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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異聞 第一次ソロモン海戦

作者: 山口多聞

お待たせしました。お題3で参加します。

「バカな!」


 米パイロットは信じられない想いで、前方から接近してくる機影を見つめていた。


「ラバウルからの援軍か!?」


 その可能性は出撃前のブリーフィングでも注意を受けたことだ。ただし昨日一昨日と、ラバウルの日本海軍航空隊は連続出撃しており、コースト・ウォッチャーからの報告による在ラバウルの在地機数も考慮すれば、仮に出撃してきたにしても大した数ではないと見積もられていた。


 しかしながら、今彼の目前に迫って来ている日本機はどう見ても20機以上のまとまった数だった。


 こちらは40機の編隊だが、戦闘機は先の戦闘での消耗やガダルカナル付近での上空援護のために引き抜かれ、わずか8機しかいなかった。


「全機へ!攻撃隊を守れ!!」


 32機の爆撃機と雷撃機を守るために、8機のF4F「ワイルドキャット」戦闘機が上昇しつつ突撃する。敵に対して少しでも有利に立とうと、機制を制しつつ優位な位置を取ろうという行動であった。


 しかし。


「ガッデム!」


 日本機も高度を上げた。半分の10機程度がだ。残りは後方にいる爆撃機や雷撃機に高速で向かっていく。


「ゼロじゃない!?」


 その機影を見た時、彼はそれがこれまでに幾度も空戦を行ったゼロ・ファイターでないと認識した。明らかに主翼の形が異なっていたからだ。


「ジャップの新型か!?」


 予想外の日本機の迎撃、しかも新型機によるものに米戦闘機隊のパイロットたちは浮足立つ。先日のガダルカナル上空でのラバウルから来襲したゼロを見ているだけに、彼らの焦燥感は大きかった。


 それでも訓練通りに無線で連絡を取り合いながら2機1組の連携を取り、対ゼロ戦法サッチ・ウィーブを試みようとはした。


 しかし相手の数が、自分たちより勝っているのではその戦法も有効に機能しない。なんとか撃ち落とされないようにしながら、時々12,7mm機銃を連射するが、全く手ごたえがない。


 そして、ついに1機が撃ち落とされたことで均衡が破られる。


「ダメだ!逃げろ!」


 次々とゼロに後ろをとられ攻撃を受ける「ワイルドキャット」を見た彼は、僚機とともに戦場の離脱を図る。


 その彼の無線のレシーバーには。


「喰いつかれた!助けてくれ!」


「ガッデム!逃げきれない!」


「爆弾を捨て・・・」


「回り込まれた!撃たれてる!」


「戦闘機隊はどこだ!?早く来・・・」


 味方機の断末魔の無線交信が入って来た。


「もっと戦闘機がいれば・・・」


 敵機の数は攻撃隊より少ないが、こちらの護衛戦闘機が少なすぎる。おかげで戦闘機隊は圧倒され、丸裸になった爆撃隊と雷撃隊もいいようにやられている。


 しかし、彼が爆撃隊や雷撃隊を気遣っていられた時間は短かった。


「いかん!?」


 操縦桿を倒すと、火線が機を掠め、直後にゼロが通過する。


「野郎!」


 通過したゼロ目がけて12,7mm機銃を乱射するが、当てずっぽうの弾が当たるはずもなかった。


「ダメだ!」


 とても攻撃隊の援護どころではない。自分が生き延びるだけで精一杯であった。爆撃機や雷撃機のことに気を配っている余裕などない。その一瞬の隙ですら、死に直結しそうであった。


 


「投下!」


 機体にぶら下げてきた1000ポンド爆弾が落下していく。しかしパイロットはそれに見とれている余裕はなく、操縦桿を引っ張って急降下していく機体を上昇させる。そうしないとそのまま海面にダイブしてしまうからだ。


「どうだ!?」


 後方の偵察員に戦果を確認させる。


「至近弾です!」


 残念ながら外したようだ。


「外したか!クソ!」

 

 昨晩ガダルカナル周辺の味方艦隊と上陸船団を襲った日本の巡洋艦部隊。その憎き敵に手痛い報復を浴びせるつもりだったが、命中させることができなかった。


 これも予想外の日本側の迎撃のせいだ。上空には戦闘機はいないと出撃前のブリーフィングでは言われたのに、蓋を開けてみれば20機余りの戦闘機が待ち構えていた。護衛戦闘機は早々に蹴散らされ、彼を含む雷爆撃はその攻撃を回避するために、散り散りになってしまった。


