計画1
転生してから5年。
この家に生まれてもうそろそろ5歳になる。
「5歳か~。」
僕の茶色の髪が風に揺れる。
この家に生まれてからの僕は充実した生活を送っている。
父親は領主として立派な人だし、母親は領民に愛されている。
兄は武道に秀でているし、姉は次々と領地の問題ごとを解決している。
何より家族みんなに愛されている。
実に素晴らしい。
ちなみに僕はというと、運動も勉強も努力次第で伸びるようにしてもらっている。
容姿は美少年である。
ふんわり茶髪に青い瞳、5歳児らしい服を着ている。
ただし、短パンは嫌いなので長ズボンである。
素晴らしい家族のおかげで僕はゆっくりと確実に成長していける。
僕の頬が緩む。
「どうしました坊ちゃま?」
「いや、今日も気持ちいい風が吹いているなって思ってさ。」
「そうですね。とても気持ちのいい風です。」
メイドはニコっと笑う。
彼女はミリア・アーマン。
穏やかな性格で母性に溢れた可愛い女性だ。
とても14歳には思えないほど全てを包み込む母性だ。
長い黒髪が相まってより一層感じる。
胸も14歳にしては大きい。
てか、マジで14歳かよ。
「坊ちゃま。今日はどの本をお読みに?」
「うん?ああ。今日は何となくおとぎ話をね。」
「おとぎ話ですか?どのようなおとぎ話でしょうか?」
「結構有名なおとぎ話だよ?タイトルは“微笑みの女神”っていうんだけど。」
「ああ!私知っていますよ!大好きなんですよね~このお話。」
「そうなんだ。」
「はい。路頭に迷った人々を女神さまがお救いになるんですよね。」
「そのようだね。」
僕はページをめくる。
「うふふ。」
「どうしたの?」
「いえ、坊ちゃまもこういうお話が好きなんだな~って。安心しました。」
「そう?」
「そうですよ!だって初めて読む本が“世界の言語録”なんて子供らしくないですもん!」
「ははは。」
僕は乾いた声で笑う。
でも仕方ない。
これは王道だから。
異世界に転生した場合、まずやることは言葉の確認だ。
地球と似ていると聞いたが、言語まで似ている保証はない。
案の定、言語にはいくつか種類があるし、僕が知っている日本語は古代言語に分類されていた。
危なすぎる。
この世界の言語は大きく分けて3つある。
1つは貴族たちがカッコつけて使う言語であるイング語。
これは英語に似ているので何とかなるな。
問題は残りの2つ。
1つは世界の共通言語であるカタントリア語。
アルファベットのような感じだ。
ただし、子音が50の母音が10の組み合わせからなる。
これは覚えるのになかなか骨が折れる。
もう1つは亜人種と呼ばれる獣人や魚人たちが使う言語でリアライズ語。
これについてはさっぱりわからん。
書いていることを理解できない。
後で家庭教師でも雇ってもらって習おう。
そうしよう。
僕はなんとかカタントリア語とイング語をマスターする。
1年かかったが今ではすらすらと読み書きができる。
話し言葉はご丁寧に日本語に翻訳されるのでご安心を。
これができるようになってからは僕の日課に読書は欠かせない。
日々、この世界の情報を手に入れている。
今は学ぶことが多いが、正直楽しい。
自分の夢に向かって進んでいるからさ。
そして明日、ついに目的の1つである本を読むことができる。
自然と頬が緩むに決まっている。
またページをめくる。
ガチャッ。
「失礼するわ。ルーはいるかしら?」
「奥様!こちらにいらっしゃいますよ!」
「ふふ。ありがとうミリア。」
淡い色のドレスを着た金髪碧眼の美人さんが笑顔で近づいてくる。
彼女は僕の母親でリリス・リア・マカベルグ。
3児の母親で領主婦人。
子供が3人もいるように見えない美貌にスタイル。
とてもではないが35歳には見えない。
これが詐欺である。
「ル~。」
むぎゅ。
音符でも飛んでるんじゃないかってくらい甘い声で僕の名前を呼びながら抱きしめる。
「何ですか母上?」
「もう!違うでしょルー。“母上”じゃなくて“ママ”よ。ほら、言ってみて?」
「・・・ママ?」
「うふふ。可愛いわルー。」
ギュッと先程より強く抱きしめる。
「ママ苦しいよ?」
「うふふ。ママの愛に溺れなさいルー。」
リリスは頬をスリスリしてくる。
「えへへ。」
「うふふ。」
傍から見たら美しい親子愛に見えるのだろう。
実際に愛し、愛されているのだから事実に嘘はない。
ただ、巨乳に埋もれていて苦しいのも事実なので。
というか羨ましそうに指を加えているミリアはよだれを拭きなさい。
「ぷはっ。」
僕は空気を吸う。
「ママ何かいいことでもあったの?」
「うふふ。実はね~今日お父さんがお仕事を済ませてお家に帰ってくるのよ。」
「父上が!」
僕の目が輝く。
「もう!ルーったら“父上”じゃなくて“パパ”でしょ?お父さんが聞いたら倒れちゃうわよ。」
「ご、ごめんなさい。」
「う・そ。」
「ママ。」
「ごめんね~。」
また頬をスリスリしてくる。
「ルーが天使のように可愛いからついついからかいたくなるのよ。」
「そうなの?」
「そうなの。うふふ。」
まぁ事実なんだろうな。
だって後ろでミリアが力強く頷いてるもん。
てか、さっきの羨ましそうな視線てもしかして・・・。
「ミリア。」
「はい、何でしょう坊ちゃま。」
「ギュ~。」
僕はミリアに抱き着く。
「ぼ、ぼ、ぼ、坊ちゃま!?」
ニパッと僕は笑う。
「坊ちゃま!!」
ガバッと抱きしめられる。
「ありがたき幸せ!えへへ~。」
なんか変な言葉遣いだったような気がするが無視しよう。
「ずるいわよミリア!私も!」
この後、僕はとっかえひっかえママとミリアに抱きしめられました。
巨乳って凶器だね。
あと少しで2度目の転生だったよ。