第3話「鞘を手に入れ、剣を取る」
ファインドコントロールシステム、バージョン3。身に着けた時計と貼られたシールで情報を共有し、危険があれば警告が表示されるそうだ。体力ゲージや病的ゲージも呼び出すことが出来て、音楽なども再生可能。
「簡単に言うと、スマホやパソコンのすごいバージョンと思えばいい。便利なものだぞ。通信機器を持ってる奴は個別で持っているけどな。必要ないくらいだ」
案内所を抜けると、カルミは一通りの説明をしてくれる。
外に出ると、商店街のようなお店が左右に並んでいて、人でにぎわいを見せていた。俺とカルミが横切ると、ひそひそと誰もがこっちを見て話し始める。
「うるさいな……」
カルミは眉間にしわを寄せ、
「何か聞きたいことがあるんなら、前に出ろ! この子は僕の友達だ! ちゃんと認証も受けてるから、新規で出ているだろ! 詳しく聞きたいんなら、千文字以内で説明してやるぞ」
大きな声を出してそういうと、
「坊や、僕がフレンド申請出すから、承認しろ。やかましくて敵わない」
カルミは足を止めて、ウインドウを出して操作し始めた。
すぐに俺の方のウインドウが開いて、
「フレンド申請が来ています。カルミ」
と表示された。承認か拒否の選択が出ているので、承認ボタンを押す。次第に話し声は消えていく。
「歩きながら、説明するぞ。坊やの今の生命力を100とするなら、彼女のそれは1に限りなく近い。それを回復させる手は一つだ。女神に転生させる。もともと彼女はその器だったしな」
「女神……」
やばぃ、漫画の世界だぞ。
「そうだ。だがそれは簡単なことじゃない。彼女の精神の大半は、すでに奪われここにはない。事故にあった際に防ぎきれなかった。それは僕の大きな反省だ。それもあって坊やに手を貸すことにした。残りの精神で女神の修行は開始させるが、うまくいったとしても、生命力はそれで半分。あとの半分は坊やが呼び戻してくるんだ。そうしなければ死は回避できない」
「どうやって?」
「順序だってやってもらう。今のままじゃ即死だからな。ついてくるんだ」
カルミはしばらく歩いて、お店が立ち並んでいる先にある右側のドアを引く。
店内は駄菓子屋のような感じで薄暗く、小さなお菓子やおもちゃらしきものが並んでいた。
「坊や、この中から好きなものを一つ選べ」
「えっ、そんなのがやることなのかよ?」
「いいから直感で選べよ」
俺は少し迷って、おまけがついていそうなチョコのウエハースのようなものを手に取る。
「それでいいんだな?」
「もう選らんじゃなったし、変更したら不吉そうだ」
「よしっ。なら自分で中身を開封して、中のシールを見せるんだ」
「ああ」
ウエハースの下にキラキラのシールが入っていた。絵柄は剣の鞘みたいのだけ書かれていて、周りがレインボーに光っている。
「ほう。またレアなのを……ウインドウを開いて、そのシールの情報を登録するんだ。両目で見れば自動登録され、シールはアイテム化されるからな」
カルミが言うとおり、登録が終わると、シールは消えて、俺の左肩に鞘が装備されていた。
「たくさん武器があるんだけど、坊やは剣が一番合うようだな」
「剣って言ったって、鞘だけじゃないかよ」
「当たり前だろ。そんな簡単に武器が手に入るかよ。自分で取りに行くんだよ。次は向かいの店だ」
向かいのお店は、何のお店かよくわからない。貯金箱やマント、何かのサインがずらりと飾られている。雑貨屋さんかな?