 そのため攻撃も各機が個別に行うことを余儀なくされた。戦闘機に追われているというプレッシャーも加わり、その攻撃は精細さを欠くものとなった。


「どうしてこんなことに!?」


 本来であれば、手負いの巡洋艦部隊に一方的な空襲を加えている筈であった。そうなれば、1~2隻は沈められる自信が彼らにはあった。


 しかし現実には敵艦隊にまともな打撃は与えられず、逆に攻撃隊の方が大打撃を被っていた。


 どうしてこんなことが起きたのか、彼らにはさっぱりわからなかった。


 しかし、幸か不幸か彼はその原因の一端をその目で確かめることとなった。


「機長!3時方向に空母だ!」


 後席の航法士の言葉に、パイロットは目を剥いた。


「空母だと!?」


 それは完全に寝耳に水の話だった。6月のミッドウェー海戦にて主力空母を一気に4隻も喪った日本海軍は、空母戦力の再建中で、全ての空母が本土近海かトラック島に周辺にいると聞かされていた。


 こんなソロモン海に日本が空母を派遣する余裕があるなど、想像すらできなかった。


 だが彼が機を傾けると。


「ガッデム!」


 確かに平らな甲板を持つ空母の姿があった。大きさからみて正規空母ではない。軽空母らしい。それでも戦闘機の30機は積めるだろう。迎撃してきた戦闘機を飛ばしてきたのはあの軽空母に間違いない。


 そしてその姿を見つけたパイロットは二重の意味で悪態を吐いた。予想外の空母が存在したという事実と、せっかく見つけた空母を攻撃する手段を持たないことに。


「母艦に報告しろ!ジャップの空母がいると!」


 自分自身が手を下せないのは口惜しいが、だが目の前の憎き軽空母を叩く手段はまだある。味方の機動艦隊に報せれば、もう一度くらい攻撃隊を出撃させられるかもしれない。またニューギニアに展開する陸軍の爆撃隊が受信すれば、爆撃機を送り出すかもしれない。


 そうすれば沈められる可能性は決して0ではない。


 だが、その思考はすぐに航法士の絶叫によって遮られた。


「後方に敵機!」


「!?」


 直後、大口径機銃弾の命中による強力な打撃音と衝撃が、彼のSBD「ドーントレス」に襲い掛かった。




 戦闘を終えた零戦が次々と着艦してくる。1機、また1機と着艦ワイヤーをフックでキャッチした零戦が甲板上に降り立つ。整備兵がすぐにワイヤーを外して、その機体を前に押し出して次の機体のスペースを作る。


 その作業が都合17回繰り返された。着艦してきた零戦の中には激しく被弾しているものもあり、そうした機体が着艦すると整備兵が消火器や担架を持って飛び出していく。ただ幸いにも、歩けないほどの重傷を負ったパイロットはないようであった。


「未帰還4機。その他に「鳥海」と「衣笠」に至近弾とのことですが、損害は軽微!戦果は現在集計中」


 飛行長からの報告に、空母「龍鳳」艦橋内に歓声が起こる。


「艦長、やりました。第八艦隊は昨日ガダルカナルの敵輸送船団を壊滅させましたし、今の空戦で敵機動部隊の艦載機に相当な打撃を与えたのは、疑いありません」


 一方の艦長は、安堵の息を吐きつながら艦長席に座り込んだ。


「何とかなったな。ガダルカナルに敵が上陸し、その攻撃に向かう第八艦隊の援護に迎えと言う命令を受けた時は、撃沈も覚悟したが」


「やはり我が「龍鳳」は運に恵まれています。4月の空襲でも危ういところで直撃を免れました。もしあの時直撃を喰らっていたら、竣工は3カ月は伸びたでしょうから」


 飛行長の言う4月の空襲とは、米軍のドーリットル隊による本土初空襲のことだ。この時、当時「龍鳳」が改装中だった横須賀にも敵機が来襲し、爆弾を投弾した。そしてその内の1発は「龍鳳」の傍に着弾した。不幸にも工員数名が犠牲になったものの、「龍鳳」自身は被害を免れた。


 そうして無事に空襲を切り抜け、公試に入った「龍鳳」であったが、その最中の6月にミッドウェー海戦で味方主力空母4隻が撃沈され、空母戦力が著しく減少してしまった。勢い、改装中や建造中の空母の戦力化が急がれ、なかんずく戦力化直前であった「龍鳳」のそれは特に急がれることとなった。


