで長い。前髪も長い。多少、おでこ辺りにも掛かってはいるが、真ん中で綺麗に分けて、胸の辺りまであった。三つ編みにしながら、柔ら籠手の鎖骨辺りにある輪っかに通している。
そして、ふわりと棚引いていた長髪の下には、三つ編みのお下げが隠れてある。それを頭の後ろで束ね、髪留めを使って一つに纏めていた。この髪型は――、特徴的かな? 少なくとも、私の周りでこんな事してる者はいないし。
それから、その背は私よりやや高く、肉付きも良い。お尻とか、太ももとか。いや、そんな所よりもだ。こいつには、もっと肉付きが良い所がある。私はその場所をじっと凝視した。
「…………」
おっぱいが、すごく、でかい。なんだあれ? こいつが着ている服は、端々に銀糸の刺繍もある、王家に仕えるため専用で作られた格式高いものなんだ。
それが、どうしてあんなにも退廃的に危うく見えるのか。いや、分かってる。そんな事は分かりきっている。
もうね、はち切れそうなんだよ、おっぱいのところが。ぴっちぴちのばいんばいん。上着は、前の真ん中で縦に並んだ釦を使って留められているんだが、そこが限界。
ただ、そうは言っても、動かないとまだ大丈夫なのよ。まだ。今みたいに立っているくらいならね?
でも、歩き出したらもうあかん。一歩前に出る度に、ぼよんぼよんと揺らぎ出す。その度に、釦が堪忍してって悲鳴上げ始める。
だから、危険極まりないんだよ。いつ何時、その瞬間が訪れるか分からないから。ここまで歩いてきた時だってそうさ。
高い格式がなんぼのもんじゃいと、何度も押し寄せてぶち破ろうとしてんの。当然、これは今回に限った事ではない。私はいつも見て思ってんだぞ。
ていうか、お前分かってんのか? 実際弾けたら、どうなるのかをさ。ホントえらいこっちゃですよ。
しかし、それは、周りに男がいたらとか、そんな事じゃない。下には、まだ服着てるしな。だから、そのおっぱいが、露わに曝け出される事はないんだよ。
いいか? えらいこっちゃなのは、お前じゃない。私。そんな現場に居合わせたらな! 私の心が持たないの! 私の心も同時に弾け飛ぶんだよ!
だから、もうちょっと大きなやつを着ろ! それで済むでしょ? 簡単でしょ? 繊細な王女様にきちんと気を配れ!
はあ……。信じらんない。どうして私が、ずうううっと、こんなにハラハラしてなきゃならんのよ。ホントにもう。ホントにホントに、お前はもう――。
もおおおおう! 腹立つううう! 腹立つんじゃああああ!! だから、イライラしても何も言わない。言いたくない。まあ、言ってものらりと躱されそうだが。
ちなみに、初めてシビアナと会う者は、老若男女問わず、挨拶したら大抵まず顔をちらっと確認する。それから、直ぐにそのおっぱいへ視線を移し、目を見開いて驚愕する。
偶に、「でかっ!」と自覚なしに言う奴もいたせいか、今では例え声に出さなくても、口の動きだけでも「でかっ!」と言っているのが分かるようになり、その事実も私をイラッとさせている。
ホント、ふざけたおっぱいだよ……。何なのよ、その大きさは? 弾力は? 美しい輪郭は? ――ううっ! 羨ましい。羨まし過ぎるよおおお!
最高のおっぱい。それをまざまざと見せつけられ、改めて認識を強いられる。おかげで、どす黒い感情がどんどん掻き立ってきた。ああ、妬ましい……。妬ましい、妬ましい。妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬――!
「…………」
私も、あれだけご立派なものがあれば、あんな事をしようとは思わなかったんだよなあ。――はあ、思い出したら何だか泣けてきた。とほほい。
もう一つ、妬ましい事がある。ちらり。私はシビアナの左手を見る。その薬指には、銀色の指輪が嵌っていた。あれは、結婚指輪だ。
つまり、それは、こいつが既婚者であるという事だ。そう、結婚をしてるんだよ、結婚を。ちくしょう。子供も女の子がひとりいる。すごく可愛い。
気が付けば、その子と最後に会ってから、もう一か月以上が経つ。しかし、それ以上に遠く離れているよう感じる。もう随分と会ってない気がした。
そう思えると、切なくて恋しさが募っていく。ああ、会いたい。会いたいなあ……。――ちっ。いいよな、こいつ。自宅に帰ればいつでも会えるんだし! 妬妬妬妬妬妬妬妬――!
「ふふっ」
シビアナが、笑みを零す。その笑顔のまま、おちょくる様に言ってきた。
「急に黙り込こんで、如何なされました、殿下? そのように妬ましそうな髪色をして――」
髪色だって? ふん、そんなの分かっとるわい。しかし、その事実に私は渋く思った。眉を顰める。すると、それを見てか、面白そうに口角を上げやがった。
「――何だよ、その顔は?」
「ふふふふっ――!」
「ちっ……」
上品に口許を隠し、私の心を見透かしたように笑う。その顔が、無性に腹立たしい。しっかし、こいつ……。一体、何時からここにいた?
もしかして、もっと前からいたんじゃないか? 最後だけとかと思っていたが、何だか自信が無くなってきた。結構、熱中してやってたからなあ……。
いや、ていうかさ、そもそもの話。気配を消して、部屋に入って来るなよ。おかしいだろ、お前。部屋に入る前に扉を叩いて、私の許可を取って、それから入室しろ。それが普通でしょ?
