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プロローグ「愛している証拠」

「なんだよ。一緒についていく剣士は居ないのかよ……」


 死者の案内人カルミは、広場に集まったモクモ都市の剣士の面を眺めて、あきれ顔で首をふった。彼女の長い銀髪が揺れる。


「カルミ、いいよ俺一人で。よく知らない人を巻き込みたくないしな」


「一人じゃダメだ。あそこに入るには、二人組が原則だからな。仕方ないな、剣士じゃないが僕が……」


「はいっ!」


 カルミの言葉を遮るように、列の後ろから大きな声が聞こえる。

 振り向くと、戦士仕様の真っ赤な軽量戦闘ドレスに身を包んだ女の子が真っすぐに右手を上げていた。


「シェルマ……」


 俺は挙手している奴の名前を呟く。


 集まっている男性剣士たちの話声が途端に始まる。たしかモクモ都市に住む男性全員に告白されたことがあるんだったか。


「しょうがないなあ。非常にめんどくさいけど、あたしが行くわ」


 めんどくさいと言ってる割に、なんでそんなに笑顔なんだよ、こいつ。ていうか、来るならくるって言っておいてくれよ。もう会えないのかと思っただろ。


 シェルマはゆっくりと進んできて、壇上に上がり俺の真横に並ぶ。理想的なボディ体系だと思う。結婚を申し込む男性の気持ちがわからないではない。だが、そいつらは全員弾くことに俺は決めてるんだ。


 美貌は語るまでもないし、見れば九割九分惚れるだろうな。話しかけられれば、そいつらは心を奪わられそうだし、残り一分も時間を共にすれば同じことになるだろう。


 モクモ都市、最強の女性剣士、弾丸の栗毛の愛称をもつシェルマ。


「実力に文句ないでしょ、カルミ」

 シェルマは栗毛をなびかせながら、決定権を持つ案内人を見る。


「実力にはな。だけど、お前はダメだ」


「なっ……どうして?」

 シェルマは今にも泣きそうな顔になり、カルミを睨みつける。


「お前、自分の立場がわかってるのか? 敵のいる危険な場所に、わざわざ送り出してどうする? お前だって、女神と同じで狙われていることに変わりはないんだ」


「だからなに? 自分の身は自分で守るわよ」


「信じてやりたいが、許可できないな」


「……あっ、そう。なら、隠しておくつもりだったけど、言っちゃうしかないわね」


 シェルマは真っ赤な顔をして、俺を見つめる。


「なんなんだよ? シェルマがどういう事情を抱えてるのか、よくわからないけど、ここで最強っていうのは事実だろ。本人が立候補してくれたなら、俺はシェルマがいい」

 というか、他は考えられない。


「りっくん、ありがたいんだけど、ちょっと黙って……おほん、えっとカルミ、ここでの法律が第一行動原理よね?」


「それがどうした?」


「確か、夫婦はどんな時も常に行動を共にする」


 恥ずかしそうにうつむきながら、シェルマは小声で発する。


「だからなんだ?」


「ふふ~ん……あたし、この人と現在、時限婚姻状態よ!」


 自然と腕を絡められて、肘の辺りにシェルマの柔らかい胸が当たった。


「なっ、なんだと!」


 カルミは狼狽えたように、体をそらし、周りにいる男たちは、なぜか俺に罵声を轟かせる。


「……時限婚姻状態ってなに?」


 よくわからないので、シェルマに耳打ちして聞いてみる。


「簡単に言うと、将来結婚するってことよ。あたしがお嫁さんってこと!」


 シェルマはにっこりスマイルを俺にむける。


「……ちょっと待て……なんでいきなりそんなことになってる? 俺は何にも知らねえぞ」


 結婚……それは何事にも代えられないくらい嬉しいことだ。シェルマがお嫁さん……


「やだなあ、もう。りっくんが許可したのよ」


 そんなことした覚えは微塵もない。シェルマが滅茶苦茶照れてる理由もわからない……いや、なんとなくわかるけど。


「言葉だけでは信じられない」


 表情をもどしたカルミは俺たちをその瞳で見据えた。


「そういわれると思ったし、証拠ならここに」


 シェルマはスマホを操作し、画面を周りに見せびらかせる。

 カルミはシェルマの手からそれを引ったくり、画面を凝視。俺の位置からは、何が写っているのか見えなかった。


「確かに……」


「次の写真に契があるからね。システムでもりっくんとフレンドからパートナーになってるし」


 契ってなんだよ? 


「論より証拠というわけか。ねつ造ではないらしい」


「カルミ、あたしは自分で自分を守る。ついでにりっくんも守るよ。心配いらないわ。もしピンチになっても、絶対この人が命がけで守ってくれるから。そのつもりで、あたしにりっくんと接点持たせてくれたんじゃないの?」


 なぜ当事者の俺が蚊帳の外に。話の内容がまったく伝わってこない。


「意図はそうだが、時限婚姻状態など予想するわけないじゃないか。坊やはここに遊びに来ているわけじゃないんだぞ」


「知ってるわ、あの子のとこ一緒に行ったでしょ。でも、そんなの関係ないし。あたし、誰が相手でも絶対に負けないよ。好きになるってそういうことでしょ」


 自信満々な表情で、シェルマは胸を張る。


「……坊やはどうなんだ? シェルマをどう想っている?」


「どう想ってるって……」


 なんでそんなこと、こんな大勢の目の前で言わなきゃいけないんだよ!

