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第5話「栗毛髪の美少女に剣は教わりましょう」

「なによ、この服装が気に入らないわけ?」


 シェルマは栗毛をなびかせながら、こっちを睨む。


「いや、そうじゃないよ。似合ってるなあと思って……」


 目のやり場に困る服装だな。


「女の子剣士が装備できる中で、これが一番動きやすいし、あたしに合ってるのよ。当然防御力も素早さも手に入れられる範囲で一番高いし。じろじろいやらしい目を向けないでよね!」


 自意識過剰だが、そのくらいの美貌をほんとに持ち合わせているな、こいつ。


「……努力する。で、俺はどうすればいい?」


「基本レベルは5。ソードレベル2か……カルミの奴、何、押し付けてるのよ。どんな剣、装備してるの? 見せて」


 俺はシェルマに剣を抜いて渡す。


「んっ……メンタルソード。レアなの引いたわね。これ一度、装備してみたかったのよ……ふ~ん、剣だけはいっちょ前ってわけか。服装は戦闘用じゃないみたいね。どのくらい強くなりたいの? レベルとかで具体的に教えなさい」


「具体的にか。ありったけ強く。とりあえず、モクモ最強の剣士と同じくらい」


「……聞こえなかったんだけど、もしかしてふざけてるのかしら?」


「俺は大まじめだ」


「君があたしと同等に成れるわけないじゃん」


 シェルマは馬鹿にしたように、首を横に振る。


「そんなのやってみなきゃわからないだろ」


「……返すわ、これ」


 俺は渡されたメンタルソードを鞘に戻した。


「言っとくけど、基本レベルもソードレベルもある程度まで行くと、上がりにくくなるわ。あなたの言ったことが、どれほどズレてるか教えてあげる。そこでやりましょ」


 シェルマはベンチから離れた芝生を指さす。


「やるってなにを?」


「戦うに決まってるでしょ。なに別のこと想像してるのよ」


 俺に軽蔑の目を向け、栗毛女はウインドウを開き、木の棒を装備した。


「フレンド申請のやり方わかる?」


「いや、まったく……」


「あたしのゲージが出てるでしょ。タッチして申請してみて」


「……相手のフレンド枠がいっぱいです。だって」


「ああ……放置したままだからだ。すぐいっぱいになるのよね。ちょっと待ってなさい」


 シャルマは素早く右手を動かして、ウインドウを十数枚消していく、それが終わると、

『フレンド申請が来ています。シェルマ』


 と、俺のウインドウに出たので承認ボタンを押した。


「じゃあフレンド戦闘するから」


「いきなりかよ! 手取り足取り教えてくれないの?」


「あなたがズレたこと言うからよ。言葉でいうより、体験した方が身になるわ。自動回復機能ありになってる? 初心者なら五日はペナルティなしで再開できるはず」


「たぶん。受付の人がモニタリングしてるらしいから」


「モニタリング! なによ、随分と待遇がいいのね」


「なあ、フレンド戦闘と言っても、俺、女の子と戦うのは遠慮したいんだけど」


「なに紳士ぶってるのよ! あたしが初心者に傷つけられるわけないでしょ。レベル差みなさいよ」


 たしかに俺とシェルマの差は雲泥だ。それでも、


「流石に木の棒はないんじゃないか?」


「ああ、もう、うるさい! ……はやく承諾しなさいよ!」


 シェルマから対戦の申し込みが来ています。とウインドウが表示される。

 承認ボタンを押し、カウント5から減っていき、1になった瞬間と同時にシェルマは俺にイノシシみたいに突進してくる。


「なっ!」


 剣を抜こうとしたが、持ち手に手をかけた瞬間に、すでに危険! と赤く表示されていた。


 俺は為すすべなく、高速の突きをもろに食らう。いっきにHPが削られ、呼吸も苦しくなる。立っていることも出来ず、その場に尻もちをついた。


 負け! と英語表示されるのが少し悔しい。


(カルミさん、一週間でどうするって……無理難題過ぎだろ!)