――まあいい。とりあえず、それは置いておこう。弱みを握られたんだ。ここで、ただ怒っても不利。平静を装うことに集中しろ。そして、何か打開策を――。
そう自分に言い聞かせつつ、姿鏡の前まで歩く。時間稼ぎもあるが、久しぶりだから、ちゃんと確認したくなったのだ。
私は、それからその鏡に体を映し、シビアナの姿も映るように少しずらした。ここで、失敗に気付く。
しまった。この鏡で、扉が見えるようにしておけば良かったな。そしたら、入って来た瞬間分かっただろうに。演技に熱中してても、流石にそれはね。
「…………」
うーん、まあ多分……。いやいや、大丈夫なはずだ、うん。気持ちを切り替えて、鏡を見る。
さて。今日着ている服は、赤色の七分袖を羽織り、その下は黒の袖なし。これは胸を覆っているだけで、お腹周りは桃色の透かしになっている。履いているのは、膝下辺りまでしかない緑色の緊袴。
靴は、茶色の皮草履だ。シビアナの物より踵は低い。脛の辺りまで編み上げた革紐で、蝶々結びにして留めていた。
七分袖は、『籠手戯』と言う。丈が胸下辺りまでしかなく前開きで、胸元にある黄色い紐で結んでいる。それから、大小様々の花柄が、たくさん刺繍されてあるね。
それから、裏地には、両胸の辺りに衣嚢(ポケットのようなもの)も付いていて、大抵は手巾とか革手袋なんかを入れてたりするかな。この皮手袋は、ちょいと変わっていてさ。今もちゃんと手巾と一緒に入っていた。
あと、腰帯もしている。平らな革製で、私が軽く握り込めるくらいの幅がある。それで、この腰帯なんだけど、その平らな面に、色とりどりの宝石みたいなものが散りばめられていてね。
私の親指くらいのもので、涙の雫みたいって言えば良いのかな? そんな形をしている。それが沢山ある。実はこれ取り外しが利くのよ。装飾としてだけじゃない。他にも使い道があるのさ。
「…………」
うーむ、しかし。自分でいうのも何だが――。まあ……。まあ、結構いい体してるんじゃない? そうだと思うけどなあ。
シビアナより身長が低いのは確かだが、それでもそこそこあって、年頃の女性にしか見えまい。肉も程よくついて健康的だろうし、肌も白くてスベスベだよ? 美容には気を使っているんだ。
顔だって小さい、はず。唇も、まあぷっくり? として小さめよ。紅は、薄桃色。で、ちょっとお高いのを使ってんの。銀の鱗粉が混じってるやつ。
目つきはちょっときつめ――、になるんだろうな、これ。はあ、父様に似ちまったい。で、目尻の方にも薄紅赤色の紅を引いてる。
こっちは、お高くはなかったかな? そして、眉毛は、ちょっとだけ太くて良い感じだ。きりっとしてる。きりっとね。
あと、い、色気もあるし? おっぱいも普通にある……。あるし……。
「…………」
ちろり。鏡越しに、シビアナのおっぱいを盗み見る。それから、自分のおっぱいを見る。
「…………」
――ま、まあ、今はそこが問題じゃない。私は、鏡に映った自分をもう一度見直した。今度は、顔からその上の頭に、視線を移す。
私の髪は長い。何もしなければ、お尻の辺りまである。それを色んな三つ編みにして纏めているのだ。
左側は、おでこが見えるようにして、ぐるりと巻いて丸めた三つ編み。それを、頭の天辺から少し耳の方にずらして、髪留めと一緒に纏めている。大きさは手のひらぐらいかな、これ?
ちょっと、ぽんぽんと叩いてみる。――うん、それくらいだね、そこまで大きくもないだろう。だから、編み込んでも結構髪が残っちゃうのよ。前髪も残してるし。
右側も三つ編みにしてて、左で余った髪もゆるい三つ編みにしながら頭の後ろから持って来て、一緒に編み込んでいる。
で、右肩辺りで、お団子みたいにしてから、細めの三つ編みを別に作って、それを紐の様にして巻き、髪留めと一緒にそのお団子へ括り付けていた。
ただ、無理に全部纏めても恰好が悪いので、ほどほどにして余った分は、そこから腰まで垂らしている。まあ、髪の毛が長くて多いから。これは致し方なし。
あと、出したおでこからも、一房だけ垂らしているね。髪先は、鎖骨辺りに当たってる。実はこれ、ちゃんとした理由があって、こうやってんの。私は、その一房を摘まんだ。
「はあ……。やれやれ……」
気怠げに、ぷらぷらと揺らしながら、その様を鏡に映す。別に手に取らなくても、前髪で確認できんのよ。半分残ってるし。目線を上げれば、すぐそこにある。でも、こうやって見るのが、癖になっちゃててね……。
だから、シビアナに言われるまでもない。鏡も見ないでいい。普段ならいつだって自分で確認できる。
それに、立ち上がった時には、もう気付いていた。だけど、これは今更。別段、驚く事でもないから、後回しにしていたのだ。
「深緑――、か……」
そう。いつもは、銀色に輝いてるはずの私の髪。
そのはずの髪色が、深い緑色に変化していた。