 俺の心を読んだのか、シェルマは俺の足を踏みつけ、笑顔を近づける。


 どうやら止められていた告白系ワードは解除してくれたようだ。


 余計なこと口にすると、ぶっ飛ばされるんだろうな。


「ええっと、好きか嫌いかでいえば当然好きだ。ていうか、大好き」


「だって。カルミ、これでもダメだって、あたしを止めるの? うんうん、止められるの?」


「だめです、カルミさん。こんな得体の知らない男とシェルマさんを一緒に行動させるなど」


「何かあってからでは遅いんですよ。悪魔が化けている可能性だってある」


 周りの男剣士たちが、次々と声を上げる。


 うるさいな……


「黙れ! みっともないやつらだ。シェルマが坊やを選らんだのは、僕のせいじゃないし、そのことをとやかく言う資格はお前らにはない。自分が射止められないのを人のせいにするな。そんなんだから、振り向いて貰えないんだよ。それに得体は知れている。坊やをここに連れてきたのは僕だ」


「ですが……」


「この人は腕も確かよ。あなたたちじゃ足元にも及ばないわ」


 シェルマは火に油を注ぐ。なんで、俺が男連中全員に睨まれないといけないんだ!


「文句があるんなら、戦ってあげるって。りっくん、剣抜いて」


 俺の左肩から出ている持ち手部分をシェルマは見た。


「……勝手に話を進めるな! ちょっと黙ってろ」


「はい。旦那様」


 シェルマは真っ赤になった自分の顔を右手で触り、旦那というワードを口にしたのが嬉しいのか目を閉じて余韻に浸っている。


「話についていけないぞ。カルミ、シェルマはなんで狙われてる?」


「それは本人から聞いた方がいい。すまない坊や、シェルマのことを任せてもいいか?」


 俺は腕を絡めたままの栗毛美少女に視線を向けた。


「時限婚姻状態とか、よくわからないけど、俺がシェルマを守ればいいのか?」


「ああ。ただでさえ大変なのに、負担を増やしてすまないな」


「いや、守るってすでに本人と約束してるし、この展開は俺にとって願ったり叶ったりだよ……じゃあ、文句がある人と戦うか。納得させておいた方がお互いにいいだろうし……カルミ、順番に並ばせてくれ」


 俺はシェルマとともに前に出て、集まった人たちを眺めた。


「よし。坊やに納得していない奴は前に出ろ。言っておくが、現時点でシェルマと同じかそれ以上のレベルだぞ」


 男性剣士たちはざわつきだしたが、誰一人前に出てくる人はいない。

 無理もない。大半の奴らとはすでに剣を交えているからな。


「やれやれ、どいつもこいつも納得してないと顔に書いてあるのに、戦うのは嫌らしいな。文句ばっかり上等ときている」


 カルミは腕組みをして、周りを見回した。


「あたし、本人が決めたんだから、文句とか言われる筋ないけど、そうねえ……」


 シェルマは絡ませて腕を名残惜しそうに解いて、口元を緩める。


「う~ん……」


 何を考えているのかわからないが、俺との身長差を図っているのか、何やら値踏みされてるようだ。

 嫌な予感しかしない。


「りっくん、そのまま静止してて。動いたら串刺しにするわよ」


 怖いこと言うんじゃねえよ。俺は焼き鳥じゃない!


「いまこの瞬間に誓うね。あたしは君を一生愛します! 大好き」


 シェルマは背伸びしてから、俺の左手首を掴んでそのまま俺を引き寄せる。


「んっ!」


 柔らかくて小さな桃色の唇が、ぶつかった。

 優しくて蕩けるようなキスを食らい、それにより思考力が低下したようで、無意識に彼女の背中に手を回してしまっている。


「……二人きりの時に、今度はりっくんからしてね!」


 栗毛の髪が少し離れたみたいだ。

 どのくらいの時間、唇を重ねていたのか?


「……」


 頭が真っ白になってしまったみたいで、ぼっ~とする。顔が特に熱っているのがわかった。


「メロメロになっちゃったかな? すごいでしょ、本気のキス」


 シェルマは右手を俺の顔の前でゆっくりと横に振る。

 俺ははっとして、


「……いきなりなにするんだよ! 避けようにも無理だった」


「その割には、味わっていたみたいに感じたけど。抱きしめてくれてるし……」


 シェルマの指摘に、俺は慌てて手を解いた。


「ふっ、今更もう遅いわ。見て」


 辺りを見回すと、男性剣士は皆下を向いて、悔しさをあらわにする者や、あきらめの言葉を吐くもの、泣いている人までいた。


「愛している証拠の開示終了!」


「こんな大勢の前で……呆れるくらい強引な奴だな……まっ、それがシェルマだもんな。俺の命を懸けて、何があろうとシェルマを守るよ」


「あたしもこの命、りっくんに預けるね」


 シェルマは見ているのが恥ずかしくなるような眩しい笑顔を作る。


「やってくれたな……シェルマ、どうやら見つけたらしいな、傍にいるだけで幸せになれる人を」


「うんっ!」


 栗毛をなびかせ、シェルマは俺の手を握りしめた。


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