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【首無しライダー】

作者: 鵜野森鴉

この物語はフィクションです。

登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。

実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。


【首無しライダー】


神奈川県と静岡県の境にある、ある峠道に昔から伝わる噂がある。

真夜中にその峠を一人で走ると、首無しライダーが乗る単車が追いかけて来て、

抜かれた瞬間に谷底へ落とされるという噂だ。

その峠は、昼間はすごく景色が良く観光客もたくさん通るが、夜になるとその

表情はガラリと変わる。

外灯がひとつも無い、真っ暗な闇に「死亡事故現場・注意」と書かれた看板が、

ヘッドライトに照らされて不気味に浮かび上がるのだ。

しかも、いったい何枚あるのか判らないくらい、無数に立てられている。


その夜も、御殿場から乙女峠経由で山を上がって来た連中が、湖の畔でタバコ

を吹かしながら、その峠の話をしていた。

「先週あそこの峠でまた落ちたんだってよ」

「マジかよ、今年に入って3台目だぜ」

「そのうちに通行禁止にでもなっちまうんじゃねぇの」

「それはないべ、そんな事になったら○○温泉の客は陸の孤島だ」

「それなら、取締りが厳しくなる前に走っておこうぜ」

「あーそうだな、年末の一斉検問で20人くらいパクられたって話だ」

彼等はこの辺一帯をホームコースとする自称・走り屋だ。


フィルターぎりぎりまでタバコを吹かし終えると、それぞれの車に乗込み、

一斉にエンジンをスタートさせた。

爆音マフラーのせいで、霧に覆われた湖の空気がビリビリと震えている。

先頭からタケ、テツ、アツオ、グッサン、しんがりはケンヂ。

「ゴフッ、キュキュキュー」スキール音を上げて山頂を目指した。

じきに山頂だという一本道で、しんがりのケンヂは目を疑った。

小学生くらいの女の子が、一人で歩いているのが見えた。

「えっ、ウソだろ。こんな時間に、こんな所を一人でなんて…」

バックミラーで確認しようとしたが、もう見えなかった。

「何か悪い予感がする…」

ケンジは背中に冷たい何かを感じていた。

ケンヂは人一倍霊感というか第六感が強く、これまでに何度かそれらしきモノ

が見えたり、金縛りにあったりした経験があった。

仲間達は、そんなケンヂの話を信じようともせず、馬鹿にしていたが、ケンヂ

は自分の第六感に自信を持っていた。


頂上のT字路を左折すると、いよいよあの峠に入る。

ケンヂは兎に角一人きりにならないようにグッサンの後ろを走った。

だが今夜のケンヂのトレノは機嫌が悪く、多用する2速4千回転付近で、メンテ

をサボっていた4-AGが、まったく吹けなくなる。

どんどんグッサンとの間隔が開いてゆく。

ケンヂは必死にパッシングで合図を送るが、グッサンは煽られていると思い込

んでしまって、益々スピードを上げてしまう。

とうとうケンヂの視界に、仲間のテールランプは入らなくなった。

車を路肩に止めて、仲間が戻ってくるのを待てばいいのに、そんな機転も勇気

も、今のケンヂには無かった。

「やべぇ、どうしよ」

「おっかなくて、バックミラー見れないよ」

恐怖で全身から嫌な汗が噴き出してくる。

次の右ブラインドコーナーには、この峠唯一のお茶屋があり、横断歩道がある

のだが、ケンヂの脳内は首無しライダーに支配されていた。

一瞬減速が遅れ、テールが流れた状態でブラインドコーナーに進入したとき、

そこにはさっき見た女の子がっ!!

「どわー! どいてくれー!!」

スライド中に急減速したケンヂのトレノは、オツリをもらって大きく反対側に

振りっ返した。

そしてそこには例の看板と途切れたガードレールが、大きく口を開けてトレノ

を飲み込もうとしていた。


病院のベッドでケンヂは目を醒ました。麻酔が切れたのだろう。

下腹部に刺すような痛みを感じるが、意識はハッキリしていた。

どうやら手術は上手くいったようだ。

「昨日アイツ等と、首無しライダーの話をしたからかな」

「それにしても、すげぇリアルな夢だったなァ…」

昨日、ケンヂは虫垂炎のために、地元の大学病院に入院していた。

そして、手術前に走り屋仲間が見舞いに訪れて、首無しライダーの話でおおい

に盛り上った。


でも、あの峠には本当にたくさん、例の看板が立てられている。


― 完 ―


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