 結果7月21日に正式に竣工し、その1週間後にはラバウルへの航空機輸送任務が命じられた。


 竣工以前から乗員が乗り組み訓練を開始していたとは言え、普通であれば乗員の慣熟のために、もっと訓練期間をとるべきである。しかし空母不足もあって、とにかく一刻も早い戦力化が望まれた。そのため、乗員にはベテランであるミッドウェーで沈んだ4空母の乗組員やパイロットが優先配備された。


そして護衛の駆逐艦3隻と共に「龍鳳」はトラック島経由でラバウルへと出港した。「龍鳳」自身の艦載機は最新鋭の零戦32型24機に99式艦上爆撃機6機であったが、これに甲板上に係止する形でラバウルに補充される零戦32型12機も搭載されていた。


 途中様々な訓練を行いつつも無事にトラック島を通過、そして8月7日にはラバウルまで300海里の距離に接近し、補充用零戦を発艦させた。予定ではその後反転してトラック島に帰還する筈であった。


 ところが、ここで米軍のガダルカナル島上陸の報を受けることとなった。この時点で「龍鳳」は既に連合艦隊付属と言う形で、その指揮下に組み入れられていた。


 そして連合艦隊司令部より受けた命令は、トラックへの帰還を中止しガダルカナル島へ向かう第八艦隊を援護せよというものであった。


 このため「龍鳳」と護衛駆逐艦3隻は急遽ラバウルを出撃してガダルカナル島へ向かうこととなったのだが、全く想定していない行動だけに、現場の人間の戸惑いは大きかった。


 第八艦隊は緊急出撃してラバウルからガダルカナルへ向かったが、「龍鳳」はこの時点でラバウルの北東200海里にあり、また敵艦隊に突撃する第八艦隊と直接合同するのは不可能であった。


 結局急遽ラバウルより飛んできた神がかりな行動で有名な参謀と1回きりの打ち合わせをし、「龍鳳」は、ガダルカナルに突入する第八艦隊の帰路の上空援護を行うことで一致した。


 往路に関してはラバウルの基地航空隊が断続的な空襲を加えて敵機動部隊を牽制しているとともに、「龍鳳」との位置関係上援護が難しいので行わないこととされた。


 こうして「龍鳳」は第八艦隊を追いかける形で南下し、第八艦隊突入の翌朝に援護の艦戦隊を出撃させることとなったが、とはいえ艦に不慣れな乗員での未知の海域の航行。敵機や敵潜の出現もあり得る海域であるから「龍鳳」乗員の緊張感は並々ならぬものがあった。


 ただ「龍鳳」にとって幸運だったのは、日の入りまでは艦載機を出撃させ上空警戒と対潜警戒を空から行うことができた。特に対潜警戒では、99式艦爆が数度敵潜水艦らしき目標を発見して、爆弾を投下している。


 また実験的に取り付けられた電探を活かすこともできた。開発されたばかりで性能も不安定な代物であったが、第八艦隊と合流した後に作動させた時には、敵編隊の接近を何とか探知し、戦闘機隊を早期に上げることができた。


 昨日のガ島沖での海戦において、第八艦隊は損失なしで敵の護衛艦隊と、上陸部隊を輸送してきた輸送艦隊を撃破した。


 ラバウルの基地航空隊も長距離飛行に苦しみながらも、相当な撃墜戦果を上げているという情報も入っている。


 ガダルカナル島上陸を許し、同島や近隣のツラギ守備隊に大きな被害を受けたが、この分ならば巻き返せそうであった。


 とにかく「龍鳳」は初陣を白星で飾ることができた。


「もしかしたら、本艦は本当に運に恵まれているのかもしれんな」


 予想もしなかったソロモンの海。その南海の水平線を臨みながら、艦長はしみじみと呟くのであった。


御意見・御感想お待ちしています。


なお「龍鳳」の竣工時期や実戦投入時期が、ドーリットル空襲で損傷を受けなかったとはいえ無茶過ぎる。と言われそうですが、そのあたりは創作として許していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかして、この作品『鉄血宰相、レイテ湾に突入す!』と、クロスオーバーしていたりして……。
[良い点] 龍鳳を第一次ソロモン海戦に参加させるという発想に脱帽です。 自分も第一次ソロモン海戦のお題で書かせていただきましたが、知識不足のために新たな戦力を投入することができず、ありきたりなIF戦記…
[一言] ガダルカナル(ソロモン)攻防戦は太平洋戦争の天王山とも称される重要な戦いですね。 やはり鍵となったの制空権確保で、史実の日本軍は戦艦部隊と機動部隊を投入するもヘンダーソン飛行場を制圧できず、…
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