 体が光だし、HPが瞬く間に回復し、呼吸も気分も楽になる。これが自動回復か。


「どう? 少しは自分の愚かさがわかった?」


「目標設定が高すぎるのは理解した。自己流じゃきつすぎる。基本から教えてくれ」


 俺は立ち上がって、シェルマを見据える。


「……随分と素直ね」


 こっちは幼なじみを救わないといけないんだ……


「腹を空かせた獣みたいな突進してくるから、びっくりして剣が抜かなかった。……でもお前がすごいのはわかった」


「こいつ……口の減らない子ね。剣士の戦いは、観察、度胸、戦術が絶対的に必要だわ。最初の二つは才能と言ってもいい。攻撃力は鍛えれば上がるからね。例えば、突進してきた相手ならその直線上を回避して、攻撃すれば致命傷を与えられる。相手の間合いに入り込まないようにするのが基本中の基本」


「なるほど」


「それとあなたみたいに、カウント中に剣を抜いてないのは論外だから。余裕見せすぎでしょ、低レベルなのにさ」


 シェルマは口元を緩め、完全に俺を馬鹿にしている。

 ものすごい可愛いけど、むかつくな、こいつ。けど強いのは確かだ。カルミはたぶん最短を考えて彼女を選んだんだろ。プライドとか言っていられない。だが……しかし


「覚えてろよ。必ずその尖った鼻をへし折ってやるからな」


「口だけは一人前ね。弱い者いじめしたくないなあ」


 あとで泣かす……


「剣技を早く教えろよ。時間がないんだ」


「お願いしますは? 君、教えを乞う立場よ」


「くっ……」

 俺は口ごもる。


「あら、なあに? 聞こえないわ。礼儀も知らないの」


 なんなんだ、この女の子は……表情、態度(むかつくところ含めて)俺の理想そのまんまじゃないか。


「うるせいな……お願いします。教えてください」


「ふふ~ん」

 シャルマは口笛でも吹きだしそうな表情だ。


「仕方ないわね。あたし、人に教えること初めてよ。みんな断ってるんだからね。どれだけ幸運なことか嚙み締めなさいよね……まず、自分の装備する剣についてよく知ること。メンタルソードは攻撃力中の上。ただし特殊スキルが発動できる片手剣」


「片手剣ってことは両手剣もあるのか?」


「ええ。両手剣はもっと重い大剣よ」


「……あのさ、カルミが名前言ってたけど、ちゃんと自己紹介してくれないか?」


「なによ、そんなにあたしと仲良くなりたいの?」


 そりゃあ男の子なら、こんな美人と仲良くなりたくないと言ったら嘘つきになる。


「あ~、顔赤くして。意外に可愛いところあるじゃない。シェルマよ。女の子最強剣士。弾丸の栗毛って呼び名がついてるわ」


「弾丸の栗毛……ほう、さっきの突進からして、ピッタリの呼び名だ。それもいいけど、外見と中身の不一致というのに変えないか?」


「……もう一回、死の一歩手前まで行ってみる?」


「いや、今はもう戦わない」


「たくもう……あたしも片手剣だけどさ、君、他にも何か扱いたい種類の武器はある?」


「特にないな。せっかくこれが選ばれたなら、一つを行けることろまで伸ばしてみたい」


「そう。その気持ちはわかる。防具も装備できるわよ」


「防具って楯とかだよな。う~ん、今のところいいかな。装備した方がいいのか?」


「防御力が上がるし、メリットたくさんあるけど、デメリットもあるから、あたしはおすすめしないわ。じゃあとりあえず、剣の攻撃種類を教えるわ。ちゃんと見てなさい」


「うん……」


「まず薙ぎ払い」

 シェルマは俺から少し離れて、木の棒を横に素早く振った。


「横に広がった魔物を一斉攻撃できる。横一文字とか名前付けてる人もいるけどね。次は振り下ろしと返し」

 シェルマは木の棒を片手で振り下ろし、手首を返して、下から上に戻す。


「これが一番一般的かな。剣の鋭さとソードレベルが高ければ単体の魔物ならまずこれね。あと、さっきあたしがやった突き。文字通り、刃の部分を突き出して攻撃する。体重も乗せる感じにすると威力は抜群よ。他に片手剣の場合は連撃って言って、連続で攻撃することが可能。コツはモーションをなるべく小さく、素早く。……ちょっと構えてみて」


「……」


 俺は剣を抜いて、片手で構えて見せる。


「もっとリラックスして。体に力入れ過ぎよ。レフティだとこうだから……う~ん、ちょっとそのままじっとしてて」


 シェルマは静止した俺に近づき、俺の肩から肘にかけてゆっくりと触る。


「触れたとこ、力抜いて……ちょ、聞いてるの? なに固まってるのよ?」


「そりゃあお前に触られれば誰だって固まるだろ」


「なんでよ?」


 シェルマは瞬きを二回した。


「いや、恥ずかしくて説明する気にもなれない。ソードレベル上げるにはどうすればいい?」


「剣で戦闘していれば、基本能力と一緒に上がっていくわ。特別にサポートしてあげるから、まずは向こうの岩石地帯でレベル上げね。ちょっと用意してくるから、あなたはここにいなさい!」




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