野獣弄愚-no-ke-Monolog-
昼間でも薄暗い
鬱蒼とした森の奥深く
赤い目をした兎が1羽
群れから はぐれて
追いたてられるがままに
辿り着いた泉
木漏れ日に煌めく
意のままにならぬ手足を
引き摺り 覗きこむ
美しさと安堵に
雫 目からこぼれる
乱れる水面に
白い塊が映る
毟り取ろうと伸びる手は
もうここには こない
波打つ水面が
結ぶ歪んだ実像
疎らになった
毛並み覆い隠した
堪えきれず跳び跳ねた
なんて 素敵な場所
言いたいこと
伝えたいこと
たくさんあるの
届かなくて逃げた
あの場所には帰らない
どうか
どうか
誰でも良いから
荒げた声が波紋を刻む
顔見えぬ樹々が 応えて ざわり
森と比べたら
それは小さな泉
でも兎にとって
ここは世界の全て
赤目兎は 今日も覗きこむ
泣き腫らした目に映す
捻れ歪んだ水面を
言いたいこと
伝えたいこと
たくさん叫んだ
反響する正義が
覗きこむ他の像 揺らし消しても
消えたいほど
消えたいほど
痛かった想いを
振り払うよう夢中で叫んだ
顔のない梢の 共鳴を束ねて
いけないこと
いけないこと
いけないことって なに?
昔みんなで 決めたお約束事
やくそくごと
やくそくごと
きめられたのは なぜ?
いけないことで
溢れちゃうからだよ
きめたのに
いまでも
あふれてるよ なぜ?
言いたいこと
伝えたいこと
たくさんあるの
邪魔するのなら
集めた枝で作った弓矢で射るよ
だって
ここで
見えるのは自分だけ
痛みに歪む顔 映るのは自分だけ
痛かったもの
痛かったもの
たくさんの手が毟った毛並み
映らない背中は
じわり黒く染まって
意のままにならない
この身体でも平気
歪む像消すのは 指先ひとつ
水面叩いて
叩いて叩いて
飛沫上がるほど ただ揺らすだけ
昼間でも薄暗い
鬱蒼とした森の奥深く
赤い目をした兎が1羽
四角い泉に 魅入られたまま
瞬きも忘れて 眠ることも忘れて
うねる鏡に 白く映し出された
愉悦に歪む 虚ろな赤眼
かつて自らを 毟った相手と
同じ顔をした 斑の兎
がら空きの背中を、鳶が狙う