「カルミさま」
紫色の服装をした店の人らしき人は、隣にいる銀髪で長髪の女子を見て、自然と立ち上がった。
「よお、この坊やが武器を取りに行くんだけど、今誰かクエストやってるか?」
「いえ、先ほどシェルマが来ていたので、混雑してましたが、今、武器クエストは誰もやっていません」
「そうか。かち合わなくてよかった。僕たちが戻るまで誰も居れるな。坊やのシステムはまだ更新中だから、フリーズでもしたらめんどくさいからな」
「わかりました……えっ、フレンドですか?」
「ん、そうだぞ。もしかしたら坊やは救世主かもしれない……坊や、こっちだ」
店主さんを横切るとき、軽く頭をさげたが、宇宙人でも見るかのようにものすごく観察された。下界の人は珍しいのかな?
カルミは奥のドアを開け中に入る。
「なあカルミ、死者の案内人ってここじゃ偉いのか?」
「そうだな。偉いと言えば偉いかな。色々功績をあげているからな。僕、か弱いけど強いし。ウインドウを開いて、左の水晶に両手をかざすんだ。フレンドを選択できるから、僕を選べ」
両手をかざすと、武器クエストに向かいますか? と表示される。
はいを選択し、フレンドにカルミを選んだ。
水晶玉の光で目を瞑った俺。次に、目を開けた俺は違う場所に飛ばされていた。
「ほれ、その門を通った先に、剣を守る魔物が出るからな」
一直線の道があり、一メートル先にカルミが言っているであろう、開いたままになっている門がある。
「カルミ、確認しておくぞ。ゆみを戻すには女神転生させる必要があり、精神を取り戻すには俺が強くなきゃダメってことでいいんだよな? 武器を扱えて」
「その通りだ。坊やに合わなきゃ、僕はそのまま残った魂を案内しようとしていた。理解力に難がなくて助かるぞ」
「けどさ、どうやって鞘だけで、その魔物とやらを退けるんだよ?」
「最初の武器クエストの魔物は弱いから安心しろ。そうプログラミングされている。普通は武器なしで、草原地帯辺りで基本レベルだけ上げるんだけど、それだと時間がかかるし、効率も悪い。心配するな、僕がフレンドだ」
「任せていいのか?」
「いいや。僕は動きを見せるだけだぞ」
門を通り過ぎると、50メートルくらい先に牛みたいなのが立っていた。
「おい! まさか、あんなのと戦闘するんじゃないだろうな?」
「するぞ。正確にはあいつの後ろにあるボタンを押せば、あれは消滅して武器をおいて行ってくれる。初心者でも安心だ」
「どこがだよ!」
「奴の前に段差が三段あるだろ。三段目まで上がったら、攻撃してくるからな。坊やはとりあえず僕の動きと、あれの動きを観察していろ。攻撃を受ける前にサポート機能が働いて、危険感知はしてくれるから、それも使うんだ」
「えっ、えっ、やることが多いな」
「生き物なら、集中すれば生命ゲージが表示される。ゼロになったら消滅。坊やの場合は、あの案内所の女、サクイというんだが、最初のうちはモニタリングしてるだろうから、あの子が自動回復してくれるよ。そこで見てろ」
カルミは三段目を登りきって、腕組みをして魔物を見据えた。魔物の方は、カルミを排除すべくゆっくり向かってくる。正面からカルミは進み、近接になったところで、奴はこん棒のようなものを出して振り下ろす。
石床が砕け、ほこりが舞うが、カルミはすでに背後に回り込んでいて、ボタン場所に到達していた。
「こんな感じだ。いけるか?」
「やってみないとわからない。行ってみる」
俺はもう一段上がり、大きな魔物と対峙した。
モンスターにはこちらから向かっていき、敵が攻撃モーションに入ると同時に体を左に反らして動きを変えて、なんなく攻撃をかわす。危険感知システムも起動しなかったようだ。
俺はカルミの横に来て、なんなくボタンを押せた。
「ほう、筋がいいな。基本レベル1でノーダメージはすごいぞ」
「それはどうも」
モンスターは消滅して、台座に剣が現れた。
「メンタルソード。坊やの武器だ」
俺は持ち手部分を握りしめる。それほど重量は感じない。二回素振りしてから、鞘に剣を収めると、光に包まれ俺とカルミは水晶玉の前に戻されていた。